第14話:イベント発生!?ってかこれ死亡フラグじゃね?
馬車に揺られ、何事も無く次の街に辿り着いた御一行。王都までの道のりはまだ遠く、数日に分けて旅路を戻らなければならない。今日はこの街に泊まると言い、アークは先日同様、フィアの護衛に向かったのだ。時刻は正午に差し掛かった頃であろうか、日は高く気温は日本で言えば6月下旬の暑さであった。修学旅行が10月にあったため、学生服の冬服を着ていたので、この暑さに少々気が滅入っていた。更に言えば、現代の都会っ子である3人は、エアコンや扇風機といった電化製品が無ければ暑さを凌げなかったのである。気だるい空間の中、要はポツリと愚痴を零した。
「あ゛ち゛ぃ〜・・・エアコンが欲しぃ〜・・・」
天下無双の要も自然の猛威には勝てないのか、ぐったりした様子で現代文明の有り難味を身に沁みていたのだ。だが、無い物強請りをしても意味がないため、部屋で大人しくしていたのだ。すると大和はある道具を差し出してきた。
「ほれ、無いよりはマシだろ」
大和が差し出したのは日本で言う団扇であった。何故異世界に団扇が?と思ったが暑さに耐え切れなかった要は無言のまま団扇を受け取ったのだ。異世界といえ、同じ人間の考える事はある程度同じなのかもしれない。
現代社会の様に電気が存在しないため、電化製品は一切無いのだが、その代わりに法具の存在がある。しかし、実は法具の歴史はそれほど古くはなかった。法石とは元は貴族や収集家が趣味で集めるのが一般的であったのだが、法器に法石が組み込まれている事が発見されてから、法石の価値が変わったのだ。そして人々は法石を武器だけでなく便利な道具、つまりは法具を生み出す事を考えたのだ。こうして様々な法具が開発されてきたのだが、今だ歴史が浅いためか又はこの世界の知識、技術力が足りないためか、現代社会のエアコンの様な発明品は生まれていなかったのだ。
パタパタと団扇を扇ぐ要。ベッドに横たわっている大和。何かを考えている朗。暑さのためか、それとも昨日の疲れのためか、3人は何もせずにボーっとしていたのだ。静かな時間が流れていたのだが、ふと外を見ようと思い、大和は起き上がり窓から外を見たのだ。するとフィアの姿が見え、護衛が数名付き添い、とある建物の中に入っていったのだ。何をしているのか気になった大和は散歩してくると言い建物へと向かった。
少し小奇麗な建物の中に入ると入り口には誰もいなかった。あれ?と思ったが奥へと進んで行く。進むにつれて消毒液の臭いや、血の臭いが漂ってきた。嗅ぎ慣れない臭いに顔を顰める大和であったが、奥から人の話し声が聞こえたため、そちらに向かっていった。
大和は目の前の光景に見惚れていた。体に包帯を巻き、怪我人であろう男の手を自身の両手で包み込む様に握り締めるフィア。怪我人の男は顔色が悪く、息も荒かった。その男を見つめるフィアの表情は柔らかく、優しい言葉で男を励ます。するとフィアの手が白く光りだしたのだ。男の表情を見ると安らかな表情をしていて、息遣いも落ち着きを取り戻していた。男の様子を確認したフィアは安堵の表情でまた別の人へと移っていった。大和はその光景をただ黙って見つめていた。大和の目にはフィアは女神か聖女に見えていたのだ。柔らかな表情に目を奪われ、優しい言葉に耳を奪われ、白く暖かい光りに心を奪われていた。一段落着いたのか、フィアは辺りを見回し、大和の姿を見つけたのだ。するとゆったりとした足取りで大和へと歩み寄ってきた。
「フシミ様、このような場所で如何されたのですか?」
「え?あ・・えっと・・・」
フィアを見つけて気になったから建物に入った挙句見惚れていました、などとは恥ずかしくて言えず、何か上手い言い訳が無いか考えていた。朗であったならば直ぐ様色々な言い訳のオンパレードを思いつくのだろうが、大和は何も思いつかず、奥義「行き当たりばったり」を発動したのだ。
「散歩・・・かな?」
言った直後に俺の馬鹿ー!と心の中で叫んでいた大和。散歩をしているのに建物の中に入るなどおかしい事極まりないのだが、フィアは特段気にした様子も無く、笑顔で「お散歩、気持ち良いですよね」と返事をしてくれたのだ。その輝かしい笑顔に罪悪感が芽生える大和。姫さんの笑顔、眩しすぎるぜ!と要と同様の思考をしていたのだ。するとフィアが名案でも思いついたのか手をポンと叩いた。
「そうですわ、フシミ様。本日の夜、皆様でお食事をなさいませんか?」
「えっ?いいのか姫様?」
「ええ、もちろんですわ。皆様は世界を旅するお方だと聞き及んでおります。私も政務を預かる身として世界のお話をお聞きしたいですわ。それと、私のことはフィアで結構ですわ。フシミ様は私達の恩人ですし、旅のお方、国に縛られる必要もないのですから」
世界の話を聞きたいと言われた時はしまった!と思った大和であったが、直後のフィアと呼んで欲しいと言われた事に衝撃を受け、前の言葉は頭の中から抜けてしまったのだ。大和の頭の中は今激しい戦闘の真っ最中であった。
天ヤ:(相手は一国のお姫様だよ!そんな人を呼び捨てにしていいと思ってるの?)
悪ヤ:(へっ、姫さんが自分でフィアって呼べって言ってんだぞ?いいじゃねぇかよ)
天ヤ:(駄目だよ!後ろの騎士さん達も無言のプレッシャーを掛けてきてるし!)
悪ヤ:(はん!フィアに逆らう事すら出来ないチキン達に恐れる必要はねぇよ!大和!てめぇ男だろ!あんな可愛い
らしいフィアの頼みを断るっつーのか?)
ヤ :(・・・・・・・・・)
天ヤ:(ちょ、ちょっと大和!悪大和に負けちゃ駄目だよ!自分をしっかり持って!)
悪ヤ:(けっ!てめぇに正直に生きるのが一番だぜ?や・ま・と)
ヤ :(・・・・ふっ・・・ふははははは!天大和よ・・・お前の言いたい事は分かったよ)
天ヤ:(ほ、ほんと?良かった!大和なら分かってくれるって信じてたよ!)
ヤ :(あぁ、天大和よ・・・・・・飛んでけぇーーーーー!!!)
天ヤ:(えっ?え〜〜〜〜!?あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜・・・・・)
ヤ :(悪大和よ・・・・いくぜっ!)
悪ヤ:(合点承知!)
こうして2人(?)は固い握手を交わし、大和の第一回異世界脳内会議は決着を向かえ、大和はフィアと呼ぶ事を決意したのであった。無言のプレッシャーを掛ける騎士達の存在など今の大和にとっては無意味。悪大和と手を組んだ大和は最強なのだ!(かなり誇張有り)
「分かったよ、フィア。それじゃあさ、俺の事もヤマトって呼んでくれない?要も朗もそう呼んでるからさ、フシミ様ってさ、ちょっとくすぐったくて」
「えぇ、分かりましたわ。私はこれから他にも行かなければならない場所がありますので、それではまた夜にお会いしましょうね。ヤマト」
そうしてフィア御一行は建物を後にしたのだ。大和も宿に戻り、今しがた起こった出来事を2人に話すと要が「おい!なんで俺も連れてってくれなかったんだよ!それ絶対イベントフラグじゃねぇか!」と言いながら大和を羽交い絞めにしていたのは平和な証拠・・・・なのかな?
「ちょ・・・要・・・ギブ!・・・まじ・・・しぬっ!」
訂正しよう。大和1人だけは平和でなかった。
時刻は夕刻。フィアが宿泊している宿に辿り着いた3人は玄関で待機していたアークに連れられ大広間の食堂に向かっていた。彼らが宿泊している宿とは全く世界が違い、流石貴族御用達の宿泊施設。一面輝いている様な廊下、鮮やかに飾られた部屋の隅々、上を見上げれば豪華なシャンデリア。現代社会でも超高級ホテルに行けばこの様な場所は存在するのだが、行った事の無い3人は少々萎縮しながらアークの後ろを歩いていたのだ。目的地に辿り着き扉が開かれ、目の前の光景は凄まじかった。長いテーブルの上に並べられた見た事も無い豪勢な料理の数々、その一番奥にフィアが座って待っていたのだ。
「皆様、ようこそお越し下さいました。席はお好きな場所にお座り下さい」
フィアによる歓迎の辞を受け、3人は並ぶように席に腰掛けた。テーブルマナーの欠片も知らない大和と要であったが、朗の手馴れた動きを見様見真似で何とか乗り切った。準備が全て整い楽しい食事会が開かれたのだ。
食事中の会話は主にこの世界の事、大和達の旅についての話し合いだった。遠くの田舎町出身という嘘がばれぬ様に日本の山奥の村の生活を語る朗。要は物凄い勢いで豪勢な料理を食べ尽くしていく。大和は一人何かを考えている表情で朗とフィアの会話を聞いていたのだ。食事会も終盤に差し掛かり、大和はどうしても聞きたい事があったのでフィアに尋ねた。
「あのさフィア、今日の昼の事なんだけど、怪我人を治してたフィアの力って一体何なの?」
彼ら3人の中でアレは魔法であると考えていたのだが、実際には違うかもしれない。大和が食事中ずっと考えていた事、初めてフィアを見たとき、そして昼に見たとき、神々しい力に思え目を奪われてしまった力の正体がどうしても知りたかったのだ。フィアの顔を真剣に見つめる大和。するとフィアの表情が一瞬だけ曇ったように見えたのだが、昼間見たような笑顔で答えたのだ。
「私が持つ力は治癒の力。詳しい事は何一つ分かっていませんが、私が生まれ持った力ですわ」
フィアの物言いに何か引っ掛かる大和。だかその何かが分からないのだ。胸に違和感の残しながら大和は質問を続けた。
「それは他の人も使えるの?」
「いえ、現在確認出来ているのは私1人だけですわ」
「え?そうなの!?フィアって凄いんだなぁ〜」
魔法が使える人が少ないと予想をしていたのだが、治癒の魔法に至ってはフィア1人しか使えないと聞き、大和は本心から凄いと思ったのだ。更に言えば治癒の力を使い、王族であるフィアが一般市民の怪我を治していた姿は大和にとって美しき女神を想像させるに十分過ぎる出来事であったのだ。フィアは大和に褒められて嬉しかったのか優しい笑顔でお礼を述べた。その笑顔を見た大和は胸がチクリと痛く感じてしまった。本人も何の痛みなのか分からなかったが、特に気にも留めず大和とフィアの楽しい会話の時間は過ぎていったのだ。どれくらいの時間が立ったであろうか、アークがフィアに何か耳打ちし、あっと驚いた様な顔をしていた。
「申し訳ありません、皆様。もうこんなお時間だったのですね。本日は楽しいお時間ありがとうございました。もう夜も遅いので本日はこちらにお泊りなされては如何でしょうか?」
フィアからの意外な提案に驚いた3人であったが、豪邸に泊まる機会など滅多に無いため喜んで誘いを受けたのだ。こうして食事会はお開きとなった。余談ではあるが、食事会の中で要、朗両名もフィアと呼ぶようになり、カナメ、アキと呼ばれる事となったのだ。
用意された部屋へと移動した3人は朗が今日仕入れた情報を纏めて話していたのだ。アルメリア大陸の情勢や人々の生活スタイル、法具についても色々と聞いたようで、大和と要に分かりやすいように説明していた。肝心の魔法についてだが、その件に関しては王都に着いてから国王に直接話しを聞いたほうが良いだろうとの事で詳しい説明は一切なかった。一旅人の自分達が国王に説明してもらえるのだろうか?と疑問に思ったのだが、フィアから国王にお願いをしてくれるそうなので問題ないとの事だった。
話が全て終わり、満腹感がまだ残っているのかふぁ〜っと要が欠伸をしたため、今日はもう寝る事にしたのだ。
深夜、部屋の中でもぞもぞと動く影があった。その正体は大和であり、中々寝付けないのか、部屋を出て風呂場に向かっていた。風呂は部屋に備え付けられて、そちらで済ませていたのだが、部屋に案内される際に風呂の事を尋ねた所、大浴場まであるらしいのだ。寝付けないため気分転換と大浴場が気になる気持ちが合わさって大浴場へ行く事にしたのだ。
「うぉ、すげぇ、こりゃ広いなぁ〜」
大浴場に着き、ワクワクしながら中を見た大和はその大きさに感嘆する。浴場内にある湯気のせいか、右を見ても左を見ても一番奥の壁が見えないのだ。浴槽内の中央には岩が山積みにされており、日本温泉の風情を見事に表していたのだ。+αでマーライオンの顔の様な物が口からお湯を出していた姿もあったのだが、大和は無意識の内に視界から消していたようだ。日本の温泉にマーライオンっぽい顔のアレは不必要ということなのだろうか・・・。
異世界で日本の温泉旅館の様な風呂に入れると思うと大和は嬉しくなり、さっそく湯船に浸かろうと思い足元に気をつけながら足早に向かった。いざ!桃源郷へ!的な乗りで湯船に浸かろうとしたその時、ザバァーーという音と共に大和の目の前に誰かが現れたのだ。
上から見ると湯に濡れていても尚輝いている金色の髪。驚いている表情も美しく可愛らしい顔立ち。くっきりと見える鎖骨のラインに肌理細やかな白く美しい肌。大きく聳え立つ2つの山の様な、む・・・・・ね?
ここで大和の意識はブラックアウトしたのだ。
(ぁぁ〜気持ちいい〜それに何か・・・暖かいなぁ)
意識が回復し始めた大和がまず思った事がコレである。微風が顔に浴びせられ、火照った顔を冷ましてくれるのだ。頭には柔らかい感触があり、気持ち良さを倍増させている。あまりの気持ち良さにボーっとしていたのだが、次第に今の状況が不思議に思えてきたのだ。疑問を解決すべく大和は目を開けると、心配そうな表情をしたフィアが大和の顔を覗き込んでいたのだ。
「ふぃ、フィア!?」
叫び声を上げた大和。そして即座にある行動に移る。正座するなり地面に額を擦り付ける勢いで頭を下げる。日本式謝罪、土下座である。
「ごめん!」
土下座の姿勢のままで謝罪する大和。怒ってるよな、そりゃ怒るよな、とフィアの心の内を考え、フィアによる軽蔑の言葉を一身に待つ大和。だが何時まで経ってもフィアの言葉はない。長き沈黙に耐え切れなくなった大和は恐る恐る顔を上げたのだ。フィアの顔を見た時、あれ?と思ってしまった。怒っていると思いきや、フィアの表情はオロオロしている様な、心配している様な、そんな表情だったのだ。もしや土下座の意味を理解してない?と思った大和。そもそも土下座とは日本特有の謝罪方式であり、異世界に土下座の概念が無ければ今の大和は何をしているのか理解に苦しむだろう。これはもしかして・・・と考えていた大和とバッチリ目が会ってしまったフィア。
「あの、大丈夫ですか?ヤマト」
ガゴーーーーーーーーーン!
大和は脳天にクリティカルヒットを受けた!!
大和は10000000000のダメージ!!!
過去最大級のダメージを受けた大和は固まってしまった。大和にとってフィアの言葉は『頭』が大丈夫ですか?と聞かれた様に思えたのだ。実際の所、フィアは純粋に大和の体の心配をして大丈夫かと聞いたのだが、直前に自分は痛い人に見えるのでは?と考えていた大和には通じなかったのだ。返事が無く動く気配すらない大和を見て更に心配になり、フィアは大和の手を握り締める。
「ヤマト、体の調子は大丈夫ですか?」
その一言で我に返る大和。心配されたのは頭の事じゃなかった!と心の中で喜びを露にしたのだ。大和の表情が和らいだのを見てフィアも安心したのか笑顔になる。フィアの笑顔を見て、浴場内での出来事を思い出し、恥ずかしくなったため急に立ち上がろうとしたのだが、まだ足元が覚束なかったため、後ろに倒れ込んでしまった。
「いててて・・・」
後頭部と肘を強く打ったため、鈍い痛みが襲ってくる。しかしその痛み以外にも自分の胸部に「柔らかい何か」が覆い被さる感覚があったのだ。何?と思い視線を向けると、驚いた表情をしたフィアの顔が直ぐ目の前にあったのだ。大和が後ろに倒れそうになった際、人体の脊髄反射の如く近くにあった物、つまりは大和の手を握っていたフィアの腕を掴んでしまったのだ。そのまま後ろに倒れこんだ大和に引っ張られる形でフィアも前に倒れ、大和の上に乗りかかってしまった。フィアの顔から目を逸らす事が出来ない大和。驚きの表情をしても尚美しい顔。大きな眼に元より優しい顔立ちを更に優しく見せる少し垂れ下がった目尻。顔全体を引き締める小さな鼻に艶やかな唇をした小さな口。風呂上りのためか頬がほんのり赤く染まっていて、フィアの可愛さを更に引き立たせている。フィアに見惚れていた大和であったが、はっと我に返り掴んでいたフィアの腕を離し、「ご、ごめん」と一言謝る。するとフィアも我に返ったのか、直ぐ様立ち上がり大和に対して背を向けた。
「ヤ、ヤマトはまだ調子が悪い様ですから、も、もう少し休まれていたほうがいいですわ。私はそろそろお部屋に戻りますね。それではまた明日ですわ」
そう言ってフィアは浴場を後にしたのだ。フィアの背中を黙って見つめていた大和。心なしか表情は凍り付いていて、青筋が見える。
「き・・・嫌われたな・・・」
本日2度目のクリティカルヒットに耐えられず、大和は大の字になって横たわっていたのだ。大浴場に来た本来の理由は寝付けないため気分転換であったのだが、部屋に戻りベッドに入ると大浴場で合った出来事が頭の中を駆け巡る。興奮と消沈を繰り返し、眠る事など出来なくなった大和は2日連続で徹夜する破目となったのだ。
(注:良い子の皆さんは湯船に浸かる前に体を洗ってから入りましょうね)