3話
各自名前の把握が完了し、これからの方針を決めることになった。
方針、大雑把に言うならばここから元に戻るための情報採取だ。
しかし、それを行うにはいささか問題がある。
それは…………
「んで、これからどうするかだが……まずここどこだよ?」
そう、ここの場所が分からない今動くに動けない。
どちらが西で、どちらが東なのかも、どちらに町があるかも、どこに人が居るかも分からない。
そんな中で、適当に動けば下手したら遭難だ。最悪、餓死なんかもあり得る。
下手には動けない……。
「はぁーいぃ~、WOFの中だと思いまぁーすぅ~」
「アホか!んな訳ねぇー、とりあえず日本のどこら辺だろうな?」
「えぇ~、絶対WOFの中ですよぉ~」
ブーブーとブーイングを出すイリスに「鬱陶しい!」っとあしらうキング。
「……日本は無いと思うよ、僕は」
「何でだよ!?まさか、チェンまでWOFの中だと言うつもりかよ!」
「違うよ、そうじゃない。実は、日本の草原率ってのは0%なんだよ。つまり、見渡す限り草原で山すら見えないここは、日本な訳が無いんだよ。だから、多分ここは外国かもしれない……」
「マジかよ!俺、自慢じゃないが英語なんかしゃべれないぞ!!」
「大丈夫。僕も同じだと思うし」
「うぅ~。めんどくさいですねぇ~、WOFならこの辺を押せばピローンってぇ~」
そう言うと、イリスは右下の空間をまるでボタンでも押すかのようにタッチする。
「ほぉ~?これってぇ~メニュー?」
虚空を見つめ、首をかしげるイリス。
「もしかして、何か見えるの?」
「はいぃ~、メニューが見えますぅ~」
メニュー?それはもしかして、WOFのようなやつだろか?
だとしたらそれは……
どうやったいた?どうしてメニューが見えるのだろうか?
確か……『うぅ~。めんどくさいねぇ~、WOFならこの辺を押せばピローンってぇ~』って言って。
僕は、イリスのやっていた行動を一つ一つを思いだしながら動く。
右下辺りに手を添え、ボタンを押すようにタッチする。
ピローン
軽快な音と共に目の前に半透明の液晶が現れる。
液晶に写るのはよく見慣れたものだった。そう、WOFのメニューそのものだったのだ。
上から順に、
・ステータス
・スキル
・装備
・アイテムストレージ
・フレンドリスト
・その他
の6項目だ。
僕は、とりあえず一番上から確認してみることにした。
ステータスをタッチする。
【ステータス】
《ジョブ》召喚魔術騎士《サブジョブ》魔法道具製作者
Lv :76 《ギルド》ーーー
そこには見慣れたステータス画面。
細かく育てたキャラクター情報がまるまる載っていた。
液晶を閉じてメニューにもどり、装備をタッチする。
【装備】
《武器》ブレードロット:戦女神の片翼
《鎧・上》ローブ:隠者の魔術法衣・上
《鎧・下》ローブ:隠者の魔術法衣・下
これまた、見慣れたものだった。
すぐに液晶を閉じて、次々と見ていく。
大体は自分の使うWOFのアカウントと同じだったが、アイテムストレージが空っぽだったのとフレンドリストが【餃子王】のみになっていた。
そして、最後の項目のその他をタッチした。
その他には、メモリー表示設定のみが点滅しており、それ以外は全て黒く消えていた。ログアウトの項目もだ。
そして、全てを見終わり考えをまとめる。
ここへ来る前にやっていたWOF 。
日本ではない場所。
メモリーの表示とWOF内の情報。
全てを考慮に入れ導き出した結論は、否定したいもの。
そう、ここはWOFの中の世界。そんなふざけた結論である。
最初から気付いていた、しかし認めなくなかったこと。ゲームの世界なんて言う非現実。意味不明なこの状況。しかし、結論が出てしまったのだ。
顔を上げ、キングやイリス、紅夜叉を見ると各々のリアクションをしている。
キングは、信じられないという表情で。
イリスは、どこか楽しげで笑みがこぼれている。
紅夜叉は、どう思っているかまるで分からない。ただただ空を見ている。
「あのさ、これってやっぱり……WOFだよね?」
「あぁ……つまりはここは…………」
「WOFの世界ってことだねぇ~♪」
認めなくないと言うような声と信じられないと言うような声、楽しくて仕方がないと言うような声が各々から出て、不協和音を奏でていた。