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やられ役である魔王が本気で勇者を撃退してみた。

「ステータスオープン」


 自分以外に誰も居ない広々とした玉座の間にて、どこか焦燥に駆られたような声が寒々しい石の壁に反響して木霊する。

 自分の声なのだが、心の内が如実に現れているのか普段より震えて聞こえるから自分の声には思えない。

 すると、自分の目前に1メートル四方程の透明なプレートが突然現れた。


 その透明なプレートに表示された数字やらなんやらは見慣れた物であるため、わざわざ表示するまでもなく暗記してはいるのだが、表示されている数字等が増えないかと、悪あがきのごとく何度も見直してみる。

 無論、その表示が変わることなんてないのだが。


名前:ジョニー・ダークランド

性別:♂

種族:魔族

職業:魔王

年齢:202

生命力:35000/35000

魔法力:40000/40000

筋力:321

敏捷:382

耐久力:270

魔力:758

魔法抵抗:652


武器:魔王の杖

防具:魔王の服


 表示されている物はやはり変わっていない事に落胆する。

 ステータスは魔王の名に恥じない凶悪な物であると自負してはいるのだが、あの化け物達の相手にこれだけじゃ心許ないのだ。

 なにせ、自分より生命力が高いとある将軍は、ステータス的に遥かに劣る勇者達の手にかかって倒れてしまっている。

 そして、最悪な事にその勇者達は刻一刻とこの魔王城へと迫っているのだ。

 本来ならば小細工などせず、勇者たちが来た時に悪役らしく堂々と『よく来たな勇者達よ、さあかかってこい!』とでも言えばいいのだろうが、そんな無策で身体を晒す事なんて心配性な自分には到底できそうになかった。


 大体おかしくね? 何で勇者達はバランスのいい4人で自分に向かってくるのに、自分は1人で立ち向かわなくてはいけないんだ? 古くから魔王の側近として使えている爺に理由を聞いてみても『伝統ですので』の一辺倒だ。

 古い伝統に縛られていちゃ新しいことは生み出せないよ? 男なら古臭いルールに縛られずに暴れてみせろってんだ!


 いや、愚痴を延々と続けるだけじゃ時間がもったいない、時間は有限なのだ。時は金なり、この場合むしろ命かも知れないところがなんとも世知辛い。

 部下から渡されたまま放置していた報告書を、溜息を吐きながら手にとってみる。

 流し読みで重要そうなところだけを読み取ると、勇者たち一味は4人構成で、勇者、戦士、魔法使い、僧侶、となっているらしい、そんな事はとっくに知っとるわ!

 怒りのまま報告書を前方に投げつけるが、空気の抵抗にやられて大した距離を飛ばなかった報告書の一枚がひらひらと宙を舞い、自分の顔にぶつかってきた。むかつく。


「どうすればいい……、どうすればいい……?」


 貧乏揺すりをしながら考える、このまま一人で迎え撃ったら倒れるのは自分の方だろう。

 うまくいって勇者たちを倒せたとしても、奴らは不思議な力で所持金の半分を生贄に、何事もなく近くの人間の街で生き返るのだ、化け物すぎる怖い。

 しかも、現在の力で自分に勝てないと知った勇者たちは、策を練り、格下の魔族の同胞を狩り、その血で更に強くなって戻ってくる、ホラーすぎる。悪魔だろ。魔王より魔王してるって絶対。


「詰んでるだろこれぇ……」


 若干涙を含んだ情けない声が玉座の間に虚しく木霊するが、それを笑うものも、慰めてくれるものもこの場にいやしない。

 どうにか出来ないものか、誰も手を貸してくれない状況に胃が痛む。


「かくなる上は……」


 魔王の矜持などかなぐりすてて、醜く生き残ってやる、この戦いが終わったら故郷の幼なじみにプロポーズするんだ!











「とうとうここまで来たな……。アリューゼ、メルカ、リボン、今までありがとう」


 今まで何度も死にかけた事があったし、実際何度も死んだりした。だが、ここにいる仲間たちのお陰でこうして最後の戦いに望む事ができる。

 俺の感謝の言葉を聞いた、仲間たちはそれぞれ違う仕草で俺の思いに答えてくれた。

 戦士アリューゼは笑いながら、まだ早ぇよと言って俺の背中を叩いてくれ、魔法使いのメルカは顔を若干赤くしながら、別にアンタの為にここまでやってきたわけじゃないわ、と憎まれ口を叩く。そして、僧侶のリボンは花が咲いたような可憐な笑みを浮かべたまま静かにこちらをみつめている。

 この素晴らしき仲間たちのお陰でどんな苦難も逆境も乗り越えてきた。だからきっと、この最後の戦いも笑顔で乗り越えられることだろう。


 意を決し、旅の終着点である魔王城玉座の間の扉を開け放つ。


「よく来たな勇者達よ、さあかかってこい!」


 玉座の間に足を踏み入れた直後、大して特徴の無い声があたりに響き渡る、若干声が震えていたような気がしたのはきっと気のせいだろう。


「悪逆の限りを尽くす魔王ジョニーよ、お前の命もここまでだ!」


 俺は前から考えた口上を叫びながら、大した特徴のない魔王へと飛びかかろうと一歩踏み出した。

 途端、全身から力が抜けるような感覚と、痺れるような痛みを感じ、足元を見る。


「なっ! ダメージ床だと! 卑怯だぞ魔王!」


 なんて事だ! 先程までは魔王に気を取られて気付かなかったが、玉座の間の床一面は魔王の居る玉座周辺以外がダメージ床となっていたのだ!


「ふははは! 馬鹿め! 大体1人相手に4人で来る方が卑怯だろ! ばーかばーか!」


 何おうっ! 安全地帯でふんぞり返っている魔王が笑い声を上げる。

 どうしたものか、と足元に気を取られていると、リボンの悲痛な声が辺りに響き渡る。

 今度はどうしたんだ?


「勇者様! ステータス低下の魔法をかけられています!」


「くそっ! どこまでも卑怯な奴だぜ!」


 アリューゼが忌々しそうに、言葉と一緒に唾を吐き捨てる。


「おい! 人の家で唾を吐くな! 他の人の気持ちになって考えてみろって親に教わらなかったのか!」


 魔王が地団駄を踏みながらアリューゼに対して憤怒の叫びを浴びせかけるが、それを無視して仲間へと声をかけた。


「リボンはステータス低下の魔法を解除して、ステータス向上の魔法をかけてくれ! メルカは魔王へ魔法で牽制、アリューゼを俺と一緒に魔王の元へいくぞ!」


 指示を受けて頷いた仲間たちを確認し、俺とアリューゼは魔王の元へと肉薄する。一歩踏み込む度に痺れるような痛みが全身を駆け巡るが、魔王の近くに行くまでの辛抱だ。

 大した間もなく、リボンが身体強化の魔法をかけ終えたのか全身に力がみなぎるのを感じる、そして魔王の元へと駆ける俺達の背後から炎の矢が魔王へと向かい飛んで行った。メルカの魔法だ。

 炎の矢は寸分違わず魔王の胴体へと直撃したように見えたが、直撃する直前に炎の矢は方向転換し、来た道を戻るようにメルカの元へと飛んで行く。


「きゃあ!」


「魔法反射の結界だと!? 大丈夫かメルカ!」


 思わず振り返ってしまった俺とアリューゼだったが、その隙を魔王が逃すはずも無く、突如現れた突風に吹き飛ばされてしまう。

 ダメージは無いが、魔王との距離を離されてしまった事に歯噛みする。またダメージ床の上を進んでいかないといけないのか……。

 ちらりと横目で確認すると、メルカはどうにか避けられたようだが、服の裾が少々焦げてしまっていた。

 このままだと近寄ることすらままならず、いずれダメージ床の上で果てる事になってしまうだろう。魔王め、噂には聞いていたが狡猾な奴だ。


「くそっ、小細工を!」


 作戦を変えるかと考えを巡らせていたのだが、頭に血が上ったアリューゼが起き上がるなり魔王の元へと駆け出そうとする、すると、一歩踏み出したアリューゼの着地した床が突如消失する。


「落とし穴だと! あーれー!」


 間抜けな声を上げてアリューゼは底の見えない穴へと落ちていく。

 くそっ! アリューゼ! このままでは分が悪い、一旦後退しようと、玉座の間の扉を開けようとするが、がっちりと固定されてて動かなかった、こっちの考える事はお見通しって訳か!


「まおうからはにげられない!」


 馬鹿にしたような声で魔王が鼻で笑う、同時に再び身体から力が抜けていくのを感じる。


「勇者様! またステータス低下の魔法をかけられました! このままではイタチごっこになって……きゃあ!」


 悲痛な表情で訴えかけるリボンだったが、喋っている途中に魔王から火の矢が飛んでくる。

 間一髪で俺はリボンに向かった火の矢を叩き落としたが、また一歩踏み込んでしまったせいで痺れるような痛みを感じ、つい膝を折ってしまった。


「助かりました、ありがとうご……きゃあ!」


 お礼を口にしようとするリボンの元へ再び火の矢が飛んでくる、間に合わないかと思ったが、立ち直ったメルカが火の矢を打ち出して相殺、事なきを得たようだ。

 しかし、状況は依然として最悪。

 魔法反射の結界により、最大火力であるメルカは使えない、今のように魔法の相殺はできるだろうが、魔王相手じゃジリ貧だろう。

 こうなったら、俺が特攻して短期決戦で魔王を討ち取るしか無い。

 俺はその旨を二人に告げると、二人は俺を信じてくれたのか、任せてくれと神妙な顔で頷く。

 身体に残ったダメージを消すために、懐から薬草を取り出し咀嚼して駆け出す。


 魔王は執拗にリボンを狙い魔法を放ってくるが、その全てをメルカが撃ち落としてくれている、俺は俺の役割を果たすために魔王へと肉薄する。


「くっ、しぶといな……。しかも各所に配置した落とし穴を全部避けるとは、流石勇者だ、運がいい」


 魔王はこめかみをひきつらせながら油断なく杖を構えた。

 魔王の居る安全地帯へと駆け抜けた俺はそのまま一足で魔王へときりかかるが、魔王の構えた杖と鍔迫り合いの形となる。

 俺の剣閃を巧みに杖で防ぎながらも、リボンへと向かって器用に魔法を放つ魔王。

 だが、俺が攻撃を繰り返す度に、魔王の身体へ細かい傷が刻まれていく。


「っく、流石勇者よ……。だがお前の仲間達はもう限界のようだぞ?」


 魔王と撃ちあうことに集中していた俺は、その言葉を聞き驚愕する、既に長い間撃ちあっていたようだ。

 急いで振り返ると、そこには倒れ伏したメルカとリボンが居た。


「メルカ! リボン! おのれえええ!」


 剣を握る手に力が入る。

 魔王が笑いながら瀕死の二人に魔法を放とうとするが、俺はそれを気にすること無く魔王の身体を袈裟斬りにする。


「えっ!? 助けようともしないのかよ! ぐはぁっ!」


 斬撃を受けながらも放たれた炎はメルカとリボンを包み込んでいくが感傷に浸る時間などない、大きな一撃を貰いよろめく魔王へと向けて剣を翻す。


「彼女達は犠牲になったんだ! 彼女たちが気にせず魔王を倒せと訴えているのが俺にはわかった!」


 俺は涙を流しながら叫び、魔王の身体に剣撃を加えていく。

 それに、何度でも蘇るし大丈夫だろう。多分。


「これはアリューゼの分!」


 横へ一閃。

 魔王の身体が再びよろめく。


「あいつは落とし穴に落ちただけ……ぐふっ!」


「これはメルカとリボンの分!」


 更に剣を翻し横に一閃した後、魔王の腹部へと剣を突き入れる。


「あいつらはお前が見殺しに……くはぁ!」


 魔王は1歩、2歩とよろけるように後退する。

 ふっ、正義は勝つのだ。


「これ、が勇者か……、噂に、違わ、ぬ化け物っぷり、よ」


 息も絶え絶えに、崩れ落ちるように魔王が膝をついた。

 その首元へと剣を向けて最後に問う。

 この言葉もずっと前から言ってみたかった。 


「終わりだ魔王。最後に言い残すことはあるか?」


 その言葉を聞き、魔王はどこか自嘲気味に笑うと懐から小さな薬瓶を取り出し嚥下する。

 勇者に倒される事を良しとせず、自害を選ぶとは。おまえは大した奴だったよ魔王、お前とは生まれた立場と時代が違えばいい仲間になれたかもな……。


「ふーははは! 馬鹿め! その油断が命取りよ!」


 突如魔王は大声を出して笑い出すと、確かな足取りで立ち上がる。

 何っ、あれはまさか毒薬じゃなく……!


「ふふふ、魔王が回復薬を使ってはいけないなんてルールは無いのだよ! さて、貴様一人となれば後はどうとでもなる」


 不敵に笑う魔王をどうする事もできず、俺は無言で斬りかかるが、リボン達の相手をする必要がなくなった魔王は強かった、一太刀も浴びせる事が出来ないまま俺は膝をつく。

 ここまでか、次は分断されないように4人で戦わなくては勝てないな……。


「ふっふっふ、観念したか。いや、次の作戦を考えているのかな? それならば無駄だ」


 魔王はどこからともなくロープを取り出すと、俺の身体を丁寧に縛っていく。

 意図が読めない……、今まで殺されることはあっても捕らわれる事はなかった。


「何が何やらわからないって顔をしているな? ふふ、そうだろう。これは自分が考えに考え抜いて思いついた方法、名づけて『殺さなければ復活しないじゃない』大作戦だっ!」


 何だそのネーミングセンスは! 俺は背筋が凍るのを感じた。


「これから貴様は、年を取り老衰するまで地下牢で暮らすことになるのだよ。よしんぼ老衰で死んだとしても、老いた身のお前などどうとでもできるからな!」


 ゆうしゃはめのまえがまっくらになった!

練習用の短編です。

ゲーム等では縛りプレイでもさっくり倒されてしまう不憫な悪の親玉が最初から本気でかかってきたらどうなるかという事を妄想して書いてみました。


どうでもいいですが、アリューゼ君は必要なかったかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章力を気にしているということで1つ思ったのは「。」が少ない事でした。内容は割と好きでした。
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