Case6.相馬ソウマと佐々木沢三郎二郎
お金が欲しいです
【Open The Eyes----】
学校や会社から帰宅中の人、これから遊びに出かけるもの。
やや黒みがかった緑髪の青年、相馬ソウマが彼らの歩みに沿い流れるように歩いていた。
両手には先ほどスーパーマーケットで購入した夕飯用の食材を入れたレジ袋が握りしめられていた。
「今日のニュース見た?あのシルバーウィングがヴィランに殺されたってよ……」
「マジで!? あの人スクルドの中でも上位ランカーじゃなかったのか?」
「あー見た見た、そのシルバーウィングが殺されるほどって……そのヴィランかなりヤバイんじゃないの?」
「だよなぁ……ヴィランなんて全員死ねばいいのに……」
「そうそう、きっとヒーローがやっつけてくれるっしょ」
三人の男子学生が横並びになって先日の事件について談笑しながらノロノロと歩いている。
一昨日の事件が世間に公表されてから、街中の話題になるのに時間はかからなかった。それ程に被害者はこの街でも有名な人物だったということだ。
少年たちからは体育会系の部活帰りなのか、柑橘系のデオドラントと汗の臭いが混じったような不快な香りが漂ってくる。
道を横並びになって歩いている彼らの後ろで、一人の青年がソワソワしている。
追い越したいけど追い越せない、そんな状況と彼らから漂う異臭のせいで先程から沸々と怒りが溜まっている。
「てか、殺されたのってこの先の路地裏っしょ? 見に行こうぜ!」
「いやいや、行ってもどうせ立ち入り禁止になってるでしょ……」
「あー、まぁ今朝のニュースだもんな。まだ野次馬でいっぱいだろ」
そう、シルバーさんが何者かに殺されたと報道されたのは今朝のことだった。
ニュースキャスターは淡々とシルバーウィングの死を告げ、街頭インタビューでは彼のファンによる悲痛な叫びや、犯人への怒りを語る様子が映し出された。
お世話係として、そして一人のファンとしても心苦しい映像で事件の日からずっとモヤモヤした感情が止まらなかった。
結局あれから人と顔を合わせるのを避けていたが、いつまでもウジウジしていては家にいるアイツも心配するだろうと思い、今日は二日ぶりの料理ということで豪勢な料理でも作ろうというわけだ。
基本的に、アイツと俺はあまり連絡を取り合うことがないので帰ったらビックリするだろうな。少し、ウキウキしながら歩いていると例の事件現場に来てしまった。
やはり、今朝のニュースを見た人たちが興味本位で集まっていた。中にはシルバーさんの熱狂的なファンなのだろうか号泣している人もいる。とても悔しい。大丈夫だよ、と教えてあげたいものだがそこまで社交的でないので俯き気味に現場から離れる。
「お」
「あ」
すれ違いそうになった男と目が合う。すかさず背の高い目の前の男が口を開く。
「相馬ではないですか。奇遇ですね」
「佐々木沢三郎二郎さん。佐々木沢三郎二郎さんも野次馬ですか? 冗談ですよ、佐々木沢三郎二郎さん。今パトロール中ですか?佐々木沢三郎二郎さん」
彼の名は、佐々木沢三郎二郎。苗字は佐々木沢、名は三郎二郎。 シルバーさん同様、この街を守るヒーローだ。
ヒーローは所謂「通り名」を名乗る者も多いが、彼は本名のまま活動しているそうだ。
特に変わった名前でもないが、世間に疎い友人に彼の話をすると何度も「え?」と聞き返されてしまう。何故だろう……
そして、俺がお世話係を担当しているヒーローの一人でもある。
「はい。あんな事がありましたからね。同じスクルドのヒーローとして、そして彼の友人としてもこの状況で何も動かない訳にはいられず……」
そう言って彼は悔しそうな表情をして、拳をギュッと固く握りしめている。
「相馬も気を付けてくださいね。今、帰りですか? もしよければパトロールがてら話でもしましょうか」
彼はちょうどパトロールをしていたらしく、事件現場付近を重点的に見張っていたらしい。
「あ、あぁ。いいですね! 安心して帰れます! ありがとうございます佐々木沢三郎二郎さん!」
先ほどいったように彼もこの街を守るヒーローで、殺されたシルバーウィングとも親交が深かった。
彼は優しい。そう、それもすごく。ヒーローという時点で優しいのでは? と疑問に思う人も多いかもしれないが少し違う。
確かに何やかんや住民の平和を守る彼らだ。心の奥では優しい人なのかもしれないが、色々と捻くれた人が多いのも事実だ。
仕事と割り切って最低限の仕事だけ営む者もいる中で、彼のように頻繁にパトロールするヒーローは多くない。
それに、バイトの時に遅刻したときも優しく微笑んで許してくれたのだ。スゴイヤサシイ。
「私の能力では、索敵など特化されていないのでこうしてフィールドワークしているのですが、特に情報は集まりませんね……相馬は事件の日、お世話係で彼のとこに行ったらしいですね。何か心当たりなどありませんか? あると助かるのですが……」
「え、あぁ。んー……特に無いですね。あの日は、彼から一度も連絡がなくて家には合い鍵で入って家の掃除だけしてそのまま帰りました。すみません、佐々木沢三郎二郎さん。力になれなくて」
大丈夫ですよ、と彼は優しく微笑み返す。スゴイヤサシイ。
最近、人間不信になりそうな出来事があったのに彼の微笑みを見ると心の底から安心できた。
その後もパトロールの彼と帰宅途中の俺は話を続けた。お世話係として、初めての担当が佐々木沢三郎二郎さんだったのはその後の仕事に大きく影響した。
初めは憧れのヒーローということで緊張やら不安やら期待やらで頭とお腹がグルグルしていたのだが、彼の親切な対応や聞き上手なようで逆に悩みを聞いてもらったり、仕事のアドバイスなどもして支えてくれた。
きっと佐々木沢三郎二郎さんが居なかったら、仕事を辞めてたかもしれない。上にも俺のことを良く評価してくれているようで、大変助かっている。
「シルバーウィングは素晴らしいヒーローでした。善を貫き悪を制す。彼は私の理想のヒーローでしたよ」
「はい、あんな事になってしまって残念です佐々木沢三郎二郎さん」
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「そういえば、この先の廃墟周辺でよくヴィランが暴れていると報告がありましたね。そちらの方も気になっていたのでした」
佐々木沢が、ふと思い出したように話す。
辺りは、先程より閑散とし、自然に溢れた景色に変わっていた。
当初の予定では、話をし終えたら途中で帰ろうと思っていたが、彼に付き合って街外れまで来てしまったようだ。
やはり、彼は聞き上手なところがある。ついつい話し込んでしまった。
荷物はあるが、そう急いで帰る理由もないためもう少しばかり彼と話をしよう。
「あぁ、例の廃墟破壊の岩男ですよね。廃墟の破壊だけに留まらず、この前女の子が大怪我して脅されたとかなんとか」
「そう、もしかしたらシルバーウィングを殺したのもそのヴィランかもしれませんね……許せません」
その身に感じる一瞬の殺気に威圧される。が、すぐにいつも通りの穏やかな表情に戻る。
「ま、まぁ。その可能性もあるけど会って話を聞いてみたいですね」
「いけません! どんな悪人か分からないのですよ? 一瞬のスキを突かれる可能性だってあります。どうか危ないことだけはしないでくださいね?」
その勢いに思わず、はい、と答えてしまう。彼をはじめとするスクルドのヒーローは人一倍悪に厳しい。
それは彼の優しい忠告だと頭ではわかっていながらも、どこか固執したものを感じ不安になる。そんな相馬の様子に気付いたのか佐々木沢三郎二郎は申し訳なさそうな顔をする。
「す、すみません相馬。つい熱くなってしまいました」
平謝りする佐々木沢三郎二郎に、大丈夫ですよ、と告げると彼からホッと安心した表情が垣間見えた。
――ドンッ!!
突如、轟音が響く。
「相馬! 私は今から音の場所に向かいますが、貴方はここから街の方へ戻ってください! そう遠くないと思うのでここも十分危険です!」
「は、はい! 佐々木沢三郎二郎さんもお気をつけて!!」
皆まで言わなくてよいと、一目散に現場へ急行した佐々木沢三郎二郎さん。
やはり、気がかりだ。一つ、確かめに向かうべきだろうか。
はい、と言ったものの好奇心に負け、忠告を無視して彼が走り去っていった方角へ駆ける。
左手に握ったレジ袋から、上下へ揺れた拍子に二つのトマトが零れ落ちる。
地面に接触した瞬間、位置エネルギーと自らの重力に耐えきれず、潰れる二つのトマト。
相馬ソウマは尚も気付かず走り抜けていった。
【ボタンの位置を一つ間違えたようなこの気持ちはなんだ?】
佐々木沢 三郎二郎さん、読みは「ささきざわ さぶろうじろう」
ボク、何かおかしいこと言いました?