Case12.空条弥生は止まらない
日は落ちる一歩手前といったところか。
三人の男女は、人通りの多い町の中心を人の流れに乗るように歩いている。
「あーもう! 何も手掛かりないわねー。 ハル! なんとかしなさいよ!」
「だから言ったじゃないですか、弥生先輩。あんなに息巻いてたのにすぐこれだ」
「むー。犯人は現場に戻るっていうじゃない。だから、こうやって何度も足を運んでるってのに」
話をしているのは、メガネをかけた委員長のような風貌の女性、空条弥生だ。そして、話にツッコミを入れているのは先ほどサークル室でスマートフォンを弄っていた青年、ハル、橋田晴彦だ。
「もう二週間も経ってますよ。やっぱり街の外に逃げたんじゃないですか?」
「ハルちゃんハルちゃん」
サークル室で漫画を読んでいた青年が声をかける。
「ん? 京先輩、なんです? それ」
「ふーむ、なんだろう。何かの部品じゃね?」
その手には、何やら大事そうな機械のパーツがあった。地面を転がってそう時間がたってないのか土汚れはあまり目立たない。
「先輩、そんなもの拾わないでくださいよバッチィ……」
漫画を読んでいた青年の名は、天音京助。
「まぁ、そう言うなって! 大事なパーツかも知れんよ~?」
「うーん、グロには関係ないと思いますけど」
そのようなやり取りをしていた一行だが、特に綿密なプランなどもなく犯行現場周辺をウロウロとしているだけである。
「あ、そうだ。弥生ちゃんのネッ友はあれから何か言ってないの?」
京助が弥生へ問いかける。
「えぇ、何もないわよ。≪グロはまだこの街にいる≫、そんな信憑性に欠ける情報で更に情報集めるっていっても無理があるわよね。例えば、あの日を境に変化したこととか……ハル、何かある?」
「そうですねぇ。二週間前から今で変わったことですか」
考える晴彦の言葉を遮り思い出したかのように京助が口を開く。
「相馬くん! 弥生ちゃんの友達の相馬くんって最近見かけないよね?」
「あー。確かにそうだけれど。何か関係あるのかしら?」
「相馬くんがグロの正体だったりしたら笑えるのに」
京助がいつもの調子で軽口を叩く。
「ゴホッゴホッ!」と大きく咳き込む声が聞こえた。
「まっさか~! そんなことあったら笑えないわよ~」
弥生は笑えないと言いつつも笑いながら京へ返事をする。
「ま、確認のメッセージでもしてみましょうか」
ポチポチ、と人混みに流されぬよう人気のない裏路地でメッセージの文面を書く為に立ち止まっていた。
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「ハンティングターゲットの目星は何かあるのか?」
「いえ、現在確認されてるアルファ取引はありません。ヴィラン勢力から引き抜くのも、先日のこともありますし現状では困難と思われます」
「そうか、ではトランジスタはどうなってる?」
「彼はトレーニングにも毎日出席してくれてますし、メンタル面でも問題は見られません。あー、一つだけ彼の身の回りの世話係が今のところ割り当てられていませんね、どうなさいますか?」
「あー。大丈夫だ。暫くは私が面倒見よう」
「了解いたしました」
私の名は桐生倫太郎。ヒーロー支援団体スクルドに15年間勤めているもので、主に他勢力や野良のアルファを引き抜きするのが今の仕事だ。
先日、所属するヒーローのシルバーウィングと佐々木沢三郎二郎が何者かに殺されその穴埋めとして色々と試行錯誤しているところだ。
敵の見当は大体ついている。これはグロの仕業だ。まぁ、私は特殊能力を持つヒーローではないから、直接どうこう出来る立場ではないのだがな。
先日のように、アルファを目標にした人身売買なども人知れぬところで行われている。
アルファ自身、酷い待遇という訳でなく企業への就職手段として使うものが多いので、胡散臭い人権団体以外は深く気に留めていない。
しかし、そう何度も上手いこと行かない。
そこで本来は敵対しているヴィランと交渉したり、改心させたりなどといった話も聞くがそもそも成功することの方が少ないし、先日ヒーローが連続で殺されたこともあってあまり穏やかではない。
今は大きく出るのは止めた方がよさそうだ。
まぁそうだな、当面の目標は、
「グロの野郎をぶっ殺してやる」
いぇいいぇい