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06 ざまぁ。




 ジャックザに使える魔法と召喚魔について少し聞かれたあと、ギルドに依頼達成を報告しに行くために腰を上げる。ジャックザは、そのままついてきた。このまま、同行するつもりだろうか。


「オレが報告と換金してやるよ」


 なんて、ギルドにつくと言い出した。

 受付は結構並んでいたので、任せることにして、私は掲示板に貼り出してある依頼書を見ることにする。

 ラクシスと相談して、次の仕事を選ぼうとした。

 ふと、鼻を刺激する草の臭いが届く。これは毒消し草の臭い。

 横を見れば、なんともボロボロになった勇者パーティーがいた。


「「「はぁ……」」」


 筆頭は、ハーレム勇者のアキヒロ。

 どちらかと言えば可愛いという印象を抱く顔立ちの少年が、疲れた表情で俯いていた。

 右隣には、ツインテールの少女。魔法使いのハンナも、ぐったりした身体を杖で支えていた。

 左隣には、腹出し甲冑。女騎士のブリアナも、肩を落としていた。

 見た目は蝶すら寄ってきそうなのに、周囲を遠避けるほどの草の臭いを放つ。


『この様子。蠍の魔物の討伐に行ったみたいだな』


 なるほど。


『蠍は子連れだったわね』

『十を超える蠍の子達の毒を浴びまくりながら、戦ったってところだろう。治癒士の少女は、毒消しの魔法と怪我の魔法を同時に発動出来なくって苦戦したってところか。結局、魔力が切れて毒消し草を使ったのだろうな』


 安易に予想したラクシス。想像した私は、頷く。

 回復しながら、毒を取り除く。

 そんな同時に魔法発動なんて、出来ないだろう。

 駆け出し同然のモリーナには、特に。

 かと言って、毒消しと治癒の交互を発動する器用さもないだろう。


「勇者パーティーともあろう方々が、とても無様な格好をなさっておりますわね」


 そのモリーナはどこか。尋ねようと思い、話しかけた。

 初めて、私が横にいることを勇者アキヒロ達は気付く。


「る、ルルロッド!?」


 ギョッとしたブリアナが身を引いた。


「アンタ! 無様だって!?」


 ハンナが怒る。


「あ、アンタなんてっ……アンタはなんでここにいるのよ!?」


 言い返そうとしたが、見付からなかったようで、真っ赤になって怒鳴った。


「あなた方と同じ、仕事をしたのですわ。当然でしょう? それすらもわからないのかしら」


 フン、と鼻で笑う。

 ハンナはふるふると震えた。


「ああ、私と違ってとても苦戦なさったから、頭までお疲れなのですね」

「あはは! ソロで仕事したアンタと同じにしないでよ! どうせ、そのカラスが仕留められる弱い魔獣の討伐の仕事で、自分は安全地帯にいたんでしょう?」


 わかった! と嬉しそうに指摘してきたハンナ。

 本当に性格が悪い。

 だから、私は同じ土俵入り、嘲る。


「あら、説明が必要ですの? 私はゴールドプレートの冒険者。もちろん、あなた方と同じランクの魔獣の群れを討伐しましたわ」

「嘘言うな! ゴールドプレートのパーティーの討伐仕事を、ギルドがソロでやらせるわけないだろう!?」


 ブリアナが怒鳴った。


「私は一人ではないですわ。召喚士のルルロッドですもの。ちゃんとシルバーライオンの群れの討伐をしましたわ、私の従魔とエゼキエルが」

『まぁ、ぶっちゃけ騙して仕事を受け取ったようなもんだよな』


 ラクシスは余計なこと言わない。聞こえてないけど。


「ルルロッドー。お待たせ。ゴールドランクの報酬」


 そこでやってきたのは、ジャックザ。

 金貨が詰めてあるであろう布袋を渡された。

 その重さを右手で確認して、ラクシスの目の前に差し出す。これは、ラクシスに持ってもらう。ラクシスは、パクリと収納してくれた。


「お待たせしましたぁ……え?」


 治癒士の美女に見えるモリーナが、布袋を同じく持ってやってくる。

 私がいることに戸惑いを隠せないでいた。

 なんだ。ジャックザが換金していたように、モリーナも換金をしていたのか。


「何? 知り合い?」


 ジャックザは私の腰に腕を回して、私の頭の上に顎を乗せた。

 べったりしないでくれないかしら。

 ふと、気付く。ハンナもブリアナも、ジャックザの容姿に見惚れている。

 吸血鬼は、異性を魅了しやすい。ただでさえ美形だもの。


「な、何よっ! 追放されたからって早速、男を作ったの!? 流石、婚約破棄された令嬢! ふしだらだったんだ!?」


 妬みを含めて、ハンナがふしだら呼ばわりをした。

 ジャックザがべったりするからだ。


「バカなの? 彼は……」

「ふーん」


 吸血鬼であり、私の従魔だということを話そうとしたが。

 先に寒気に襲われて身震いした。

 冷たい声を出したのは、ジャックザ。


「こいつらが、ルルロッドを無能呼ばわりして追放した勇者パーティーなわけ?」


 ギルドの中の気温が、急激に下がる。吐く息が白くなるほどだ。

 それはジャックザの魔力が、発している冷気によるもの。

 それから殺気だろう。

 ぶるっ、とハンナが震えて杖を握り締めた。モリーナは後退り。

 勇者アキヒロとブリアナが、剣の柄を握る。


「なんだよ? やんのか?」


 それを敵対を見なした。

 にやりと笑みを吊り上げたジャックザが、刃先を向けるその前に。


「やめなさい。ジャックザ」

「……ちぇ」


 一声かければ、ジャックザは殺気を放つことをやめた。

 しかし、露出した肌がまだ寒い。


「彼は上位吸血鬼で私の従魔」

「なっ!? 上位吸血鬼を使役してるだと!?」


 驚きの声を上げたのは、周囲で見物していた冒険者達だ。

 ジャックザが冷気付き殺気を放つから、注目の的。それでなくても長身で美形な仮面ってだけで、視線を集めるのに。ギルドに吸血鬼を連れ込んだとバレたでしょう。

 あ、私が明かしたのだった。出禁にならないといいけれど。


「スライムと魔法を使えるカラスだけじゃなかったの!?」

「上位吸血鬼を従魔にしている……つまり、それほどの実力がルルロッドさんにあるということですか……!」


 ハンナとモリーナが驚く。

 言うまでもないでしょう。実力を認められているのだ。

 だからこそ、私の従魔になっている。


「お前ら、オレの主ルルロッドを無能呼ばわりして、その上追放したらしいじゃん? わかってんの? 勇者。上位吸血鬼どころか、最強の幻獣を従えている有能な召喚士を手放して、この先上手く行くと思ってないよな」

「さ、最強の幻獣!? なんのことを……!」

「うっせーよ、チビ。黙んねーと舌切り落とすぞ」

「!!」


 ジャックザが、勇者アキヒロに言う。

 最強の幻獣は、私の肩にいるエゼキエルのことだが、誰も知らないだろう。

 だからハンナが問おうとしたが、ジャックザは冷たく黙らせた。


「まぁ。今日だけで、ルルロッドが抜けたパーティーでの仕事を苦戦したようだし? 思い知ったと思うけど」

「……」


 ジャックザは、ボロボロの勇者アキヒロ達を見て、察したようだ。

 私が抜けた途端に苦戦を強いられたことを。

 勇者アキヒロは、後ろめたそうな目を向けてくる。


「ルルロッド……あの、ごめん」


 勇者アキヒロが、謝罪を口にした。

 続く言葉を待ったが、ジャックザが遮る。


「まっ! 今更謝っても、戻ってやんねーけどな!」


 どんっと言い放つ。

 ジャックザもなかなかの性格をしている、と思う。

 ハンナ達は真っ赤になった。勇者アキヒロに謝罪の言葉を出させておきながら、突き放したのだ。しかし、相手が相手だけに、何も言えず、私を睨む付ける。


「あなた方はまだ未熟。だからこそ、私はあなた方の成長のために、身を引いて助言とフォローをしていたまでのこと。それを鬱陶しく思い、無能呼ばわりをしたあなた方が謝罪したところで、戻るわけがないでしょう? 私は確認したはず。本当にこの私達が抜けてもいいのか、と。助けられていたことすらわからなかったあなた方をこれ以上面倒見ていられませんわ」


 私はジャックザの言う通りだと、説明を付け加えた。

 周りはざわざわし出す。

「あんな有能な召喚士を勇者が追放しただと?」と一部、声が聞き取れた。

「勇者パーティーはバカなのか?」という声まである。

 当然、本人達は周りの声が聞こえているし、今の私の言葉で恥をかいた。

 赤っ恥とはこのこと。


「もう夜だぜ? ルルロッド、行こう」

「そうね。では最後に、一言だけ」


 ジャックザが手を引くから、私は歩き出す。

 とびっきりの笑顔で、私は最後であろう言葉を贈る。


「ーーーーざまぁ!!!」


 ギョッとした勇者アキヒロの顔は、この上なく傑作。

 私もジャックザもご機嫌で、小さな宿に向かった。



 

20191019

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