第十一話 才女
……カタッ
何かが動いた気配がする……
「レイ君危ない!」
桜が俺を押し倒すと同時、俺の立っていた場所に光が走った。
「痛ぇ~なんだよ今の……」
「レイ君大丈夫?気を付けないとだよ!」
—―確かに、今のは桜がいなかったら死んでたかもしれねぇ……
「あぁ、ありがとな桜。完全に油断してたわ……」
「二人とも大丈夫か? 何だったんだ今の光は?」
倒れている俺と桜のもとに透生が駆け寄って来た。
「透生! 気を付けろ! まだ近くに敵が潜んでるぞ!」
静かな廊下に響き渡る足音。
この場にいる三人のものでないことは確かだ。
「誰だ! 俺がこの剣で真っ二つにしてやるから出て来いよ!」
周囲を警戒し、剣の柄に手をかける透生。
しかし、反応はなく静けさだけが廊下に響く…
「チッ! この透生様にビビッて逃げやがったか…
まぁ、それは良いとして…お二人さんはいつまでひっついてるつもりですか? ラブってるの俺に見せつけてんのか?」
俺と桜は顔を見合わせた。
瞬間、二人の顔はトマトのように真っ赤に染まっていった。
「だ、だよね~ レイ君もう大丈夫だもんね~
ごめん、ごめん、あははははぁ~」
桜はそう言いながら笑顔のまま俺を突き飛ばした。
「桜さん? 笑顔で突き飛ばすのやめてもらませんか? 思いっきり頭打ったんですけど……」
俺は頭を押さえながら立ち上がった。
「とりあえず戦いは俺に任しときな! この剣で一刀両断にしてやるよ!」
透生は腰の鞘から錆びれた剣を抜きだした。
すると、それは錆びれていたのが嘘かのように輝きを放ち、柄・鞘・装飾が黄金へと変化していく。
—―これが透生の剣の真の姿か……
「なるほど。こりゃあの数のゾンビ倒せるのも納得だわ」
刀身からは禍々しいオーラを放つそれは、俺みたいな何の知識もないやつですらその凄いさがわかるほどだった。
「——ん?」
透生が剣を掲げている最中、背後から近づいてくる気配を感じた。
俺は二人を置き去りに振り返った。
「あら、千歳さんに桜さん、それに馬鹿じゃないですか。」
……天才女子高生、通称『才女』こと村雨 杏だ。
高貴な顔つきにいつも教科書片手に歩いていそうな雰囲気。
そして何より、そのすらっとした体系に男子は引き込まれる。
俺の聞いた話では、複数の男子が村雨に猛アタックしたものの、ことごとく全員振られていったという…
「なんだよ、村雨じゃねぇか」
俺に遅れて二人も杏の存在に気がついたらしい。
「杏ちゃん、無事だったんだね~杏ちゃんも私たちと一緒に行こ!」
そう言って桜は杏に手を差し伸べる。
だが、杏の返事は冷たいものだった…
「・・・本気でそんなこと思ってるのかしら?」
冷酷な氷の女王の心に桜の言葉など微塵も届かなかった。
「杏ちゃん?わ、私は本気だよ……」
—―これはヤバい方向に向かいそうな気がする……
「だってそうでしょ? このゲームは実質一人しか生き残れないのよ。あなた達と一緒に行ってその後どうするの? 裏切り合いが始まるのも時間の問題じゃないの」
嫌なとこを正確に突いて来るな……
実際の話確かにそうだ……このまま勝ち進んでも最後は誰かが死ぬ。
俺はどうしてもダメな時は桜に懸けると決めているが他の二人が実際のところどう思っているのかわからない……
「なんだよ村雨! そんな言い方はないだろ! 俺達はこの理不尽なゲームから全員助かる方法を考えんだよ! そのためにも無駄に死なれちゃ困る! だから、ここは協定でも結んでこのゲームからの脱出方法を考えないか?」
—―透生…。
「ふん! あなたは馬鹿なのかしら? いや、馬鹿だったわね。そんなこと考えて裏切られるリスクを負うくらいならこの場で三人離脱してもらった方が良いに決まってるじゃない。だから、あなた達にはここで死んでもらうわ」
と、杏は右手をかざし呪文のようなものを唱え始めた。
俺の警告アラートが全て赤く光り全開で鳴り響く。
「透生!このままじゃヤバい!あいつが何かする前に早くやれ!」
—―ヤバい…絶対ヤバい……