第十二話 恐怖
俺の警告アラートが全て赤く光り全開で鳴り響いた。
「透生! このままじゃヤバい! あいつが何かする前に早くやれ!」
—―ヤバい……絶対ヤバい……
「えっ…攻撃していいのか?」
俺の必死の訴えに戸惑いを見せる透生。
「なにやってんだ! 早くしろ! あいつは俺らを一掃する気だ!」
「ちっ…ゾンビ以外は殺したくねぇけど、殺されるのもごめんだ!」
そう言って透生は黄金に輝く剣をかざし願いを唱え始めた。
「剣よ、村雨 杏をさっきみたく倒してくれ!」
そう願うと透生は剣を振りかざした。
同時、刀身から出ていた禍々しいオーラが刃へと姿を変え、杏の方へと飛ぶ。
「こ、これがゾンビを真っ二つにした刃の正体かよ……」
剣から放たれた風の刃は途中分裂を繰り返し、いくつもの刃へと形を変えいく。
そして、それは杏の立っている辺り一帯を吹き飛ばした。
その威力は凄まじく校舎が激震し、床には大穴が空くほどのものだっただった。
「デタラメ過ぎんだろ……」
武器の威力に圧倒された俺は、その光景に恐怖すら感じた。
—―人の人生が剣一振りで終わり迎える……
そう、それは人間が蟻を踏み潰すのと同じような感覚……
人間の命も蟻の命も本質的には変わらないのだ……
「殺したの……杏ちゃんを殺しちゃったの……」
土煙の舞い上がる中、何かを堪えるような声が聴こえた。
—―ど、どういうことだ?
土煙が徐々に薄れ、視界が少しずつ良くなると、桜が俺の下へと俯きながら向かって来た。
そして、俺の胸元を静かに掴んだ……
「……どうして殺したの?」
俯いたままそっと、静かに、静かに呟いた……
・・・。
俺は桜の……
その冷たく悲しい呟きに何故か胸を締め付けられっていった……
「し、仕方ないだろ!殺らなきゃ俺たちが殺されてたかもしれなかったんだ!」
俺は必死だった。
人を殺してしまったかもしれないという衝動に駆られ、つい声を荒げてしまった。
しかし、桜の返事は冷たいものだった…
「ほんとに殺す必要あったの? 剣に『気絶させて』って願えばよかったんじゃないの…」
「・・・・」
俺は言葉を失った……
そんな俺をよそに桜は続けた。
「私だって自分勝手なこと言ってるって分かってるよ! でも、殺さなくてもどうにかできる状況なら、私は常に最善の道を選び続けたいの! そりゃこんなに恐ろしいゲームなんだから殺さなくちゃいけない場面もあるあるかもしれない……
それでも……それでも私は殺したくないの……」
俺の胸元を掴む手が小刻みに震え、その顔をからは涙の粒が地面に滴り落ちる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を俺に向け、さらに続けた。
「だって…殺してこのゲームに勝ってたとしても人を殺しちゃったら人間として負けだもん!」
「———」
この瞬間、俺は『呪い』のようなものから解放されたような気持ちになった。
—―俺は気づかない間にこのゲームに飲み込まれてたんだ……
いつ死ぬかわからない恐怖に怯え、周りに対して攻撃的になってるんだ…
「桜…… ごめん……
俺がどうかしてた……恐怖に駆られて自分を見失ってたよ……」
「うん……」
桜は頷きながら俺の服で涙を拭っている。
「『パチパチパチパチッ』っと。」
「「 ———⁉ 」」
砂煙の中から拍手と共に、二人を嘲笑うような声が聴こえてきた。
と、突然もの凄い突風が吹き荒れ砂煙がみるみるうちに消えていく。
「感動的なシーンで悪いんだけど勝手に人を殺さないでくれるかしら」
煙の先に立っていたのは、なんと村雨 杏だった。
透生の放った一撃は杏を避けるように一帯を破壊していた……
「なんで……」