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「琴葉。」


俺が買ってきた飲み物を飲みながら雑談をしてると、外はいつの間にか暗くなっていた。

部活を終えた悠斗が教室に水瀬さんを迎えに来ると、水瀬さんは嬉しそうに悠斗を見る。

その顔にチクリと胸が痛むがなんとか顔に出さないように気を付ける。


「千夜と西園寺も琴葉に付き合わせて悪かったな。」

「気にしないで。」

「そうそう、俺らも暇してたし。」

「んじゃ帰るか。」

「うん。」


悠斗の言葉に嬉しそうにうなずくと水瀬さんが席を立ち俺の前を通っていく。

その瞬間に感じたカオリに俺は思わずごくりと唾を飲む。


「千夜たちも一緒に帰るだろ?」


そう俺たちに呼びかける悠斗の声に俺は喉が渇いて返事ができない。


「悠斗?」

「あ、私職員室に寄らなきゃいけないの私忘れてたから、2人は先に帰って。」


座ってる俺を隠すように莉音は俺の前に立つ。


「付き合うよ?」

「いいよいいよ、帰りに本屋も寄りたいし先に帰って。」


それ以上何も言わせないいい笑顔で莉音が言うと、2人はこちらを気にしながらも帰って行った。

そんな2人を見送ることも出来ずに俺は残っていた炭酸ジュースを一気に飲み干す。

チカチカと喉を通る刺激に少しづつ乾きが癒えていく。


「・・・悪い、助かった。」

「・・・千夜はさ、このままでいいわけ?」

「え?」

「親友の彼女に恋して、自分に振り向かせたいわけでもなく辛くなるだけなのに、彼女と一緒にいる。

それって何がしたいの?

自分の気持ちが無くなるのを待つの?ていうか、一緒にいて少しでも無くなってるの?」

「・・・・」


莉音の言うことがもっともすぎて俺は何も言えない。

水瀬さんと話すことは多くても、それはたいがい悠斗の話。

嬉しそうな恥ずかしそうな彼女のくるくる変わる表情に毎回嬉しくなったり心がきしんだり。

あきらめることも、ましてや悠斗から奪えるわけでも想いを伝えるわけでもない。

俺は、今の現状に満足なんてしてないのに、満足したふりをして2人のそばにいる。


「私思うんだけどさ・・・」


俺の方を見ずに自分の爪を触りながら莉音が言った言葉に衝撃を受ける。


「琴葉の血、飲んだらいんじゃない?」

「・・・は!?」

「さっきみたいに吸血衝動がおきるくらい辛いのにそばから離れられないなら、血をもらったらいいじゃない。」


莉音の言葉に誰もいないとわかりつつあたりを見回す。


「お前、こんなとこで吸血とか言うなよ!!」

「誰もいないことくらい確認してる。」


窘めると煩わしそうに莉音は俺を見た。


「で、どうなの?

琴葉で吸血する気あるの?」

「ねぇよ!!」


勢いで否定するもそこに嘘はない。


「ヘタレ」

「お前は・・・!

いったい何回ヘタレ言えば気がすむんだよ?!」

「何度だって言うわよ。

別にいいじゃない報われない想いを引きずるくらいなら一回くらい吸血して乾きを癒やしたって。」

「簡単に言うなよ・・・

親友の彼女なんだぞ?」

「だとしても、バレなきゃいいじゃない。

実際私たちが吸血したところで、その間の記憶はあいまいで覚えてないんだから。」

「だからこんなとこでそう言う話するなよ・・・」

「そうやって逃げるとこが本当ヘタレ。」


莉音のあからさまな嘲笑に俺はぐうの音も出ない。

確かに俺は今この話題から逃げようとしている。


吸血


文字通り血を吸う行為であり、一般常識としてそれを行う人間はいない。

そう、俺は、いや俺と莉音は吸血をする存在、吸血鬼だったりする。

そんな荒唐無稽な話を信じろと言われても信じれるわけがないかもしれないがこれは真実だ。

といっても、世間一般でいう吸血鬼と俺らはほとんどが当てはまらない。


太陽、にんにく、十字架、聖水などなど古今東西で伝承される吸血鬼の弱点はすべて問題ないし、また不老長寿というわけでもない。

ただ吸血行為はする。

でもそれも絶対じゃない、俺たちに取っての血はいうなればおやつだ。

なくても生きていける、でも欲しいと思う気持ちはある。

さっきの喉の渇きがまさにそれ、誰でもってわけじゃない。

最低条件は異性であること、あとは匂い。

だれだって好みの匂いがあると思う、それと同じ。

俺は今まで吸血をせずに生きてきたしとりわけしたいと思ったこともない。

興味くらいはあったけど、少なからずリスクを伴うその行為をしようとも思っていなかった。

ただ水瀬さんは別。

この教室でクラスメイトになって、その時から他の子とは違う香りをしてるなっとは思った。

それから少しづつ話すようになって、悠斗のことを好きだと知ってそのときの胸の痛みと強烈な香りに俺は彼女が好きなんだと自覚した。

そしてついつい協力しているとめでたく2人は付き合いだして・・・

まぁ、悠斗の気持ちも知っちゃってた俺としてはそれを受け入れる以外道はなかったわけだが。


「俺は、大事な友達の彼女の血を欲しいとは思わない。」

「あんなに飢えてたのに?」

「それでも、それは悠斗に対しての裏切りだ。」


そんなことをしたら俺は自分を許せないし、悠斗に合わせる顔がなくなる。


「帰ろうぜ。

おばさんの飯、楽しみなんだ。」


この話はお終いだと無理やり話題を変えると、莉音は何か言いたそうにしながらもうなずく。


「喜びな、千夜の大好きな西園寺家特製のロールキャベツだよ。」

「マジ?やった!!」


本気で喜ぶ俺に莉音は呆れながらもほんの少し笑って鞄を手に取った。





「そうそう、分かってると思うけど2人とも明日は早く帰ってくるのよ。」

「「はーい」」


莉音の母親特製ロールキャベツに舌鼓を打っていると、デザートのりんごをむきながら莉音の母親が言う。

明日は満月。

一般的に言われる吸血鬼の弱点が全て問題ない俺たちにとって唯一の弱点、それは満月。

マンガとかでよくある太陽を浴びて灰になるわけではない。

でも、それに近いくらいの苦痛と苦しさを味わうことになる。

だから俺たちにとって満月の日は要注意だ。


「でも、明日は曇るぽいよ。」

「ならちょっとは安心だな。」


直接月の光を浴びないかぎりは多少の気分不良はありつつも苦しむほどではない。


「そんなこと言って油断しないようにね。

雲の隙間からの月光でも十分なんだから。」

「「はーい」」


2人そろって返事をすると莉音母は呆れたように苦笑して、相変わらず仲良しねとつぶやく。

そして俺らは仲良くないと同時に言うのだった。


「さて、じゃあ私は出かけてくるね。」


リンゴを一つ齧ると莉音は席を立ちソファにおいていたジャケットをはおる。


「どこ行くんだ?」

「おやつ調達。」


語尾にハートが付きそうな言い方に優雅にウィンクを決めると莉音は片手をあげてリビングから出て行った。


「・・・おばさん、いいの?」

「まぁ年頃の女の子がと思わなくはないけど、おやつが好きな年頃だし強くは否定しないわ。

それに・・・」

「それに?」

「・・・むくわれない子・・・」


ぼそりと呟かれたおばさんの言葉が聞き取れずに首をかしげるも、おばさんは首を横に振るだけでもう一度は言ってくれない。


「今が一番欲しいと思う時期だし、少ししたら落ち着くでしょ。

私もそうだったわ。」


そう言ってにこりと笑うその顔はどこかさっきの莉音とかぶってみえた。

まぁ、親子なんだから当たり前なんだろうけど。

莉音は最近とくにおやつを求めて外出をしている。

同じ学校やこの近所は避けているようで、ちょっと遠出をしておやつを求めてるようだ。

莉音は認めるのは癪だがはっきり言って美少女だ。

そんなアイツが夜に一人で出かけて、しかも見知らぬ男から血をもらう。

それは決して褒められることじゃないし、何度か注意もしているがアイツは聞きやしない。

頼みの綱のおばさんもこんなかんじだし、まぁ当分は様子見というやつなのだろうか。

そんなことを考えながら、俺はリンゴを口に入れた。



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