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心を揺蕩う淡い願い

作者: 幻中 飽那

こんにちは飽那です。まだまだ拙い文章かとも思いますが、読んでいただけると幸いです。


もう何も見たくない。もう何も聞きたくない。もう何も知りたくない。

何で世界はボクに優しくないんだろう。ボクは何もしていないのに。


そういう思いを何度もしてしまうのに、なんでまたボクは外へ出るんだろう。


社を開けて、外に出る。今日は夏祭り。人間がたくさんいる。

社の前で、人間がたくさん手を合わせている。今年も楽しい祭りになりそうだ。

人が来ないような場所に来て、ボクを人間にも見えるようにする。見た目は小学生くらいの男の子だ。

いつもと同じようにお祭りをまわる。たこ焼きにりんご飴に金魚すくい。

遊んでいたら、いつの間にか九時を過ぎていた。もうそろそろ帰ろうと、変身した時と同じ場所へ向かう。すると、女の子が一人、座って泣いていた。

何事かと思って、声をかけてみる。


「きみ、どうしたの?なんで泣いてるの?」


「えっとね、転んじゃったの」


「あ、血が出てるね。ちょっと待って」


そう言ってボクは傷を治してあげる。実はボク、ここに住んでる神様なのです。だから、こんなこともできちゃうわけです。


「すごーい。痛くなくなった」


「すごいでしょ?ほら、もう危ないから帰りなさい」


「それはそっちもだよ。神社出るまで一緒に行こう?」


「わかったよ」


「自己紹介がまだだったね。私はね、結川咲楽(ゆいかわさくら)。花が咲くの咲くに、楽って書いて咲楽。咲楽って呼んでね。君は?」


「ボクは──。ねえ、咲楽は何て呼びたい?ボクの名前は企業秘密だから」


実はボク、名前がないんだ。だからいつも決めてもらってる。ほんとはその決めてもらったやつをずっと名乗ればいいのだと思うけど、その名前は呼ばれるたびに辛くなるから──。


「企業秘密?まあいいや。えっとねぇ……そうだ、三郎!」


いたずらっぽく顔をにこやかにさせながら、咲楽は言うけど、ボクは本気で否定した。


「絶対嫌だ。もっとかっこいいのにしてよ。しかも何でいきなり三?」


「わがままだなぁ。それじゃぁ、太郎!」


「変わんないし、嫌だ」


「それじゃぁ、一之介!」


「なんでだよ。よけい嫌だ」



「──じゃあ、奏楽(そら)。奏でるに、楽って書いて奏楽。嫌?」


「ううん、それがいい。どうして奏楽なの?」


「私、弟がいたの。でも、交通事故で死んじゃった。その弟の名前が奏楽なの」


「そんな名前つけてもらっちゃっていいの?」


「うん!」


多少の罪悪感を感じながら、その名前を使うことにした。


咲楽を神社の外まで連れていく。咲楽はすぐに帰っていった。


もうきっと会うことは無いだろうと思う、願う。仲良くなってしまったらまたつらい思いをするから。



でも、咲楽は次の日も来た。合えるわけないのに。ボクが姿を見せようとしない限りは大体の人には見えない。だから、見せようとしないと会えるわけない。


でも、たまに見える人間がいる。そして、そういう人に限ってボクと出会う、会いに来る。咲楽もそうだったようなので、ボクを見つけて手を振ってくる。


「奏楽!今日も来たよ。私の予想通りここにいたね」


「あはは、お見事」



それから咲楽は毎日のように来た。たまに遠出に誘われるけど、ボクはここから出られないので断る。残念そうな顔をするのが面白い──


──ダメだダメだ、何も思っちゃいけない。また悲しい思いをする。



咲楽がここに通うことが日課になって、3年ほどたったある日。ボクは知る。咲楽のが学校での扱いを。


咲楽の声が聞こえて行ってみると、神社の前でいじめられていた。


「咲楽!」


「奏楽……」


ボクは他の人に見えるようにするのを忘れていた。いじめていた一人が気味悪そうにする。


「気持ち悪っ。いつも何、奏楽って。そんなのいないじゃん」


「え、いるよ。ここに」


咲楽はボクのことを指さす。でも、咲楽以外には見えない。


「気味悪いわ。もういい、行こ」


「見えない?奏楽って人間じゃ……」


咲楽は会った日の事を思い出していた。


怪我していた私を治してくれた不思議な力。あんなのできるのに人間なわけない。


「ねえ、奏楽って人間じゃないの?」


今思えば全部不思議だった。でも、人間じゃないのなら、なに?


「うん、ボクは人間じゃない」


「じゃあ、なに?」


「ここの、神」


「え、か、かかかかかみさま!?ほ、ほんと?」


「うん。ほんと」


「私ごとき人間が神様と友達なんて……」


「私ごとき人間て。あはは、面白いこと言うね」


「面白いどころじゃないよ!ほんとに神様っていたんだ……」


「うん。でも、秘密ね。それと──」


言いたくない。言いたくないけど、これが一番いいやり方。一番いいこと。これ以上は、ボクが辛い。


「それと?」


咲楽が首をかしげてる。この顔も、ボクには毒だ。

ボクは意を決して言い放つ。


「ボクと、もうかかわらないで!」


その後、ボクは社の中に入った。ここには、誰も絶対に入ってこれない。ボクが許さない限り。

咲楽はしばらくそこで呆けているようだったが、その後泣きながら帰っていった。


いきなりあんなこと言って、咲楽はどう思ったのかなぁ。嫌いになっちゃったかなぁ。そうなら、嫌だな。

そんなことを考えていると、不思議と涙が零れ落ちた。何度も経験している別れ。もう慣れてもいいはずなのに、ボクはまだこの悲しみに慣れることはできない。その前までの生活が楽しすぎて、その後がよけい寂しく感じるから。


「ぐすっ……うぅ……。ひぐっ……」


声をあげて泣く。抑えられない。咲楽に会いたい、会いたい、会いたい!


「奏楽!」


突然声が聞こえた。開けようとしていないはずなのに、社は開いている。どうして入ってこれたんだろう?


「どう、して……ここ、に……?」


「開けれたら入ちゃうよ。ねえ奏楽、どうしてあんなこと言ったの?私、寂しかったよ?なんで?」


「だってこれ以上一緒に居たら、辛くなるって、寂しくなるって、分かってるから」


咲楽はその意味が分かったようで、ボクのことを悲しい目で見てる。

すると、咲楽は意を決したように、ボクに優しく、優しく言った。


「奏楽は神様っていうことから、寂しいこと、辛いこと、いっぱいあったのかもしれない。そのことを、分かったよ、なんて安っぽい言葉で返すこともできない」


咲楽の声が優しくて、ボクはまた涙が溢れてくる。さっき社が開いたのも、きっと心が咲楽を呼んでたんだな、って思う。そんなボクの様子を見ながら、また優しく微笑んで、咲楽は続ける。


「でもね、私は奏楽と一緒に居たいな、って思ってる。無理強いはできないけど、私はそう思ってる。最後には、奏楽に寂しい思いをさせてしまうのかもしれない。ただ、それでも私は一緒がいい。私のわがままかもしれないけど、困らせちゃうかもしれないけど、一緒に、いてくれませんか?」


また悲しい思いをするのはわかってる。でも、きっとボクはこんな素敵でうれしい出会いをしたいから、何度も何度も外へ出るんだなって思う。悲しくても、その前のこんな出会いに、ボクは虜になってる。



いつか別れるけど、それまでは──。


「一緒に、いさせてください」

ここまでお読みいただきありがとうございました。誤字脱字があったら教えていただけると嬉しいです。アドバイスや感想も送って下さったら幸いです。

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