5.
「ぎゃ、―――!痛い、痛い、痛い、痛いって言ってんだろうが――!!!」
最後のレオの怒号の声でその集団はレオのいることに気づいたのか、静止していっせいにこちらを向いた。
(え・・・そんないっせいにこっち見ないでほしい・・・てか、この人たち何!!こわっ!)
その集団は何故か頭から、きらきらした装飾をした黒いレース状の布をかぶって顔が見えないようにしていた。皆がレオを見ているのは視線でなんとなく分かった。
しかも着ているものも、何故か皆黒地。それにそのレース状の布と一緒できらきらとしている。かなり怪しい集団だった。
まるで、占い師のような感じがした。
(それにしても、俺すっかり忘れてたわー・・・この体質・・・)
自分の体質に落胆しながら、さっき光が言いたかったことがやっと分かった。
(これのせいで、光は俺のこと心配してたのね・・・悪い事したなあ)
そう思いながら、この占い師集団を、見ていた。
(てか、離してくれないだろうか・・・)
今は、止まっているので、曳きづられる事はないが、片方の手とベルトが何故か、この集団の中心の荷車に引っかかっている。
(どうやったら、あの短時間で引っかかるんだ!)
そう思いながら、はずしたいが反対の手は、何故か、本当に何故か、その集団の一人に手を握られている。
(本当に、なーぜー??)
それは多分、この体質が巻き起こしたミステリーだったりする。
(本当にこの体質何??)
そう、言いたくなる。
「ああ、すまなかったね。まさか、人が曳きづられてるとは、思わないから」
そう、そうとそこにいた、人たちが一応に頷きながら、レオの挟まった腕とベルトをはずしてくれた。
「いや~ありがとうございます。助かりました。」
そう、レオが言うと、
「何、こっちが曳きづってしまったからね」
にっこりと、布の中から朗笑する様子が分かった。
思ったより、怖い集団ではなかったことにレオは安堵した。
「レオー!」
遠くから、光の焦ったような声が聞こえてきた。追いかけてきてくれたのだろう。そう思いながら、光の元へ走っていこうとしたら、
「ちょっと待ってくれない?」
そう言って、その布をかぶった人が、
「人質にするのにちょうどいいからね」
そう言って、レオの白くて細い首先に、鋭く光る短刀で切りつけてきたのだった。
「へ?」
一瞬の出来事で、レオは警戒する暇がなかった。何故か、この人物からも、殺気というものが出ていなかったからもある。けれど、今は、恐ろしいほどの殺気が、この集団からわざとのように出ている。
(?)
おかしい、そう、レオは思ったが、この人物たちは、光を狙ってきたのだろうか。確かに殺気が出ている。それは、恐ろしいほど、周りの黒い集団も殺気を放っている。
レオは首先にある鋭い短刀を見つめながら、今の状況を把握する。周りにはかなりの数の黒い集団がいる。
ここは、どうやら人の来ない裏路地。
いつの間にか、こんなところまで曳きづられて来ていた。
光を取り囲むように、黒い集団がいる。手には、黒服の下から取り出したのだろう、鋭い細身の剣を握って光に向けている。
それに反して、光は、何ももってはいない。
そうだ、守る武器など、レオたちには持っていないのだった。いきなりこちらの世界に来たのだから。
「さあ、さあ、さあ、皆、そこの人をやっておしまいなさい」
楽しそうに、レオの首に短刀を突きつけながら、いかにも悪役の台詞をはいた。
(やはり、光を狙う奴だったのか・・・!)
レオは苦虫を噛むように眉を顰めた。
(まんまと罠にはまってしまったか!)
そんなことを考えながら、次の対策をとろうと考える。するとどこからか、地を這うような声が聞こえてきた。
「・・・レオを・・・離せ・・・」
レオはどこから聞こえてくるのか、視線をめぐらせる。
(あれ?気のせいか??)
そう、そんな声、聞いたことないので、気のせいと思ったレオだったが、
「レオを傷つけてみろ、お前ら、全員っ(殺すぞ)・・・!」
「・・・」
光が、ありえないほどの殺気を放ちながら、威圧的に、黒い集団を睨んでいる。
(あれ・・・?あれ、誰・・?!なんか物騒な言葉が聞こえたような気がしたぞ!)
いつものふわふわした柔和な表情などどこにもなく、そこには、鋭いほどの蒼天の瞳をした光の姿があった。見えない圧力、たぶん王の持つ威厳に似た圧力に、圧倒されて、周りの者たちもたじろいだ。もちろん、レオの首に短刀を当てていた人物も、微かに切っ先がそれた。それを見逃すレオではなかった。
なんたって、人生こんなの日常茶飯事。
自分で言っていて悲しくなるが、こんなの避けるのおちゃのこさいさいだったりする。言い方はかなり古いが、これでも、日々危険と隣り合わせの、巻き込まれ人生を送ってきていない。
レオは、ひょいと、自分に短刀の切っ先を向けていた人物から軽々と抜けて、後ろに回りこむ。首の後ろをトンとたたくと砕けるように、気絶させて、周りを見まわす。
「光、俺大丈夫だから」
そう言って手を軽く振る。
その、軽やか過ぎる身のこなし方に、そこにいた者たちが唖然としていた。
その隙を突いて、レオは淡々と、黒い集団を倒していく。レオは腕力はないが、日々巻き込まれ人生で身に着けてきた、人の急所を付くことによって、相手の動きを止めたり、気絶させることができるようになったし、あのツインズがレオに面白半分で、襲ってきたのを撃退することによって、身に付いた身のこなしが結局はレオを守ることに役立ったのだった。
(今思えば、実践的に合気道など武術系や、生きるための事を教え込まれたんだよなあ・・・)
何気なくあのツインズが教え込んできた。面白半分のように見えたが、実際はそのことによって、かなり役に立っていた。
(そう考えるとあいつらが、師匠か?!)
それはそれでいやだなあと、思うレオだったが、かなり感謝している。たとえその実践的なことが、死の淵や貞操にかかわる危険的なことだったとしても。
(あいつら手加減というもの知らないから、笑いながら、本気でかかってきてたもんなあ・・・)
そう思いながら、恐ろしい日々を思い出して少々身震いがした。
そして、光の方を見ると、意外なことに、レオと同様に、敵を倒して行っている。
その姿は舞を待っているようだった。
(どこまでも、かっこいい奴だなあ)
そんなことを考えながら、黒い集団全員倒した。
「終了!」
レオが空に向かって終了の合図を掲げたころには、地面に黒い集団は伏していた。
「レオ!怪我とかない!!」
慌てたようにレオのそばまで来た光がレオに、怪我がないか聞いてくる。
「おう!怪我ねーぞ?光の方は大丈夫か??」
レオはそう答えると、光にも聞いてみる。
「ああ、俺のほうも大丈夫だよ」
ほっとしたように、朗笑する姿に、先程までの危うさが跡形もなく消えていた。
じーっと食い入るようにレオは光を見ていたら、
「何?レオ??」
不思議そうに見てきた。
「いや、さっきと別人だなあと思ってさあ」
その言葉に、
「え?あっと、やっぱり・・・友達傷つけられそうになったら、怒るよ・・・!」
照れくさそうな光の表情に、
「光って、かわいいなあ」
ぽそりと呟いたのだった。
その、突拍子のない言葉に、光は
「え?え?俺かわいいって言われたことないよ!どちらかというとレオのほうが断然かわいいから!」
必死に否定してくる光をやはりかわいいと思う。
「いや、俺はかわいくないけどさあ!なんていうか、こうぎゅーっと抱きしめたくなるというか・・・。けど、さっきはなんかすっげーかっこよかったぜ?それに、光って結構強かったんだなあ・・・ちょっと意外・・・」
レオの言葉に複雑そうな表情をしながら、光は、柔らかく笑っていた。
「レオもかなり強かったね。意外というか、やはりというかなんというか・・・」
その、歯切れの悪い言い方に、
「どうせ、この体質と、兄ちゃんSに鍛えられたよ。」
そう、あきらめたような溜息をつきながら、レオは吐き出すように呟いた。
その時、後ろで、レオによって最初に気絶させられていた、あの短刀を持った人物が身じろぎしたことに気づかなかった。
「レオ、ここを離れようか。人が来たらある意味大変だから・・・」
この大量の人が倒れていることに、不振がられるというか、捕まるだろう。
「そうだな」
そう、呟いて、動き出したレオに光が何かに気づいたのか、大きく声をかける
「レオ!」
先程倒れていた短刀を持った人間がレオめがけて迫ってきていた。
光は、レオをかばうようにして、いつの間にか手に持っていた剣で、受け止めていた。
「へ?」
レオは、吃驚した表情で、光の腕の中から、光と剣を交互に見る。
(ちょ!光って、いつ剣持た?)
しかも、造りがこの倒れている集団が持っていたものと比べ物にならないくらい精巧に作られたものだった。何か、見えない力のあるそういったもののように見えた。
剣で短刀を弾く音がした。光が相手の剣を弾いたのだった。
相手は、その剣を見たと同時に、光から退き、
「は?」
「え?」
二人はこの張り詰めた空気に似合わない間抜けな声を上げてしまった。
その黒装束の人は膝を突きながら、深く頭をたれてきたのだった。その姿は光に忠誠を誓っているかのように。
「まさしく、その剣は、王位継承者の証。コウレイス・ラックワ・エスティース様。数々のご無礼お許しくださいませ」
二人はこの状況が理解できなかった。警戒は解かずに、光がどうしたものかと尋ねた。
「あのー・・・」
「ああ、申し訳ありません!何分十年前のことですし、コウ様が、どのような姿をしているのか分かりませんでしたので、襲撃させていただいて、その剣を使うところを、見るはずだったのですが、思いの他、コウ様とそちらの方が強かったもので、その剣を使うまでにはいたらなかったのですわ!」
「うわー!すげー迷惑―!」
あまりのことにレオが吃驚したように言う。
「しょうがないじゃありませんか!大体この辺に王子が現れると、占術で、でましても、実際、どなたか分かりませんし、いきなり、『王子ですか??』なんて聞いてみなさい。一気に、この辺にあいつらが来てえらいことになりますわ!」
「関係ない人だったら、どうしたんだよー」
レオが呆れ気味で言った。
「もちろん殺気は本気ですが、人を傷つけるつもりなどございませんでしたもの」
あっけらかんとして言い放つその人は、どうやら、口調から女の人のようだった。
(はて?先程捕まっているときは、男の人のようだったはずだが・・・?)
そんなことを考えていると。その人が、フードを取った。
「お久しぶりです。コウ様。私くしドーラスです」
「え?」
「あ・・・」
目の前にはレオたちが今から会いに行くはずだった人物がいた。
「ですので、先程から、発している殺気をしまってもらえませんか?王子?」
美しい白銀の髪を後ろで束ねた美しい人がいたのだった。
「うっひゃー。美っじーん!」
レオが思わず感嘆の声を漏らしていた。
「あら、いい子じゃない?あなた!」
そう言って、レオに抱きつく。
そんな様子を、光は鋭く睨んで、ドーラスに牽制しながら、
「お久しぶりです・・・ドーラス」
けれど、どこか光は顔が引きつっていた。
「?どうしたんだ?光??」
「ふふふふ」
どこか楽しそうに、レオを抱きしめながら、ドーラスが光を見る。
「コウ様の大切な方のようですわね!それなら、今晩お相手願いますか?」
いきなり、そのドーラスが紫紺の瞳で、見つめてきた。
「な!」
光が、声なき声で叫んでいる。
レオはこんなきれいな女性に、迫られたことなど皆無だったので、頬がだんだんと赤らんでいくのが分かった。
「へ??」
「あら、初々しいわねえ」
そう喜々と笑いながら、レオの頬を、長くきれいに色をつけた爪で、触ってくる。
「えらくかわいいお嬢さんだわ~」
そう、言ったのだった。
「・・・。・・・。・・・。あのー、ドーラスサンは、オンナの人が好きナンデスカ?」
レオの言葉がいきなり片言になっていたので、ドーラスは不思議に思いながらも
「ええ、大好きだわ~」
「じゃ、俺は期待に添えません!俺、男ですから!!!」
男というところを強調しながら、レオはドーラスを見た。
「あら・・・男の子だったの・・・まあ・・・」
吃驚したようにレオを見る。
「まあ、けど、男の子でもいいわ!」
レオは、今まで一度も女性にもてたことないので、複雑ではあるが、心なしかうれしかった。
そう言って、もう一度、レオに抱きつこうとしたのを、光が、レオを後ろから引っ張って、阻止させる。
「いい加減になさってください。ドーラス。それに、何故、その様な姿をしてらっしゃるんですか?あなたは、男性ではなかったのですか?」
「へ??」
レオが、後ろを向いて光を見る。
「ドーラスはれっきとした、男性です」
「・・・」
もう一度、ドーラスを見る。とてもきれいな女性がそこにいた。
「え――――!!!!」
レオの甲高い声が木霊した。