第十話 純粋
—― 三階 西棟 ——
「くそっ。どんだけ学校広くなってんだよ! 三階に降りるまで三十分は歩いたぞ!」
三階について早々愚痴を溢す透生。
額に汗がびっしょりになっている。
太陽が隠れているせいか校舎内は薄暗く、ジャックの魔法によって校舎はかなり広くなっていた。
それに加え、学校にいた全生徒がゾンビ化されているらしく、簡単には前に進めなかった。そう、いわゆる一種のダンジョン状態になっているのだ。
「ちょっと休憩しようよ~ 私疲れて動けないよ~」
透生に引き続き桜までもがその長く険しい道のりに悶絶していた。
「二人とも体力無さすぎなんだよ。普段からちゃんと運動しとけよな!」
弱音を吐きまくる桜と透生とは違い、剣道でそこそこ体力がある俺はぴんぴんしていた。
「レイ君と比べないでよ~でも、確かに体力無さすぎるかも……明日から毎朝ランニングしようかな~ダイエットもしなくちゃだし……」
・・・明日。
何気ない桜の一言が俺を凍らした。
正直俺も何と言ってあげればいいのかわからなかった…
『そうしろ! 俺も付き合うからさ!』
なんて、未来の保障がされていない俺達にとって言って良い言葉なのか……
だからって、
『俺達に未来があるかなんてわかんねぇんだから、とにかく今の事だけ考えろ!』
なんて言うのも冷たすぎる……
こんな時に俺は返してあげる言葉もないのか……
俺の心の葛藤を見透かすかのように透生が口を開いた。
「それいいね!無事にこのゲーム終わったら三人で走ろうぜ!」
その言葉……
俺の口から桜に言ってあげなくてはいけなかった言葉。
どうして俺はこんな簡単な言葉も出てこないのだろうか?
いや……
簡単ではない……
誰か一人しか生き残れないゲームで三人一緒になんて不可能なんだ……
でも、桜や透生達はきっと自分の思ったことをそのまま口に出してるだけなんだ……
桜は昔から深く考え込まない性格だし、透生は馬鹿だから思ったことを口にする。そんな二人の特徴はこういった空気では見習わないといけないのかもな……
「わかった。桜も透生もそこまで言うからにはちゃんと走れよ! さぼらないか俺が直々に監督してやるからな!」
これが俺の気持ち。
もし可能なら三人揃ってクリアしたい……
そして、この三人でもっともっと遊びたい。
もっと!もっとたくさん!
……カタッ
俺達はこの時、背後に忍び寄る気配に気づかなかった……