7話
「食らえ!!高橋名人並みの連打ァァァ!!」
「長押し、25秒経過っと」
「テキストぉ~、ガン見ぃ~」
キングのツッコミから僕達は戦い方の研究に励んでいた。
あれこれと試行錯誤をした結果、分かったことが1つあった。
それは……
「とりあえず、連打、長押し、ガン見、その他もろもろでは武器や魔法は出ないみたいだね」
万策尽きて、どうやればいいのかがわからないと言うことが分かったのだった。
戦闘での必須アイテムの武器や魔法。
それが出せないと言うことは、戦闘が出来ないのも等しいことだ。
その他、スキルや特技等の使用法も分から無い今、このモンスターが闊歩する世界において絶体絶命な状況になっていた。
「おい、チェン。どうすんだよ?こんな危ない場所で武器や魔法が使えないとかあり得ねぇぞ!?」
「そうだね、とりあえずは村や街に入るのがベストなんだけど……」
「そこまで行くのがぁ~、苦労ですよねぇ~」
全員が深いため息を吐く。
WOFにおいて村や街はモンスターの侵入不可能地帯であった。
そこに暮らすのだから、モンスター等が容易に侵入してこられたのでは、暮らすことなど出来ない。
村や街等には必ず、【保護結晶】と呼ばれるアイテムが置かれており、そのアイテムのおかげでモンスター等の侵入を不可能としている。
現在の僕達の状況から、野宿や野営などは危険極まりない行為だ。
速いとこ村や街へ避難せねばならなかった。
「あとどのくらいなんだよ、メーリン村はよぉ……」
「ちょっと遠いね。最初の場所よりは近いけど、モンスターとの遭遇は無いとは言えない距離だね」
「でも、ここにいるよりは堅実的だよなぁ」
「だね。ここに居ても襲われない確率は0%だし、行った方がいいことは確かだね」
「じゃあぁ~、モンスターとエンカウント後はぁ~、離脱が作戦ですかねぇ~」
「だなぁ。さて、どう隠れながら移動するかねぇ」
「とりあえず、林の中を主に移動しよう」
僕達は腰を屈め、できるだけ低い姿勢を保ちながら林の中を移動した。
僕達の行きたい方向に林がずっと続いているわけもなく、少し進んだ辺りで林が開け、青い草原が視界に広がる。
目的のメーリン村までは、この草原を真っ直ぐ10分行った辺りにある。
林の草むらに腰を屈め、まわりを見渡す。
「視界にモンスターなしっと」
「どうするよ、チェン?」
「んー、こう視界に遮るものがないと、バレバレだよね」
「だな。もう一気に走り抜けるか?」
肩を竦めながら冗談めいた笑いを浮かべるキングの隣で考える。
ここからモンスターとの遭遇しないようにするのは難しい。だからと言って、遠回りをするなんて愚策だ。移動する時間がかかればかかるほど、モンスターとの遭遇率は上がる。それに、遠回りをしたからと言ってそれほど近づける訳でもない。
今の手持ちには、WOFの中にある遭遇回避アイテムも無い。この先でもしモンスターと遭遇すれば、前のように隠れる林等は一切無い。綱渡りになるがキングの言う通り、走り抜けるのが無難なのかもしれない。
何度も考え、他に候補が無くなった辺りで方法を決める。
後ろを振り返り、全員の顔を見ながら自分の考えを述べた。
「キングの提案に乗ろうと思う。どのみち他に方法がない今、歩いて移動よりかはマシだと思う。どうかな?」
「マジで走り抜けるのかよ、冗談だったんだが……でもまぁ、それっきゃないよな」
「私はぁ~、問題ないですよぉ~」
キングとイリスに許可を貰い、紅夜叉の方へと顔を向ける。
紅夜叉は静かに頷き、許可を出してくれた。
「じゃあ行くよ!5、4、3、2、1……」
カウントを開始し、各々走る体勢をとった。
「ゼロ!!」
草むらから勢い良く走りだし草原を駆け抜ける。
村まで約10分。
綱渡りにとなる激走が幕を開けた。
▽▲▽▲
「走れ、走れぇぇ!!」
「見えてきた!あそこがメーリン村だ!!」
ガルアウルフ三体に追われ、走り続ける僕達。
キングを先頭に、僕やイリス、紅夜叉が後を追うフォーメーション。
トライアングルフォーメーションだ。
イリスは職業柄、速度が全く無いため僕が背負う形となっていた。
「急いでくださぁーいぃ~、モンスターとの距離ぃ~、30mきりましたぁ~」
後方へと顔を向けるイリスから声がかかる。
メーリン村への距離は後50m弱、ガルアウルフの速度を考えても追い付かれる。
僕はズボンのポケットへと手を伸ばし、目的の物を掴みイリスへ渡す。
「これを投げて牽制して!!」
「ッ!!了解ですぅ~、ほいっ!」
放物線を描きながら飛んでいく"それ"は、ガルアウルフの目の前に落ち、ガルアウルフの速度を落とす。
第2射、第3射と投げて行くイリスに、ガルアウルフは警戒しながら、回避可能速度まで速度を落とす。
「チェンさん……これぇ~、いつの間に用意したんですかぁ~?」
イリスはまじまじと手に持つ"それ"を見ている。
イリスに渡したのはただの石だ。
拳半分ぐらいのサイズの何の変哲も無いようなただの石。
「林に居たときにね。武器が出せないから投擲武器として拾っておいたんだ」
「なるぼどぉ~」
「おい、メーリン村まであと20mきったぞ!ガルアウルフはどうだ!!」
「えっとぉ~、変わらず30mぐらいですよぉ~キングぅ~」
「了解!んじゃ、ラストスパートォォォ!!」
加速するキングの後に続き、僕達も速度をあげる。
その間も時折、石を投げるイリス。
村の入口である木造のゲートが迫る。
15m、10m、5m、そして……
「ゴォォォルゥゥゥ!!!」
全員が走りきり、ゲートをくぐり抜け村に入る。
各自、うなだれながら荒れた呼吸を整える。
そして顔をあげる。
視界に入ったのは、木造建築の家々が並ぶ集落。
家の形は、ほとんどが小屋のような作り。
ちらほらと大きな家もあり、その家は丸太を組んだような造りのログハウスである。
質素な雰囲気のある村。けして貧相ではない雰囲気。
そんな村に見いっているとキングから声がかかる。
「なぁ、チェン。突然だが、良い話と悪い話どっちが先に聞きたい?」
「本当に突然だね。強いて言うなら、良い話からかな」
「んじゃ、良い話からな。ガルアウルフだが、三体居たのが一体になってる」
「いまさら数が減っても関係無いよ。村は侵入不可能地帯なんだから」
「まぁ待て。それから悪い話だ。ガルアウルフが村に入ってきてる。」
キングが横を指差し、僕はその指差す方へ視線を向ける。
目の前には、獰猛な牙を見せながら唸り上げるガルアウルフが居た。
距離にして5m強。
「なんで……侵入不可能地帯なんじゃ!!」
混乱しながらも考え、1つの仮説が頭に浮かぶ。
"WOFそのままの世界ではない"
考えもしなかった。
しかしあり得たことだった。
いつの間にか僕は、その可能性を捨てていた。人は信じたいものを真実だと思ってしまう。そんな都合のいい話を鵜呑みにしてしまう。
不安を消し、安心を得たいが為に間違った結論をだしてしまった。
あれほど焦って結論出さずに考え、吟味していたのに間違った結論を出してしまった。
混乱や戸惑い、不安、羞恥、絶望。
色々な感情がごちゃ混ぜになって、全く頭は回らず言葉も出ない。
出来たことはひたすらガルアウルフを見ることのみ。
ガルアウルフが近付こうと見ることしか出来ない。
僕だけではない、皆も同じく見ることしか出来ていない。
全員の思うことは1つだった
(ここで死ぬ。)
硬直する僕達を安易に狩れると分かったガルアウルフは、空に向かい大きく遠吠えをした。
すると、村の入口とは反対方向にある民家の方から、二体のガルアウルフが出てくる。
三体居たガルアウルフのうちの二体が回り混んでいたのだ。
僕達が助かると思っていた村は、彼等にとっては絶好の狩場だったのだと知る。
のそりのそりと近付くガルアウルフ。
そして僕の前で、獰猛な牙が無数に並ぶ口を開けたる。
生臭く、生暖かい息がかかる距離。
目の前にある死が、まさに現実だと思い知らされる。
全ての動きが遅く、思考が目まぐるしく速まる。
思考が全てを諦めに行き着き、覚悟を決めたときーーー
「〔雨の矢〕!!」
透き通るように響いた声とともに、無数の光矢が僕達を囲うように突き刺さる。
もちろん、目の前に居たガルアウルフにも光矢が突き刺さり、命を奪う。
何が起きたのか分からず呆然としている僕達。
「大丈夫?」
聞こえてく方へと顔を向ける。
民家の屋根の上に一人の少女が立っていた。
透き通るように白に肌に特徴的な翠色の長い髪。
スラリと伸びる手足はモデルのよう。
少女は屋根の上から降り、こちらに近付いてくる。
近付き始めて気付く。
流れるような髪から見える特徴的な長い耳。
それはよく、フィクションの中にいる種族に酷似していた。
その種族とは……
「「「え、え、エルフ(ぅ~)!!!」」」
次回の更新は29日予定です。
更\(*´∀`)/\(*´∀`)/\(*´∀`)/\(*´∀`)/\(*´∀`)/新