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狂喰  作者: 仲島香保里
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咲本 習(4)

 昔――まだ子どものころにね、母親が昔話を聞かせてくれたことがあって。今昔物語だったかな……?

 町の隅で、ウナギを売っている女の人がいて、当時は珍しいし、高い値段がつくんだけど、安く売ってたんだって。で、お屋敷のお遣いで来た人が、ご主人さまに食べさせようと思って、ウナギを買ったの。家の人はみんな美味しい美味しいって食べた。何日か経って、またウナギを売っていた女の人を見かけたんだけど、前と同じカゴを持っていて、何故か山に入っていく。なにかおかしいと思ってついていくと、女の人は山で捕まえたヘビをぶつ切りにしていた。家の人が食べたのは、ウナギじゃなくてヘビだった――そんな話。

 それを聞いたときは子どもだったから、うぇーって反応しかしなかったと思うけど、家の人が気付かなかったくらい美味しいものなのかなってだんだん思うようになった。

 ちょっと大きくなったときに、母親に、ヘビって美味しいの?って聞いたことがあってさ。そしたら予想外のことを言われて。

 鶏肉に近いみたいよって言うんだよね。食べたいって言ったら、売ってないよって言われてさ。それからは、母親にも言わなかったけど、一度でいいからヘビをたべたいって思うようになっちゃって。鶏肉に近いなら、料理もしやすそうじゃん?

 でね。ついにたべることができたの。高校一年のときだった。

 家族でキャンプに行ったことがあったんだ。で、親戚の子と山とか川で遊んでたら、大きなヘビがいて。たぶんアオダイショウだったな。親戚の子は悲鳴あげて逃げちゃってさ。でも私は、このチャンスしかないんじゃないかって思ったんだよね。大学生になったらなかなかキャンプってできないかもしれないしね。

 そのときは、とりあえずヘビを、持ってたビニール袋に入れて隠しておいた。逃げちゃった親戚の子と家族のとこに戻って、普通に飯盒炊爨でご飯炊いて、カレー作ってみんなで食べたの。でも、そのカレーの味もわからなくって。捕まえたヘビのことで頭一杯だった。

 夜、皆疲れて寝ちゃった後にね、一人でテント抜け出してヘビのとこに行ったの。袋が破れたりしてなくて、ちゃんとヘビは中にいた。

 心臓がドキドキして、今まで経験したことがないくらい緊張してた。持ち出した包丁で、ヘビの頭を切り落として、昔話で聞いたようにぶつ切りにしたんだ。枯れ葉とか小枝を集めて、ライターで火を付けた。ぶつ切りにしたヘビをこれも持ち出してきた金串に刺して焼いたの。

 しっかり焼いて、塩もソースも何もつけずにたべたの。

 母親の言っていた通りだった。コリコリして、味は淡白だったけど、本当に鶏肉みたいだった。味付けをしなかったから、美味しいとは言えなかったけど――

 ヘビをたべたんだっていう感動は本物だった。

 みんなが忌み嫌う動物をたべる。

 店で売られていない、調理されもしないものをたべる。

 この感動ってね、映画や本で得た感動とは違うんだ。だって、誰かに言っても、たぶん共感はしてもらえないしね。それに、映画ならDVDを買えばもう一度観れるでしょ。同じものを繰り返し観たら、だんだん最初の感動は薄れていく。けど、味覚はそうじゃない。例えば、今すぐ珈琲の味を思い出してっていわれても、できないでしょ?人間の舌は、一度味わった味は、もう一度同じものをたべない限り思い出すことができない。

 本当、よくできてるよね。

 人間って、美味しいもの、ゲテモノをたべるために存在していると思ってる。

 だから「たべる」ってことはね、その都度その都度感動が味わえるんだよ。

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