Case17.製糸
一瞬の出来事だった。
「ヒッヒィ!! バケモンだ!」
「化け物とは失礼な。俺は人間だぞ?」
――バキッ
「お、おれらが悪かった!!」
ピンピンとしていたチンピラは次々と気絶していった。基本的にあの大男がやってのけていたが、金髪の長身は逃げようとするチンピラに回り込み、親分の方へ回し蹴りで蹴とばしていた。
あの両足の機械は特殊なモノのようだ。かなりの速度が出ていた。
小柄な少年は建物の影でおどおどとしているだけだった。
――ボコッ
「まぁ一人いればいいか、おいお前」
唯一意識のあるリーダー格の男に先ほどノアと呼ばれた大男が荒々しく問いかける。男は次々となぎ倒される味方の姿をみて完全に戦意を喪失しているようだ。
「グロについて何か知ってるか?」
!? グロ……! この大男、今グロと言ったか?
「ぐ、グロ? あぁ、あのヒーロー殺しだろ? し、しらねぇよ!」
「ハァ、そうか。悪かったな」
淡々と対応する大男は、要件を済ませるとこちらをギロリと向いた。
緊張が走る。
「ボウズはグロって聞いたことあるか?」
「へ? あ、いえ。ニュースで聞いたくらいです」
突然の問いに、つい声が裏返ってしまった。そして、本当のことを言いそうになって焦る。
もし、グロは俺の友人ですなんて言ったら何をされるかわからない。
「そうか。じゃあな、あんまり長居するなよボウズ」
「えっと、危ないところを助けてくれてありがとうございました」
「? あぁー、質問のついでだ。気にするな」
カッケー。
そのまま三人は通り過ぎていった。こちらからも何かアプローチするべきだったな。
「ん、そういえば例の店はこの先だったな。苦手だが行かない手はないか……」
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「お客さん、学生さんかなんか? ここら辺危ないし帰ったほうがいいよ」
「むむむ……情報屋さんって聞いたのに、バーだなんて……」
「弥生先輩ジュース飲んだら帰りますよー」
「もう夜だもんねぇ」
弥生先輩に道を任せたのが間違いだった。
幸いスマートフォンには地図アプリケーションがあるので迷子になった訳ではないし、帰り道も既に検索済みだ。
問題なのは、ここは立ち入りを警告されている地域ということである。店内はまだガランとしており、僕達以外には誰もいないが、すぐにガラの悪い連中が来るに違いない。
一刻も早く立ち去りたいが、アホ二人は仲良くオレンジジュースを飲んでいる。まぁ、弥生先輩は検討が外れたらしくご立腹といったところだ。それにしても情報屋の場所なんて誰に聞いたんだろう。
――カランカラン
なんだ、普通のお客さんか。怖い人かと思ってちょっと身構えちゃったよ。
「ハル、どうしたの?ぼけっとして」
「弥生先輩に言われたくないですよ……ん、何してるんです?」
「ちょっと見せたいものがね……」
ガサゴソと鞄を探っている弥生先輩は、カウンターテーブルの上にカードの束を置き、並べ始めた。
……何やってんだ。
――ドンッ!
「なんで売ってくれないんだよ!」
何やら先ほどのお客さんと店主が揉めているみたいだ。何だろう?
「よぉし、準備できたわ!」
弥生先輩がウキウキとした様子で話しかけてくる。京先輩はニコニコと静かに笑っている。
「手詰まりの時の為に色々と勉強してるのよ!」
「へー弥生ちゃん、そんなことしてたんだねー」
「それで、何するんですか?」
ふふん、と得意げに鼻をならしよく聞いたと言わんばかりだ。
「占いよ!!」
――ドンッ!!
「……売らない、だと?」
店主と揉めていた黒髪の目つきの悪いお客さんは、こちらをギロリと睨んでいた。