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第26話:Shall We Dance?

「仮面舞踏会?」


 おう!と親指を立てながら嬉しそうに返事をする要。

 ファリアとの会話で寂しい毎日を送っていると教えられ、翌日に遊びに向かった際にダンスパーティーの招待状を受け取っていた。パーティーの開催日は本日の夕刻からで要は行く気満々の様子だ。


「行くのは構わないけどさ、格好はどうするつもり?まさか制服で行く気じゃないよね?」


 貴族御用達の会場には正装が常識であるのだが、当然三人は持ち合わせていない。それは、と言いながら大和が正装はファリアが用意してくれると告げた。それならばと時間には随分と早いがファリアの屋敷に向かう三人であった。




「いらっしゃいませ。貴方がアキ様ですね?お初お目にかかります、ロシャーヌ家現当主を務めておりますファリアと申しますわ」


 初めて顔を合わせる朗に礼儀正しい動作でお辞儀をし自己紹介を始める。朗も同じように頭を下げ自己紹介を済ませると、正装が置いてある部屋に案内された。

 

 大きなクローゼットの中には多数の正装が並んでおり、種類も豊富。黒を基調としたタキシードから見たこともない変わった服まであり、どれを着るか決めるだけでも時間が掛かりそうだ。

 大和と朗は無難にタキシードを選んだのだが、要はうーんと言いながらまだ決めれぬ様子。あれこれ眺めていると急にこれだ!と言い手に取った。


「どうだこれ!かなりいい感じじゃね?」


 何を思ったか、悩んだ末に選んだのはある種のセンスが問われる貴族服。人によっては良いと思うのだろうが、9割の人は進んで選ぶことがない服だろう。流石のセンスに脱帽した二人は溜息を吐きながら額を押さえる。ファリアも口を押さえながら笑いを堪えようとしていたがクスクスと声が漏れていた。

 三人の様子を見た要は、何だよ、文句あんのかよ?と不平不満を漏らしていた。大和と朗の説得により貴族服は回避されたが、結局最終的に選んだのは豹柄のスーツだった。


 三人とも服に一度袖を通して着心地を確認する。材質はシルクと思われる生地で滑らかな感触。普段着慣れない服に三人で目を合わせ、ぷっ、と笑いあう。

 大和は低い身長に童顔なことから、背伸びするお子様貴族。

 朗は服装のセンスも良いのか、軽めのアクセサリーをアクセントにし見事に着こなしている。

 要は胸元を大胆に広げ、チンピラオーラを纏っていた。


 一度着用した服を脱ぐのも手間だったため三人はそのままの格好でファリアの待つ部屋へと戻る。すると部屋の中は食欲をそそる香りが漂っていた。


「パーティーまでお時間がありますから軽めのお食事でもいかがですか?」


 ファリアの言葉が終わると同時に一礼したのはハリス。本日の仮面舞踏会の料理担当補佐として一旦屋敷に呼び戻されていた。

 軽めと称しながらも並べられた料理を眺めると高価な食材が使用されていると分かる。しかし、その料理の中で異質な空気を放つ一品を見つけ、じっくり見てみると日本でも同じ料理を見たことがあった。

 まじまじと見つめる大和に気付き、ファリアは料理の名と特徴を告げた。


「そちらはランチェルという料理ですわ。このハリスが作り上げた創作料理の一つなのです」


 ランチェルという料理、見るからに日本の関西が生んだ名物料理「お好み焼き」にそっくりなのだ。

 食材を聞くと殆ど同じだと分かり、食材を加えることにより自分にあった味を見つけられる楽しみもあるのだという。

 ますますお好み焼きそのものだと思っていると要がランチェルをつまみ食いし感想を告げる。


「お、これってお好み焼きじゃ、ぶっ!」


 要が言い終わる前に大和からのハリセンを顔面に受け、朗からは足を踏まれた。


「いてぇよ!つーかどこに隠してたんだよそれ!」


「どこってポケット以外あるかボケェ!」


「ボケじゃねぇ!そんなにハリセンが大事ならハリセン大王と名付けてやる!」


「やかましいわ!ある意味ハリセンと俺の命は繋がってんだよ!」


 不毛なやり取りは永遠と続き、唖然とした表情で二人を眺めるハリス。

 本日の来客は丁重にもてなすようにと伝えられていたため、三人の人物像は偉大な人物と考えていた。しかし、いざ目の前で行われている争いを見る限り偉大の欠片すら見受けられないため、どう反応すればよいか分からず唖然としていたのだ。

 ファリアを見るとクスクスと笑っていて一人空気の読めないハリスは居心地の悪さを感じていた。

 すると朗が隣に立ちハリスに質問をしてきた。


「ファリア様がハリスさんの創作料理と仰いましたけど、ご自身で発案した料理なのですか?」


 朗の問いの我に返り頷く。他にも何かないかと聞かれ、自分が創作してきた料理の数々を説明した。

 素人には理解できない専門用語も出てきたが朗は全てを理解した様子で頷き、料理についての助言までした。


 朗の助言をメモに取りながら、なるほどと今度はハリスが頷いている。

 食す以前に材料と見た目だけで料理の改善点を指摘してきた朗をハリスはこの人が偉大な人なのだな、と一人納得していたそうだ。


 二人の語らいも終わり、タイミングを見計らってファリアが手をポンと叩き食事を始めましょうかと言い、その声で二人の争いも終わりを告げ、軽めの食事会が始まったのだ。


 食事中の会話は華が咲き気が付けばかなりの時間が経っていた。そろそろかしら?と思っていると丁度よい頃合に一人の老紳士が部屋を訪れた。


「お時間となりましたのでお迎えにあがりました」


 綺麗な一礼をし、用件を告げる。言われるがままに席を立ち、玄関先で待っていた馬車に乗って会場へと向かった。




「ぉぅぃぇ。俺達って場違いじゃね?」


 会場へ入るなりの感想がこの一言。

 既にパーティーは始まっていて、皆ダンスを楽しんでいた。綺麗なドレスを身に纏う女性。すらっとしたタキシードを見事に着こなす男性。服装だけを見れば正に貴族の集いの場と思えるのだが、場違いと称したのは別の理由だった。

 彼らの顔を見ると皆一様に仮面をつけている。仮面舞踏会なのだから当然なのだが、慣れてる貴族達とは違い初めて訪れる場に異質な空気しか感じ取れなかった。


 笑顔が消え、顔を引き攣らせているとファリアの屋敷を訪れた老紳士が再び彼らの前に現れた。

 彼はそれぞれに合った仮面を渡し、本日はごゆっくりとお楽しみ下さいと告げ、頭を下げたまま中へ入るようにと促す。三人は誘われるがままに会場の中へと進んでいった。


 仮面を着用している部分を除けば至って普通のダンスパーティー。社交の場としてダンスを楽しむ者もいれば憩いの場として会話を楽しむ者の姿もある。

 ダンスも踊れず、知り合いもいない三人は居心地の悪さから隅っこで壁に凭れかかり、どうしようかと話し合っていた。

 しかし、この先の行動が決まらず、ウエイターに手渡された飲み物で喉を潤しながら会場の中央を見ていると突如会場の明かりが消えた。


 有名楽曲団が演奏していた優雅な旋律が消え、突然の出来事にどよめきが起こる。すると会場の一番奥にスポットライトが当てられた。

 そこには一人の老紳士が仮面も付けずに笑顔で立っていた。


「皆さん、本日は私が開催したパーティーにお越しいただき感謝します」


 一面暗闇の中、唯一の光の部分は誰しもが注目する位置であり、パーティーに参加している全ての人間が彼を見て一言一句漏らさず聞いていた。


「本日のパーティーには特別ゲストを呼んでいます。皆さんの中で彼らのことを知らぬ者など一人も居らぬでしょう」


 朗は彼ら、の単語を聞き嫌な予感がしてきた。主催者であれば自分たちの出席を知っているはず。

 ちょっと逃げる準備でもしようかと考えていると彼による演説は引き続き行われていた。


「ライガルを単騎で打ち倒し第一王女様のお命を救い、我が王国が誇る魔剣士団長をも退け、最強と謳われる陛下とも互角の死闘を繰り広げたカナメ=ハシバ殿、ヤマト=フシミ殿、アキ=ダイゴ殿お三方である!」


 彼の言葉が終わると三人がいる位置にスポットライトが浴びせられ、辺りの貴族たちは一斉に顔を向ける。

 おぉ!と歓声が上がり、先ほどとは違った雰囲気でどよめきが起こったところで会場の明かりが戻された。


「私は彼らがパーティーに参加していただいたことを誇りに思います。皆さん、彼の英雄達に盛大なる拍手をお願いします」


 一人、また一人と拍手をし、数秒後には会場は拍手喝采の場と変貌していた。

 不意打ちに戸惑っていた大和と要は激励の拍手を受け照れた様子で仮面の下の頬を掻く。

 その二人とは対極的に朗は冷静な面持ちで一人胸の中に言葉を打った。

 ―面倒なことにならなきゃいいけど・・・ね―

 そんなことを朗が考えていた時、ファリアは自分の屋敷に侵入してきたあの男に何やら耳打ちされていたのだった。


 パーティーの主催者からの紹介を受けた後の彼らは入れ替わり立ち代りで質問責めにあっていた。

 身長から好みの女性のタイプまで、本当に様々な質問だった。

 さすがにスリーサイズを聞かれたときは何の意図があってだと顔を引き攣らせたが、隣にいた要がスラスラと教えている姿を見て色んな意味で頭痛がしたものだ。

 何故知っているのかと聞けば「はん、コスプレにスリーサーズは基本じゃねぇか」とサムズアップをされると怒る気力も失せてしまう。

 コスプレの趣味まであったと知ってしまった大和は、本気で要との付き合いと止めるべきではないかと悩んだのはここだけの秘密。


「ふぅ〜・・・。さすがに大変だなぁ」


 独白のように呟き、要と朗を見る。

 要は料理の並ぶテーブルの前でご馳走を頂きながら若き女性貴族と思われる集団と会話を楽しんでいる。

 朗は貴族の上部に属するお偉いさん達と何やら怪しい雰囲気を醸し出しながら密談紛いのことをやっていた。

 大和は質問責めが一段落して、椅子に座りながらぐったりしていた。他人と話すのは嫌いではないが休む間も無く質問され続ければ嫌気もさしてくる。

 ほんの少しだけ与えられた休息の時に何か飲み物でも貰おうかとウエイターを探すと、目の前にコップが差し出された。


「これをどうぞ。さすがにあれだけの方とお話をしたのではお疲れでしょう?」


 目の前に立っていたのはファリアであり、コップの中にはこの季節に採れる高級果実で作られたジュースが入っていた。

 大和は一言お礼を告げコップを受け取ると、一気に口の中に流し込み、乾いていた喉を潤した。


「ぷはーっ、生き返った。ありがとうな」


「いえ、喜んでもらえて何よりですわ。それよりも申し訳ありませんでした。ある程皆さんが集まることは予想していたのですが、まさかこれ程とは思っていなくて・・・。折角来ていただいたのに楽しむというよりも、お疲れさせてしまったようですし・・・」


 仮面越しでも分かる消沈したファリアに大和は首と手を盛大に振って否定の意を表す。


「いやいや、確かに疲れたけどちゃんと楽しんでるよ。滅多に無い機会だしね。今日は誘ってくれてありがとう」


 大和の言葉に俯いていた顔を上げ、遠慮がちに言葉を返す。


「本当ですか?それは良かったですわ。皆さんが楽しんでいただけているか不安でしたから・・・」


「あの二人も楽しんでるさ。見れば分かるってね」


 二人の居る位置を指差し視線を向けさせると要の居る場所も、朗の居る場所も笑い声が聞こえる。

 楽しそうにしている二人を見てファリアは納得できたのか、今度はしっかりとした口調になった。


「そうですわね。安心できました。ですがヤマト様、お疲れなのでしたら人が寄らずに休憩できる場所がありますけど、ご案内しましょうか?」


 束の間の休息でなく、ある程度の時間休みたかった大和はファリアの魅力的な提案を断る理由もなかったので案内してもらうことにした。

 

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