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第13話:さよならは言わないよ?

目的を達成したため裏口から外に出て急いで引き上げようと走っていると朗が壁に凭れながら立ち尽くしていた。


「お疲れ様、作戦は成功したのかな?」


ユミルを見て作戦の合否を尋ねる。するとユミルは笑って頷いた。


「あぁ、これでローガは終わりさ、パラムもこの街から無くなるだろうね」


パラム取引の黒幕であったローガの失脚により、パラムが街に蔓延る事はなくなった。安堵の表情を見せるユミルに微笑む朗。

疑問に思った事があり、大和は朗に尋ねる。


「そういや、なんでここにいるんだ?」


「心配だったからさ、出るならココだろうって思って待ってたんだよ」


示し合わせてもいないのに、逃走経路を予想出来ていた朗はさすがと言うべきであろう。然も当然のように話す朗を見て、狂気を身に纏っていたローガよりも、朗の方が何倍も怖いと感じてしまう大和、要両名であった。心の中でシンクロした一言。


((こいつだけは敵に回しちゃいかん・・・!))


そんな2人を見て首を傾げる朗はとても可愛らしかったそうだ。(後日、ユミルによる証言)

ユミルは仲間達の安否が気になり、朗に襲撃部隊はどうなったのか聞いてみた。


「他の皆も無事だよ。怪我人はいるけど致命傷を負った人はいないよ。今は戻って3人を待っているよ、と・・・その人は?ジェシスさん?かな?」


ギョっとしたジェシス。名乗り上げていないのに、初見の少年に自分の名前を言われるとは思っていなかったのだ。ユミルも少し驚いた顔をしていたが頷き答えた。


「そうだ、よく分かったな?」


「まぁ、ちょっと考えれば、ね?」


何をどうちょっと考えれば分かるのか小一時間問い詰めたい所だが不穏な空気を感じ取った4人はそこで話を区切ったのだ。


「ま、まぁいいだろ!目的も達成した事だし、誰かに見つかる前に戻ろうぜ!」


辺りはまだ薄暗いとはいえ、そろそろ日の出の時間である。数時間前にあれだけの騒ぎを起こしたのだ、不思議に思った市民が見に来てもおかしくないため、急いで撤収するべきだと大和は提案した。大和の意見に納得し移動しようとした時、ジェシスが4人を呼び止めたのだ。


「すまない、一つ行きたい所があるんだが、いいか?」










ジェシスに誘導され着いたのは辺りが見渡せる丘。そこにポツンと立つ石があったのだ。その周りには多種多様の武器が突き刺さっていた。


「ガンジ・・・久しぶりだな」


まるで旧友と再会した様な表情をするジェシス。手に持っていた法刀を墓石の手前に刺し込んだ。


「アンタの魂、取り返してきたぞ」


ガンジの墓を建てた時に誓った言葉。必ず刀を取り返してくると。そして刀を引き抜き、墓石に突きつけ、ただじっと墓石を見つめていた。沈黙が辺りを支配し、大和達も黙ってその光景を眺めていた。やがて思いを伝えるため、ジェシスは口を開いたのだ。


「アンタの遺志は俺が受け継ぐ。構わんか?ガンジ」


すると顔を覗かせたばかりの朝日が墓石に当たり、光りだした様に見えた。まるでジェシスの言葉にガンジが呼応した様に思える。その光景を見てジェシスはふっと笑い顔になった。


「そう、か。任せておけ。アンタと先代の子は大切にするさ」


ジェシスの隣に立っていたユミルは目を瞑り、手を合わせてガンジに感謝の言葉を述べる。


「ガンジさん、ありがとうございました。貴方の御蔭でジェシスが、いえ、街の皆の命が救われました。本当に、ありがとう」


ジェシスが帰ってきた事も、ローガを捕らえる事が出来たのも、ガンジが居たからこそ出来たのだ、とユミルは思っていた。色々な考えが頭を巡り、答えを出したのか大和達へと振り返って、お礼の言葉を述べたのだ。


「君達もありがとう、『私』は君達の事、絶対に忘れないわ」


すると4人は物凄く驚いた顔をした。だがジェシスだけはダメージが少なかったのか、驚きながらも口を開いたのだ。


「ユミル、お前・・・」


ユミルは笑いながらジェシスを見つめていた。


「もう・・・いいかなって思って。私はお父さんの後を継ぐ事ばかり考えてたわ。この街が大好きだったお父さんの思いを受け継ごうって、必死だったのね」


ユミル達の集団"ワイルド・シーカー"はユミルの父によって作られた組織であった。組織といっても一つの集団しか存在しておらず、街で犯罪を犯す者を力により排除したり、街に巣くう裏組織の壊滅などを手掛けてきた非公式な組織であった。因みに忍び装束はユミルの父が発案した衣装で主に隠密行動時に着衣されていた。

ワイルド・シーカー自体もならず者の集まりであったのだが、ユミルの父のカリスマ性に惹かれてか、皆犯罪に手を染める事無く、大人しく従っていたのだ。ユミルは強く豪快であり、そして何よりも仲間を大切にする父に憧れ、尊敬していた。しかし、ユミルの父は1年前、大物犯罪者を捕らえた際に帰らぬ人となってしまったのだ。絶対的な存在を亡くした組織は脆く、崩れることが容易に予想出来た。父の作り上げた物を失う訳にはいなかい。ユミルは父の墓石の前でジェシスに決意を語りだしたのだ。





『ジェシス、『俺』はワイルド・シーカーを継ぐ。力を貸してくれないか?』


ユミルの決意、それはワイルド・シーカーを継ぎ、この街を守る事だった。この時初めてユミルは自分の事を『俺』と呼んだ。父の代わりに皆を纏めるため、絶対的な存在になるために、ユミルはかつての自分を殺し、ワイルド・シーカーの頭として生きる事を決めたのだ。ジェシスはユミルの決意を受け止め、静かに頷いた。


『あぁ、俺の全てを懸けて、お前の力になろう』


そしてユミルはワイルド・シーカーの頭として組織を纏め上げたのだ。





「今思うと、あの時の言葉が貴方を追い詰めていたのね・・・本当にごめんなさい」


ジェシスの苦悩は弱き自分が招いた事。助ける所か気付いてあげる事すら出来なかったユミルは何度も謝罪する。しかしジェシスはその度首を横に振り否定するのだ。


「あれは俺の弱さが招いた結果だ。お前は悪くない。それにな、お前が先代の後を継ぐと言ったとき、正直俺は嬉しかった。俺も先代を尊敬していたからな。先代の遺志を子であるお前が継ぐと決めた時、俺は本心から力になりたいと思ったんだ」


ジェシスも幼少の頃からユミルの父の背中を見て育っていた。戦う事も、守る事も、大切な事も、ユミルの父から教わったのだ。父親同然のユミルの父が作り上げた組織だからこそ、失いたくないと思っていたのだ。


「私ね、今ならお父さんの最後の言葉の意味が分かる気がするの。ジェシスは覚えている?お父さんの最後の言葉を」


「あぁ、もちろん、覚えてるさ」


「お前達はお前達の人生を生きろ、か・・・本当はお父さんは、私に後なんか継いで欲しくなかったんだよね。きっと・・・普通の女として生きて欲しかったんだと思うわ」


生前、父を過ごした日々を思い返し、苦笑する。


「そう、だな。先代はお前を溺愛していたからな、だが先代の思いとしては半々だろうな。継いで欲しい反面危険な目には合わせたくない、といった所だろう」


ジェシスもユミルの父との付き合いが長いため、彼の考えていた事がある程度分かったのだろう。するとユミルは嬉しい様な悲しい様な面持をしていた。


「そっか・・・それじゃあ私達がしてきた事は間違ってなかったんだよね?」


ユミルは自分がしてきた事は意味がなかったのではないだろうか、と不安に思ったため少し表情が暗かった。


「そうだな。先代もよく言っていただろう?自分で考えた事が間違いである訳がない、自分を信じて思うようにやれ。とな」


その言葉を聞いたユミルは表情が明るくなり、懐かしむ様に思い出していた。


「ふふっ、久しぶりに聞いたわね。そうね、自分を信じろか・・・うん!私は間違ってない!」


途端に元気になったユミルを見てジェシスは嬉しくなり微笑んでいたのだ。




ラブラブモード真っ盛りな2人を他所に、3人は目のやり場に困っていたのだが、突如大和が思い出したように叫びだした。


「あっ!や、やべぇ!」


「あん?なんだよ?」


「俺達・・・朝早くに出発するんだった!」


アークと別れる前の言葉を思い出した朗。この世界の「朝早く」とは何時頃の事かは定かではないが、下手をすれば日の出と共に、との可能性もあるのだ。ここから街に戻り、しかも宿に辿り着くには1時間以上掛かってしまうだろう。仮に置いて行かれてしまえば、朗が考えていたこの世界での予定が狂ってしまう。相手の立場を考えれば、待つか出発するかは五分五分。冷静な朗も焦っているのか、急いで帰ろうと2人に促した。


「ま、まずいかも・・・早く戻るよ!帰り道は僕が覚えてるから!」


朗が焦ると2人も焦る。要は「やっぱり俺は姫さん一筋だから〜」と叫びながら、猛ダッシュで丘を下っていった。


「馬鹿!要は道覚えてないでしょ〜」


先走る要を追いかけるように朗も丘を下っていった。大和も続くように丘を下ろうとしたのだが、振り返りユミルとジェシスを見る。


「ユミルさん!ジェシスさん!またな!」


大きく手を振りながら丘を下る大和。そんな3人を微笑みながら見ていたユミルとジェシス。


「行っちゃったね」


「あぁ、そうだな」


「またね、か。ほんと・・・不思議な子達だったわね」


「あぁ、そうだな」


懐かしい雰囲気が2人を包み込む。そんな中、ジェシスは覚悟を決めたように語りだした。


「さて、俺は行かねばならん」


何処へ?と思うがユミルは分かっていたように答えた。


「貴方ならそう言うと思ったわ。行ってらっしゃい、ジェシス」


「・・・あぁ、行ってくる」


ユミルに背を向けて歩き出すジェシス。これからの事を考え目には涙が浮かび、ユミルは我慢できなくなり、ジェシスを追いかけ、背中に抱きついた。


「ジェシス・・・私・・・待ってる、ずっと・・・あなたの事、待ってるから」


ジェシスは振り返りユミルを強く抱きしめた。


「あぁ、俺は必ず帰ってくる。あの日の約束を果たすため、必ず帰ってくる。約束だ」


ジェシスの言葉にクスッと笑うユミル。


「約束を守るための約束?」


「あぁ、そうだ」


2人はしばし見詰め合う。そして、そっと口付けを交わしたのだ。


















コンコンと扉をノックする音が響き、屋敷の執事が部屋に入ってきた。


「カルケード様、早急に面会を求めている者がおりますが、如何なさいますか?」


管理者であるノシュタインに面会を求める者は多数存在する。事前にアポイントメントを取り、約束の期日、時間を決めた後に面会するのが一般的であり、この後も別件にて面会があるため、一旦帰ってもらい後日面会という形にしようとした。しかし執事は困った表情をし、現状を語ったのだ。


「私もそのように打診したのですが・・・」


「どうした?何か問題でもあるのか?」


執事の彼が物言いづらそうにする事など滅多にないため、不思議に思ったノシュタインは内容を聞き出そうとした。すると廊下から騒がしい声が聞こえてくる。何の騒ぎだと思った直後、部屋の扉が急に開けられたのだ。扉を開けた先に居たのは黒衣の男・・・ジェシスであった。


「突然の訪問すまないな、アンタがノシュタイン=カルケードか?」


申し訳の欠片も感じられない物言いに執事は声を荒げ近寄ろうとしたが、ノシュタインはそれを制して、ジェシスの訪問理由を尋ねた。


「ええ、私がノシュタイン=カルケードです。して貴方は?何用ですかな?」


「俺はジェシス。貴族や商家の襲撃、昨夜のローガの屋敷を襲撃した犯人だ」


その言葉を聞いた執事は顔が青ざめた。目の前にいるのは凶悪犯罪者であり、自分では決して太刀打ち出来る相手ではないと察したからだ。だがノシュタインは落ち着いていて、ジェシスに対する態度は変わっていなかった。


「そうですか。では何故その襲撃犯が私に会いに来たのかね?」


尤もな問いかけをするノシュタインにジェシスは記憶石を取り出し、語りだした。


「俺が何故貴族や商家を襲撃していたのか、その理由を教えに、な」


そうしてジェシスは今まであった出来事をノシュタインに話したのだ。




話を全て聞き終えたノシュタインの行動は早かった。即座に衛兵をローガの屋敷に送り確保して来いと命令を出した。そしてジェシスに向き直り話を続けた。


「貴方の御蔭で街に蔓延る悪を滅ぼす事が出来そうです。ありがとうございました。ですが・・・」と言った所でジェシスの言葉が割り込む。


「俺が襲撃をした中には無関係な者も居たはずだ。罪は罪、償う覚悟は出来ている」


ジェシスの真摯な眼差しを一身に受けるノシュタイン。


「・・・そうですか、分かりました。貴方の処分は後ほど下すとします」


こうして貴族・商家襲撃事件も収束を迎えたのだ。


















「アーク、皆様の様子はどうですか?」


フィアは道中3人の様子についてアークに尋ねた。


「彼らは馬車に乗るなり倒れるように寝てしまいましたよ」


「? 昨夜は眠れなかったのでしょうか?」


「さぁ・・・私には何とも・・・」


昨晩の出来事など知る由もない2人は首を傾げているのであった。


馬車の中にはスヤスヤと寝息をたてる3人の姿があった。宿まで全力疾走した御蔭でアークが向かえに来る10分前程に宿に辿り着く事ができた。馬車に乗るなり疲れがピークに達したのか、3人は即座に倒れこみ眠ってしまったのだ。異世界に迷い込んでから僅か1日。その1日で彼らは多くの出来事を体験した。右も左も分からぬ異世界で3人は何をするのだろうか?何故この世界に来てしまったのであろうか?全ては謎のまま、彼らの冒険は始まったばかりなのである。


後書き


今回の話にて第一章(?)ボサノバ編(?)は終了となります。

この作品を書き始め早2週間程経ちますが、思い描いた事を文章にする事は本当に大変なのだと、自身で執筆し初めて痛感しております。ですが、こうして物語に一つ区切りをつける事が出来、その間にユニークアクセスは5000人を突破する事が出来ました。

これも全て皆さんのお力あっての事で作者は感動に浸っている最中です。


多くの皆さんに読んで頂いている事が何より作者は嬉しく思い、執筆活動の励みにもなっております。

これまで読んで下さった皆さん、本当に有難う御座います。

何かと稚拙な文章であるとは思いますが、今後皆さんの期待に応えられるよう精進して参りますので、これからも御愛読の程、宜しくお願いします。


何が御質問や御指摘、御感想がありましたら、遠慮なく申し上げて下さい。

御質問に関しては物語に影響が出ない範囲でお答えさせて頂きます。

御指摘、御感想につきましては、作品をより一層良い物にしていきたいと思いますので、宜しくお願いします。


簡単では御座いますがお礼の言葉とさせて頂きました。


それでは引き続き「ワンダーワールド」の世界をお楽しみ下さいませ。


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