Case13.情報屋と情報屋
「くれちゃーーん、もう疲れたよぉー! 早く帰ろうよー!」
黒いニーソックスに合わせたように黒いチョーカーを身に着けた青を基調とした少女が気怠そうに歩みを進めている。少し長めのスカートを穿いており、おとなしめな印象だ。
「あいちゃん、まだ家出てすぐだよ? 同業者さんの中には電話を嫌う人もいるから、こうして足を運んでるんでしょ?」
対する様に、白いニーソックスと白いチョーカーを身に着けた少女が説得している。服装は赤っぽい。相方とは対照的に、ショートパンツを穿いており活発な印象が見受けられる。
「ぶぅぶぅ」
膨れっ面の姉を、手を引いて街中へ連れていく妹。辻妻姉妹である。
紅による情報提供は電話対応、藍による情報収集はインターネットから。二人は基本的に家で作業をするので、藍が外出することは珍しく買い出しに紅が出かけるくらいである。
「ほら、目的地に着いたよ。しゃんとして」
はーい、とまだ不機嫌な姉。目的の場所は、小さなバーと言った印象だ。まだ開店時間ではないようで扉は硬く閉ざされている。
職業柄あまり公に出来ないのだろう、隠れ蓑といった印象だ。
「こんにちはー。辻妻でーす」
紅がコンコンとノックして声を掛けると、家の奥からガサゴソと扉に近づいてくる音がした。
「誰だ、帰んな」
扉の向こうから低い男の声が聞こえる。
「善と悪のデュアリズム」
紅は凛とした声で答える。
「我々が導くのは」
対応するように男は答える。
「善でも悪でもない」
二人の声が重なる。
情報屋というのは、保有するレアリティな情報をターゲットに拷問して聞き出したり、他言されぬよう口封じされるといった危険が常にある。
現実世界での接触を避けたり、暗号を用いて客か敵かの判別をするのは常識となっている。
――ガチャリ、と鍵を開ける音の後に戸が開いた。
「いらっしゃい、何の用だ小娘」
中から出てきたのは白髭を蓄えた中年くらいに見える男性だ。その声は低く重い。
「情報交換だよ、情報交換。あと小娘は止めてってば」
紅は店内へ入り、慣れたように近くの椅子に座った。
「く、くれちゃんこのオジサマは?」
置いてけぼりにされていた藍が溜まらず聞く。
「あ、そっか。お姉ちゃん来るの初めてかぁ。って言ってもさっき説明したでしょ? 数少ない同業者の情報屋さんだよ」
「なるほどぉ、どうも紅がいつもお世話になってます。姉の藍です~」
「妹の方がしゃきっとしてる姉妹ってのもそう珍しくないのかね」
「むっ!」
男の軽口にまんまと乗ってしまう藍、プリンの時といい単純な性格のようだ。出不精な上、気にしていたことを指摘され今日一番の不機嫌なオーラを纏う辻妻藍は店の外へ出て行ってしまった。
帰りに本日二つ目のスイーツでも買ってあげなければ機嫌が治らないのは明らかだ。
元凶の男が機嫌を直すようにと家の中から藍へ声を掛ける。
「おーい、儂の小言は癖みたいなものだ。情報屋の城ヶ崎、ジョーと呼んでくれー」
ふん、と店先でシカトを決め込む藍であった。
「それよりジョーさん。本題なんだけど」
二人は奥のテーブルに座り込み、ビジネスの話を始める。
「グロ。ジョーさんが持ってる範囲でいいから教えてほしいのグロについて常連さんがその情報を緊急で欲しがってるのよね。」
「おー、あのヒーロー殺しのヴィランか。奴については色々と噛み合わない点があるんだよな」
「噛み合わない点?」
「早い話、アイツは同時刻に別々の場所で確認されてるっつー話だ」
「それってまさか、グロは二人いるってこと?」
「あぁ、もしくは一体が分裂したとかかもな。能力についてはさっぱりだ」
遠く離れた場所でほぼ同時刻にグロと思しき人物の目撃情報。光の速さで駆ける能力、もしくは分裂する能力、もしくは……。
様々な時代でグロの存在が確認されてることはわかってたけど、同時刻とはね。
「ジョーさんありがとう。こちらからの情報だけど」
「いや、タダでやるよその情報。あのお嬢ちゃんの機嫌と交換ってところだ」
「ふふ、不愛想だけどそういうとこは優しいのね。じゃ、私たちはこれで」
「気を付けろよ。スクルドも敵討ちに躍起になっているらしいからよ、拘束されて聞き出されないようにな」
何とも物騒な事を平然と言い放つ爺である。
しかし、ただの冗談とは思えない発言に身を引き締める紅であった。
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