第22話:フランと一緒
「かなめは〜木ぃ〜を切ぃるぅ〜、ヘイヘイホ〜〜ヘイヘイホ〜〜」
「与作はいいから真面目にやれ」
「与作じゃねぇよ!要だよ!」
「パクリが偉ぶってんじゃねぇ!!」
大和と要は斧を持ち、木の幹を叩いていた。肉体労働の経験がないため、最初は楽しんでいたのだが、次第に腕が重くなり疲労を感じていた。日は高く時刻も正午に近づき、腹の虫が騒ぎ出す頃タイミング良くお昼の声が掛かったのだ。
「師匠〜ヤマト君〜、そろそろお昼にしませんか〜?」
何故かフランが居たのだ。
先日、街へと赴いた3人は当面お世話になる宿を探していた。アルディスからの紹介された宿を訪れたのだが一泊一人20K。
この世界の通貨単位は下から、Z・K・Mと一つの単位に100ずつ割り振られている。日本の円通貨で表せば20Kは2万円。因みに謝礼として渡された通貨は500K、つまりは50万円となる。
紹介された宿で生活するとなると単純計算でも1週間もすれば資金が底を尽きてしまう。外装も綺麗にされており、ちょっとした高級ホテルを思わせる。外観やサービスを気にしなければもっと格安な宿があるはずと考え、街を彷徨っていたのだ。
すると少し古ぼけた、しかも日本の旅館の様な宿を見つけ、値段を確認すると一泊一部屋5K、しかも食事付きと破格な宿を探し当てたのだ。
部屋へと案内されるなり、今度の動向について話し合いが始まった。3人が行動を共にしていたのでは能率が悪くなると判断し、就業組を大和と要、情報収集を朗と分担作業にしたのだ。
宿屋の主に仕事が出来そうな場所と図書館に近い感じの建物が無いか尋ねたところ、ハンター協会の存在と国立図書館のある場所を教えてくれた。
ハンター協会
報酬次第ではどんな依頼も受け、モンスターの討伐、古代遺跡の発掘、要人護衛など、己の力のみを信じ、本物の強者だけが生き残る世界・・・
といった訳では無く日頃ある依頼と言えば、迷子のペット探し、農作業の手伝い、代理購入など、日本でいう「街の便利屋さん」的な存在なのだ。
朝早くからそれぞれの役割を果たすため別行動を取り、ハンター協会へ訪れた大和と要。何か良い仕事がないか探していると突如後ろから声が掛けられ振り向くと私服姿のフランが手を振っていたのだ。
近衛騎士団が何故私服でハンター協会へ?と思い、フランに尋ねるとちょっとした小遣い稼ぎらしい。国家公務員がそれでいいんかい!と突っ込みたい大和であったが、現代用語となるため我慢していた。
自分達も仕事を探しに来たと教えるとフランは「だったら良い仕事あるんですけど、一緒にどうですか?」と誘ってきた。こうして3人は森へ足を運び、木を切り倒す仕事に就いたのだ。
「ははふ、ひひふほはひへほらふひ?」
「食うか喋るかどっちかにせいや」
小学生レベルの行動を取る要に呆れながら注意をする大和。ハリセンは食事中であるため一応止めておいたのだ。
「ええ、近衛ってそんなに給料は良くないんですよね。元より高貴な家柄の方が多いですから。富より名声、って感じですね」
「いや!?今ので分かるの!?」
付き合いの長い大和でさえ、何を言っているのか理解出来ないのだが、何故かフランは普通に答えていたのだ。
「ほほふ、ふはふほほふはふ?」
「そうですね、僕もお金よりも両親への恩返しの思いから近衛になろうと決意したんですよ」
「マジで!?普通に会話成立しちゃってる!?」
「ほほは、ひひへほふへはほれ」
「え?本当ですか?実は僕が作ったんですよ」
2人のささやかな会話(?)が続いている中、フランの意外な特技(?)を目の当たりにして唖然としている大和。傍から見れば珍獣と人間のやり取りにしか思えぬ奇行はお弁当の中身が無くなるまで続いていたという。
昼食後もひたすら同じ作業を繰り返し、依頼の量を切り終えたためハンター協会へ行き本日の依頼料を受け取った。金額は一人頭10K。重度な肉体労働であるため、他の仕事より若干多めの依頼料なのだ。
生まれて初めて受け取った給料に少し感動しながらも、仕事を紹介してくれたフランにお礼も兼ねて食事の誘いをしたのだ。
「すみません、僕はこれから行く所があるのでご一緒できないんですよ」
折角の誘いであるが私用のため断るのに悪い気がして困った表情になる。
その表情を激しく勘違いした要はフランの首に手を回し茶化し始めた。
「女か!女だな!師匠を差し置いて女をゲットするとは、羨ましすぎるぞ!」
「えぇ!違いますよ!女の人の所に、あっ・・・、えと、違いますって!」
「今の間はなんだぁ?怪しいぞコラ!」
仲良くじゃれ合っている風に見える2人。初めはフランの姿を見ると「げっ」と言っていた要であったが何時の間に仲良くなったのであろうか?
要がフランを嫌がるのには理由があったのだ。馬車でアークを語る際にうっとりしていた表情、要を師匠と呼びたいと言った時の眼差し、以上の事からフランはBL属性か!と勘ぐっていたのだ。しかし、その後普通の話をすると、フラン=良い人の図式が即座に出来上がり、BL属性も無いと分かった。
フランから師匠と呼ばれる事に満更でもない様子だったため、本当の師弟関係に近い関係が築かれたのだ。
ええい!吐け!とフランを弄っていると後ろから少年の声が聞こえた。
「あっ!フラン兄じゃん!」
その声に後ろへと振り向き、少年の顔を確認したフランは優しい笑顔になった。
「ケティル、久しぶりだね。今はお使いの最中なのかな?」
ケティルと呼ばれた少年を見ると手さげ鞄を持っており、中には食材らしき物が詰められていた。ケティルはエッヘンと胸を張り自身満々に答える。
「うん!今日の晩飯のお使いを頼まれたんだ!えっと・・・その兄ちゃん達は?」
「え?うん、僕のお友達だよ」
「そうなんだ!初めまして、僕はケティルって言います!」
ケティルは元気良く挨拶をする。大和と要も自己紹介をした。
「俺はカナメっつーんだ。元気なガキは結構好きだぜ」
「ガキ言うなド阿呆が。俺はヤマト。ケティル、この馬鹿の言う事は気にしないでいいからな?」
はいっ!と元気に返事をする。自己紹介が終わるとフランがケティルの傍に寄り、身を屈め視線の高さを合わせた。
「ケティル、後でそっちに向かうから伝えといてくれない?」
「えっ?フラン兄来るの?やったー!最近ずっと来てくれなかったからユイ達も寂しがってたんだよ?あっ、それじゃあ急いで伝えてくるね!」
「うん、気を付けて帰るんだよ」
兄ちゃん達も後でねーと元気に手を振りながら足早に去っていく。ケティルの姿が見えなくなった所で2人へ振り向きちょっと恥ずかしそうな表情をしていた。
「兄ちゃん達もって・・・一緒に行きますか?」
今後の予定も宿に戻るだけだったのでコクリと頷き、フランと共にケティルの元へと向かった。
フランに案内された場所は少し古びた教会。入り口付近を見ると子供達が元気に駆け回っている姿が見られる。子供達がフランの存在に気付くと一斉に駆け寄ってきた。
「フラン兄〜久しぶりだね!」
「うん。久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「フラにぃ〜あそぼ〜よ〜」
「あはは、後で遊ぼうね」
フラン兄〜と子供達は引っ切り無しにフランに話掛ける。フランは一人一人しっかりと顔を見て返事をしていた。すると教会のシスターが子供達を咎め、食事の準備が出来たと言い教会の中へと入らせた。
「お久しぶりですねフランベルジュ様」
「ご無沙汰しておりますシスター・エレナ。それと何度も行ってますけどフランベルジュ様って止めてもらえません?昔みたいにフラン坊でいいですよ」
シスター・エレナと呼ばれた女性は少し困った顔をしてフランを咎める。
「それは出来ませんよ。昔はどうあれ今は近衛騎士団の一員なのですからね。王家の守護者たる方に敬意を込めるのは当然ですよ。フランベルジュ様もしっかりと意識してもらわねばなりませんね」
エレナに近衛としての在り方を説かれ、今度はフランが困った顔になる。
シスター・エレナは教会の責任者であり、この教会は孤児院も兼ねている。経済的な理由で子供を育てられない家庭や、突発的な事件に巻き込まれ両親を亡くした子供を引き取り、育てている立派な人なのだ。
エレナの説教が終わり、項垂れながら教会の中へ入るフラン。次いでエレナは大和と要の傍へ寄ってきた。
「ケティルから話は伺いました。フランベルジュ様のご友人だそうですね。私はエレナと申します」
「初めまして、ヤマトっていいます」
「俺はカナメ、フランの友達じゃなくて師匠だぜ!」
先程のケティル同様エッヘンと胸を張る。年若き少年が師匠と名乗りを上げたことに少し驚いた表情をしたが、嘘を吐いているとは思えなかったため笑顔で言葉を返した。
「そうでしたか。フランは随分と良い師に巡り会えたようですね」
ちょっとした雑談が始まりそうになった時、入口から「シスター子供達が食事を待っていますよ〜?」と呼ぶフラン声が聞こえたため、3人は食堂へと向かったのだ。
「日々平和を与えてくれる主に感謝し、お祈りを捧げましょう」
シスターの言葉に皆手を合わせ祈る姿勢をとる。数秒の祈りの後、食事の合図が出たのだ。
「それでは皆さん」
「「「「「いただきます!」」」」」
食事はまさに熾烈極まりない戦場と化していた。多数並べられた料理から食べたい物を取り皿に移していくため、人気の高い料理からどんどん減っていくのだ。
「のぉーー!それは俺が取ろうとしてたのに!」
「へへ〜ん、早い者勝ちだぜ兄ちゃん!」
「そうか!それじゃあアレを・・・ってうがーーっ!もうねぇのかよ!」
「ほほひいほ?(美味しいよ?)」
「うぉーー!負けてたまるか!」
食卓では要と子供達の戦争が続いていた。既に歴戦の戦士である子供達は要をもってしても勝てぬ相手だったのだ。狙いを定めた獲物(ご飯)をことごとく奪われ、要の前には人気の少ない料理や野菜しか残されていなかった。
「ったく、子供相手にムキになってんじゃねぇっての」
「うっさい!食の恨みは怖いんだぞ!って・・・なんで肉食ってんだ!?」
全然全敗のため野菜をボリボリ食べている要とは違い、大和は何故か肉やら魚やら美味しそうな料理を食べている。
「普通に取ってりゃ食えるっつーの、馬鹿みたいにムキになってるからだ」
自分の皿と大和の皿を交互に見ながら物欲しそうな顔をする。しゃあねぇな、と言いながら豪勢な料理が乗った皿を要に差し出す。するとフランも僕のもどうぞと言い、これまた肉やら魚が乗った皿を出してきたのだ。2人の暖かい心遣いに「感動した!」と某元総理の真似をしガツガツ食べ始めたのだ。
食事も終わり、子供達や他のシスターが食器を洗っている最中、雑談が始まったのだ。
「それにしてもフランベルジュ様がご友人の方を連れてくるなんて初めてじゃないかしら?」
「あはは、嫌だなシスター。それじゃあ僕に友人が少ないみたいじゃないですか」
「あら?でも本当のことでしょう?」
2人を見ると昔馴染みの様に思え、教会や子供達を見ると自ずと2人の関係が見えてきた。確信は無いのだがプライベートな問題となるため、大和は聞いたりせず胸の内に潜めていた。しかしその状況を打破したのが要。空気の読めない男NO.1だけあって気にも留めずに質問したのだ。
「2人ってなんつーか知り合って長い感じがするけど、なんで?」
この馬鹿!と要にハリセンアタックを食らわせたが吐いた台詞は戻せない。恐る恐るフランの顔を見るが特に気にした様子も無く、身の上話を始めたのだ。
「僕はこの教会の出身者ですから。シスターには昔からお世話になっているんですよ」
大和はですよねー!と心の中で頷く。そしてフランは幼き頃両親に捨てられエレナに拾われた事、子宝に恵まれなかった下流貴族に引き取られた事、義理の両親に恩返しがしたくて近衛を目指した事、など多くを語ったのだ。
流石の要も申し訳ないと思ったのかバツの悪そうな顔をしたが、フランが「僕は今とても幸せですから気にしないで下さい」とフォローをした。要も要で「そうだぜ!男は今を生きてこそ輝くんだ!」と要理論を炸裂したのだ。
話も長々と続き、そろそろ子供達が痺れを切らせてフランを探し始める頃と思われたため、部屋を後にしようとしたエレナをフランが引き止めた。
「シスター。こちらをどうぞ」
フランは机の上にコトンと小さな袋を置く。エレナは中身を確認し驚いた後、険しい表情でフランを見つめた。
「ペターニ様、これは受け取れません」
袋の中に入っていたのは3M。エレナに予想通りの反応を示され苦笑したフランであったが簡単に引き下がる訳にもいかないので自分の知りうる現状を語りだした。
「無理はしないで下さい。教会の経営が苦しいことは人伝に聞いています。このお金はフランベルジュ=ペターニとしてではなく、フラン個人として兄弟達へのプレゼントとして受け取ってもらえませんか?」
エレナはフランの言葉に口ごもる。事実教会の運営は厳しく子供達にまともな生活をさせるのも精一杯な状況なのだ。今は何とかやり繰りをして生活しているがいつ資金が底を尽きるか分からない。しかし3Mといえば相当な大金なのだ。このお金を受け取らずに返せばフランの生活は楽になるに違いない。貴族とはいえ下級貴族は実はそれ程良い生活をしている訳ではないのだ。フランとて例外ではなく、自身の子供と同じ様に愛情を注いできたフランに負担を掛けたくない一方、今の現実を見極めなければならないエレナの心境は苦しかった。返事がないまま時が過ぎ、固唾を呑んでエレナの言葉を待っていた。
「・・・わかったわ。フラン、ありがとう」
答えに満足がいったのかフランは笑顔で弟と妹のことを宜しくお願いしますと頭を下げた。エレナは今のフランを見て本当に何一つ変わらないと実感していた。目を瞑ると幼少の頃のフランが思い描かれる。フランが教会の一員となったのは僅か3歳の頃。教会に来た当初から常に周りに目を配れる子供で率先して手伝いを探したり、喧嘩の仲裁をしたり、およそ3歳の子供とは思えない落ち着きようだった。今の両親に引き取られてからも度々訪れては自分よりも小さな子供達の相手をしていた。今も昔も良い部分は変わらずに成長してくれたフランを見てエレナは主に祝詞を謳う。
(主よ。彼の者に神のご加護をお与え下さい)
話も区切りがつき、そろそろ子供達の相手でもしないと暴動が起きるかもと考えていたフランを他所に大和が真っ青な顔で叫びだした。
「やばっ・・要!リアルにやべぇぞ!朗の事忘れてた!」
「ふぉっ!即行で帰らねぇと!」
時刻は既に8時を回っていた。3人が教会を訪れてから2時間以上は経っている。いくらこの世界の仕事状況が不透明だとはいえ、あまりにも遅すぎる時間となってしまった。心配しているに違いないと考えた2人は一言お礼を告げると一目散に走り去った。突然の展開に目を丸くしたエレナであったがフランの一言で納得したのかクスッと笑っていた。
「あの人達はいつもあんな感じなんですよ」
完全な余談ではあるが宿へと辿り着いた2人を待ち受けていたのは一人の鬼夜叉であったそうだ。