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「城嶋君もひどいと思わない?」
少し口を尖らせて不満をみせるその顔にそういう顔をさせてる相手が羨ましいと思う俺はやっぱり彼女が好きなんだと再確認する。
「まぁ、でも悠斗はだし。」
「そうやって城嶋君はすぐに悠斗のかたもつ!」
あ、今の不満顔は俺がさせた・・・
そんなことで嬉しくなる俺はよっぽど彼女が好きらしい。
「・・・そりゃね、悠斗はサッカーバカで、しかも才能あって今が大切な時期っていうのはわかってる。
でも、もう少しかまってくれてもいいと思うんだ。」
そう言って机にほほをくっつけて寂しそうな声を出す。
そんな彼女の頭を撫でたいと思う衝動にかられつつも、それは俺の役目じゃないと出しかけた手をひこっめる。
「もうすぐ大事な試合なんだよ。
俺からも少しは言っとくからさ。」
そう言うと彼女は上目遣いで俺を見てにこりと微笑む。
「城嶋君は本当いい人だよね。
悠斗の友達にはもったいないよ。」
「あいつはあいつでかなりいい奴だよ。
だから水瀬さんは悠斗と付き合ってるんでしょ?」
俺の言葉に恥ずかしそうに頬を染めてふいと視線をそらす。
もったいないと思いつつ、あのまま見つめられるのは正直耐えれなかったかもと思うとほっともする。
「千夜~。」
安堵してる俺を呼びかける声に廊下を見るとそこには一人の美少女の姿。
「莉音」
「今日、千夜の家留守でしょ?
うちでご飯食べなってお母さんから連絡きたんだけど。」
そう言って俺の幼馴染は愛用のスマフォを片手にかかげ俺らの方へ近づいてくる。
「琴葉は三橋君待ち?」
「うん、ごめんね莉音、城嶋君借りてた。」
水瀬さんが言うと莉音は見るからに不機嫌といったふうに眉間にしわを寄せる。
「あのね、何度も言ってるけど私と千夜はただの幼馴染なの。
こいつが焼かれようが煮られようが誘拐されようが私にはこれっぽちも関係ないわけ。」
「言いすぎだろ!!」
例え真実だったとしてもあまりの莉音の言いように思わず席を立ちあがって突っ込むと水瀬さんは楽しそうにクスクス笑う。
「相変わらず仲良いね。」
「「仲良くない!!」」
と言いつつも息ぴったりに突っ込む俺らは、仲の良し悪しは別として腐れ縁であることは間違いない。
そして俺らには共有する秘密がある。
「ていうか、私がこんなヘタレ好きになるわけないでしょ?」
「だれがヘタレだ!!」
「アンタ以外誰がいるのよ!?」
睨み合う俺らを見ながら水瀬さんはまたくすくすと笑っている。
まぁ、寂しそうにしてるよりは笑ってくれてる方が全然いい。
そんな俺の想いが伝わったのか、莉音はあきれた顔で俺をみて口パクでヘタレと言ってくる。
本当かわいくない女だ。
いや、顔はかわいいが・・・性格が最悪すぎる
再びそんな考えが伝わったのか莉音はギロリと俺を睨むと、水瀬さんにわからないように足を思いっきり踏みつけてきた。
「っ!!!???」
痛さに声が出ずにいると莉音はそんなことおかまいなしに近くの椅子を引き寄せ座る。
「莉音?」
莉音の行動に不思議そうに水瀬さんが首をかしげる。
「部活終わるまでまだ時間あるでしょ?
終わるの待つの退屈だろうし一緒に待つよ。
なわけで、千夜、飲み物買ってきて。」
そう言って俺に財布を差し出す。
まだお前に踏まれた足がズキズキ痛んでるんですけど?
そんな俺にお前は飲み物買に行けと?
行くけどさ!!
「琴葉の分とついでにアンタの分も買ってきていいから。」
「・・・・おう。
水瀬さん何飲む?」
「えっと、じゃあレモンティーで。」
「了解。」
女におごってもらうっていうのは微妙なとこだが、まぁ莉音だし。
それにあいつなりの足を踏んだことによる謝罪もなくはないのだろう。
というわけで俺は莉音の財布を受け取り自販機へと向かうことにした。