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03 婚約破棄と決意。




 いきなりのことで、頭が破裂してしまいそうだ。

 今までのことを順番に整理しつつ、額を押さえた。


「ルルロッド? 頭が痛いの? 大丈夫?」

「ちょっと! アキヒロ様の気を引かないでくれる!?」

「そういう演技は効かないから」

「最後まで図々しいですわよ」


 勇者アキヒロが腰を上げるも、左右のハンナとモリーナが腕をひしっと掴む。後ろのブリアナも、肩に手を置いて、勇者アキヒロを座らせた。

 勇者アキヒロは、いつもの困り顔になる。下心はなさそうだけれど、拒むことはしない。かと言って誰か一人を選ぶようなこともしない。手付かずのハーレム勇者。

 今のチヤホヤが、いいのだろう。

 軽蔑はしない。だって私が逆の立場だったら、現状維持をしたいもの。逆ハーレムものも、好きだったのだ。チヤホヤいいじゃん。夢がある。

 いや性格が悪い女子ばかりだから、やっぱり現状維持したい気持ちはないな。

 童貞だから何も出来ないっていう理由があるのかもしれない。そんなど……いや、勇者アキヒロに好意があるふりを見せるのは、社交界で笑みを振り撒くこととあまり変わらなかった。

 勇者一行の中で、私ほど彼を支えていた者はいない。

 厳密に言うと、私の左肩のスライムが、だけれども。


「……パーティーを追放、でいいんですわね?」


 ようやく落ち着いてくれた頭で、確認をする。


「何度だって言ってやるよ! 無能だから追放だ!」


 ブリアナが、強めに声を投げ付けてきた。


「はんっ! 無能ですって?」


 私は二つに束ねた一方の漆黒の髪を後ろに払いのける。

 ついでに右肩のカラスをひと撫でした。


「このルルロッド・ノックス・ラピスラズリに向かって、無礼ですわよ!」

『そうだそうだ!』

『言ってやれ』


 残念ながら、スライムとカラスの発言は、勇者一行に届いていない。


「無能を無能と言って何が悪いのぉ?」

「最弱のスライムと、少し魔法が使えるだけのカラスを使役してるだけじゃん」

「あなたが役に立っているのは、資金面だけですわ」

「ちょっと、皆っ」


 攻撃の言葉を返す三人を、勇者アキヒロは宥めようとする。


「ふん、私達の力量も測れないのでは、先が思いやられますわ。追放ですって? こちらから抜けてさしあげます。打倒魔王なんて夢の夢でしょうが、せいぜい頑張って足掻いてくださいませ」


 私は皮肉たっぷりの口調で言い放つ。


「は? バカか! あたし達が追放したんだってーの!」

「虚勢もいい加減にしてください」


 ブリアナもモリーナも、わかっていない。

 やれやれと首を振る。


「最後に確認しますわ。本当にが抜けてもいいのですね?」


 私は“召喚士であるこの私”が抜けてもいいのか、勇者アキヒロに最終確認をした。


「え……ごめん、もう皆で決めたことなんだ……」

「……はぁ」


 勇者アキヒロも、わかっていない。

 結局、この子は臆病なのだ。好意的な女子達に嫌われたくないという思考が無意識に働き、多数意見に身を任せた。

 全くもってわかっていない。


「それでは、資金援助はここで打ち切り。もう贅沢は出来ませんわよ」

「そんな脅しは聞きませんーよーだ」

「冒険者業で稼ぐことは楽ですわ」


 念のために言っておくけれど、断じて脅しとかではない。

 釘を刺しただけである。

 そもそも、ここも私の父のお金で借りた高級宿の最上階の部屋。

 力ある伯爵家の資金援助があるからって、使いすぎである。


「ふっ……」


 耐えきれず、嘲笑を零してしまうが、上手く手で隠せた。


「せいぜい頑張ってくださいませ、勇者一行の皆様? さようなら」


 何か言われた気がするけれど、ドアを閉じたあとだ。

 笑い声も聞こえる。気にせずに宿をあとにした。

 私が向かうのは、その街にある教会だ。


『ルルロッドよ。何故言ってやらなかったのだ?』

『そうだ、我が主。奴らを全員八つ裂きにしてやればよかったものを』

『これでは半年前の婚約破棄の時と同じではないか。お主が不憫で仕方ない』


 スライムが、ぷるんぷるんと右肩で震える。

 カラスが、すりすりと左頬に頬擦りしてきた。


「婚約破棄、ね……」


 遠い目をしてしまう。

 まだ半年と言うべきか、もう半年と言うべきなのか。


「しょうがないわ。……所詮、婚約破棄をされた令嬢は不憫だもの」


 自嘲の笑みが出てしまう。


『ルルロッドよ……あの時も力になれず、すまない』

「いいのよ、ラクシス」


 スライムことラクシスを、私は撫でた。

 半年前、婚約が決まっていたアルバート公爵家のアルジオ様に婚約破棄を言い渡された時、スライムことラクシスもいたのだ。

 アルジオ様に恋心を抱いていた子爵令嬢のオペリア様に「これ以上、婚約者のアルジオ様に近付かないでくださります?」と牽制しておいた。私がしたのはそのくらいだ。

 しかし、オペリア様はアルジオ様に近付き続けた。

 痺れを切らしたのは、私の取り巻き令嬢達だ。

 オペリア様の取り巻きと直接対決をした。魔法でぶつかりあったのだ。

 私はその場にいなかったが、学園始まって以来の大惨事。器物破損はもちろん、怪我人も出た。

 あとから騒ぎを駆け付けた私は、頭を抱えたものだ。

 続いて、アルジオ様や教師の面々が来た。

 当然のように、私も参加したとみなされてしまい、主犯格として責任を負わされ退学処罰が下ったのだ。

 参加していなかったなんて、聞いてもらえる状況ではなかった。

 私ルルロッド軍とオペリア軍の衝突。私がいない方がおかしいという決め付けからの見解。

 幼い頃から常にそばにいたラクシスが証言してくれたが、最弱のスライムで従魔の言うことは聞き入れてもらえなかったし、私はそんな教師の面々に嫌気がさして取り巻き令嬢達を庇うことにしたのだ。

 その場で、アルジオ様に婚約破棄を言い渡されるとは、思いもしなかった。

 オペリア様が、ボロボロで気の毒に思ったのだろう。駆け寄って治癒魔法をかけてあげてから、アルジオ様が私を見て婚約破棄した。


 ーーこんな君とは結婚出来ない。婚約破棄だ。


 まさに生前、楽しんで読んでいた悪役令嬢のようだったと、あの時を振り返る。

 そんなことなら、私も参加すればよかった。学園崩壊くらい、やっちゃえばよかったわ。

 その後、オペリア様とアルジオ様がどうなったかは知らない。知る必要はないだろう。

 迷惑をかけてしまった家族には事情を説明して、ひたすら謝った。家族、特に父は信じてくれたのだ。学園を潰すと言い出したから、止めておいたけれども。

 取り巻き令嬢達が家に押しかけて謝ってくれたが、父は許さないと追い返した。

 そんな父が、ちょうど召喚された勇者のパーティーに私を加えてほしいと、国王陛下に頼み込んだ。資金援助を条件に。

 名誉挽回のためだった。

 私の才能をフル活用して、打倒魔王の旅に貢献。


「お母様とお父様には申し訳ないわね……」

『どうするのだ?』

「手紙を送る。その前に、教会で神様と話すわ。エゼキエル、外で待っていてくれるかしら」

『わかった』


 ラクシスと話したあと、カラスことエゼキエルには外に待機してもらうことにした。教会に到着したのだ。

 大きな街の教会とだけあって、結構広々としている。

 利用者もそこそこいたけれど、私は創造の神シヴァミネ様の像が飾ってある教壇の前で跪いた。

 私の格好は、オフショルダーの白い前開きワンピースとフルカップタイプのダークブラウン色のコルセットとズボンを合わせたもの。前髪は真ん中分けにサイドに避け、腰まで届く長い漆黒の髪は緩い二つ結びにしている。

 そして、左肩にスライム。従魔くらいは、教会に入れても問題ない。


『神様。シヴァミネ様。十六年前に転生させてもらった者です。今はルルロッドという名です。お応えください、神シヴァミネ様』


 念じるように祈ってみれば、間が空いたあとに返事がくる。


『……やっと、前世を思い出したのですね。お久しぶりです』


 紳士的な口調は、少々沈んだ声に感じた。

 それでも、前世と来世の狭間で会った老人のものだとわかる。


『これはどういうことですかぁああっ!!?』


 全身全霊の祈りを、神様に向かって投げ付けた。


『……。本当に申し訳ないと思っています。実は……生まれた瞬間から前世の記憶があるのは不便だと思い、そのうち思い出すように手を加えたのですが……』

『それが十六年後の今さっきってことなんですか!?』

『もっと早く前世を思い出してもおかしくなかったのですが……申し訳ありません。私の不手際です』

『私、確か洗礼を受けに教会来ましたよね!? その時、何か出来なかったのですか!?』


 この国では五歳に教会で神の洗礼を受けることが常識である。

 逆に言えば、その時にしか教会に足を踏み入れていなかった。


『こうして話す以外に、干渉は出来ないのですよ……』


 本当に申し訳なさそうな声を返す神様。

 その場に蹲ってしまいたくなった。


『もういいです……時間を巻き戻せないのでしょう? もういいです。やり直すことも面倒ですし、もういいです』

『三回言いましたね』


 大きなため息をつく。

 やり直したいほどのことはないのだ。

 アルジオ様に恋愛感情がなければ、執着心もない。

 勇者アキヒロのパーティーも、同じこと。


『……神、シヴァミネ様……私は、今の家族がとても大事です』


 調和のとれた家庭で育ててくれて、愛してくれた両親。

 婚約破棄や学園退学で、家名を傷付けたのに、見限らないでいてくれている家族。心配してくれている母、信じてくれている父。

 名誉挽回のチャンスなのだ。ふいには出来ない。


『私は、私のために、そして愛する家族のために、魔王に挑みます』


 意を決した私の漆黒の瞳には、きっと強い意志が映っている。

 それが神様に見えているかどうかはわからないけれど。


『本気なのですか? あなた一人で、魔王に挑むと? 勇者も連れずに?』

『ええ、そうです。それともなんですか? 加護を与えた私には不可能

とでも言いたいのですか?』

『……』


 神様は何も言わない。言葉を決めかねているのだろうか。


『大丈夫です。私には神様が与えてくれた元賢者の最強のスライム・ラクシスがいます。彼は本当によくしてくれますし、これからもついてきてくれるでしょう』


 そう。あのスライムは賢者なのだ。同じ転生者。

 前世と来世の狭間で神様が話していた転生者だ。

 にんやりと口角を上げる。

 ラクシスが私の家の中庭に現れた時は、こう言っていたのだ。


 ーー君が転生者のルルロッドかい?


 その時は、転生者って何それだった。

 だって、まだ五歳になる前だったのだもの。

 首を傾げる幼い私に仕方なさそうに、召喚魔の契約をしようと持ちかけてきたのだ。


 ーーそばにいてあげるよ。これからずっとね。


 それで初めての従魔になってくれたのだ。

 初めての契約成功に、両親は喜び祝ってくれた。

 それからというもの、ラクシスは色々教えてくれたのだ。

 歴史から魔法まで。やけに賢者ネラ・クシスについて詳しいとは思っていたけれど、本人だったから。


『それにラクシスだけではないです。最強の幻獣のエゼキエルもそばにいますし、他にもたくさんいます。神シヴァミネ様にもらった全能的な魔法能力と身体能力もありますから、正直勇者もそのパーティーも要らないでしょう?』


 そう言葉にすると傲慢だけれど、実のところ思い上がりではないだろう。


『しかし、勇者にも……手柄を与えてはくれないでしょうか?』

『え? なんでですか?』

『その……異世界から召喚された哀れな彼にもチャンスを与えてほしいのです』


 異世界から召喚された哀れな勇者。

 そう言えば、同意の元で召喚され、そして戻れないのだ。

 助けを乞うメッセージを送り、そして承諾したら召喚される。そんな異世界の勇者召喚魔法。ただし元の世界には戻る魔法はない。

 確かに先を越されて魔王を倒されてしまったら、召喚されたことが無意味になってしまうか。

 しかし、哀れな勇者ではない。ハーレムにチヤホヤされている勇者だ。


『私を無能だと思い込み、パーティーから外したのは、彼らの決断です。戻れ、なんて言わないでください』

『……』


 私は冷たい声を返す。

 さっき黙った理由も、それを気にしたのだろう。


『わかりました。健闘を祈ります』


 創造の神に祈られたら、完璧だ。


『ええ、祈っていてください。私、ルルロッド・ノックス・ラピスラズリは、従魔を引き連れて魔王を倒しに行きます』


 ニッと笑みを吊り上げた。



 

20190916

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