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底辺YouTuberの部屋には幽霊がいた!

作者: チャンドラ

 俺は、一週間前にこの部屋に引っ越してきた、渡辺淳わたなべあつし。二十一歳である。

 身長は百七十五センチで、他人から中の上と評される顔立ちである。

 余談だが、ドラゴンボールの孫悟空と同じ身長である。

 もちろんかめはめ波はできない。

 ある夢を追い求め、地方から上京してきた。この部屋を選んだのは、いわゆる『訳あり物件』というところらしく、家賃がべらぼうに安かった。他の部屋が六万円前後なのに対し、この部屋は三万円である。

 なんと半分であった。俺は幽霊なんてものを一ミリも信じていなかった。

 まぁ、異世界に行く方法はあると信じているが。


 なんでも、口コミサイトによると、寝ている時、「うらめしや...」という声が聞こえたり、金縛りにあったり、ポルターガイストが怒るという。


 くだらない。そう俺は、部屋に来たばかりの頃は、そう思っていた。

 しかし、一週間、生活してみて、確かにこの部屋はおかしいと思い始めた。

 寝ている途中、コツコツコツという足音のような音が聞こえたり、元カノからもらったミッキーマウスのぬいぐるみの向きが変わっていたりと不自然なことが起こっていた。


 しかし、俺は気にしないことにした。べつに自分に大きい危害が起きているわけではない。


 俺は、三脚とカメラを取り出し、今日も仕事を始めた。


 俺の仕事はYouTuberである。まだそれだけで食べていけるほど再生回数が多いわけではない。

 良くて一回の動画で、二千回いくかどうかくらいである。


 動画は、商品紹介や、部屋で踊ってみたという類の動画を投稿している。

 いつか、ミリオン達成して、トップYouTuberになりたいと思いながら、バイトをしつつ日々、動画投稿している。

 再生回数が伸びたら、日本で最大のMCN(マルチチャンネルネットワーク)に所属したいと考えている。


 まぁ、そんなことを今考えたところで、取らぬ狸の皮算用なのだが。

 身支度をし、俺はバイトへと向かった。コンビニのバイトをして、今は生計を立てている。

 商品紹介の動画も、コンビニの新商品(主に食料品)を使って紹介している。


「おはよう。」

 俺は、今日シフト一緒の女子大生に挨拶をした。

「淳さん、おはようございます。」

 挨拶を返してきたこの娘は、伊藤彩香いとうあやか。歳は二十歳で大学二年生。歳が近いので、比較的話すことが多い。小柄で可愛らしい容姿をしているため、店のスタッフから人気がある。


 俺は、年上が好みなので、恋愛面で対象には見れないが、話すやすいと思っている。

「淳さん、なんだが眠そうですね。」

「ああ、ちょっとね......」

 昨日の夜に金縛りにあい、金縛りのあってる途中、おもしろしや......という声が聞こえてきたのである。

 なんだろ、おもしろしやって。うらめしやとは全く聞こえなかった。

 さすがの俺も恐怖を感じ、電気をつけて、Youtubeでアンパンマンのマーチを一晩中流しておいた。


 今考えると、歌詞が幽霊を思いっきり煽っている感じがするが。


「何かあったんですか?」

 心配そうな顔をして、彩香が訊いてきた。

「何ていうか......金縛りにあったんだよね。」

「金縛り.....私も経験ありますけど、力ずくで脱出できましたよ。淳さんの金縛りはどんな感じだったんですか?」

 俺が体験して金縛りはそんなレベルではなかった。文字通り身動き一つとることができない。目しか動かすことができないのである。

「そんなレベルじゃないんだ。目しか動かすことができなかった。何か変な声も聞こえてきたし......」

「それじゃ、私が淳さんの家に行って見てきましょうか?」

「え?」

 思いがけない提案に俺は驚いた。

「実は私、霊感あるんですよ。黙ってましたけど。」

「そうなのか? だけど、幽霊見えたところで追い払えるわけじゃないんだろ?」

「それは、幽霊次第ですね。霊力が高い幽霊は無理ですけど、普通より霊力が高い幽霊でしたら、余裕で成仏させられますよ。」

 すごすぎて、唖然となった。霊感があるのは分かるとして、なぜ成仏させることができるのだろうか? 修行でもしているのだろうか? 結界師なのだろうか?

「それは助かるけど、いいのか?」

「何がですか?」

「いや、やっぱなんでもない。」

 彼氏でもない男の家に上がり込むことだが、説明するのがめんどくさかったので、話すのを辞めた。


 明日、俺も彩香も夜にシフトが入ってないため、明日の夜の十二時前に俺の部屋に来てもらうことにした。深夜の方が、幽霊がおでます可能性が高いという。


 帰宅して、梅味のからあげくんの商品レビュー動画をアップロードした後、昨日の動画をチェックしてみるtこにした。再生回数は、九百六十三回だった。まだまだな再生回数である。コメントもチェックしてみることにした。


 タカシ 

 底辺ユーチューバーの動画、ありきたりでおもんない。

 TARO

 編集手抜き感満載。

 

 改めてコメントを見ると、凹んだ。確かに、トップYouTuberと比べると、動画の質はどうしても見劣りしてしまうことは、自分でも感じていた。もっと凝った編集をする必要があるなと思った。

 コメントを見ていくと、あるコメントに気になった。


 アイコ

 1:44のところ、なんか顔みたいなの見えね?


 その時間を指定して、動画を確認すると確かに、うっすらと顔のようなものが窓の方に映っていた。俺は、怖くなった。

 次の瞬間、窓がバン! と音が鳴った。

「あじゃじゃじゃ!」

 思わず、変な声を出してしまった。俺は急いで、荷物を持って、家を飛び出した。怖すぎだ。


 その日の夜は、ネットカフェで過ごすことにした。

 除霊には、ファブリーズが効くとネットで見たので、三本くらいファブリーズを買ってきておこうと思った。


 彩香と会う時間まで、適当に秋葉原を歩いた。俺は漫画やアニメが好きである。最初は、漫画家を志していたが、ある出版社に、原稿を持ち込んだとき、編集からこう言われた。

「君には、才能のかけらをまるで感じない。漫画家を目指すのは辞めて、普通に仕事したほがいい。」


 ショックだと思った。原稿を持ち込んでから、何もやる気が起こらなかった。そんなとき、ある動画を見た。

 超大物YouTuberの動画であり、その人がこう言っていた。


「本当に自分のやりたいことをしていくと、いずれチャンスが巡ってくる。」

 その言葉に痛く感動を覚えた。その動画をみてから、俺は、YouTuberを志すことにした。

 当然親からは、普通に働けと言われた。俺は、二十五歳まで、時間をくれと言って、親を説得し、こうして東京で動画投稿をしている。


 ブックオフで、古本やラノベを何冊か買っていった。

 彩香と待ち合わせの時間になり、アパートの外で彩香を待っていた。

「淳さん。お疲れ様です。結構待ってました?」

 彩香の私服姿を見た俺は、思わずドキリとした。肩を出しているタイプの服(我ながらおかしな表現)と、ショートパンツで結構露出の多い服装だった。

「い、いや、大丈夫。それじゃ、早速お願い。」


 早速、彩香を部屋に連れ込んだ。なんか誤解を産みそうな表現だが、怖くて仕方ない。

 部屋に入るなり、彩香が険しい表情をした。

「これは、なかなか凄まじい霊力ですね。」

 彩香は、鞄から数珠とお札を取り出した。これはガチのやつか!

「そんな、やばい霊なのか?」

 不安になり、彩香に訊いてみた。さすがに彩香を危険に巻き込みたくないと思った。

「凄まじい霊力ですが、そんなに邪悪な霊気ではないんですよね。あそこの窓の近くにいるっぽいので、ちょっと行ってきます。」

「お、おい!」

 止める間もなく、彩香は窓の方向へと歩き出した。あそこは、前に音がなったところだ。


 彩香は、数珠をジャラジャラならし、何やら念仏みたいなものを呟いている。

 三分くらい、念仏を閉じていると、彩香がこっちに戻ってきた。

「淳さん、動画投稿してます?」

「へ? ど、どうして。」

 俺が動画投稿していることは、バイトの連中には誰にも言ってないはずだった。もちろん彩香にも。

「幽霊さんがおっしゃってましたよ。私も初耳ですた。淳さん、商品レビューとか踊ってみたとかやってるんですね。」

「う。」

 恥ずかしくて、顔から火が吹きそうだった。

「それで、幽霊はどんなやつなんだ?」

「二十五歳のとき、この部屋で自殺をした女性の方でした。有名な劇団に所属してたらしいんですが、クビにされて落ち込んで自殺したみたいです。」

「そうなのか......」

 挫折した経験は、俺にもあるから辛さは確かに分かるのだが、やはり自殺するなんて馬鹿なことをしたと思った。

「幽霊さんは、淳さんの動画を撮っているところを見るのが好きみたいですよ。」

「え......」

 思わず驚いた。俺の動画はまだ、人に賞賛されるレベルまで達していないと感じていたからだ。

「『楽しそうに動画を撮っていて、自分のやりたいことをやっていることが感じられる。淳さんの動画を生前見ていれば自殺しなかったかも。』とおっしゃってました。」

「そうか。それは嬉しいな。」

 他の人にそこまで感激されるなんてとても嬉しいと感じた。相手は幽霊だが、応援してくれる人には変わりはない。

「淳さんも私に教えてくれればよかったのに。」

「知り合いに見られるのは恥ずかしいんだ!」

 我ながら情けないと思ったが、もう少し動画のクオリティが上がってから見せたいと思っていた。

「それで......幽霊さんは、淳さんが迷惑なら今すぐ成仏すると言っています。成仏させます?」

 俺は少し考えた後、ある企画を考えた。

「彩香、ちょっと協力してくれるか?」

「え?」

 

 三十分後。


「はい、どーも! YouTuberの淳です! 本日はですね。すごい特技をお見せしたいと思います。実は私、て手品が得意なんですよ。それじゃあ、机にお置いてある、ペットボトルを浮かせますね! う〜ん。」

 力を入れたような声を出した。

 そして、ペットボトルが宙に浮かんだ。これは、幽霊の力を借りている。


「どうですか? すごいでしょ! それじゃ、次は声の変換をします。私は女性の声を出すことができるんですね! それじゃ、女の声でアンパンマンのマーチを歌いますね!」


 女の声で俺はアンパンマンのマーチを歌った。実際に歌っているのは、幽霊なのだが。元劇団員というだけあって、すごい綺麗な歌声だった。


「みなさん! ご視聴ありがとうございました!」

 こうして、幽霊に協力してもらい、撮影を終えた。


「彩香、幽霊何て言ってる?」

「とても楽しかった。もう思い残すことはないって言ってました!」


 俺は、幽霊に動画に出てみないかと彩香を通して頼んでみた。視聴数の上昇目的というのもあるが、何かして、気持ちよく成仏して欲しいと考えたからだ。


「彩香、幽霊に伝えてくれ。『生まれ変わったらもう自殺なんてするんじゃねぇぞ』って。」

「分かりました!」


 彩香は、その後、念仏を唱えて幽霊を成仏させた。

「幽霊さん、成仏したみたいです。」

「そっか......良かった。あの幽霊、数少ない俺のファンだったんだよな。怖がったりして今考えると申し訳ないな。」

「淳さんのファンは、あの幽霊さんだけじゃないですよ!」

「え?」

「私もです!」

 笑顔で、彩香が答えた。

「あ、ありがとう。」

 堂々と言われて思わず照れてしまった。

「それじゃ、先輩、またバイト先で。それじゃ、動画投稿これからも頑張ってください!」

「ああ、気をつけて帰れよ。」


 後日、幽霊と一緒に撮った動画は、再生回数一万回を超えた。

 俺の動画の中での最高記録である。これからも動画投稿頑張っていこうと思った。

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