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6話

日は高く、そろそろ頭の上を太陽が越える時刻。

林の木々の中、吹き抜ける風に長い髪はたなびく。

林の木々と混じり、高く生えた草むらからは鼻孔をくすぐる青い香り。

そんな草むらに、隠れるようにイリスは体育座りで座っていた。周りから"ズーーン"といような効果音が聞こえてきそうなほど落ち込んでいた。


「…………ねぇ、キング」


「…………わかってる、チェン」


「「どうしてこうなった…………」」


このような状況になって、すでに1時間以上経過していた。

僕とキングによる【イリス職業確認作戦】により、イリスの職業が判明した。

その職業を言葉に出した瞬間にイリスは草むらへ体育座りしてしまったのだ。

それからあれこれ謝ったり、世辞を言ったりとご機嫌をとってみたが効果はナシ。

最終手段として弟である紅夜叉君に頼んで見たが失敗、何しろ紅夜叉がやったことはボソリと「……ドン……マイ…………」と言っただけであった。


そして今の状況がこれである。

イリスは草むらで体育座り、紅夜叉は空を見てボーっとして、僕とキングは少し離れたところでイリスの様子を伺っていた。


「いったい何が悪かったんだ?」


「んー、やっぱり勝手にフレンド登録したことかな?」


「だかよぉ、ああなったのは職業言った後だと思うんだが……」


「キングはイリスがああなったのは、職業を知られたからだと思ってるの?」


「あぁ。でも、意味がわかんねぇんだが」


意味。

イリスが職業を隠したかった理由。

職業なんてものは、WOFでは自由に変えられた。条件をクリアしていればいつでも変更は可能だった。

イリスがもし今の職業が人に見せたく無いようなものだったのなら、職業を変更すればよかっただけだ。

しかし、イリスは変更はしていなかった。だか、見られるのは嫌がった。

矛盾している事柄。

イリスが何故、あそこまで落ち込んでいるのかがわからなかった。


深いため息を吐き、イリスのいる草むらを見る。

風に揺れる草影からチラチラと見える薄赤色のイリスの着るローブ。

その風景をぼんやりと見つめていると、隣から声が響く。


「あぁぁぁぁぁ!!めんどくせぇ!ったく、いつまでウジウジしてんだ!!」


"ズカズカ"と草むらへ行くキング。

勢い良く草むらへ手を突っ込み、イリスを抱え上げそのままーーー


「どっせぇぇぇぇぇぇいぃぃぃ!!!」


「はべちぃっ!!」


ジャーマン・スープレックス放ったのだった。


見事に決まり、頭を押さえながら涙声で文句を言うイリス。


「うぅ~、いたいですぅ~。なにするんですかぁ~」


「うっせぇ!いつまでウジウジしやがって!!」


「無理矢理あんなことしたのにぃ~、逆ギレですかぁ~」


「そうだよ!ウジウジめんどくせぇ。落ち込むぐらいなら言い返せ!!何すんだ!!って怒れ。そうやってウジウジしてたら、こちとらなにもわかんねぇんだよ。お前に何をやっちまったからこうなったとか、何を言ったのが悪かったんだとか何もわかんねぇんだよ!!反省や謝罪も(ろく)にできねぇ。だから言い返せ!!そうすりゃ、反省するし謝罪もする。それで終わり。お前もウジウジしなくてOK、俺も分かってOK、まさに両方WIN WINだ!」


「ーーー」


キングの言葉を聞き、ポカーンと口を開き呆然とするイリス。

そして、口に手をあて笑い出す。


「あははっ!なんですかそれぇ~、暴論もいいとこですよぉ~。何が両方WIN WINですかぁ~。あははは」


「そうだよ。暴論だよ、だがウジウジしてめんどくせぇことになる正論よりは全然マシだ!」


親指を立てて、"ニカッ"と歯を見せて笑うキング。

僕もキングの突然の暴論に呆然としていたが、その顔を見て笑う。

1時間以上も流れていた気まずく、重い空気は、暴論により笑い溢れる空気になっていた。




笑いが収まるのを待ち、僕達は話を聞くことにした。

全員が見えるように円形になり、話を聞く体勢を整えた。

ちなみに、紅夜叉だけは何故か後ろ向きに座っており、ぼんやりと空を見ていた。


「えっと、イリス。なんであんなに落ち込んでいたの?」


「そうだぜ、理由を聞かせてくれ」


「ん~、二人は《拷問者(トーチャー)》がどんな職業が知ってますかぁ~?」


頭を横に振るキングが僕を見てき、僕も頭を横に振る。


「《拷問者(トーチャー)》って言うのは、言わばバラエティージョブですぅ~。特殊なドロップアイテムでなれる職業ですぅ~」


バラエティージョブ。

ノーマルと言われる、条件での取得職業とは違い、特殊なドロップアイテムでのみ取得出来る職業である。

バラエティージョブの特徴として、その取得条件の難しさから高い能力を持つとされている。

現状で確認されている者は(まれ)であり、その詳細は不明である。

また貴重であることから、その所有者は数多なギルドなどで引っ張りだこになり、過去にはそのアイテムを奪う為にPK 等が行われた。


「つまりイリスは、PKされないように隠して居たってこと?」


「それもありますぅ~。でもぉ~、こんなアイテムが欲しければあげたいぐらいですぅ~」


「じゃあ、手放せば良かったんじゃないの?」


「職業《拷問者(トーチャー)》は特殊な職業、バラエティージョブですぅ~。その能力の一つにぃ~、レベルをカンストしなければジョブ変更が不可能になるというのがあるんですぅ~。それにアイテムもカンスト後でないと、捨てることもできないんですぅ~」


僕は聞いたことのない能力に驚いた。

ジョブと言うのは職業なのであるのだから転職(ジョブチェンジ)は可能であり、条件を満たしていない高ランクのジョブならまだしも、条件を満たしている低ランクのジョブにも転職出来ないなんてありえない。

だが実際、目の前に転職の出来ないイリスが居る。

常識をまるで否定された気分に半分落ち込み、摩訶不思議な職業に半分胸が踊ってしまう。


「そっか、確かに転職出来ないのはつらいね。でもバラエティージョブなんだから、それにみあった能力もあるでしょ?」


「……い……ですぅ~……」


「えっ?」


「そんな能力無いですぅ~!!」


「えっえっ?」


「唯一の攻撃は魔法系統のみですぅ~。確かにバラエティーなだけにかなり高いですぅ~。でも、それ以外が低すぎますぅ~!!ほぼ0ですぅ~。スライムに攻撃されたら、ほぼ即死ですぅ~。HPも防御力も回避率も低すぎて無いようなものですぅ~。ぶっちゃけ、紙装甲もいいところですぅ~!!その上、使える魔法はジョブ関係の特殊魔法と日常魔法のみぃ~。低級魔法の〔火玉(ファイヤーボール)〕すら使えないですぅ~!!」


「……本当なのそれ?」


「本当ですぅー!!!」


「チェン、これはマジだぜ。いつもの間延びした感じにも、勢いを感じるぜ……」


イリスから聞いた《拷問者(トーチャー)》の能力はノーマルと比べても圧倒的に強いと言うわけでもなく、ハッキリ言えば弱いものだ。

バラエティーであると言うだけ確かに特殊であるが、それを見ても能力は低すぎる。

ハッキリ言えば、攻撃力はあるがそれ以外が低すぎるなど使えないものだ。


「えっと……そのアンバランスな能力な上に、転職が不可能って」


「どんな罰ゲームなんだよ…………」


「もうバラエティージョブなんかじゃなくて……」


「その特徴からして……」


「「……呪いだよなぁ……」」


呆れた顔でイリスを見る僕とキング。

イリスも心底嫌そうな顔をしている。

イリスが言いたくないのも分かる。こんなアンバランスな職業はじめて見た。

そりゃ、見られたら恥ずかしいだろう。


「とりあえず、自己紹介がおわったなぁ」


「そうだね。これで戦闘配置も決められるね」


「だがよ……これって」


「うん……イリス以外がほぼ前衛。しかも補助職業ナシ」


「回復ナシ、支援ナシの命綱ナシ状態かよ……笑えるわ」


「全然笑えないよキング。でも、とりあえずはこれで戦闘は大丈夫だね。回復も支援もナシだから、作戦は【命を大事に】だね」


「いや、まだ解決してない問題があるぞ」


「ん?なんかあったけ?」


「それはなぁー、未だに戦い方がわからないってことだよ!!どうやったら武器使えんだよ、どうやったら魔法使えんだよってことだよ!!!」


「あ…………」


すっかり忘れていた、戦闘そのものの事に間抜けな声を出すことしか出来なかった。

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