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願望
「ねぇ」
少女が発した声は透き通るような美しさと儚さがあった。
「・・・誰ですか?」
私は疑問をそのまま口にしていた。
「さっきまで隣にいたじゃない、もう忘れたの?」
少女の声が頭の中を駆け抜ける。
隣にいた?
私の隣にいたのは黒猫だったのだから疑問に思うのは当たり前だ。
「もしかして・・・黒猫?」
ありえないことを口にしていると自分でもわかっていたが、口にせざるを得なかった。
「そうよ。ねぇ、私と一緒に飛び込まない?」
少女・・・黒猫が何を言っているのか理解できない。
飛び込む・・・?
ここは海だ。
飛び込むといえば海しかないだろう。
「え・・・」
「あなたさっきからずっと友達に会いたがってる。それなら飛び込んでしまえばいいじゃない。」
友達とは悠里のことだろう。
私はもう一度だけでいいから悠里に会いたかった。
しかし叶わないことだとわかっていた。
それなのに少女は「会いに行けばいい」という。
いつの間にか私は少女と共に堤防の端に立ち、海を見つめていた。