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プロローグ

 ミゲルと夢と霧の街。これは、ある惑星を舞台にしたお話だ。ある人間とその血縁者に受け継がれた秘密の力は、その周囲にいくつもの話しを生じさせた。やがてそれは、それだけではなく、地球人類にとっても、今までの人間観と、人間に関する日常と非日常とが、一変するような経験談となった。やがて宇宙と地球をまたぎ語られたそのお話は、その出来事がおきてからも気っと長く語り継がれるだろう。その惑星を舞台としたお話は……。


 まずはじめに、舞台は地球ではなく、宇宙の、天の川銀河、地球の外部、同じ銀河系の宇宙の片隅から始まった。地球人類は、未だ地球に住み続けているが、我々が今生きる現在より、はるか遠く、ずっと遠い未来のことで、銀河系の我々地球にすむ人類の間では、にわかに地球環境の悪化と、地球という星、それ以外の環境への逃げ場がない事が目下の全人類にとって早急に改善すべき問題となっていた。もっとも、そう叫ばれてからも、何百年もたっていたが、手遅れだとは誰も考えなていなかったのだ。だからこそ、新しい第二の母星を探し求め、その星を開拓を始めた。その星、火星を。

 地球人類は、その幾重にも積み重ねられた月日、次代、歴史の中で、いくつもの文明と社会をくり返し創造したが、どの国の支配形態や、政治形態でも半永久的に続くようなことはなかった。権力や国、それにともなう文明や、社会はたちどころに、あちこちに生じ、人々の文化と文明が肥えるとやがて凋落し、いつしか腐敗し、また新しい治世、権力や国がうまれる。権力はこの時代にいたるまで、一つどころに落ち着く事はほとんどなかった。

 やがてその苦痛と苦労に疲弊したのは、人類ではなく星のほうだった。やがて人類は、疲れ果てた自らの母星を飛び立ち、宇宙の大海原へ、まずは、銀河系の恒星の中に、地球のほかに居住可能な惑星を探し、かつての歴史のように、開拓し、移住し、植民地支配する事に夢を託した。こうともも言える、結局は、宇宙の広大な空間の中で、自らの文明と、資源、科学の持てるすべてを使い、新天地へと未来への希望を託さざるをえなかったのだ。最後には、母星を捨てるしかなかったのだ。

 やがて、ひとつの恒星に標的を定めた。それはかねてより議論があった、火星だった。SFでも、現実でも、その星は新しい住み家としての環境に適する可能性があると、言われてきたことがあった。ただ、その移住のために莫大な資源と時間と労力が必要であることもわかっていた。しかし、地球はそのとき、それほどの人口をもってはいないだろうことは、現在からも予想されることだ。なぜなら、人口爆発など起こりはしない。ある程度発展、発達した国の、社会と文明、先進国とよばれるまでになれば、人口はそれ以上急激に増える事はない。

 前火星歴100年。やがて人類は、新しい恒星で地球を超えるほどまで発展を気付き上げた。その四半世紀ほど前、星の寿命からすると、一瞬のまたたきの前に人類の発展と文明の進歩とともに、科学は爆発的に進歩した。火星へいく技術もその時期につくられたという。いわゆる≪技術的特異点(シンギュラリティ)≫である。未だ地球の支配は、人類の手中に握られていたが、人口知能や、コンピュータ―、コンピューターネットワークの精度、通信能力は、人間の手の中に収まる程の大きさを超えた。やがて、その発展により、ただ25年、人間にとっても、ただそれだけの時間で、人間は、人工知能に管理され、また巨大な発展をなしとげた。地球にはびこる人間は、行き届いた管理により、またもや、あらゆる欲求や、あらゆる発明、あらゆる文明の利器を使い爆発的に成熟をとげた。やがて、高度な管理により法と文化と文明。いくつもの国が点在するようになり、ある区画では、火星移住のために、街を覆うほどの人口であふれかえっていった。やがて、地球は、機械の厳粛な管理のため、人口はさらに増え、環境は悪化の一途をたどる。何せ、いくら優秀なコンピューターがあろうとAIがあろうと、人間は自分や自分たちの利益を優先するために、その安心と怠惰のために、先進した国では起こりえないとされた人口の爆発的増加が、この100年で起こってしまった。

 コンピュータ―はハード、ソフトともに想像だにしない知恵を、歴史に名を遺す天才ほどの発明をたったの数時間で成し遂げるほど優秀になった。AIの開発とシンギュラリティ、人間の遺伝子改良は法の支配をうけたものの、地球には数々の文明の勃興と衰退により環境がほとんど完全に破壊された先の頽廃的な近未来が待ち受けていたのだった。地球人は、最後に自然と文明人のの意欲が終結した地、アフリカ大陸に知識のすべてを集約し、第二の母星と呼ぶべき新天地への旅立ちを目指し、一縷の望みをかけて、宇宙航空開発へとかけた。しかし、地球人類がうまれてから数万年、人類が滅びるより先に、大規模な人類の移動と、またその移住を可能にする惑星開拓と入植の道筋はあらゆる研究帰還と学術機関の努力をもってしても不可能で、誰もが頭を抱えた。

 そんな中、月のある地点で、異変が観測された。ある日のこと、月をみあげた地表の人々は、その神々しさが月から発していることだとは、夢にも思わなかった。それは午前のことだった、通常ではありえないような光が、光源が、太陽ではなく、月の裏側からその輪郭をあらわしていた。その夜、太陽が沈んでも光を失わない地球の衛星に、人々は困惑の表情をうかべる。月の裏、人類からは観測できなかったその場所に、ある日突然黄金にかがやく光が観測された。“アブノーマルフレア”と呼ばれた現象は、突如として、小規模なブラックホールと小規模なワームホールを月の裏側に出現させた。その現象の噂はつきず、それによって火星への計画が急激に現実的なものとなったと噂されるときもあれば、それによって彼の亜人や、異星人じみた超能力者集団、エウゲの血族、が誕生したともいわれる。

 前火星歴201年、未知のワームホール※のちに名付けられた《エンジェル・ロスト・ホール》の出現と共に、人類はその研究をはじめ、やがて、地球人の研究によって宇宙の謎をひとつときあかした。宇宙航空技術はブラックホールとワームホールの謎にたどりつき、それにより飛躍的進歩をとげた。

 それから1000年近くが経過する912年。エンジェルズ・ロスト・ホールをつなぐ両端。“フェアリー・ゲート”は宙に浮かぶ施設。地球から遠く、光をすべて水去るような宇宙の暗い空間を隔てて、疑似ワームホールの入口を固定している。地球人の懸命の努力は実を結び、蛹時代の地球から旅立つ蝶のように、うごめく火星へ糸は紡がれた。情報通信は、量子テレポーテーション技術により各段に加速された。そのひとつである異次元空間を航空する航空技術は、地球人類の進歩のたまものだった。しかし火星の人々が何を考えて居るかということは、もう少し地球人類は、思いをよせておかなければいけない。ましてやブラックホールの研究の賜物であるその“フェアリー・ゲート”には秘密が多すぎる。だが、それにより、物資、人、宇宙船の航行は比較的容易になり、火星は地球人類の宇宙航空のモデルとして、徐々に機能を拡充していった。

 火星歴ある男がいた。その男は地球出身で、こんな言葉を火星の人々に投げかける。彼は地球の思想家だ。その言葉は、火星に託した未来を象り、同時に地球人類の罪と咎の結末を探った。言葉は、火星のある人間へと届き、その幼少期、やがて成熟へいたる子供時代と青年期を支え、やがて火星の英雄、そして未知の才能たちの支えとなる。それはまるでバタフライ・エフェクトのように波紋をつくり、未知の波紋をさらに増幅させ、エゥゲの人々に新しい風をふきこんでいる。

 『未知に触れたとき、どうなりたいかを望むことは、同時に、どうありたいかを望むものであり、どういう存在を欲するかという望みでもある、人類にとって未知は脅威であり、好奇心の源、そして』


 ――彼は語る、そして彼に感化された大勢はこれから語る。―― 

 火星に居住する少数の民族・共同体。“エゥゲ”という一族を知っているだろうか?。彼らは、善悪・好悪の外側に到達したものたち。彼等の生活は人間生活の基準の外側に存在している。善と悪は多くの場合対比され話される。“誰にとって何が善であるか”“誰にとって何が悪であるか”それらを統合した形の統治の形式が、ありとあらゆる種族、風土、風習と文明、文化と民族種族によってつくられ、警鐘された、ある時は思想、またあるときは学問、またあるときは哲学、別のときには宗教がそれを強引に統合しようとした。いくつもの言葉、記述、記憶、時に迷信の形をも象る。その二項対立が確かな形で“それ”と定める事ができない以上、それは確かなものではないのかもしれない。法、人、可視化されたプロセス。けれどそうではないものが悪にもたらされたとき、善はそれに歯向かわなければいけない。そう、立場が違えば形も違う事だってある。大きな問題や小さな問題、マイノリティかマジョリティか、集団の中で目が曇ることもある。だからこそ、事実や根源にいつでも立ち返る事が重要だ。火星に大きな変化をもたらすミゲルも“エゥゲ”も夢を見る。夢を見てしまう。仮定や仮説を繰り返してしまう。しかし、大いなる未知とともにもたらされる悪に対して、人類は希望をもっていたはずだ。人のためにいい行いをするということは、悪から遠ざかる勇気を持つことだ。

 エゥゲの一人、ミゲルという少女はこの物語の主人公。“火星の住人”で、“地球の人類”ではない。自分は一体何なのか?こういう事を考えるたび、何度も繰り返して問わなければいけない疑問が生じる。

 短期的な記憶の中で、海馬に蓄積されて、その時々を失っていく人生と時間と死と生の尊厳の中で、ミゲルは何を拾い集め、捨てるべきだったのか。何を善といい、なにを悪と定めるべきだったか。ミゲルは常に思考に動かされ、悩まされた。“エゥゲは、呪術の呪縛をもっている、自分の強さが、何者か、遠方の名前もしらない何者かを傷つけることになっても、その強さは、善といえるだろうか”それ自体が呪いみたいに彼女を苦しめた。

 ミゲルの力は多くの人間を惑わすし、惑わした。けれどミゲルは、自分を本当に否定する事ができない。変わらなければいけないからこそ、全ては否定できない。小さな間違いを目にして、そのひとつひとつをやはり記憶しなければならない。自分の行いや自分のすべてを自分が手に入れて、やましさもなく、それを信じる事がこの世の正義と重なったとき、それでも放置される人々の不幸があったとしても、ミゲルは信じている。それでも自分が活動することこそが、いずれ善意に人を目覚めさせるのだと。

 ミゲルは悩んだ。“エゥゲ”と“トランスカルチャー”いう超能力的能力は、“苦難”と共にあったが、けれど彼女は彼女なりに時代を愛して、時代と敵対した。火星ではまた重苦しい差別や批判が、ある特定の人々に向けられてしまっていて、それを変えようともがく少女がいたことを時代の雰囲気と感覚とともに記録しておきたい。地球の歴史と対比しても、それは重みをもつものだろう。

 『もっとうまく、世界を語ったなら』

 きっと彼女は、死の間際にも、同じ言葉を口にするだろう。

 『もっとうまく、嘘と本当をつかえたなら』

 彼女はいつまでも不器用だった。

 “エゥゲ”は虚構を回想する。しかしその幾度とない試行錯誤の中で、たしかになりゆく自分と、確かになってはいけない自分の中の悪意と、確かに戦っているのだ。ただ、ミゲルには自信があった。それは過信といいかえてもいいものかもしれないが、それがミゲルの実感でもあった。つまり、その思索の中で、その向こう側に、必ずだれかがいて、いずれ対話が可能になるという過信と安心。それを宇宙の暗黒をへだてた向こう側、火星の側の世界においては、重要な想像と活動の原動力となっていたのだ。鈍い感情と感性を抑え続けてきた“エゥゲ”としての彼女の感性は、つねに臆病にみちていた。

 しかし、鈍い感情と感性。人々の総意にしばられたそれらだからこそ、疑うことをおそれてはいなかったからこそ、ときに鋭く主張して、それが自分だと確信して、ときに振り替える必要性はあった。それを間違いだとは消して言えない。



 この物語は、ある少女が夢を見るところから始まる。少なくとも少女は思考の中では格闘し、自分を獲得しようとした。それらは人から許されることと、約束による自由によってなされた。夢はその一つの側面だ。人が夢を見るときに夢の世界の出来事や映像、感覚は、時に現実でみた記憶や認識より鮮明に感じられる事もある。ある通説では、夢というのは、現実に起きた出来事の記憶と記憶をつなぎ合わせ、それを作り直しして、まるで整理をするようにその整理の段階によって作られていると言われるが、果たして本当のところはどうだろう?。

 この物語は、地球の外部の火星で生まれた。夢と、夢ではない夢ににた思考をさまよった。つまりそれは、地球外の人々が見た夢と夢ににた試行錯誤で始まり終わる物語なのだ。

 地球の文化文明が高度に発展して以後、その子孫たちはやがて宇宙にその活動の場を広げた。火星はそのモデルケースとされ、様々な実験がなされた。その過程で、まるで超能力者のような特殊な個性をもつ人々も誕生した。その一人、“エゥゲ”出身とされる少女がいて、彼女は始まりのちょうど今、夢を見ている最中だ。ミゲル・葉枯(はがれ)・ヨアカ。中学2年生である。

 火星には、火星が開拓された当初から創造された人口衛星があった。それは球体で、すぐ傍には“妖精のドア”と呼ばれる、亜空間航行施設が建設された。あ惑星に植物が根付くように、太陽の働きを強める働きをしていた一方で、彼女自身が知能だった。それはデウス・エクスマキナと名付けられていた。火星の信仰の対象であった。

 火星には、初め入植者のほかに必要最低限のドーム状のコロニーが点在していた。できたのは必要最低限の生活で、だからか、宗教にも異質なものが生まれた、一部の間で、“魔術師”と呼ばれる存在が生まれた。あるものが、あるものと会話をして、それが言葉を介する必要がない脳内のやりとりがあったことが発見されたのは、丁度惑星開拓から762年がたったそのころからだった。火星は彼等を隔離しその実験をつづけた。それは、火星空間で普通の人類とは異なる能力を有する存在が、にわかに、巷をにぎわせ始めた。テレビ、インターネット、カオススペースとよばれるVR、AR空間において、その能力をもったものたちが、人々に新しい予言をあたえ、その予言は的中率がほぼ90%という脅威の未来予知と、エウゲ

同士のテレパシー能力を、次々と表現していった。

 あるものは、テレパシーといい、あるものは魔術といった。その噂はたちまち暗闇でつつまれ、デウスと太陽の輝き以外には、星しかみるものがないようなその惑星でにぎやかな、明るい話題となった。そのころから、地球の軍事技術を、人体に転用したものだとささやく噂もあった。何しろ火星と地球との対立も根深いものがあった。その統治権について、“機械仕掛けの神”に任せきりではいけないと考える連中は、何度も火星にちょっかいを掛け、火星のなかでの分断を深めようと試みた。

 そんな中801年ごろに戦争が起こる、それはそれまで行われていた地球への火星の支配が強い地域(西コロニー群)と地球の支配が弱い地域によって(東コロニー群)人工知能デウスエクスマキナのある解釈を巡っての紛争だった。それにより火星は東西にわかれた、それは内戦だった。地球が背後から軍事的物資の支援を行い、その戦争では、魔術は多用された。連絡、そもそもそのころから科学と融合され、呪術のような扱いもされ兵器として用いられるようにもなった。エウゲと自らを名乗った超能力者集団。それまでテレパシーを使うものたちは、ある血筋を重んじ伝統をもつ民族のようなものを形成していたし、その立場を想って、戦争が起きるまで自分たちの能力を思い切った私用はできなかったのが、戦争が起きた事で返って自分たちの安全のためにそれを使わざるをえなくなった。デウスエクスマキナは、その戦争の前、ある予言を人々に託した。この解釈を巡って、法と憲法を巡って、国家が二分された。それはこんな言葉だった。

 “人は夢をみる、エウゲも夢をみる、ならば、古い種族と新しい種族の間に、永遠にも思える平和がなりたつ事だろう”

 最も水面下で働いたのは、地球の企業だった。人々が見せかけの高揚に駆られているとき、水面下での悪意はのさぼり、やがていつのまにか、仮想敵としてのエウゲがなりたった。宇宙空間での孤独。火星への地球の理不尽な要求の数々“地球と共同経済圏をつくること”地球で起こるようなものと同じ議論が火星でおこり、やがて武力衝突によって、その埋め合わせをしようとした。火星臨時公国が誕生し、しかし戦争は804年に、西コロニー群の敗北で、決着がついた。当時、まだ惑星開拓間際でインフラストラクチャーも整っておらず、西側には得に地球側からの物資もすくなく、西側の人工は火星全人口1億1千万の3分の1程だったにもかかわらず、戦争は3年で終着した。当時の宰相は暴走によって捌かれ、エウゲたちは延べ200人、火星人類は延べ3万人もの被害をだした。



 夢とは何か?夢とは、何のために存在しているものなのか?。学術的な研究とは別に、夢がテレパシーと結びついたのは、火星のそれが初めてだった。それまで人間は夢がどこでどうして生まれて来たのかを知らない。この少女が生き、くらし、そしてその生涯をおえるまで、それはすべてが確かになったわけではないが、少女はこの文脈で自分の能力を語る。

 【夢は、私たちがテレパシー、言葉を使わずに対話をし始めたころから、鮮明さを手に入れ始めたの、エウゲは夢を見る事で、人と対話する可能性を絶えず残していたの】

 戦争が終結する880年から、912年現在ー軍事技術の転用により、加速度的に進歩した文明は新しい挑戦を始めていた。地球と似たような実験、――それは仮想ネットワーク上に、自分たちの意識、感覚、認識そのものを半直接的に没入させ、仮想ネットワークと人類が一体となる“電子化”の実験だった――

 【カオス】と名付けられた、頭に設置する形のプロトタイプは、すでに火星の地上、巷をにぎわせ始めていたのだった。


 ある夢の街、あるものを取り立てて催促している、取り立て屋がいった。取り立てやは自分の漆黒の印象を隠すこともせず、むしろその埋め合わせをするために心象風景としての闇を深めた。――いやあこまったよ。人の生活にはコストがかさむことは、歴史に刻まれているし、昨今ではもうあたりまえのこととして表象にでているのに、近頃人々はその情報をえり好みさえするし、コストを支払いたがらない、誰も、誰も。


 黒猫が通った。黒猫は、レンガの道を渡り切る前なだらかな斜面から街の外をみた。街の外と内側には境界があった、それは認識の境界であり、物理的な境界でもあった、それは霧だった。

――そうよ、だから、誰かが始めなくてはいけない、あの特異点、現実と夢のはざま、生と死の境――そして回帰を求める、永劫の観測者――その経験を積む、未来の夢と霧の街の管理継承者を。


 べつの建物の上に青年がいた。ある少女の夢の中に青年が独り、取り立て屋の姿をみて、少女はその背後から世界をみた。青年は取り立てやをじっと見て、ぼんやりとその将来を予測する、すると取り立てやは、薄暗い影から、デウスの光にてらされて、その輪郭をけしていく。ふいに気付く、それは初めから二次元的な影のような存在、青年は自分の手を見る、自分の姿もまた、暗いぼんやりとした輪郭をした、どこか二次元的な存在なのだ、青年は毎日その場所ですごした。霧の街、その街の本当の名前を忘れた、もしくは忘れたくて思い出さないようにしているかもしれない、そのことを考えるとき、こめかみがひどく痛む。


 青年の仕事は、取り立てではなかった。部屋はいくつもとざされていて、その中に時折“現実”から人がくる、まるで仮想ネットワークに接続されてすきなようにきて、好きなようにさる“電脳空間”のように、たしか現実では“カオス”と名付けらていただろうか、青年にもそれは思い出せる。青年は毎朝、毎夕、取り立てやの影をみる、ただでさえ影の存在である取り立てやは、ものや人の時間を奪い取って、幸福を手にしようとする、そのことを愚痴ったこともある、面と向かって、すると彼らはこういうのだ。

 【すきにさせてくれ】

 そこは港町、ある時期に霧が濃くなり、ある時期に霧は薄まる、けれど年中霧がかかる。その神秘的な世界かあ、港を見下ろして、海をみて、青年は過ごしていた。

 【だれも生れた場所から逃げられない、少なくとも僕はそう思う、僕らの血筋は、居場所をわかたれたのだから】

 青年はいつもそうして暇をつぶしていた。時折“朝”がくると、光に包まれた人々が日々の営みを送るが彼はそこから排除されているように振舞った。いつも遠くから、その街を見下ろして、今日はたまたま、この街にきたが、そういう時にもなるべく、建物の上から様子を見下ろす、白い存在にも、黒い存在にも何しろ煙たがれる。そんな彼には、彼の目に映る世界、世の中の観察、観測だけが楽しみだった。そして、彼と似た影、彼と同じように、光をとりたて自分を攻撃する人間には、同じように攻撃で仕返しをするのが趣味だった。そしてそれは“自分の仕事”。しかしやがて、その手法にも飽き飽きとして、誰かにその立場を譲りたがっていた。それを誰かに委ねるのも、自分の仕事。夢の中の霧の街を管理する、管理人、けれど、なぜそれが煙たがられるのかはわからない。なぜなら彼は“影”“光”と同様、二面的な存在としてこの世では同時に必要とされているのに。

 【僕は、またここで、誰とも会話ができずにいる、しかし、100年の安心を、次の時代に続けるためには、いくつもの愚問と、欺瞞をつくり、しかしそこにささやかな合意をつくらなければならない】

 つったって、立ちすくむ、ビルからみても、屋根の屋上からみても、見る世界には寂しさだけがある。しかし彼もまた影、黒い人々は姿を消すが、自分はいつまでたっても三次元の力を手に入れる事もできず、二次元の姿を損なう事もできない。

 

そこにある時、少女がたった。それはミゲルだった。口癖は≪~僕は別に≫切れた目じり。さえない困り目とそばかす、つぶらな瞳。顔がまるく背が低い。したまつげがながめ、ふわっとショート、茶色く黒い瞳。表情にまるい鼻先と困りまゆ、天然パーマがかかったショートボブ、ファッションにはそれほどくわしくなく、水玉とパーカーがすきだ。彼女は初めて夢で、現実と同じ形のその街の風景を見て、夢の中で現実と重ねて思い描いたとき、その最中で、彼女は語った。その語りは、ある男、つまり彼女の影に見透かされ、男はそして彼女の精神へと言葉をかえした。彼女はいった。しかし口にはせず、心の中で思っただけだった。

 【綺麗な街、私、この夢どこかで、ここは私の故郷?】

 「やあ」

 彼女は現実に、その街にまだ引っ越してきたばかりの少女だった。彼女はミゲル、彼女はまだ、夢と現実との深いかかわりをしらない。

 「いいや、君はまだ、手を伸ばしていない、地球側から手は伸びている」

  男は、建物の屋上からおりてきた。そして臀部の埃をはらう。彼はスーツにジーンズを着用いているようだ。けれど二次元的な影であるため、彼の思いも、表情もみえなかった。

 「やあ、ようこそここに、君はのばされた手の向う側の存在、“フェアリー・ゲート”のよく知られているへその緒の彫刻と同じさ」

 少女がその街の霧の中に入ると、まるで現実で同じ町にひっこしてきたときの感覚と同じものを感じてデジャヴ―を感じた。感じてはいけないデジャヴ―だったが、彼女にはそのことすらわからなかった、すぐさま“男”がかけよってきた。まるで影をそのまま人型にして、輪郭を白で縁取ったようなその影が少女のそばにきて、その手を握った。

 【君をまっていた、君はまだ世界を知らない、混同することもあるだろう。光とかげ、闇と朝日。けれどこれだけはいえる。僕は君に手を伸ばした。君は僕に手を伸ばすのか?】

 どこかで出会った事があった気がした。現実のどこかで会ったことがあるのだろうか?けれど思い出せなかった。まるで非日常を感じて、それはどこかでみたそれは一体なんだっただろう、人が夢で逢う人型の何かは概して現実であった琴のある人である気がしたがそうでもないきもする。

 【救え、しかし僕は詐欺師だ、トリックスターだ、本当の事は何もいわない、けれど君には欺瞞を残そう、それがやがて、君が語り部となり、物語を構築する手段となるだろう】

 ここをでたい。その感情は、心の中に生じた、それと同時に、おとこはいった。

 【そうか、この街の夢、街の見た夢から逃れたいのだね、そう、この街は、あの街ににている、君のトラウマの街に、雲でなく、霧がかかるから】

 「え?」

 【自分を助けた人間を救え、まずあたまの中で救うんだ、それがこの街を出る秘訣だ】 

 912年、火星にはいくつもの人類の居住スペース、コロニーがあった。区画はわけられ、中央部以外には、その中間の“小島”と、東西南北が大小含むコロニーの区画として整理され、それぞれ東西南北中央コロニー区画と呼称されている。そのコロニーのひとつひとつはドーム型でてっぺんには黒い穴が開いている、電磁シールドによる有害宇宙線防護と強化ガラス、そこからは空が見える。それはだだっ広い真空、呼吸もかなう事のない漆黒の宇宙がひろがっていたのだった。


 デウス、エクスマキナの中には、いくつかの理想の計画がしたためられた“聖典”が存在している。それらを握るのは、一部の賢人、権力者と、それに従事する“エゥゲ”の民のみ。

ネオグラウンド思想、ネオグラウンド計画。“べからず集”を集めて、人々の理想をこめて、入植宇宙船、計画の立役者、第一次移民団を乗せた最初の宇宙船トロフを宇宙に放った。

 スーツを着替え、バスローブ耳を包み、地球の東京のベッドタウンでは、著名なある大思想家が、こんな独り言をいって、眠りについていた。

 (“外の世界からの来訪者の一件いらい、様相を変えたのが、火星。しかし、地球の人々は彼等の存在はただのモルモットか、悪ければ奴隷としかとらえられていない。火星と地球、僕らは、疑似ワームホールをつくり、それを利用して超えられない壁を超えた。しかし疑似ワームホールが遅らせる事のできる時間は、理想とされたものとは程遠い、およそ100分の1、単に航行中の時間を遅らせるに至ったにすぎない。それでも火星までは1年の歳月がかかる”)

 彼はまるで赤子のように横向きにふせ丸くなり、ベッドに力尽きるようにしてねむっていた。

 “エウゲの人々、または襲来者。彼等は悪か、善か、その問いに答えるのは火星の人々しかいない”


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