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第21話:終わりの鐘は唐突に

「一体何をやっておるのじゃと聞いておる」


その声に意識があった者は皆目を向ける。声の発生源には10歳程であろうか幼い少女が冷めた表情をしながら立っていたのだ。

突然の乱入者に取り乱すアルディスであったが、アークはホッとした表情で胸を撫で下ろしていた。


「ク、クレア!?ど、どどどうしてここに!?」


先程までの禍々しいオーラは一切消え、物凄く動揺しているアルディスの姿があった。突如現れた少女を知らぬため、要と朗は首を傾げていたのだ。大和はもちろん壁に向かってブツブツ呟いている。

アルディスの狼狽を気にも留めず、小さな少女は冷めた様な呆れた様な表情を変えていなかった。


「何度同じ事を言わせる気じゃ、何をやっておると聞いておるのじゃ。よもやただの風邪で体だけで無く頭の中も蝕まれてしもうたか?それとも姉上に政務を任せて脳を使わなくなったからボケてしもうたか?全く、歳は取りたくないものじゃな」


登場早々その容姿からは想像もつかない物言いをする少女。

彼女の名前はクレスフィール=シュペルノーヴァ=クレメンテス=ライオネル。

ライオネル王国第三王女であり、ライオネル三姉妹の末妹である。

年齢は12歳と幼く、髪はフィアと同様長くストレート。目は大きく丸みがあり誰が見ても頬を緩めながら可愛らしい少女と思える容姿なのだ。

その可愛らしい容姿から繰り出される口撃は恐るべき威力を誇り、アルディスは完全に撃沈しているのだ。


「ち、違うんだ!ワシは悪くないぞ!本当だ!信じれくれ!」


どう考えてもアルディスの暴走が原因なのだが、愛娘に怒られたため必死に弁解を図る。しかしクレアは原因はアルディスにあると確信しているため、口撃を緩めなかった。


「ほう?それでは説明して欲しいものじゃな。一体何故この様な馬鹿げた事態になっているのかを」


辺りを見回せば倒れている多数の兵士、半壊している訓練場。その散散たる状況の原因をアルディス本人に語らせるために一瞬たりとも目を離さず睨みつけている。クレアのプレッシャーに耐え切れなくなったアルディスは正直に話した。


「その・・・ワシも熱くなっちゃって・・・テヘ♪」


全く反省の色が見られないアルディスを見てクレアの表情は更に厳しくなったが、はぁ、とため息をついてアークへ顔を向けた。


「アーク!貴様がついて居ながら何たる有様じゃ!」


怒りの矛先がアークへと向かったのだが、焦った様子も無く落ち着いて対応する。


「申し訳ありません。此度は私の不手際が招いた結果です。如何なる処罰もお受けいたします」


そう言ってアークは片膝を付き頭を下げる。実はアークの秘策とはクレアをこの場に呼び出す事にあったのだ。アルディスはクレアに滅法弱く頭が上がらないのだ。娘達を溺愛しているという理由もあるのだが、それ以上の別の理由が存在していたのだ。

クレスティーナ―アルディスの妻であり、三姉妹の実母。正確にはアルディスの妻「だった」と言うべきか。クレスティーナは既に亡くなっていたのだ。娘同様妻も溺愛していたアルディスは同じ視点から物事を考えるクレスティーナに頭が上がらなかったのだ。心優しき慈愛に満ちた聡明な女性―それがクレスティーナという女性なのであった。

クレアの容姿はクリスティーナに瓜二つであり、昔の名残もあってクレアには頭が上がらなかったのだ。


「姉上、その者達は時期に目を覚ますじゃろう。治癒の力を使う必要もあらんじゃろうて」


「クレアちゃん、皆さんお怪我をなさっているのだから、このままにしては可哀相じゃない」


フィアを見ると倒れている兵士達に治癒の力を使い怪我を癒していたのだ。既に意識が回復している者を数名おり、その兵士達にクレアは他の兵士達を起こし、医務室へ連れて行く様命令した。


「全く、姉上は優しすぎるのじゃ。あまり甘やかしてはあの者達の為にもならんのじゃ。姉上が治癒していては救護兵の訓練にもならんしの」


文句を言いながらもしっかりと兵士達の事を考えているクレアにフィアは優しい笑みを向けた。


「クレアちゃんは賢い子ね。私は嬉しいわ」


フィアの輝かしい笑顔とお褒めの言葉に照れ、頬を赤くしながら顔を俯けた。実の妹まで魅了させるフィアの笑顔はまさに必殺の破壊力を秘めていたのだ。

少し機嫌が良くなりかけていた矢先、クレアは後ろに不穏な気配を感じ取った。


「・・・父上、どこへ行くつもりじゃ?」


ドスの聞いた恐ろしい声を上げる。フィアとクレアの会話の隙に訓練場から逃げ出そうと、そろりそろりと気付かれぬ様に入り口に向かっていたのだ。悲しき事、後一歩の所でクレアに気付かれ、逃げ出せなかった。

反省するどころか逃げ出そうとしたアルディスに怒りのオーラが増したクレアは激昂した。


「ええい!今日という今日は堪忍ならぬ!そこへなおるのじゃ!」


ビシッと地面を指差しご立腹なクレアにアルディスは涙目であったそうだ。




「王とは人の上に立つ存在。立場をしっかり弁えた上で行動せねばならぬのじゃ。本来であれば家臣や貴族だけでなく、民衆の手本となるべき王がこの有様でどうするつもりじゃ。まったく・・・・・・・・グチグチ・・・・・・」


彼此一時間はクレアの説教が続いている。アルディスは正座をしながらシュンとした表情で顔を俯けながら聞いているのだ。子供が大人に説教を受けている状況に思えるのだが、怒る役と怒られる役が全く持って反対なのだ。クレアが帝王学を語る中、アルディスの声といえば「はい」や「仰るとおりです」などしか聞こえない。初めは「でも」なども聞こえていたのだがその後に「言い訳など聞く耳もたぬ!」と一刀両断されていたのだ。


今この場には大和・朗・要・アーク・フィアの5人が残っていた。近衛団、魔剣士団にセシルは大事を取って医務室へと向かったのだ。男性陣はクレアの容赦無い物言いにアルディスが哀れに思えていた。流石にこれ以上は、と思ったフィアはクレアを制止したのだ。


「クレアちゃん、その位で許してあげて?お父様も反省したと思うわ」


アルディスは天の声に顔を上げ、目を輝かせた。一時間に渡り叱責を受けていたので優しい言葉に心が癒されたのだ。アルディスの表情が気に入らないクレアであったが、フィアに止められたため、仕方なく解放したのだ。


「今日はこれで終わりじゃが次にまた同じ事があればその時は・・・」


クレアが最後まで言い終わる前に、クレアちゃん、とフィアの声が割り込んできた。むぅ、と少し拗ねた表情をしていたのだが、そっとフィアが優しく包み込むように抱き頭を撫でるとクレアの機嫌は一気に良くなった。


「あ、姉上!何をするのじゃ!妾はもう子供ではないのじゃ!」


恥ずかしさから顔を真っ赤にして慌てふためく。フィアはにっこりと微笑みながらクレアの頭をずっと撫でていた。2人のやり取りを眺めていた男性陣(アルディスを除く)は微笑ましい光景に自然と笑顔になっていた。アルディスは何故か真面目な面持で見ていたのだ。後に聞いたところ「ワシもナデナデして欲しかった」と拳を強く握り締めながら嘆いたそうだ。










時は移り、来賓の間にて雑談が行われていた。部屋に居るのは現実世界三人組、ライオネル三姉妹、アルディスにアーサー、アーク他近衛騎士団の一部、侍女数名。

今後の話のため、来賓の間に集まっていたのだ。

謁見の間にて起こった出来事を何一つ知らなかったセシルとクレアは驚き、呆れていた。


「全く相変わらず無茶を言うものじゃ・・・しかし、城に住まわすのは反対じゃな。彼等は旅人、城に住まうとなれば彼等の意思とは関係無く国に従属する事となるじゃろう。汝らとて従属を求めた訳ではないのじゃろう?」


クレアは3人が城に住むのは反対のようで、否定的な意見を押し出してくる。

すると朗の目がキラーンと光りだしたのだ。


「そうですね、私達は世界を旅し見聞を広めたいと思っております。本来であれば城に住まうよりも市井にて暮らす方が私達の旅の目的に適っていると考えております。陛下の思いを無碍にしては心が痛むのですが・・・」


胸に手を当て、軽く俯き悲しげな表情を作る。オスカー賞も取れそうな程繊細な演戯に異世界組(アルディスを除く)は心を打たれたのだ。アルディスは心の中で(やりおったな小童めがっ!)と悔しさを噛み締めていた。


「父上、彼等もこう申しておるのじゃ。彼等の希望を叶えてこそ恩義に報いれるじゃろう」


心の中でニヤリと笑う朗。四面楚歌のアルディスは最後の最後にどんでん返しを食らい朗達は城下町で暮らす事になったのだ。要は「え〜」と文句を言っていたのだが、例によって最高の笑顔をした朗の口撃により「サーセン!!」と言いながら土下座をする要の姿があったのは心温まるエピソード。


軽い雑談も終わりに差し掛かり本題に入ろうした時、アルディスはアーサーに目で合図を送る。するとアーサーは立ち上がり、近衛や侍女に部屋の外へと出るように指示した。


「さて、そなた達は魔法について聞きたいのだったな?」


ついに魔法に関しての説明を聞けるため、何時に無く真剣な面持になる3人。アルディスはそんな3人の表情を見て少し困った顔をしたのだ。


「すまないんだがな、魔法については外部の者には詳しく説明できんのだよ」


アルディスの表情は本当に申し訳なさそうである。要はガックリと項垂れていたが、大和と朗はその可能性を考えていたため、そうですか、と一言呟いた。


「だが法力についての詳しい説明ならしても構わないのだが、どうするかね?」


諦めた途端僅かな希望の光りが見え、是非お願いします、と言い法力の詳しい説明を聞いたのだ。






「なるほど、大変ためになるお話、有難う御座いました。」


法具の説明は詳しく聞いていたのだが、法力はフィア自身然程詳しく無いため軽く程度しか聞いてなかったのだ。魔術・魔法・法力の関係を頭で整理していたとき、アルディスの声により中断させられたのだ。


「まさか法力を知らんかったとはな。カナメがセシルの前に一瞬で移動したアレは法力の一種だと思っとたんだが、違うとすればアレは一体何だったのだ?」


目にも留まらぬ速さでセシルの前へ移動した要を見て、脚力増強の法力と考えていたアルディスは法力を全く知らなかったと話す朗達に疑問を隠せなかった。

突如話を振られ、ニヤリと笑う。


「ちっちっち、アレは企業秘密だぜ」


即座にスパコーーンと大和の突っ込みが入る。


「馬鹿言ってんじゃねぇ!」


「なっ、馬鹿じゃねぇよ!意味だって会社の秘密ってことだろうが!」


再度ハリセンアタックが炸裂する。朗も手で額を押さえて呆れた顔をしている。大和が突っ込みを入れた本当の意味は要の使った単語にあった。

「企業秘密」意味としては要の言った意味であっているのだが、企業という単語がこの世界にて通用するか否か。結果で言えば否。企業も会社も通用しない単語なのであった。聞きなれない単語に首を傾げる者、訝しむ者と二手に分かれたが、朗の「私達の故郷で言う店を構える組織の事ですよ」とフォローが入ったため何とかこの場は収まったのだ。


アルディスは何かを考える仕草をした後、指をパチンと鳴らす。すると皆の前にあった紅茶のカップが宙に浮きテーブルの中央にコトンと並べられたのだ。突然の出来事に驚き、3人の表情を見たアルディスは満足そうに話し出した。


「今のが法力だ。ワシの法力は「物体の移動」軽い物しか動かせぬからあまり役に立つ法力でもないがな」


わっはっはと笑い、法力を披露した。

実は戦闘中に感じた要の違和感はこの法力にあったのだ。野生の勘とは素晴らしいもので要はアルディスの秘密に近づきつつあった。

アルディスの動きが速くなる原因は魔法による恩恵なのだが、実はアルディスは誰にも知られていない魔法を使用していた。

物体移動から創造した「重力魔法」

自身の重力を変える事により、異常なまでの緩急をつけていたのだ。この事実に気付いた者は一人もおらず、その理由はアルディスの使用する属性魔法にあった。

「火」「水」「風」「土」

これらは四大属性と呼ばれ、法力を覚醒する者の中で最も利便性の高い法力と認識されていた。

アルディスが戦闘中に使っていた魔法は風魔法の「ウィンガー」

足に風の力を纏わせ通常よりも速い移動や急速転回が可能となる魔法だ。

ウィンガーの存在は知っている者が多く、アルディスの緩急のある動きもウィンガーの恩恵と認識しているため、重力魔法の存在に気付かないのだ。

実はこの魔法は同じ風属性持ちのセシルも戦闘中に使用していた。


本来アルディスの法力は物体移動しか持ちえていないのだが、四大属性全ての魔法を行使出来る。これは王の戦―つまりは魔術の行使が原因であった。王の戦で構築した六つの術式、「火」「水」「風」「土」そして「光」と「闇」

術式を構築し魔術を行使した事により、アルディスは属性の概念が体に刻み込まれてしまったのだ。だが光と闇だけは如何しても発動せず、その属性から危険の可能性が高いと判断したため、その後の創造は一切しなかった。


「陛下、お時間になります故本日はここまでにと」


今後の予定も詰まっているためアーサーが終了の合図を出し、お茶会はお開きとなった。




その日の夜


部屋に1人政務を行っているアルディスの姿がある。外務をフィアに任せていた間に内務に取り掛かっていたので量は然程多くないが、自国の繁栄に繋がる書類には細心の注意が必要であるため最終確認していた。

政務も一段落つき、思考に耽っているとドアをノックする音が響いた。


「父上、入るぞ」


来訪者はクレアであり、愛娘の顔を見たアルディスは明るい表情になり、手を広げる。


「おぉ!クレアではないか!こんな時間にどうしたのだ?はっ、そうか!寂しさのあまりワシに会いに来たのか!」


「黙れ痴れ者。それに寂しく思うなら姉上の下へ向かうのが当然じゃろう」


痴れ者扱いされた挙句、いらない父親発言を受けたのだが、当の本人は年頃の娘は恥ずかしがりやだの、と勘違い思考をしていたのだ。にまーっと笑うアルディスを見て些か不満があったのだが、これ以上は無意味と判断して部屋に訪れた理由を語りだした。


「まぁよい。父上、確認したい事があるのじゃが」


「おぉ!なんでも聞いておくれ、父はなんでも答えるぞ」


「何故あの者達を城に置こうと考えたのじゃ?」


大和達の城での生活に否定的だったクレアはアルディスにその真意を確かめに来たのだ。もちろん否定的なのには確固たる理由がある。


「何故って、恩義に報いるならば近くに居ってもらうのが道理ではないか?」


「恍けるでない。妾が聞きたいのは真意じゃ」


自分は既に全てを察していると視線で告げる。しかしアルディスは表情を変えず、ニコニコしているだけだった。ふぅ、とため息を吐き3人が城に住んだ場合起こりうる出来事を話し出した。


「あの者達を城へ住まわせば狐や狸共が黙っておらんじゃろ。あれ程の猛者じゃ、手に入れるために策を講じるのは目に見えておる。あの年頃では狐の色香に騙されて落ちるかもしれんのじゃぞ?恩義に報いると言いながら何を考えておるのじゃ。それに・・・他国の密偵の可能性も否定できんじゃろう」


今、ライオネル王国には微妙な力関係が存在している。王の戦後、忠義の厚い貴族が上流貴族に位置付き、忠義の薄かった上流・名門貴族は中流貴族へと成り下がっていた。

当時はアルディスの力に恐れ慄き反論が出来なかったのだが、年月が経つにつれ恐怖も薄れ、再び王国貴族へと返り咲き、王権を牛耳ろうと動いている門閥があるのだ。当然表立った行動は無いのだが、裏では兵力を集め、私兵部隊を増やしていた。内乱の恐れがあるため牽制の手を打っているのだが、自衛のため、国力強化のため、など様々な理由をつけ止められぬ状況であったのだ。

そんな中で、魔剣士団団長を破った要の存在は喉から手が出る程欲しい人材であろう。王国二強である「白き閃光」のアーク、「紅獅子」のセシルの存在は門閥でも反旗を翻した際に最後の砦になると認識されている。二強の一角を破った要を城に置けば、門閥や門閥とは別の思惑で行動する派閥に様々なアプローチを仕掛けられる違いない。

仮に王家が3人を自らの懐に招き入れるとしても、そこには絶対的な信頼が必要となる。いつ裏切られるか分からない相手を取り込めば窮地に陥る可能性が高まるからだ。しかし、門閥からすれば3人が何者であれ関係ないのだ。必要なのは力。彼等にとって自分以外は道具でしかないのだから。


運良く3人がどの派閥にも属さないとしても、他国―いやクレアの言う他国とは「帝国」であり、帝国の密偵である可能性も考えられる。

現在帝国との直接的な争いは起きていないが不穏な動きがあると報告を受けていた。

今回のフィアの政務は帝国の動向についての情報交換という重大な任も負っていたのだ。その帰路に起こった本来遭遇するはずのないライガルとの戦闘、そこに突如現れた謎の旅人。疑うなというのが無理な話であった。


アルディスは将来有望なクレアの考えに笑いながら答える。


「そうじゃな、クレアの言い分は尤もだ。だがな、門閥や派閥に取り入れられたりはせんだろう。アキといったかの、あの子は本物の策士だ」


本日の朗とのやり取りを思い出しくつくつと笑う。


「あの子がいればそう簡単にはいかんだろうな。それはワシらとて同じ事だがな。ついでに言えば帝国の密偵の線も有りえぬだろうな。クレアだって分かっているのだろう?」


「・・・それはそうじゃが、確実とは言い切れんじゃろ」


アルディスは「密偵・・・」と言いながら机をバンバン叩き笑う。笑う理由はクレアも分かっているため、落ち着くまで待っていた。


「くっくっく・・・アレが密偵とすれば随分と目立つ密偵だな。逆にそれも怪しいと思うか?大丈夫だ、ワシとてまだ人を見る目は衰えておらん、それにアーサーもな。・・・くくっ、しかし本当に面白い子らだな。セシルを破る程の武を持つ者、長い目で先を見据える者・・・あの子はまだはっきりと分からんが何かしらあるだろうな」


余程面白いのか頬がずっと緩みっぱなしであり、クレアは呆れた表情で眺めていた。

しかし、アルディスが「だがもし」と言うと急に真面目な面持となったのだ。


「仮に彼等が本当に帝国の密偵であるならば、泳がせておけばよかろう」


普段であれば同じ台詞も笑いながら言うアルディスに疑問を抱きながらも泳がせる理由を尋ねた。すると真面目な面持からまたニッコリ顔になったのだ。

しかしクレアは今後このアルディスの表情を忘れる事が出来なくなった。顔は笑っているのだが目は一切笑っていない。寧ろその目は深く深く闇を抱いているかに思える。一度も見た事がないアルディスの眼差しにクレアは肩を震わせたのだ。


「他国の密偵とは時に自国の密偵より有益な情報をもたらす者なのだよ」


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