Case11.空間転移
此処はどこかの地下室。
中央にいる半裸の少年は身体中を椅子に縛り付けられ手足の自由を奪われている。
その周りを取り囲む黒スーツの男たちは、真剣な眼差しで拘束された少年を見つめている。
ざわざわ、とする観衆達の間に割り込み一人の白いスーツに身を染めた男が登場する。
「皆様方、お集まりいただき誠に有り難う御座います。早速ですがオークションの前に、品定めをしていただきましょう。今宵の最注目アルファの能力がこちらです!」
合図とともに、より一層の視線が少年に集まる。
目が乾き瞼を閉じ、瞬きをする。
その瞬間に、少年は。
拘束された場所から1メートル程離れた場所に移動していた。
「!? お、おい今の何だ!?」
地下室全体から動揺や驚嘆の声がざわめく。
――パンパン
と、白いスーツの男は手を叩く。静まり返る観衆を前に、大変喜ばしいといった表情だ。
「今見て頂きました彼の能力は、」
彼の次の言葉を一言一句聞き逃さないと視線が集中する。
「空間転移でございます」
「おぉ! 凄いな!」「かなり強力なんじゃないか?」「是非我が社が!」
ざわめきはピークに達する、観衆はオークションの準備に取り掛かった。
「あ、えーと、皆様方? まだ情報は残ってますが、どうなさいます?」
「勿体ぶらずに早く言いたまえ!」一人の男性客が痺れを切らした様子でうずうずしている。
「そのですね、転移の範囲なのですが―……」
なんだなんだ、とまた注目が集まる。
「今お見せしたのが、限界です」
ざわめく観衆、それは呆れ返った声で溢れていた。
期待して損したと、会場を後にする観衆達。
まばらとなったその部屋に残った数人のうち、一人の長身の男性が白スーツに話しかけた。
「私が、買い取って宜しいですか?」
周りの残り数人の客も異論はないようだった。
「ホント!? やったーー!!」
少年は男の下へ近づき、うきうきとした様子で話しかける。
「あぁ、準備をしなさい。今すぐオフィスに来てもらう」
その厳格そうな男性は、テキパキと準備を進める。
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「わーすっごいデカいオフィスなんだねー!」
空間転移能力を持つアルファの少年は、初めて見た光景に感嘆の声を上げていた。
「あぁ、そうだ。君は何と名乗りたい? 何か要望があればそれを採用するが」
長身の男は、少年に問いかける。二人の身長差は50センチメートルも離れていた。
「うーん。昔から名乗ってる名前でいいかな。トランジスタだよ!」
「トランジスタ? 半導体の?」
「ちょっと違うかな、転移能力と抵抗するって意味でトランジスタ!」
シュッシュッと拳を前に突き出し、≪抵抗≫の意を表明している。無論、そのつもりはない。
「なるほどトランジションという訳か」
「ハハ、これから雇うってのに物騒な名前だな。抵抗されちゃかなわない」
長身の大男は、少年に出会ってから始めての笑顔を見せる。
「では、トランジスタ。私は、ここに勤めているヘッドハンターの桐生倫太郎だ」
桐生はその大きな手を少年に向けて差し出す。
トランジスタもすかさず手を取る。二人の手は親子のように大きさに差がある。
「よろしく、キリュー」
握手を交わす二人、大きなビルの入り口へ歩みだす。桐生が口を開く。
「改めてようこそ、ヒーロー支援団体スクルドへ」
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