第18話:避けられぬ勝負
「まさかそうくるとはね・・・僕もまだまだということか」
朗は手で顔を覆いながら厳しい表情をしている。謁見が終わり、部屋へと戻った3人。謁見の間での出来事を思い出し、読みの甘さを痛感していたのだ。朗の考えの中で王城に住むという選択肢は実は存在していたのだが、100%無いと決め付けていたのだ。世界を旅する旅人の設定であるため、素性は一切分からず、下手をすればどこかの国のスパイである可能性もあるのだ。そんな相手を王城に住まわすなど考えられぬ事なのだが、実際に王は提案してきたのだ。
正直な所、城に住まう事は回避すべき事態なのであった。この世界の一般常識が無いため、街で暮らしながら一般常識と情報を集めようと考えていたのだ。情報が無いという事は実に致命的なのである。遠い国の田舎出身ですから、で済まない事も有りえるのだ。街で不特定多数の相手と付き合いながら暮らすのであれば、多少のおかしな部分も気にも留めないのだが、王城で暮らすとなると特定多数の人間と接しなければならない。3人の何か違った部分に気付かれる可能性がかなり高くなるのだ。
朗自身は直ぐにこの世界の常識や知識を覚える事は可能であり、大和も早くに覚えるだろう。しかし、問題は要なのだ。現実世界の常識すら持ち合わせていない要に異世界の常識を覚えさせる事は物凄く困難であるのは容易に予想がついた。ゆっくりと洗脳・・・ゲフゲフ、調教・・・ゴホッゴホッ・・・覚えさせようと考えていたのだ。そうでもしなければ要の事だ、「俺は違う世界から来たんだぜ!」と胸を張って言い出しそうである。
即座にアルディスの申し出を断ろうとしたのだが、さすがは朗の考えを一瞬で理解した後で答えを出したアルディス。朗の反撃を許さぬ口撃に出たのだ。
「何、心配する事はない。ワシが受けた恩はこの程度の事で返せたとは思っておらん。王城に住んでもらい誠心誠意、恩返しをしたいのだがな?」
(う゛っ・・・やりやがったな狸親父め!)
これはアルディスの言葉を聞いた直後の朗の心の声である。狐と狸の化かし合い的なやり取りで朗は即座にアルディスの真意を読み取ったのだ。
(ワシの娘はそんなに安いと思ってるのか?そんな事言ったらワシキレちゃうぞ?)
と副声音が聞こえてきたのだ。アルディスは3人が他の世界から来た住人とは分かるはずもないのだが、朗の言葉の真意を読み取り、嫌がりそうな回答を的確に導き出し、提案してきたのだ。朗も朗でアルディスの表情からその考えを読み取り、反撃手段を考えていたのだが、良い案を浮かべるには時間が足りず、アルディスの提案を呑む形となったのだ。
一人暗い雰囲気を醸し出している朗を不思議に思い、要が近寄ってきた。
「どうした?城に住めるんだぜ!?めっちゃラッキーじゃん!フィアちゃんと仲良くなれるチャンスが・・・・ふふふふふ」
「はぁ・・・要に常識があればこんなに悩む必要もないのにね・・・」
1人妄想の世界に入り、怪しいオーラを纏っている要を見て、朗はガックリと項垂れる。いっそ今直ぐに洗脳・・・ゲフゲフ、勉強させて少しでも危険度を下げようかな?と黒いオーラを纏いながら要の肩を叩こうとした時、ドアのノックする音が聞こえ振り向くとアークが部屋に入ってきたのだ。
「部屋の準備が整ったから案内しよう」
こうして要は人生の危機(?)を回避出来たのだ。
部屋へと向かう最中気になった事がありアークに尋ねたのだ。
「てっきり使用人の方が案内するものだと思ってましたけど何かあったんですか?」
王の間へ案内したのは城の使用人であり、今回も使用人が案内するものだと思っていた朗はアークが来た事に何か違和感があったのだ。近衛騎士団の、しかも団長自ら案内するなど何かあったのでは?と勘繰ってしまう。するとアークは少しバツの悪そうな顔をして返事をしたのだ。
「いや、特に何もないさ。私が自ら案内する役を買って出ただけさ」
な〜んかありそうなんだよなぁ〜と考えていると、後ろから女性の声が聞こえたのだ。
「アーク!!戻ったのならば私との約束を果たせ!」
その声に誘われる様に後ろを振り向く4人。するとそこには真っ赤な鎧を着た女性が凛々しい表情で立ち尽くしていたのだ。光り輝く金色の髪、髪型はサイドポニーに仕上がっており、目元はつり上がっていて、きつそうな性格を思い立たせる。アークがその女性の名前を呼ぼうとした瞬間、時が止まったのだ。
その男神速の如し。その男=要が女性の手を取り片膝をつき上目遣いで見つめていたのだ。
「結婚を前提に付き合っ―」
しかしここで要の言葉は止まってしまった。いつもであれば大和の突っ込みで事を終えるのだが今回は違った。たしかに大和はハリセンを取り出し振り上げていたのだが、振り下ろす事は出来なかった。大和は見てしまったのだ!ハリセンを取り出し振り上げた瞬間、女性は素早くナイフを取り出し要の首に突きつけていたのだ。女性の表情に驚きはなく、冷たい表情で要を見下していた。対して要もナイフの存在に気付いているのだが驚く事は一切なく、いつも通りの軽口を叩いたのだ。
「わぉ、もしかして俺ってピンチ?」
要の緊張感の無い話し方に更に不機嫌が増したのか、目を細めてアークを見る。
「何だこの不埒者は」
遠慮の無い物言いに苦笑しながらアークは3人の紹介をした。
「その者はカナメ殿、こちらはヤマト殿とアキ殿。道中モンスターに襲われた所を助けてくれた者達ですよ、セシル様」
セシルと呼ばれた女性は目を見開かせ驚きの声を上げた。
「何?こんな品性の欠片も無い男達が姉様やお前達を助けたと言うのか?」
大和と朗は精神ポイントにダメージを受けた!
「品性の欠片も無いのは要だけだよ・・・」と要と同レベルに見られた事に愕然とする。
要はヒンセイって何?と本気で考えていた。・・・この子大丈夫かしら・・・
大和はダメージを受けながらも、ん?あれ?と何かおかしい単語が含まれた事を感じ、セシルに恐る恐る尋ねる。
「あの、姉様って・・・?」
もしかして、と思い聞いてみるとセシルが凍てつく眼差しを向ける。俺何も悪い事してねぇー!と心の中で叫び、要に憎悪を覚える。何も言わぬセシルに代わりアークが答えたのだ。
「こちらの方はセリシアース第二王女様だ。姫の妹君に在られるお方だな」
彼女の名前はセシリアース=シュペルノーヴァ=ローズ=クレメンテス=ライオネル。
ライオネル王国第二王女でありながら「魔剣士団」の団長を務める「紅獅子」その人なのだ。
「んなっ!姫さんだったの?」
確認の意を込めてセシルの顔を見直し問いかける。赤い鎧を纏っていたため、騎士と思っていた要は実は姫であるとの事実を受け、こりゃ異世界本格派ツンデレ姫の登場か!?と阿呆な事を考えていた。するとセシルはナイフを持つ手に力を込め、鋭い眼差しで要を睨みつけてきた。
「私を姫と呼ぶな。姫と呼ばれるのが嫌なんでな」
うはっ!と心の中で歓喜の声を上げる要。
ユミルの時もそうであったが、要の好みはツンデレなのだろうか?謎は深まるばかり・・・
「あいよっ、それじゃあ何て呼べばいい?」
「・・・セシルだ。それで構わん」
ぶっきら棒に応え、喉元に突きつけたナイフをしまう。要に立つように命令し、アークへと顔を向けた。
「興が逸れたな。アーク、お前との勝負は又の機会にする」
セシルの言葉にアークは胸をホッと撫で下ろす。実はセシルは幾度となくアークに勝負を申し込んでいたのだ。しかし何時も何かしらの理由を付けては勝負を回避していたのだ。近衛騎士団団長として王女に手を上げるなど以ての外、という理由では無く、もっと凄まじい理由があるのだがそれは追々分かる事であろう。
目先の危機が回避され、今後の回避手段を考えていると先程のセシルの言葉が頭に甦る。「お前との」・・・まさか!と思った時にはもう遅かったのだ。
「カナメと言ったな、ライガルを一撃で倒した力、見せてくれんか?」
これはまずい!と思ったアークは即座に言葉を掛けようとしたのだが、セシルに睨みつけられて一瞬口が止まった。その一瞬が命取り、要はセシルに返事をしてしまったのだ。
「ん?力を見せるって、別にいいけどどうすんだ?」
要の返事に満足のいったセシルはニヤリと笑い着いて来いと命令した。アークはこれから起こる「惨劇」に頭を痛め、どうしたものかと途方に暮れていたのだ。
セシルに連れられ着いた場所は王城内にある訓練場。王宮兵士達が自らの鍛錬の場として活用し、今の時間帯も訓練中の兵士が何人も居た。王女であるセシルと近衛団長であるアークの訪問により訓練中であった兵士達はその手を止め一斉に敬礼の姿勢となったのだ。セシルは敬礼中の兵士達を隅に寄せ、中央に広い空間を作る。そして要にこれから何をするのかを伝えたのだ。
「カナメにはこれから私と勝負をしてもらう。私は魔剣士団の団長を務めているのでな」
へぇ、と要の目つきが獲物を狩る猛獣の様になる。実は先程の攻防、セシルは要を脅す気満々でナイフを突きつけたのだ。いきなり王族の手を取り、しかも求愛行動に出た不埒者に制裁を、と思いナイフを少し突き刺さる位置に持っていったのだが、要は持ち前の反射神経により突き刺さる一歩手前に体を下げたのだ。
セシルは要の体裁きを見てその実力を感じ取り、要は寸分の狂いも無く、致命傷にならぬ程度の位置にナイフを合わせてきたセシルを強者と認識していたのだ。
「いいぜ、相手になるよ」
要は不敵な笑みを浮かべ、セシルとの勝負を受けたのだ。
要が勝負を受ける理由はいくつか存在した。一つはセシルの実力を肌で感じたため、楽しめる相手と判断した事。団長という名に、アークと同等の力を期待した事。そして何より、魔剣士の名に歓喜していたのだ。異世界大好きな要はもちろん魔法も大好きである。魔法を直に体感出来るなど嬉しくて仕方ないのだ。魔法という未知の力に自分の武術がどこまで通用するのか、武術家としても戦いたくてウズウズしていた。
両者中央に寄り、要の武器は槍、セシルの武器は剣であった。もちろん勝負とはいえ模擬戦となるため刃はついておらず、代わりに木で作られていたのだ。いつでもいいぜ〜と要は準備万端だったのだが、ここで意外な訪問者が来たのだ。
「ほぉ、面白そうな事をやってるな。ワシも見て構わんか?」
ライオネル国王アルディスとフィアの登場である。セシルや要達は2人の登場に驚き、アークにとっては予想通りの登場であったため、驚きはしなかったが頭が痛くなったのだ。
(どうやって陛下は話を聞きつけたのだろうか・・・)
不思議な事に面白そうなイベントには必ず登場してくるのだ。要とセシルが勝負すると決まったのは訓練場に着いてからなのだ。そうであるにも関わらず、何故か当然の如く現れる。しかも今回はフィア付きで。どうすればつい先程の情報を仕入れ、しかも別室に居たであろうフィアまでも連れてくるという神業を成せるのか、神出鬼没な主に頭痛の種が増えるアークなのであった。
突然の訪問者に仕切り直しをしていると、これまたどこから情報を聞きつけたのか近衛騎士団や魔剣士団の団員、一般兵士達まで集まってきて、気が付けばちょっとしたお祭り騒ぎ状態となっていたのだ。セシル様頑張って下さい〜だの、団長ファイト〜だの、セシルを応援する声は多数あるのだが、要を応援する声は一切無かった。ちょっと要が可哀相になったフィアが要に声援を送ったのだ。
「カナメ〜お怪我にお気を付け下さいね〜」
おう!と片手を上げて返事をすると観客席に立っている男性兵士達が一斉に要を睨みつける。
((((フィア様の声援とは・・・・羨まし過ぎる!!!))))
見事シンクロを果たした嫉妬に溢れた男共。そんな醜いオーラを一身に受けた要は睨みつけた男共に向かって、ニヤっと笑い顔を向けたのだ。羨ましいだろ?お前ら、と挑発的な笑み。要と男共がそんなやり取りをしている間にアークが要の傍に寄ってきた。その顔は何やら疲れている様な困っている様な、そんな表情をしていたのだ。
「ん?どしたの?」
「カナメ殿、悪い事は言わぬ、この勝負勝てたとしても負けてはくれんか?」
「あん?なんでだよ。セシルは結構マジだぜ?だったら俺もマジでいかねぇと悪いじゃねぇかよ」
要の言い分も十分に理解出来るのだが、その後の事を考えると頭が痛くなる。理由を話せば分かってくれるだろうと思い、説明しようしたのだがセシルの声によって遮られた。
「何をしている。まさか邪魔をするつもりではないだろうな?これから始まるのは己の全てを懸けた神聖なる戦いだ。それを汚す事がどのような意味か・・・お前なら分かるだろう?」
セシルの言葉に最早全てが手遅れであったと悟り、何も起きませんようにと切実に願いながらその場を去るのであった。
要とセシルは模擬戦での所定位置に立ち、開始の合図を待っていた。
「それでは、始め!」
アルディスによる開戦の合図があり、2人の真剣勝負が始まった。