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第16話:やってきました王都です!

長かった政務の旅も終わりを告げ、ついにフィア御一行は王都ラスティンに着いたのだ。

道中モンスターに襲われる事もあったのだが、近衛や要の活躍(勝手に出陣していたのだが)もあって危機体状況に陥る事は無かった。

長期間不在であったフィアを一目見ようと大勢の人々が門から城までの道に集まっていた。凱旋パレードという訳ではないのだが、フィアの帰還に歓喜の声を上げる人々を見ると、どれ程民衆にとって必要とされているかが分かるのである。フィアは優しい笑顔で群衆に手を振っている。その様子を最後尾から眺めている3人は驚いた表情をしていた。


「ほぇ〜、すげぇ人気だなぁ」


フィアの容姿、性格を考えれば多くの人から愛される事は必至であるのだが、ここまで熱狂的だとは思いもよらず、改めて違う世界の人間なんだと実感したのだ。すると驚きながら辺りの様子を眺めている3人に声が掛けられた。


「フィアレスティーン様は民衆から聖女と呼ばれ愛されていますから。普段はここまで凄くはないですが、今回は初めての政務の旅でしたから皆心配していたんですね」


声を掛けてきたのは馬の手綱を引いている一人の騎士。要は疑問に思った事があったのか、首を傾げて爆弾を落とした。


「ん?アンタ誰?」


直後スパーーーンと気持ちの良い音が鳴り響く。失礼極まりない発言に大和のハリセンアタックが炸裂したのだ。要を叱り付ける大和と朗。その光景を見て、しまった!的な顔をして騎士は自己紹介をしたのだ。


「す、すみません!そういえば名乗っていませんでしたよね。僕の名前はフランベルジュです、いつもフランと呼ばれていますので皆さんもそう呼んで下さい。一応皆さんの警護を任されていたんですけど・・・僕より強い皆さんに警護なんて必要なかったのかもしれませんね」


違いますと首を振る大和と朗。馬鹿みたいに強いのは要だけであって、大和と朗は一般人なのだ。しかしフランは3人共修行のため旅をする仲間と説明を聞いていたので全員が要と同等の強さだと勘違いしていたのだ。自分達が束になっても敵わなかったモンスターを相手に華麗な一撃で倒した要に憧れを抱き、実は話す機会を探っていたのだ。やっと憧れの相手と話す事が出来たため気分が上昇していた。


「それにしても本当に凄いですよね、ライガルを一撃で倒してしまうなんて。まるで団長を見ている様でしたよ!」


ライガル?と聞き覚えの無い単語にハテナマークが浮かぶ3人。

ライガルとはフィア達を襲っていた四足歩行のモンスターの名前である。モンスターには危険度に伴いランクが付けられている。ランクの高いモンスターからA・B・Cと順に付けられていく。中にはSランクも存在するのだが、遭遇する機会など滅多にないため、人々が気を付けなければならないランクはAからとなるのだ。

ライガルのランクはA。4メートルもある大きな胴体に獰猛な爪から繰り出される力強い一撃、更には俊敏な動きも出来るためAランクが付けられたのだ。本来ライガルは森の奥地に生息するモンスターであり、良質な薬草を求める薬師達が森の奥に向かい遭遇するケースが一般的であるため、今回の様に人が通る道に出てくる事など一度も報告された事がなかったのだ。


しかし、過去に一度だけライガルが王都で暴れる事件が起きた事があった。当時、実力を付けてきた傭兵団が名を売るためにライガル討伐に出たのだ。結果としてはライガルを捕まえ、証拠として生きたライガルを王都まで運んできた。多くの人々はライガルを文献でしか読んだ事が無かったため、本物のライガルを見て驚き、興奮し、傭兵団に賞賛の声を送っていた。民衆の賞賛の声に酔いしれた傭兵団は自分達は英雄であると錯覚し、浮き足立っていた。

しかし、悲劇が唐突に訪れたのだ。急に暴れだしたライガルは浮き足だっていた傭兵団を一瞬の内に物言わぬ肉塊へと変えてしまった。辺りの残っているのは興味本位で集まっていた一般市民だけだった。ライガルと戦うどころか、低ランクのモンスターでさえ戦う事の出来ぬ者達。絶望は一瞬の内に広がり人々は逃げ惑ったのだ。

そんな時、騎士の務めで街に出ていたアークは騒ぎに駆けつけライガルと遭遇したのだ。戦える者はアーク一人しか居らず、たった一人でライガルに立ち向かった。後に「白き閃光」と呼ばれる由縁となった戦いの幕開けであった。


アークは即座に投擲用のダガーをライガルに投げつけた。背を向けていたためアークの存在に気付いていないライガルにダガーが突き刺さり、痛みを感じた事によりアークの方へと振り向く。ライガルが襲っていた相手は既に武器を所持していない市民であったため、武器を構えるアークを敵と判断し、警戒態勢に入ったのだ。

ライガルはアークを畳み掛けるため一直線に走り出す。獰猛な爪を振り上げ必殺の一撃を放つのだが、ライガルの動きをじっくり観察していたアークは攻撃を予測し回避する。大振りの攻撃の隙にアークは後ろ足に狙いを定め、じわりじわりとライガルの機動性を奪っていく。焦りは禁物、アークはライガルの一撃を回避しては後ろ足に攻撃と繰り返し行っていたのだ。

右に左に上に下。どの様な角度からの攻撃も全て避けるアーク。連撃さえも華麗に避けるアークの姿を見た民衆はいつしか恐怖を忘れ、戦いに魅入っていたのだ。その動きは風の様に速く、水の様に捉え所が無かった。

元より後ろ足にダメージがあったのか、程なくしてライガルの様子に変化が表れたのだ。後ろ足に力が入らなくなり、片足だけ地面にドスンと付く。これが勝機と判断したアークは初めて自ら攻撃を仕掛けに行った。しかし相手はランクAのライガル、目はまだ戦意を失っておらず、雄叫びを上げる。野生の動物は生きる事に強く、力の入るもう片方の後ろ足だけで起き上がり、3本の足だけで高く飛びかかってきたのだ。アークは既にトップスピードであったため、止まる事も左右に避ける事も出来ず、ライガルが上に圧し掛かってきたのだ。

ドスン!と激しい轟音が鳴り響き、アークとライガルがいた位置は砂埃がまっている。誰の目から見てもアークが押し潰されたと思われ、再び始まる殺戮に恐怖し人々は悲鳴を上げたのだ。そんな中一人の男の声が聞こえた。


「お前に罪は無いのかもしれん。が、終わりだ」


ライガルとて無闇に人を襲ったりはしない。自分の領域を侵した相手に容赦無く襲い掛かるだけなのだ。だが今回は富と名声を受け取るため傭兵団によって無理矢理連れられた結果起こった事件。しかし、王都を守る騎士として猛威を振るうモンスターを野放しには出来ないのだ。

ライガルの頭上に立ち鋭い一撃が放たれる。槍はライガルに吸い込まれる様に突き刺さり、ライガルは最期の時を迎えたのだ。


ライガルの頭上に立ち、勝利を収めたアークの姿はまさに英雄であった。人々は一斉に歓喜と安堵の声を上げ、アークを賞賛したのだ。辺りを見回したアークは安心した表情をしていた。暫くして急いで掛け付けた衛兵に事後処理を任せ、アークは元の勤めに戻ったのだ。


当時、別の騎士団に所属していたフランにライガルが城下町で暴れているとの報が届き、急いで現場に向かったのだが、彼らが駆けつけた頃には既に事終えた後だった。地に伏しているライガルの頭上に立ち尽くしているアーク。手負いの相手とはいえ、ライガルは一人で相手に出来るほど弱くない。だが、アークは激しい死闘の末、勝利を手に収めていたのだ。その姿は歴代に語られる英雄ヒーローと同じに見え、強い憧れを持ったフランは近衛騎士団に入るため、猛訓練に励んだという。


この事件の後、当時近衛騎士団団長であったアーサーはその座を譲り、若き近衛騎士団団長が誕生した時であった。


「いや〜あの時の団長は本当に凄かったらしいですよ!あぁ・・・憧れますねぇ〜」


うっとりしているフラン。若干引き気味に話を聞いている要。朗は何か可笑しいのかクスクス笑っている。大和は1人フィアの様子をずっと眺めていたのだが、突如横から何かが目に入り込んできた。ん?と思い下を見ると道にはボールが跳ねていたのだ。巻き込まれイヤーの大和は即座に危機を察知し大声を上げた。


「フランさん!前!前!」


「え?」


フランが前を向いた時、ボールを追いかけた少年が目に映った。もう数秒もすれば目の前の少年は馬に巻き込まれるだろう。即座に危険を察知したフランは手綱を目一杯引き馬を止め様としたのだが、時既に遅く、ぶつかる!と思った瞬間、要は少年を抱え馬の隣に立っていたのだ。突然の事にえ?え?と混乱しているフラン。要はニッコリ笑って少年に軽く注意した。


「少年、ボールで遊ぶ時は気を付けなきゃ駄目だぞ?」


少年はほぇ?と不思議そうな顔をしていたが、要が地に下ろすと、ママーと言いながら人込みの中に消えていった。要が何をしたのかを理解し、感動したフランは体を震わせながら叫んだ。


「凄いです!格好良過ぎです!カナメさん!師匠と呼ばせて下さい!」


突然の事に吃驚する要。表情は固く顔が引き攣っている。大和は必死に早まっちゃ駄目だ!騙されちゃ駄目だ!とフランを説得している。朗だけは堪え切れなくなり腹を抱えて笑っているのだ。

近衛騎士団新人団員フランベルジュ=ペターニ、19歳。英雄ヒーローに憧れる真っ直ぐな青年なのであった。









城に辿り着いた3人は謁見の準備が整うまでは部屋で待機してる様言われたので、ちょっとした雑談をしていた。


「王様との謁見が終われば一段落って所かな、その後は色々と情報を集めなきゃね」


「そうだな、魔法の事についても聞いておきたいし、何聞くか考えてるか?」


「もちろん、任せてよ。不審に思われない様に色々と手筈は整えておくよ」


「おう、任せるぜ。頼りにしてるよ」


大和と朗は今後の事を考え色々と話し合っているのだが、要の頭の中は別の事で一杯だった。


「やっと王様に会えるのか、フィアちゃんとの仲を認めてもらうためにどうすれば・・・」


スパコーーーンと鳴り響くハリセンの音。頭の中がピンク一色の要の頭を割りと本気で叩く大和。顔を引き攣らせながら要を見る。


「てめぇも少しは考えろ!このバカナメがっ!」


「馬鹿はお前だ!フィアちゃんとの仲を認めてもらう事がどれだけ大事か分かってるのか!」


このお馬鹿さんに何を言っても無駄と悟った朗は笑顔で必殺口撃を仕掛けた。


「要、中学・・・」


「だぁーーーーーーーっ!待て!分かった!俺が悪かった!ちゃんとするから待て!」


急に動揺し出した要。中学?の単語だけでは全容は分からないが、要がここまで慌てるのだ、かなりの内容なのだろうが、付き合いの長い大和も思い当たる節がないのか首を傾げていた。しかし、コレは使えると思い、後で朗に聞こうと思っていたのだが、心を見透かされているかの様に朗は「大和に教えたら意味なくなっちゃうから、教えないよ?」と笑いながら先手を打ってきたのだ。笑顔が怖いッスよ朗さん・・・。と心の中で呟いていた。


今後の方針を決め話を纏めた所で謁見の準備が整ったのか、案内人が部屋に来た。王の間へと案内され、3人の前には頑丈そうな大きな扉があった。扉の両側に立っていた警護の騎士が扉を開け、案内人にこちらへどうぞ、と手で進むべき道を示された。中へと入った3人は急に集められた様々な意の篭った視線に居心地の悪さを感じたのだ。


一番奥には国王であるアルディスとフィアが座っている。その横に近衛団長であるアークが立ち、有事の際に備えているのだ。短い階段が有り、下にはアーサーを含めた四大貴族が王の下へと続く赤い絨毯を挟むように向かい合っていた。続いて格式の高い貴族から順に並んでいたのだ。

貴族達は既に大和達の情報は聞いており、感謝の目を向けている者、訝しむ者、好奇の目で品定めをする者、など様々な思惑と視線が3人に集まったのだ。

王の下へとエスコートする役がフランであったため、要はげっ!という様な表情をしたがこの場で文句を言う訳にもいかないので、大人しく着いていったのだ。王の下へと辿り着きフランと朗は片膝をつき頭を下げる。それに倣って大和と要も同じ格好をしたのだ。


「面を上げよ、若き英雄達よ」


アルディスの言葉に顔を上げる3人。初めて見る異世界の王は厳しい顔つきをして貫禄があり、怖いもの知らずの要でさえ萎縮する程だった。表情が物凄く硬い3人を見てアルディスは表情を和らげ言葉を続けた。


「そう緊張するでない。なんかワシが悪者に見えるじゃないか?」


急にフランクな口調になるアルディスに「は?」という顔になる3人。その顔を見て、してやったりなニヤけ顔をするアルディス。お父様!と小声で咎めるフィアを見て再び貫禄溢れる表情を作り感謝の辞を述べた。


「此度はそなた達の協力により、我がライオネル王国フィアレスティーン第一王女の危機が回避された。この国の王としてそなたらに感謝の意を贈る。本当にありがとう」


そしてアルディスは3人に向かって頭を下げる。その姿に貴族達は響めいたが、王に倣って頭を下げたのだ。アルディスの急な変化についていけず、3人は混乱状態に陥ったのだが、朗は逸早く持ち直した。


「勿体無きお言葉でございます、国王陛下。私達一同もフィアレスティーン第一王女様にお怪我が無く何よりです」


「うむ、してそなた達に褒美を取らせようと思うのだが、何か望む物はあるか?」


待ってましたと言わんばかりに朗の目がキラーンと光った様に見えた。


「はい、大変恐縮なのですが、私達一同旅の路銀が底を尽きた状態にあります。働く事で路銀を手に収めたいと思いますので、国王陛下の許可を頂けるのならば王都ラスティンの滞在をお許し願いたいのです」


実はこの言い回し、別の言い方をすれば「金が無いからくれ!」と言っている様なものだ。そして何より質が悪い事に、路銀が尽きている恩人相手にお金を渡す王の寛大さを試す部分もあった。滞在の許可を出すのは当然の事で、許可を出したとしてもお金が無い訳であるのだから宿に泊まる事も不可能である。つまりは王が英雄と呼んだ相手に対してどこまで施す事が出来るのか、貴族達の前で王の器を見せてみろ、と遠回しに言っているのだ。アルディスは目を瞑り少し考えた後、答えを出した。


「よかろう、滞在の許可を与える。当面の生活も困らぬ様に生活資金も付け足そうではないか」


一安心かな?と心の中で朗は呟いた。凡そ予定通りの展開になったため、胸を撫で下ろしていた。しかしアルディスは悪餓鬼が悪戯を思いついた時の様な表情をして朗の予想だにしなかった事を付け足したのだ。


「あぁ、それと宿の心配もいらぬ。そなら達には城にて生活をしてもらう」


3人だけでなく、他の貴族達も突然の提案に驚き固まる。朗の考えを一瞬の内で理解し、思いも因らぬ反撃を仕掛けたのだ。朗でさえこの展開は予想すら出来なかった内容であり、格式張った謁見の最中であるにも関わらず、シンクロアタックが炸裂したのだ。


「「「な・・・何ーーーーー!?」」」


終始アルディスの顔はニヤけていたのだ。





評価・ご感想は本当に嬉しいものですね。


これからも執筆活動を励んで参りますのでお付き合いの程お願いします。

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