表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

第19話:激闘!要 VS セシル

模擬戦を見ていた兵士達は目の前の光景に疑問を感じざるおえなかった。

開始の合図があったにも関わらず、要もセシルもその場から一歩も動いていない。

要に至っては槍を構えてすらいないのだ。槍を両肩に乗せ、柄に手をぶら下げているのだ。やる気の欠片も感じられぬ要を見て、あの少年は一体何をしているのだ、と辺りがざわめき始める。セシルも構えを取らぬ要を見かねて声を掛けた。


「何をしている、もう勝負は始まっているんだぞ」


セシは要の意図が掴めず困惑していた。

―この男は一体何を考えているのだ―

要をじっと観察しながら様々な思考を張り巡らせていた。

要の容姿を一言で表せば「ワイルド」である。髪型は全体的に薄茶色でショートウルフ。堀のあるキリっとした目に平均的な日本人よりも高い鼻。外国の血が混じっているのでは?と思える様な顔立ちは要のワイルドさを更に引き立てているのだ。身長も177センチと成長を終えていない17歳にしてはかなり背が高い部類に入るだろう。高い身長にガッチリとした体格。まさに武道に励む者にとって理想的な体格であろう。

飄々とした態度を取りながらも威圧感は十分であった。


「ん?わかってるって。いつでもどーぞ、お姫様」


ニヤリと笑い挑発的な態度と言葉で対応する。一応開始の合図を聞き逃したのかと思い教えたのだが、人を小馬鹿にする態度を取る要にカチンときて一直線に要へと駆け走った。要は右手で柄を握り向かってくるセシルへと槍を振り下ろす。だがそんな単純な攻撃に当たるセシルではなく、攻撃後死角となる左側へ回避し、顔へ向けて斬撃を放とうとした。しかし、何か危険を感じバックステップする。直後、セシルの腹部の前を要の足が通り抜けたのだ。そして槍が再びセシルに襲い掛かった。不味いと感じたセシルは直ぐ様剣で左側を守り、要の一撃に備える。剣と槍がぶつかり合い、遠心力のついた要の一撃は重くセシルを横へと吹き飛ばしたのだ。

だがセシルは倒れる事無く、剣を構えて要を睨みつけた。


「ひゅ〜ぅ、やるじゃんセシル。団長の名は伊達じゃねぇな」


要の引き起こした連撃。槍を右上から左下に振り下ろす事でセシルの回避方向を限定する。そして振り下ろした勢いを利用して回避した方向へ後ろ回し蹴りを放ったのだ。一連の動作はそれだけでは終わらず、体を一回転させた遠心力をそのまま使い振り下ろした槍を今度は横薙ぎに払った。攻撃自体は防がれたのだが、遠心力により強烈な一撃となった横薙ぎはセシルを大きく吹き飛ばす結果となったのだ。

一見ただの振り下ろしに見えた攻撃も実は緻密に考えられた攻撃であった。

要は普段は本当に馬鹿なのだが、こと戦闘となるとしっかりとした戦術を練ることが出来るのだ。頭の云々というよりは、寧ろ本能なのかも知れない。因みに暴走モードの要は、本当に全てを考えて行動に移しているのだ。


今だ最初の頃と態度を変えない要とは違い、セシルは要の強さを身に沁みていた。一歩間違えばあの一撃で戦闘は終わっていたのだ。自分の慢心さと相手の過小評価がこの結果を生み出していた。だが、セシルの慢心はある種仕方の無い事でもあるのだ。


セシルは幼き頃より王女という立場よりも騎士になりたいと望んでいたのだ。しかし、王女の立場が剣を握る事を許されなかったため、自身の望みを諦めていた。だが、アルディスにより魔法の才を見出された事がきっかけになり、セシルは王女でありながら魔剣士としての道を歩み始めたのだ。幼少の頃より望み続けた道に手が届いたため、セシルは努力を積み重ねていた。魔法の才は父アルディスによる恩恵、武術の才は祖父・前王の恩恵があった。前王は別名「武王」と呼ばれるほど武芸に長けた王であった。セシルは王家直系の血筋を最も濃く引いていたのだ。直系の血筋と本人の絶え間ぬ努力により武術、魔法共に一流の使い手となったのだ。

こうして魔剣士団の団長になったセシルは模擬戦を繰り返し、今だ負け無し。強者であり模擬戦を行っていないのはアークだけであった。


「別に魔法を使ってもいいんだぜ?俺は使えないけど卑怯だなんて言うつもりもねぇしな」


そうして今度は槍を構える。要の目的は魔法を直に体験する事、そのために先程から挑発的な態度を取っていたのだ。すると再びセシルが一直線に向かってくる。ありゃ残念と心の中で呟き、槍を横薙ぎに振るう。剣で防ぐにしても避けるにしても次の一手を考えていたため、目の前の光景に一瞬思考が止まる。セシルの動きを見切るために一瞬たりとも目を離していなかったのだが、セシルが目の前から姿を消したのだ。相手を失った槍は空を切り、セシルを見失った要は姿を確認するため前面を一瞬で見回す。前にいないなら、と思った瞬間後ろから殺気が感じられた。セシルの姿は一切見えないがヤバイと思った要は前にジャンプしながら体を反転させ槍で防御体制に入った。

ガゴンと武器がぶつかり合う音が響き背後から放たれたセシルの一撃を防ぐ。セシルは武器を握る力を緩め槍の柄の下を滑るように要の懐へと入り込む。ジャンプした事により要の足はまだ地についていない。回避行動を取れぬため膝蹴りで追撃の手を防ごうとしたのだが、セシルの手により膝を押さえられた。既に武器を手放していたため、反対の手で要の胸元へと当てる。直後物凄い衝撃が要を襲ったのだ。軽く当てられたはずなのだが、要は後ろへと吹き飛ばされる。飛ばされながらも空中で体を一回転させ、滑りながら両足で着地をした。

直ぐ様セシルを見ると既に武器を拾っており、手を天にかざしながら要を眺めていた。


「負けを認めるなら今の内だが、どうする?」


今度はセシルが仕返しだと言わんばかりに要を挑発するかの様な意地悪な笑みを浮かべ話し掛けてくる。


「はっ!冗談だろ。これからが本番、ってな」


漸く魔法を体験出来たのにこれでお終いなんて考えられない要は模擬戦の続行を告げる。

セシルはそうか、と一言呟き目を瞑る。するとセシルの周りに一つ、また一つと炎の玉が生み出されていく。6つ程出来上がった段階でセシルは目を開け叫び声を上げた。


「ならばいくぞ!舞い踊れ!!火陣!!!」


セシルの手は振り下ろされ、周りにあった炎の玉が一斉に襲い掛かってきた。上下左右と色々な方向から向かってくる炎の玉を要は必死で避ける。第二派が来ると予想して前を見るがセシルの周りには炎の玉が一つも無い。あれ?これで終わり?と思っていると突如大和の叫び声が聞こえたのだ。


「馬鹿!後ろだ!」


大和の声に後ろを振り向くと避けたはずの炎の玉が再び向かっていたのだ。

うそぉ!と声を上げギリギリの位置で炎の玉を避ける。すると炎の玉は要に吸い寄せられる様に何度も襲い掛かってくるのだ。なんだこのストーカーは!と阿呆な事を考えていると自分の胸元が赤く光っているのが分かった。チラっと見ると赤く光る文字が刻まれていたのだ。なんじゃこりゃーーーと言いながら掃おうと叩くのだが、消える気配は一切無い。



「火陣」

セシルが作り上げた対一人用の魔法

攻撃の際に魔力を打ち込み相手に追尾用に紋章を刻み込む

その後生み出された炎の玉―別名「ファイヤーボール」を放ち、紋章目掛けて当たるまで永遠と襲い続ける



胸にある紋章が原因と推測し、なんとか消そうと試みながら避け続けているとセシルから落胆の声が発せられた。


「そんな事をしても意味はない!避けるだけでは何も変わらんぞ!」


実は対策は考え付いていたのだが、実行に移される事は無かった。

その手段としては、魔法とはいえ炎の玉。何かにぶつけるなりすれば消滅すると考え実行に移そうと考えたのだが・・・ぶつけるもの=槍、槍=木製、木製=燃える!って駄目じゃん!と脳内一人コントとやっていたのだ。少ない脳みそを使って必死に対策を考えるだのが、名案が浮かばず奥義「行き当たりばったり」発動か?と考えていると先程までよりも更に状況が悪化したのだ。


「終わりだ!フレイムアロー!!」


その声と共に3本の炎の矢が生み出される。このままでは負けは確実だと思い、仕方ないなと要は覚悟を決めた。


(アレ後から疲労感がめっちゃくるから嫌なんだけど・・・しゃあねぇか!)


3本の矢が放たれたと同時に要は風に―いや「雷」となった。


誰しも勝利はセシルが掴むと思い最後の攻撃を見つめていた。しかし、炎の矢が放たれたと同時にドンッ!!と大きな音が鳴り響く。直後セシルは後ろへ吹き飛び壁に叩きつけられていたのだ。セシルが立っていた位置には要が槍を突き出した状態で立ち尽くしていた。


アークは目の前で起こった出来事が信じられなかった。それはセシルの絶対的な勝利を覆したからでは無く、突きに至るまでの要の姿を「見る」事が出来なかったからだ。

アークは動体視力には自信があった。要がライガルの攻撃を避けるために飛び上がった時も、ライガルの猛攻を全て避ける事が出来たのも、全て目で捉えていたから出来たのだ。

そんな絶対的な自信を持つ目をもってしても、要の動きは確認出来なかった。


(やっべぇ・・・やり過ぎたっぽいぞ・・・)


羽柴僧院流槍術の極意は突きに在り。

その修行は至って単純、巻き藁を突くのみなのだ。ただ巻き藁の形状は三角錐の形をしており頂点を常に突き続けるという一風変わった方式。接点となる頂点と槍の刃の代わりについている木は先が少し丸まっており、適当に突けば直ぐに横に逸れてしまうのだ。逸れぬためには巻き藁と槍と垂直にし、点と点と突合せる必要がある。横に逸らさぬ様、日に五千回突き続ける。一度でも横に逸れれば一からやり直し、終わるまでは他の事は一切しないのだ。

こうして生み出された突きは正確無比なものへと成る。要は幼少の頃よりこれを毎日続けてきたため、速く、強く、正確な突きが打ち出せる様になったのだ。

そして突きにはもう一つ重要な要素がある。突きとはその字の通り、相手を突き抜くために存在する。そのため突きを行う際は必ず体を前に押し出す。つまりは相手目掛けて体を突進させる事なのだ。突進の速度が速ければ速いほど、突きを打ち出した時の威力は増加するのだ。

要とセシルの間にあった距離は凡そ30メートル。その距離を「一瞬」で詰め、突き抜いたのだ。その速さ正に光速。人の目では捉える事の出来ない速度で放たれた威力は一撃必殺。壁に叩きつけられたセシルの鎧は木製の武器で突かれたにも関わらず、ヒビが入り壊れかけていたのだ。

誰の目にも映らなかった要の攻撃。それではどのように距離を詰めたのだろうか?


羽柴僧院流に伝わるもう一つの極意。

それは「集氣法」と呼ばれる体内にある生命エネルギー―氣―を操る術である。

集氣法により氣を一箇所に集め―今回の要で言えば足に集め、爆発的な脚力を生み出したのだ。集氣法は体のどの部分にでも適用させる事が可能で腕に集めれば腕力が強くなり、丹田に集めれば体の硬度が増す、など様々な使い方があるのだ。

だが要の集氣法は何度も使える技ではない。体の氣を一箇所に集め瞬間的に爆発させるため、通常では消費されない程の氣が失われるのだ。

本来集氣法は要が消費する程の氣を必要としないのだが、要は必要以上に氣を消費してしまうのだ。これは要に集氣法を伝えた祖父が全てを伝える前に亡くなってしまったことが原因であった。寧ろ伝える事が出来たのは一握りだけであったのだ。集氣法を使えるようになり、操る術を教えようとした矢先に起こった悲劇。これにより要は独自に集氣法を学ぶしか出来なくなり、無駄の多い、不完全な集氣法と成ってしまったのだ。


しかし、無駄が多いとはいえ、集氣法の存在は圧倒的に不利な状況も打開出来るため、要は切り札として集氣法を使っていたのだ。突如きた疲労感に要は槍の石突を地に突き立てる事で体を立て直す。やり過ぎ感が否めなかったため、真剣勝負とはいえ要はちょっと心配になってしまった。


集氣法を上手くコントロール出来ない要は物凄い勢いで突きを繰り出したのだ。セシルが鎧を着ているとはいえ相当な衝撃とダメージを受けたに違いない。一滴の汗が頬を流れ、セシルをじっと見ていたのだが一向に動く気配がない。流石に心配になったため構えを解いてセシルへと歩み寄ろうとした時、何かが要に降り注いできた。危険を察知したためバックステップで何かを回避する。すると目の前に数十本もの炎の矢が刺さったのだ。危ねぇ!と思い上を見上げると恐ろしい顔をしたアルディスが腕を振りかざし落下している姿が目に映った。今度はかなり強い力で地面を蹴り後ろへと飛び退る。

振り下ろした腕とアルディスが地に付いた瞬間、ドゴォーーーーーン!!!と激しい轟音が鳴り響き、辺りは砂埃が舞い散った。


次第に砂埃が薄れアルディスの姿が確認出来ると、○○組のお偉いさんも真っ青になる表情で睨んでいたのだ。緊迫した空気が流れる中アルディスはゆっくりと口を開いた。


「貴様・・・」


一言言葉を発するだけで空気がビリビリと振動する様に感じる。

アルディスの周りには火、水、風、土と様々な属性の魔法の玉が浮かんでいる。

陛下のご乱心か!?と辺りはざわめき始めるのだがアークはこの事態を予測していたのか、武器を手に取り直ぐ様要の下へ駆け寄ろうとしたのだが、動きが止まってしまった。いや・・・この場に居た全ての人間の動きが止まってしまったのだ。


「貴様!セシルの初めてを奪いおったな!セシルの初めてはワシが奪うとずっと前から決めていたのに!」



「「「は?」」」


アルディスの聞き様によっては危険極まりない発言に時が止まり、全ての人間の目が点になっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ