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アンチヒーローズ  作者: ドクぺ主食人間
第一章  糸繰り達のガイア理論
19/20

Case16.グッドサイン




「サムズアーーーーップ!」


 甲高い男の声が街中に轟く。 

 空を切り裂き、鉛色の空に声が轟く。


――ゴゴゴ、ゴゴゴ、ゴゴゴ!!


 これまでの日常など、これから起こるであろう非日常への前準備に過ぎないかのように。


 叫んだ男の身体は、戦隊ヒーローで追い詰められた怪物のように巨大化していく。しかし、その姿は怪獣というよりは巨大怪獣を倒すヒーローのようだ。


「姐さんーー! こんな感じでいいかな?」


 いつの間にか膨張する男の肩に姐さんと呼ばれた者が座っており、作戦開始と言った様子で大男の顔向けて親指を立てている。


「HYA―HAHAHAHA! ちょびっと暴れていいよーーー!!」


「ラジャー!」


「ほらほらほらーー!! みんな大嫌いなヴィランだよ! ヒーロー全員集合!」




***********************




「ハァ……」


 相馬のヤツめ、もう二週間もへそを曲げてるのか。

 我が家のリビングは俺の生み出したゴミで一杯だぞ。

 スクルドのアルバイトも無断欠勤らしいな、大した度胸だ。


「このままじゃお前が帰ってくる場所が無くなるだろ……」



 俺の能力、過去観測が可能になるまでの充電期間は一カ月くらい。

 前回から二週間経ったから、あと十五日は使えないだろう。


 この二週間を俺は有意義に過ごせただろうか、あちこちブラブラと歩き回って、そう多くはない全財産の半分をあのハイテンションな情報屋の娘との取引に使ってしまった。

 収穫は……正直微妙だ。


 相馬の行方については全く情報なし、そもそも相馬に関する情報は無に等しい。

 だが、一つグロに関する情報を手に入れた。


 相馬を侵食したヴィラン≪グロ≫の前の持ち主についてだ。母体と言った方が正しいのかもしれない。


 名を、≪逆凪ナギト≫という。

 逆凪について俺が持っている情報は、この街に住んでいた事、そしてグロという一面のほかにも先天性アルファという事。


 まず、この街に住んでいるという事は納得がいく。大都市とまでは行かないが人が住んでいればそんな偶然あるだろう。


 だが、二つ目。先天性アルファ? 逆凪は対象の身体を乗っ取って寄生、もしくは支配するのが能力だと思っていたが思い違いだったようだ?

 その能力は分身する。しかもその能力を目撃した人物がいないという胡散臭さだ。


 手詰まりの俺は少しずつ危ない道を頼ることにした。


 とはいっても、学生如きがそんな情報持ってるわけもない。そして、これ以上情報屋に金を掛ける訳にもいかない。

 

 ガラの悪い連中相手と関わりなど持ちたくないが、俺も無力ではない。備えはそれなりにしているのだ。



――ザッザッ

「兄ちゃん、こんなところで何してんだ?」


 タイミングが完璧というか悪いというか。

 如何にも、といったチンピラ風の野郎が絡んできた……こわ。

 だが、四人程度のチンピラなら大丈夫だ。


「えっと、グロについて色々調べてるんですけど何か知らないかなーなんて思いまして」


 話しかけてきた男の後ろから仲間がぞろぞろと出てくる。まぁ……まだ大丈夫だろう。


「それ教えて何のメリットがあるんだ? 兄ちゃん、財布捨てて逃げるかサンドバックにされるか選んでいいぞ」


「サンドバックとは物騒ですね。生憎ですがまだ9月ですよ? お年玉あげるにはまだ先の話ですね」


「何言ってんだお前」

 男が合図すると後方からもチンピラが登場し、囲まれた状態だと言って過言ではないだろう。


「はぁーーー、俺は他人の用意する前置きが嫌いなんだ。さっさと合図しろチンピラ」


 挑発すると、小ぶりのジャックナイフや鉄パイプを取り出す一同。サンドバックって言ってたのにナイフかよ。

 少しヒヤリとするが、深呼吸で息を整える。

 それじゃ、戦闘の前準備をしないとな。


――スゥ――ッ……

「おではハードストーーーン!!! 自慢の腕で貧弱なお前らの身体なんてぶち壊してやらぁ!!!」


「……へ?」

 どうやら動揺しているようだな。後は如何に強く見せるかだ。


「よくわからんが気持ち悪い奴だなぁ! やっちまえ!」


【心理観測開始】

 舐めやがってさっさと頭殴って袋叩きにしてやる! まずは足からだな、歩けない身体にしてやる! 

【観測終了】


 目の前と後ろから一人ずつ、どちらも鉄パイプ。


 後ろの男が少し早く頭めがけて振りかざす、まっすぐ垂直に振り下ろされる鉄パイプ。

 真横に一歩動きさえすれば避けられるような単調な動きは、彼が短気で力任せに動いてることの表れだろうか。後ろに気を取られてる隙に、すかさず足元を狙うチンピラだが、後ろの男の肩を掴み足を上げる。


 そのまま目の前の男の頭に蹴りを入れる。

「ぐはぁッ!」 肩を掴んだまま、蹴りの反動で逆上がりのようにして後方へ回る。


 男は思いもよらない力の向きに対応できず勢いよく倒れ、頭を強く打つ。

「うッ……」


 うむうむ、思い通りといったところか。


 心理観測、相手の心を読む能力、制約としては動揺している相手にのみ有効。

 もう一つ大きな問題がある。


 心理観測に限らず能力を行使する際、動けないのだ。


「お、おいお前ら落ち着け! 全員でかかれ!」


 あ、まずいな。流石にこの人数を捌くのは一般人には困難だ。先ほどのアクロバットはあくまで少人数相手だから成功したものだ。

 ちなみにアルファ相手でも無理だと思う。行動がわかっていても、動体視力でどうにかなるレベルじゃないだろう。それに、メンタル面でもそう簡単には入り込む隙を与えてはくれない。


 えーと、どうしたものか……ヤバイヤバイ。


「おう、てめぇら集団で一人を襲うとは情けないとは思わねぇのか?」

 ドスの効いた低音が聞こえる。声の主は建物の角からズンズンと出てきた。かなりの大男だ。


「ノアさん誰と話してるんです?」

 

「ふ、ふたりとも置いていかないでください!」

 続いて、金髪の男と小さな少年がひょこっと出てきた。


「どうせ集団で襲うならヒョロボウズより強い男だろ? 玉無しかぁ?」



「へっチンピラ共、相手してやるよ。全員まとめてかかってきな」




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