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ミゲル一話その2 承

 ミゲルは大切にしているストラップがあった。机の真横のヘリのすぐ下の鉄パイプの支柱の合わさる部分にバッグをたてかけていて、そのバッグのファスナーにそれを取り付けていた。それはとあるオンラインゲームのもので拳銃の形をしていた。毎日、雨の日もそうでない日も、綺麗にハンカチーフや、専用の布やなんかで手入れをしてふいている。実在しないSFの格好いい拳銃。オンラインゲームはストーリーはそこそこの、スペースオペラものの、今から1000年近く前の銀河開拓時代がベースのものだ。一部FPSユーザーには熱狂的な人気があるストーリーもので、スペースシップ20という名前(タイトル)のオンラインゲーム。授業が始まった8時30頃から、祖父の事を考えて居た。祖父のリハビリは、彼女の日課。今ごろ老いて日々緩やかになる体に力をいれあげ、居間に家族のだれかに補助されつつ歩いていっているころだろうか。近頃調子はいいがボケはひどくなる一方だ。こういうとき、祖父と自分たち家族が共に暮らしている事を核家族化が進む、現代の時代と対比してありがたく思うのだった。


 ここまで、一人の少女、ミゲルの思考と時間をなぞったが、それには訳がある。彼女(ミゲル)は実はもともと“エゥゲ”に血筋をもつ、祖先がエウゲ族。それを隠しもしないし、引け目をもさっぱり感じていない。ついでにいうならば彼女はエゥゲの中でも意識の中で他者、同じ種族の人間と接触する“トランスカルチャー”の持主だ。トランスカルチャーとは現実に告示した疑似世界、思念のうちに新しい別世界を想像できるエゥゲに固有の能力。古くは“超能力者が突如現れた”“テレパシー”、“呪術使い”、“サイコキネシス使い”などとといって火星では“エゥゲ”の“能力持ち”は迫害されたり科学研究の標的になったが、トランスカルチャーは彼等の“個性”。種族や人種などといった事とは無関係の普通の単一の人種や人格の個人の場合にも“個性”があるということは、それには短所も長所も含まれる場合も含まれたと思う。それと似たように、彼女は“エゥゲ”の血族の中で“能力”を持つという特性をもっていた。今素直に受け入れられているのは、その能力は一定以上は使用が許されないからだ。それは使用者と労働者の関係。つまり雇われの労働者の身である限りは、彼女らは自由にその能力を使う。といっても、契約の上での自由になるが。しかしこの“能力”にも問題があって、とくに“テレパシー中”は、回りの情報に疎くなる。長所もあれば短所もある。そしてその能力にも差があって筋力や腕力や五感の能力などと別のベクトルであるため数値にはできにくい。そのため、“能力もち”といっても万人に受け入れられるものではなく、受け入れられ方もそれぞれあった。

 なぜこの能力が生じたか?古くはテレパシーは、呪術使いのなかの特に“エゥゲ族”の瞑想時あらわれるイメージ空間だった。しかしそれらは“エゥゲ”の能力が注目され始めた“火星歴760年代”に、自らの身をまもるために急速に発達し、今ではどんな小さな情報でも、テレパシーの仮想現実上に思い描き、伝達しあう事が可能になった。まさに血族と身内を守るために発達した超能力のようなものだった。

 古くは迫害されたその瞑想技術は、今では尊敬と畏怖をこめてこう巷で呼ばれる。“サイバーネット”の技術に応用されたのではないかと噂されているのだ。“サイバーネット”は火星を実験として古くはコンピューターネットワークを利用して試験されたもので。今ではそれを強靭化し、ハードウェア、ソフトウェアともに人間の五感に直接働きかけ、または相互にコミットメントする装置だ。それは火星が開発して、最先端の技術をもっている。しかしそんなものが発達し、“仮想現実”や“電脳世界”が実現した今の、この時代でも、テレパシーの類である“エゥゲ”の“トランスカルチャー”はまた脚光を浴びていた。なぜなら差別やかつての迫害の歴史から、ナイーブに扱われてはいるが、近頃では五感や精神自体をネットワークにつなげる“サイバーネット”との違いが得に明確になってきているからだ。その手法や、それによる五感に与える影響など、どちらかといえば、“エゥゲ”のほうがより正しくコンピューターネットワークを用いる事ができるのではないかという論調はアカデミックな世界でも注目される。いくつもの国や企業、研究機関によると、その“トランスカルチャー”が、エウゲを迫害から遠ざけるために精神力の発達した結果だととらえられ真面目に研究されているからだ。テレパシーだけではなく、実際に例えばVR空間に現れるもう一人の自分や世界を認識して共有できる空間。それがいったい何なのか、研究が盛んな理由、それは一部の血筋に特有の能力だったからこうした状況がある。


 ミゲルはといえばその中でも、一人面白い状況にいた。家に帰れば“サイバーネット”のいち空間である“サイバースペース005”に接続する。その頭と体の各部位には触覚や各種知覚を刺激するアイテムが装着される、それが“カオス機材”とよばれる“サイバースペース005”の電脳ネット空間のへの接続するためのアイテムだ。それを使い“電脳空間”に“自分”を落とし込む、そのときはじめて、自分の才能を停止させ、心に思い描かない情報をやり取りする事のむつかしさと、磨くべきスキルについて思い描く事ができる。ミゲルは、自分の才能に関して、それ以外が発達していない事に引け目を感じていた。なぜなら、姉にはそれができるからだ、自分の不自由や不足を補う力がある。だから姉は生徒会長だし、いくつもの委員、部活を兼任している。


 しばらくすると9時を25分をまわり、10月7日、その日の一時間目が終わる。次の授業は数学だったはずだ。クラスはこのまま。特段目立つことはない、彼女は知恵もありそれなりの成績を残す事ができている、平均よりはいくらか上だ。それがどうしたことだろう、姉には勝てない、意欲もそれほどもてないのは、姉が高飛車な性格だからだ、追い越したとして何を誇ろう、全てが勝てないと思っている。


 9時45分なると1時間目が終わり、15分休憩が入った。次の授業は美術で、だから彼女は陰鬱な顔を見せた。友人たちが彼女の席の周りを囲んでいた。 背のひくい元気な、声のおおきい子は名前をモーネ・ハキネ。一人は生真面目そうな眼鏡をかけった長身の子をエリゼといった、彼女は交渉事にたけている、よく昼食のパンをうまく購買で調達してきてくれる。

 彼女が憂鬱だったのにはわけがある、美術教師のノーム・エゲルが彼女の部活の顧問だからだ。彼女は良いうわさがない。男にだらしないとか、金に目がないとかあれこれ。それだけならいいが何かにつけて姉と自分を比べてけしかけるクセがある、ミゲルはそれを良いと思っていなかった。ただのひいきなら人によりどうでもいい事だろうがミゲルは良いと思わなかった。しかし、そんな思いに頭をかき乱されながらも、授業の内容は頭にコンプリート。授業は難なくすすんだので、その日は部活の始まるすべての日程の終了まで憂鬱はなかった。しかし何度となく、ノームの顔が目をよぎる、やせほそってごつごつとした頬と、額。そして自信投げに下がるまゆと、つりあがる目。彼女は自分にわざと難問をおしつけて、赤っ恥をかかせてきた。そのことは部活とは関係なく混乱する材料だった。なぜあれほど姉と自分を比べるのか、卑しい気持ちを疑ってしまう。そもそもその原因は彼女の所属する部活は珍しい“琴”の部活だ。琴部。部員は少なく3人しかいない。その中で切磋琢磨するといっても、いつも彼女は姉に及ばない自分の美的センスや、知性を負い目を感じながら意欲を出せずにいた。

 ヨアカは、15時半になると部室に通うことになっていた。日常からそうなのだ。6限目の鐘が終わると、琴のための部室、畳と座敷が用意されている部室に通う。

 「こんにちは」

 姉に続いて別の人が挨拶をした。女子学生で姉と特に仲のいい3年生、サキだ。長い緑髪はうまれつきらしい、火星への入植では不思議な事がいくつかおきて、彼女の髪もその象徴といえるかもしれない。とくに彼女の澄んだ瞳、そして優しい濁り方はみるものを引き付ける魅力がある綺麗な赤色をしていた。

 「こんにちは」

 「なによ!!私は無視なの!」

 「こらこら」

 姉の清楚らしからぬ態度にも、礼節を描いた様子にも、教師は優しくなだめるだけだった。つまりうまく立ち回る人間はよしとして、その技術さえない人間が教師には疎まれる。つまり単なる優劣の判断なのだ。ミゲル“葉枯”ヨアカは、特段成績も、琴の音楽も音色が悪いわけでもなく、姉といっしょにいくつもの賞を受賞するほど、良い魅力をもっている、けれどこの教師はいつも、彼女に劣る劣るとらく印を押す。それがミゲルには不満だった。

 部活は難なくおわる、難なくといっても、ミゲルは、周囲に黙っているひとつ特殊能力をもっていて、それは人の気持ちを敏感に先読みしてしまう事だ。失敗はあるが、成功も多い、つまり彼女は血のつながりの“テレパシー”、念じる事で“エゥゲ”とつながるほかにも、洞察の鋭いところがあった。むしろそれが外れてほしいと常日頃からねがっていたのである。部活が終わるころ、教師の様子をみていたミゲルは一番最初に琴を楽器ケースにしまい終わったのに文句をいわれた、準備が完了していないことを悟られないようにとわざわざもぞもぞやっていたのが裏目にでた。姉はまだしも、サキさんまで教師の標的にされたら可哀想だと思ったのだ。そこで教師がこういった。そしてあろうことかミゲルのうでをつねった。

 「あなたどうしてそんなにノロマなのかしら??そんなのだから成績があがらないのよ、そういえば最近ものが盗まれる被害があるわね」

 【あっ】

 あわてて、同調するようにサキさんが声をだした、それはどういうつもりかわかった、ミゲルをかばうつもりだったのだ。ミゲルは、その後の言葉を予想した。予想が当たらない事を祈りながら。

 【ああそうそう、まさかあなたじゃないわよね、そんなことをうたがわれたくないのなら、早くしまってしまいなさい!!】

 教師が閉まっているカバーのファスナーを勢いよくあけた、その様子をいじわるく姉が笑う。どうせ後で謝るつもりのくせに、といつも思う。がらら、と窓を閉めた音がして教師がふりかえる、まるで獣のように恨めしい顔をこちらに見せる。どうしてだろうと思って、部屋を一番最後にでた。


 サキさんと姉と自分は校舎を中央で横切る、部室は正面の校門から一番遠い位置にあった。木々が取り囲む小高い丘の上にある中学は、周囲に少しのスペースをもって人々の住まう“街”があった。その無駄なスペースは、子供と大人を隔てる壁、防音壁もあり、それが大人と子供の分断を照らし出していた。

 三人は一緒に駄菓子屋によった。いつもの帰り道、変わらない風景、人工太陽が夕方を演出し、ロマンを見せるが、それが人口だと思った瞬間にうんざりする。うんざりするといえばその日も姉が延々と自分にあやまってきた。サキさんはそれを調停する。無駄な事だと思う。さきさんが無駄なのではなく、芸術を人と比較する事に無駄を感じている、けれど教師の前でそれを主張する事は都合が悪い、必ずああしたひいきを悪用する人は、誰かと誰かを比べて、人を裁く。自分なら物を教えるとき、誰もが得をする方法を考える。そういえば、と太陽を見て思う。女神のようなほりのふかい顔をした人工太陽だ。あの教師は以前、音楽家をやっていたことがあるらしいが、父のように、いつしかそれをやめたらしい。劣等感を抱く人に芸術を人に教える才能はないとおもった。それにひとつ気がかりな事があった。先生に似た人を、夢の中でみた気がした。


 昨晩、そして一昨日みた夢の中でも同じ町、“メトロポリス005”通称“シネン”の街にはきりがかかっていた。一昨日みた夢はよく記憶しているが、昨晩の夢は、教師“ノーム・エゲル”が登場するせいかあまりよく記憶していなかった。大人にいわれると簡単な問題も、かえって難しい表現を帯びてしまう。ミゲルには、それが不満だった。


帰りの途中、コンビニエンスストアによる、とそこでミゲルは考えた。実は、姉たちのあとをおって、そのセーラ服を背後から見守りながら考えることもあった。自分の影を踏んで、夢の事、現実のこと、オンラインゲームのこと、学校の勉強のこと、学校とは違う勉強のこと。したくてもしてしまう配慮のこと、考えたくなくても考えてしまう悪い結末のこと、そして自分にとって人にとって一番いいこととは何なのか。彼女はこだわりがつよかった、だから自分の影をふんで歩いた。そのこだわりを捨てる方法をまだ知らない。

 コンビニのチャイムがなる、明るい定員が挨拶をする、そっけない素振りで実は気持ちのいい笑顔を返したつもり、表情はうまく動かなかった。姉たちが健康のためとサラダや、フルーツジュースを手に取るのを見て少年週刊誌をみていた。姉たちが明るく談笑するさきで、彼女はこっそり一番手前の商品棚をとおって、入口付近からざっと雑誌をみやっていた。

(ボクは、本当はボクっていう一人称が恥ずかしい、あのとき、今日の部活もサキさんは一生懸命話題をつくってくれた。サキさんは、姉と一番なかがいいけれどオンラインゲームでは私が一番仲がいい。私は自分がどうやってあの先生に抵抗すべきなのかをしらない。遠回りをする勇気がまだない。自分がそこに存在することで、得る影響は悪いものでなければいいと思う)

 もう一度チャイムがなって挨拶が交わされるころ、少女は姉たちを追って店のそとにでるところだった、知らない間に会計をすまして、挨拶も姉たちをまねるのみだった。

 (あっ)

 気付いたことがある、自分は財布をだしていない、数分前にこっそり、サキさんがお金をはらってくれたのを思い出して、急いで店員に挨拶をした。挨拶はあまりに心もとないものだった。吐く息が軽く濁って空を汚した。けれど感謝はいわなくてはいけなかった。サキさんの後をおって、ふかくおじぎをした。白い息はさらに白くそらを濁した。

 (ボクは、人に不満をいわずに自分が変わらなければ行けないと思う、私は失敗する覚悟もあるし、自分が正直な気持ちを事を訴える事で起こる出来事に立ち向かう意志もある、反省する意志もある、けれど、感情を振り返るたびに、いい思い出に合わない、なにからはじめていいかわからない、でも、前に進むべきだ、何か変えるべきだ)

 延々とあやまってると笑いながらとうとう二人は遠い大通りの信号機を横切る段になって横断歩道をわたってこちらにてをふっている。ミゲルは、かけていくサキと、姉エーネの背中を負う。二人は学校のセーラー服の上からセーターをきていたがミゲルはきていなかった。天井をみる。天井にはおおきな漆黒の穴が開いていてその最奥には夜空が光る。この街の大きさは5,166km²、コロニーの大きさはだいたい378km²、狭い世界でまだ外の世界を知らなかった。


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