表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂喰  作者: 仲島香保里
5/35

神吉 ゆづな(5)

 今、一番したいこと?そうね……やっぱり、遊びたいわ男の子と。

 さっきも言ったけど、体育会系のがっしり体型じゃなくて、線の細い、普通の中肉中背の体型の子がいいの。顔も整ってるのにこしたことはないけど、髪を明るく染めて、派手な服着て派手なアクセサリーをつけるような軟派な子はちょっと……ね。お話ししても話が合わなさそうだし。あとは話し方かな。乱暴な言葉遣いは嫌よね。女性みたいな綺麗な言葉とは言わないけど、ある程度は丁寧な言葉を使ってくれる子がいいな。

 あ、浮気はされたくない。一途な子がいいわ。んー、プレゼントとかは特にいい。一緒にいてくれて、楽しくお喋りできたら幸せよ。スポーツ万能青年よりも文学青年がいいな。上品な感じの。飾りっ気のない自然な感じの子がいいわ。あたしには、素でいてほしいの。

 でね、デートでやりたいことがあるの。テニスとかボウリングとか、スケートとか、一緒に運動をしたいな。運動が苦手な子なら、ピクニックかハイキングがしたいの。たくさん歩いて全身の筋肉をほぐしてもらって、美味しい食事をして全身にいい風味を行き渡らせてもらうの。そうするとね、運動も何もしていないときより柔らかくなるのよ。何も食べなかったら、何となく風味が弱いの。あ、油物は控えるようにしてもらってる。霜降りがあるところに脂がついちゃったら、ますます食べるところ減っちゃうじゃない。だからね。

 え?今更何言ってるの?あたしが好きなお肉って、「男の子」よ、当然じゃない。

 ――あぁ、思い出したわ。あの時三人の男の人に囲まれたときに言われた言葉――

 ***さんのさつがいようぎでたいほしますって言ってたわ。

 殺害容疑で逮捕。殺害容疑って、あたしが、あの人達を殺したって言いたいのよね。そうじゃないのに……

 あたしはね、喰べたのよ。ただ喰べたの。みんなだって、牛や豚や鶏を食べるときに、「殺した」って言い方しないでしょ?牛肉を食べる、豚肉を食べるって言い方するでしょ?それと同じよ、ヒトだってね。

 どうして動物だと「殺す」じゃなくて「食べる」なのに、ヒトだと「殺す」なのかしら。牛や豚や鶏を食べるためには殺さないといけないのよ。ヒトも同じよ。喰べるために殺すの。根本は同じよ。一つの命を奪って喰べる。喰べるからには、ちゃんと感謝と愛をもって喰べてあげればいいのよ。あの「いただきます」って言葉は、「命をいただきます。ありがとう」って意味よ。あたしだって、動物を食べるとき――ううん、他のもの……野菜を食べるときだって、もちろん、あの人たちを喰べるときだって、「いただきます」って言ってたわよ。牛や豚もそうだけど、ヒト一人も、あたし一人で一体全部は喰べられないのよ。だけら、部位を決めて、その部位は綺麗に切り取ったわ。決めた部位じゃないところは、手をつけずに、綺麗に残しておいた。喰べないのに、汚くぐちゃぐちゃに残すなんてお行儀悪いでしょ?選んだ部位にぴったりのお料理を決めて、残さずに食べたわよ。それが命をくれたものに対する礼儀だもの。美味しかったわよ、どのヒトも、どの部位も、どのお料理も。

 人数?あぁ覚えてないわね。だって今まで牛を何頭分食べたかなんてわかる?

 でもね、あたしにとってヒトのお肉って、家畜から切り取ったお肉とは比べ物にならないものなのよ。高級かどうかじゃないわ……それを言い表す言葉も見つからないの。強いて言うなら――そうね、どんな汚いことも醜いことも全部洗い流されるような清々しいもの、神々しいもの――そういったものね。

 牛や豚や鶏のような家畜なんて、ヒトほどいいもの食べてるはずがないもの。美味しいものを食べてると食べてる本体も美味しくなるのよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ