第一話 始まり
『ハロウィン』
それは古代ケルト人が考え出したとされる行事。
本来、秋の収穫を祝い、悪霊を追い払うためとされたこの祭りも、現代となっては仮装を楽しんだり、お菓子を貰ったりするだけで本当の目的が消えかかっている。
言わば、便乗しただけで儲けを出せたり、
遊ぶための理由付けにされるような利用されまくりな行事なのだ。
そんな便利な行事『ハロウィン」の日に、
選ばれた者だけが出場できる特別なゲームが存在する……
カーテンの隙間から朝の日差しが差し込む中、
平凡な高校生 千歳雨は、いつもの朝を迎えた。
――眠い、
夏の暑さもすっかり消え、
心地良い眠りにつけるようになると朝がキツい…
眠い目を擦りながら一階のリビングへと階段を降りる。
しかし、そこに家族の姿はない…
うちの家族は、父の仕事の都合で海外へと引っ越す事になったのだが、俺は今の高校を辞めたくないという理由で一人この家に残ったのだ。
「ハァ……」
いつも親が鬱陶しく反抗してばかりいたが、いざ消えると愛おしいってもんだ…
俺は、しーんとした空気を誤魔化すためにリモコンに手を伸ばし、テレビを付けて仕切無しに番組を変えてみた。
だが、どの番組もハロウィン特集で持ちっきりの様子で特に面白い番組がやっていそうな感じでもなかった……
「今日は十月三十一日だったか…すっかり忘れてたな…
とりあえず帰りにコンビニでお菓子でも買って帰るとするか」
買っておいた菓子パンを食べながら俺は静けさに耐えかね独り言を連発した。
――寂しい。
パンを食べ終わるなり、俺はすぐさまテレビを消し、
学校へと行く準備をするため二階へ上がろうとした。
その時、
ピンポーン!ピンポーン!
静寂を破壊するかのように玄関のベルが鳴り響いた――
「誰だ?こんな朝っぱらから勧誘か?」
言葉の通り、うちに来る訪問客なんてどこかのセールスマンくらいだ。
しかし、こんな朝早くから勧誘なんてどこの企業もやらないだろうし…
不思議に思いつつ、若干の恐怖感を抱きながら玄関の扉を開いた。
そこには・・・。
「ん? 誰もいない……」
辺りを見回しても誰もいない……
ただ、そこには顔の彫られたカボチャが転がっていた。
「なんだこのカボチャは? どっかのガキの悪戯か?」
皮肉たっぷりに独り言を呟いたその時、
俺の目の前で世の理から逸脱した事象が起こった――
なんと、地面に転がっていたはずのカボチャが宙に舞い上がり、俺の目の前で空中停止したのだ…
そして、先ほどまでなかったはずの黒いマントを羽織ったそれは、こともあろうことか俺に向かって喋り始めたのだ。
「初めまして、私はジャックと申します。今回こちらに伺わせていただきましたのは、千歳 雨 様が今年のゲームの参加者に選ばれたことを報告させていただくためでございます。そして、こちらがその招待状となります。どうぞお受け取りください」
そう言うとカボチャ、改め『ジャック』は黒いマントの中から一枚の紙切れを手渡してきた。
「えーと……悪いが、今の状況を脳が認めないつもりらしく全く理解できん…お前は誰で、そのゲームとやらはどういったもんなんだ?
きっちり説明してくれないとわかんないんですけど?」
脳をフル活動させてさえ理解の及ばない光景と訳の分からないゲームへの招待に俺の頭の中は大混乱に陥っていた。
「これはこれは失礼いたしました。
私めは本ゲーム『Halloween game』の
企画担当者兼案内役を務めさせていただいております
『妖精』でございます」
妖精?
どうやら俺の理解力を超越している事だけは確かなようだ…
妖精などこの世に存在しているのか?
空想世界でのみの存在ではないのか?
なおも不明な点が残る中、ジャックは話を続けた。
「本ゲームは毎年開催されており、私達たち妖精の独断と偏見により参加者様を決定し、強制参加とさせていただいております。本ゲームで優勝された方には己の望みを叶える事ができるという報酬もご用意しております。その代わり、対価として参加者様の『命』を賭けて戦っていただきます。望みを叶える力が手に入るかもしれないのですから、『命』を賭けて戦うのが当然と言えるでしょう。詳しいルールについては後ほど伺いました際にご説明させていただきます。以上、ご不明な点はございますか?」
俺はジャックの説明に呆気を取られた……
命懸けの戦い?
強制参加?
望みが叶う?
全てが俺の理解の許容範囲をゆうに超えている…
「理不尽なゲームだな……
てか、何を聞いても多分理解できねぇし、どう足掻こうと参加しなきゃなんねぇんだろ?
なら、不明な事なんて挙げたところで意味ねぇし、諦めて参加してやるよ!
その『Halloween game』とやらにな!」
もう不可抗力だ…
そう思いながら俺が参加の意を告げると、ジャックは不気味な光を目に宿し笑みを溢した。
「左様でございますか。それでは、私はこれにて失礼させていただきます。」
ジャックはそう言い残すなり、空へと舞い上がり消えてしまった。
「はぁ…もうマジで訳わかんねぇな……とりあえず学校行くか」
俺は、もう癖と言って良い程に定着した独り言をボヤきながら玄関の扉を閉め登校準備に移った。