4.
「・・・・意外なんだけど・・・」
そう、いきなり、光が呟いていた。
時刻はもう夕方にさしかかっていた。
「俺の人生をなめちゃーいかんよ!」
なんだかんだ言って、光が帰り方を知っている人。名をドーラスという人の所に行かなければならないということだった。そうなれば、まず、食料を確保しなければならないが、いかせんここがどこかも、はっきり言って分からなかったりする。
森を抜ければどこか分かるだろうと、光が言っていたが、この森は相当深いと見え、日が昇ってから、この森を抜けることに決めたのだった。
食料をどうするかを考えていた光だったが、いつの間にか、レオが大量の果物や、きのこ類、しまいには、水のある場所と、焚火ようの枯れ葉などを用意して、火をつけていた。
「・・・」
レオのあまりの行動の速さと、どうやったらこの短時間で、この量の食料の確保に感嘆の声が出た。
そう、この世界の出身の光ならともかく、あの地球の平和で平穏な現代っ子のレオがなかなか知る知識ではないはずだったからだ。そんな様子にレオは気づいたのか
「しょうがないのよ~俺の人生、サバイバルだし、バイオレンスだし~知りえる知識は自分が生き残るために必要不可欠なのよ。こんなの日常茶飯事だしねえ~」
喜々として悟ったように、どこか遠くを見つめながら話しているレオの顔を見て、なんだか、とんでもない人生を送ってきたのがわかるような気がして、同情の表情をしていた。そんな光の様子に
「同情ならするなよ?俺の人生こんなもんだけど、他でもない俺の人生だからな!巻き込まれても俺がその後判断して、動いてきた結果だからさあ。この知識も、その結果だからな!」
手にしていた枯葉に火がついたことに満足したレオは、光に向き直って
「それに俺は、一歩一歩立派な男に育って行っているんだからな!」
強い意志を、蒼黒色の瞳が放っていた。
あまりにも純粋なまっすぐした瞳に光は言葉が詰まった。
「それと、夜は狼とかいたら危ないから、木に上って寝たほうがいいかも知れんぞ?このさっき見つけた蔓で体を固定して。寝てるとき落ちたらしゃれになんねーからな!」
そう、レオが提案してきた。
「そうだね。大丈夫とは思うけど、用心に越したことはないからね」
なんとも言えない、自分のふがいなさや、レオのまっすぐな、先を見据えた言葉にうなずくことしかできなかった。
そう、レオは正真正銘、心の真が強いのだろうそう思った。
東の空から朝日が昇るとともに、朝食を済ませ、森を抜けるためレオ達は行動に移した。
森を抜けた先の下方には、色とりどりの町並みが見えた。
かわいらしい建物や、色彩に、
「ワォ!メルヘンじゃん!」
そう、レオは呟いたのだった。
(ぜってー母さんいたら、大はしゃぎだろうなあ)
そんなことを考えながら、
「なあ、光、この格好でも、あんま可笑しくないの?」
そう、光に尋ねてみる。
今二人が着ているのは、学校指定の紺色の学ランなのだった。
レオは、母親の趣味の入ったパジャマを断固拒否し、病院に担ぎ込まれたままの制服の姿でいたのが幸いしたのだった。
「ああ、それなら大丈夫だよ。結構この手の服は、この国でも着ている人たちいるから。制服だしね」
光が、レオの顔を見ながら言った。
「そうか、なら、よかったけれど、それより、そのドーラスさんって、どの辺にいるんだ?」
そう、レオが光に尋ねてきた。
「ああ、それなら大丈夫だよ。この町の先の森の中に住んでいたと思うから」
そう、十年前まではということになっている。今本当にそこにいるかは、本当は分からないのだった。
そんな、光の不安が分かったのか
「光、まあ、行っていなかったらまた探せばいいしさあ、まあまずは行動してみらないとわかんないからさあ!」
レオが、慰めるように笑った姿を見て、
「ああ、ううん・・・なんか、レオに慰められてばっかりだね・・・。もっとしっかりしなくちゃいけないのに・・・」
光が申し訳なさそうに言う。
「俺は慰めてるつもりはない!事実をそのまま言ったまでだ!」
元気よく拳を空に掲げて言うレオに、なんだか、光まで元気をもらったような気になる。
「そうだね。ありがとうレオ」
にっこりと、柔和に笑う光を見ながら
「だから、俺は事実を言ったまでだから、お礼言われる言われもないんだけど?」
そう、不服そうにレオは光に言ったが、
「うん。事実を言ってくれて、俺は助かったから、ありがとうと、素直な気持ちを述べただけだよ」
本当にうれしそうに言うものだから、それ以上は何もいえなくて
「そうか?ならいいんだけどなあ?」
レオは、光に不服そうだが得心したように言った。
レオは光の言動をこれまで見てきて、分かったことは、光は、とても優しいと言うことがわかった。本人は、意気地がなくて、情けないといっていたが、それは違うとレオは思っていた。現に、ここにたどり着くまで、何度も、レオはトラブルに巻き込まれそうになっていた。まあ、体質だからしょうがないが、そのたびに、自分の身を挺して、助けてくれたのだった。
内心かなり、カッコイイと思ってしまったぐらいだった。
(ぜってー女だったらときめいてたと思う)
そんなことを考えながら、光は多分自分に自信がないのだろうか・・・?
そう感じていた。多分その中には、
王位を継がなければならない重圧が入っているのかもしれない。そう感じていた。
(そうだよなあ、その中には人の命がはいっているからなあ・・・。俺だったらかなり戸惑うと思うし、俺だったら、いつも愚痴溢してんじゃないかなあ・・・?)
けれど、柔らかく柔和に笑う光に、レオは変ななんともいえない表情をしてしまった。
「レオ、どうしたの?」
その声に、レオは
「いや、なんでもないよ。なんか光が優しすぎて、何にもできなくなるんじゃないかって、ちょっと思っただけだ」
その言葉を聞いていた光は
「俺は優しくないよ。どっちかというと意気地がないだけだから・・・」
光のなんだか辛そうに笑う表情にレオは、なんだか今言った言葉がとても言わなければよかったと後悔してしまった。
「レオ・・・?」
心配そうに見てくる光に、レオは
「バシンッ」
光の広い背中を思いっきりたたいた。
「痛たー・・・何レオ??」
「お前は、意気地なしじゃねーよ。意気地がなかったら、自分を殺そうとしている奴がいるこの世界にわざわざ自分の足で戻って来たりしねーだろ?」
そう言って、大きな蒼黒の瞳を向けて、
「光は誰よりも強いよ。そして、優しい。それがあれば大丈夫だ!」
レオは優しく相好を崩す。
光は日に日に不安になっていく重い心が、少し軽くなったような気がしていた。
「やっぱり、レオはすごいやあ」
ぼそりと呟いたその言葉に
「なんだそれ・・・?」
意味が分からず、首をかしげていたレオだったが、何も言わずに、ただ、うれしそうに柔和に笑う光に、
(まあ、光が笑ってるからいいか)
そう、思った。
街中の出店などが、所狭しと並んで賑わいでいる通りを歩きながら、レオは、物珍しそうにはしゃぎながら見ていた。
「レオ、あんまりはしゃぎすぎると迷子になるから、気をつけてね」
そんなレオの様子をまるで、自分のかわいい子供を見るような。いとおしそうな目で見ていた光に、レオは
「俺、子供じゃねーんだから、そんなへまやんねーよ!」
顔を真っ赤に染めながらそんなことを言って、憤慨する。
「あ、そうじゃないんだ!子供扱いじゃなく・・・!」
そう、焦って言い直そうとする光の言いたいことがレオには伝わらない。その続きを聞こうとしていたが、
「あ!」
光の声になんだ?そう、思ったがレオは忘れていた。自分のあの体質を・・・!
「レオ!」
レオは、前のほうから来た、人だかりと、煌びやかな?黒い集団の中の一人の荷物に何故か引っかかり巻き込まれるように曳きづられて行った。
「ぎゃー!ちょっと引っかかってる、引っかかってる!!!」
レオが叫ぶが、いかせんこの通りは、人の賑わいでごった返している。いくら、大きな声で叫んでいるが聞こえない。
「実は聞こえてんじゃないの!!ねえ!ちょっと――-!!」
叫ぶがやはり気づいてくれなかった。
光はというと、レオを見失ったことでかなり焦っていた。
「レオ!どこだ!レオ!」
光は苦虫を噛んだようなような表情をしていた。光はレオがあの巻き込まれ体質ということで、気にしていたのだったが、まさかいきなりこんな事態になるとは思わなかった。
そう、遠くには行ってないだろう、そう思うのだが、ただの迷子なら、こんなに心配はしないのだが、いかせんレオの体質はある意味異質に近いということが分かった。森の中でのあのトラブル。まるで呪いのような異質さだったからだ。
レオの声が、微かにどこからか聞こえてくる。
「レオ?」
辺りを見回すと、さっきの煌びやかな集団の中から、微かにレオらしき声が聞こえている。
光は急いで、その集団を追った。
微かに、眉宇をひそめながら。
あの集団が、故意的にレオを連れ拐ったことでないように祈りながら。