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2

レオはゆっくりと重たい瞼を開けた。

 意識がだんだんとはっきりとして行く。蒼黒の瞳には、瞼を開けたことにより、眩しいほどの光が入ってきた。

「ふあー、よく寝た。よく寝た・・・」

 そんなことを言いながら大きなあくびをし、レオは何か違和感を覚えたような気がして、頭をひねった。

「って、違うぞ!!何かが違うぞ!!」

 何か忘れているような気がする。いや、確実に何か忘れている。そう確信したが、なにぶん頭は完全に覚醒するまでにはかなりの時間がついやする。低血圧のレオはボーっとしながら頭をひねった。

(俺・・・)

 自分は何をしていただろうかと、はっきりとしない頭を無理やりに回転させていた。

 瞳の中に映るのは、きらきらと光が、新緑の葉っぱを抜けてレオの顔を照らしてくる。その先には、青い澄んだような空と、周りには、みずみずしい色とりどりの草花が咲き乱れていた。

 ここが森の中だということは一目瞭然だった。人工的な建物など一切無く、自然物がそこらじゅうに生き生きと存在していた。

「・・・」

 自分は確か、何をしていただろうか。そう、とても自分にとって、人生最大の何かがあったような気がする。確か・・・

「あ―――!!!」

 そういえば、自分は、屋上から紐なしバンジーを体験し、落ちたのだった。

 けれど、身体に痛みは、まったくといっていいほど無かった。

 そして、知らない場所。

 そう考えると、行き着く先は

「俺死んじゃった・・・!」

 あまり、実感のわかない感覚に、呆然とレオは周りを眺めていた。

「花とかあるし、地獄じゃないんだな!」

 もちろん自分が死んで天国にいけるか、あんまり期待はしていない。そりゃ、あんまりうそとかつきたくない性格だが、つかなければならない事も、時には、生きて行くためには必要だったりする。野菜も肉も魚も食べる。他者を犠牲にせずには生きてはいけない、いち人間に過ぎない。

 人も殴ったことあるし、けんかもしたことある。命の駆け引きも、何故かこの歳でしたことがある。というか、せざる置えない事態になったことなどたびたびある。感情的になるのだって日常茶飯事。結構切れやすかったりするし。

「まあ、俺は聖人(せいじん)君子(くんし)じゃねーし」

 けれど、地獄や天国があると思っていなかったし、あると確信もあるはずない。

 なんたって死んだことないし。むしろあったら、自分に自問自答してしまう。俺は人間かと。てか、

「ここは天国か地獄か??」

 今一実感などない。一般的に想像上のもので考えるなら、ここは地獄というよりも天国だろう。

 単純だが、花があるし。禍々しい物はとりあえず見当たらないし。

「まあ、鬼か悪魔いないしさあ」

 少々見てみたいきもするが、怖いもの見たさである。

 けれど、あの状態で助かるにはやはり、無理があったのだろう。証拠に、こんな場所知らないのだから。

「はあー・・・それにしてもあっけない人生だったなあ・・・」

 そう、起き上がる気力も無く、ただ、ゆっくりと流れる真っ白な雲を見つめながら、レオは呟いた。

 確かに、落ちる瞬間はあきらめに似た感情が、襲ったが、

「やっぱ、まだ色々人生楽しみたかったなあ・・・。てか、一回でいいから、彼女がほしかった!この思春期時代の俺の歳で、せめて彼女がいたら、男に言い寄られるという屈辱的な記憶など作らなくてよかったのに!!」

 男子校に通うが定めと友人は言うだろうが、中学時代にも何故かたびたび、男に告白された。

(普通の共学だったはずなのに!)

 そのことが不思議でならなかった。

「下校途中で、手をつないで帰ったりさあ、休日に遊園地でデートなんてしたりさあ!夕暮れに彼女の家の前で、初キッスとかしたりさあ!きゃーははは!てか、そんな些細なことすらしてねーよ!むしろ、俺十六年生きてきて、何やっていたか!」

 大声を上げながら、なんともさびしい妄想を思い描きながら、自分の人生を振り返ってみてみた。けれど、思い当たることといえば、自分のなんともいえない個性的な家族のことと、奇妙な自分の体質しか思い浮かばなかったりする。

「俺の人生って、誘拐されるわ、刺されるわ、花嫁にされるわ、ストーカーにあうわ、殺されかけるわ、人身売買にかけられるわ、呪われるわ、etcそれもみな、巻き込まれて起こったことに過ぎないし!あー・・・!何だって、彼女の一人も・・・っ。ここが天国か地獄か分からないけどさあ!この体質どうにかしてくれって言いたいよ!てか、死んでまでこの体質だったら俺っ、たえられね――ー!!!」

 そんな嘆きにも似た激怒を、これでもかというほど吐き出した。

 けれど、近くには誰もいるはず無く、むなしくレオの声だけが響いたのだった。

と思いきや、

「あー・・・、あの・・・」

 自分のすぐ近くから聞こえてくる声に吃驚しながら辺りを見回すが、誰もいない。

「・・・?」

 気のせいかと、また、自分の世界に入りだしたレオの耳に、またしても声が聞こえてきた。

「あの・・・神崎。お願いだから・・・」

 その声に、先ほど助けた早瀬のことを思い出す。

「やばい、俺、やばい?!幻聴まで聞こえてきている。てか、死んでも自分の体調悪くなったりするんだな!なんてこっちゃい!(いき)ているときとなにも変わりないような気がするんだけれど・・・いや、もしかしたら、やっぱり紐なしバンジーが影響しているのかも!」

 レオが、うーんと頭をひねっていると

「ねえ、神崎。幻聴じゃないから、俺の声。実際に俺、言葉発しているからね。てか、お願いだから、」

「?」

「俺の上から退いてくれるかな?・・・」

「へ・・・?」

 レオは何のことか分からず変な声を上げ、自分の下を見る。

「ははは、神崎・・・あのー、こんにちは?」

 何故か声が聞こえたほうを向くと、目の前に真っ赤に顔を染め上げた早瀬の姿があった。

 そう、レオは、早瀬を下敷きにして、寝そべっているのだった。

 えーと、というか、さっきからずっと自分は早瀬の上で、独り言を言いながら自問自答していたのか?というか、

「すまん――!!!」

(というか、自分気づけよ・・・!!どんだけ鈍いんだよ!!)

 そんなことを考えながら、レオは、早瀬の上から急いで退いたのだった。

「えーっと、気にしないで、神崎。それに・・・」

 早瀬が、なんとも申し訳なさそうにレオを見る。

「?」

 なんだ?と疑問に思いながらも、見つめ返す。

「さっきは、助けてくれてありがとう」

 レオは、何を言われたのか、分からなかった。

「は?何が?」

 一瞬、早瀬の顔が、驚いたように瞳が開いて、

「病院の屋上で・・・」

 言いづらそうに、早瀬は、レオを見ながら言った。

(屋上・・・?)

 何だっただろうかと、思案していると、あることを思い出した。

「!そうだよ!てか、それで俺三途の川渡っちゃったんじゃん!」

 叫ぶように頭を抱えて、唸りだした。そして、レオはあることに気づく。

「そうだ!なんで助けたはずの早瀬が、ここにいるんだよ!何で三途の川渡って一緒にこんなところにいるんだ!!もしかして、夜兄か?夜兄なのか?あの人何、人の道に反したことしてんの?俺が、死んだ意味ないじゃん!しかも、俺の上にいるならまだしも、何で、俺、下敷きにしてるんだ?てか、もしかして!助けたの錯覚?俺の錯覚。妄想?幻想―――!?!」

 レオは混乱しながら叫んだ。

「俺的には、結構男らしい最後だったなあ、なんておもわなくも無かったんだけど!それも全て、自分の願望が作り出した、妄想に過ぎなかったの?!俺どんだけだよ!!」

 レオはつらつらと、自分に叱責し続けた。

 そんな様子を、なんだか慌てた様子で

「神崎。違うから!俺たち三途の川渡ってないから!神崎も俺もちゃんと生きているから!!」

 早瀬は、レオの両肩を持って、レオが正気に戻るように、前後に揺すりながら伝えた。

「そんなはずは!だって、俺、屋上から紐なしバンジーしちゃったんだぞ!十階建ての屋上から見事華麗にバンジーしちゃったんだぞ!しかも下は、木とか草とか無くて、完璧硬質なあのアスファルトだよ!それで無傷なんてどんだけ頑丈なの?俺もう人間じゃないじゃん!一応、結構波乱な人生送ってきたけど、それなりに怪我とかちゃんと(?)してたぞ!」

「うん、そうだね!あのまま地面に激突して怪我の一つもないなら、俺たち、人間じゃないね!けど大丈夫だよ!アスファルトに直撃なんてしてないから!むしろ、あの硬質なアスファルト自体、地面についたときからなかったから!というか、神崎!神崎!・・・レオ!落ち着いて!!」

 レオは自分が暴走していたことに気づき、早瀬を見る。

「いい?神崎、大きく深呼吸して」

 早瀬の優しい微笑みにどこか安堵して、

「・・ああ、取り乱してごめん・・・」

 レオはばつが悪そうに、早瀬から視線をそらした。

「別に気にしなくていいよ。俺が同じ立場だったら、多分、泣いてるから。むしろ、神崎はいつもと同じだし?」

 くすくすやわらかく笑う早瀬に、なんだか自分が子ども扱いされているような気がして、頬を膨れ上がらせた。そんなレオの様子を見ていた早瀬は、

「やっぱり、学校での神崎と変わらないね。どこか暴走してるし、今の照れ方は、かわいい」

(暴走してるとは失礼な・・・!俺はいつも人生に必死なだけなのだ!)

 レオは、そんなことを考えながら、最後の単語を振り返った。そういえばさっき自分が、とても聞きたくない単語が、いや、よく人から自分の意思とは反対に聞く言葉を反芻していた。

「あっ。ごめん!神崎『かわいい』って言われるの嫌いだったよね!ごめんね!!」

(あ、かわいいっていったんだ)

 あっ、そうか~なんて考えて、だんだんその単語を理解したら、少々、額に青筋がたった。けれど、そう謝罪されたら、激怒することが出来ない。

「・・・どうせ、身長160センチ弱しかねーよ」

 レオは膨れたように呟く。

「え!そんなつもりで言ったんじゃないよ!」

 さっきまでの、落ち着いた雰囲気がなくなり、心底あせったように早瀬は言い訳をしている。そんな様子に思わず笑ってしまい

「はは!怒ってないからそんなに焦るなよ!てか、それよりさあ、話は戻るけどさあ俺たち死んでないの?確かに屋上から、落ちたよな?それに、早瀬は、屋上のほうに思いっきり蹴りやったはずだけどさあ?それに・・・ここどこよ・・・???」

 なんだか死んでないのはなんとなく、理解しだしたけれど、今まであったことは、どうにも理解しがたかったりするし、なんだかやたら、レオは自分の体質が脳裏に警告音のようにちらつく。

 もしかしなくても、自分の体質で、かかわり合いになってしまったかも・・・。

「あ、うん・・・ここは多分・・・」

 早瀬が歯切れの悪い言い方をしたことに怪訝に思う。

「?」

「俺たちがいた次元と異なる次元だと思う・・・」

「は?」

「ようは、異世界かな?」

「・・・はー???」

「まあ、俺は・・・実は異世界人なんだ・・・!」

「はい―――?!」

(いきなり爆弾発言きた――ー!)

「信じてくれない・・・?神崎・・・」

(子犬のような瞳で見つめないでくれ!)

 しかも、まるでたれた犬耳が付いているかのように、レオを見つめてくる。

「いや、信じるも信じないも・・・まず、説明してもらわないとどうしようもないし、それに・・・あ、悩んでいることあるなら、言ってくれ!まあ、力になれるかは分からないけれど、聞くことぐらいできるからな!」

 色々起きて忘れていたが、早瀬は屋上から飛び降りようとしていたことを思い出した。

飛び降りようとしていたなんてよほどのことがあったのだろう。実際、レオが紐なしバンジーを体験することになったのだけれど。

 早瀬は何のことを言われているのか、分かったのか、

「そうだね、それから話さないといけないね。神埼には本当に感謝しなければならないから・・・」

 早瀬はどこか悲しそうに、呟いた。それは、どこか、これから、背負わなければならない不安と早瀬の重い重い、レオとは比べ物にならない責任だったのかもしれない。

「で、さっきも言ったけど、ここは俺たちがいた世界と異なる次元に存在する世界なんだ」

 早瀬がすごし重々しい空気で呟いた。

 それを聞いていたレオは、大きくため息をついて、

「へ?やっぱ、まじな話なの??ちょっとありえないんですけど・・・!」

 レオは思わずそう叫んでしまった。

 早瀬が教えてくれたことはどうも、レオにとっては初体験、未知なる領域だったりする。今までは一応、宇宙ないに存在している自分の生活範囲内の地球でのみでのことでの、巻き込まれ生活だったのだが、それを超えて異空間まで及ぼした範囲までくるとは、自分でも思いもよらなかったのである。

 たとえ、誘拐されても、それが海外につれてこられても、何とか、飛行機や船に紛れ込んだりして、自分のあの帰る場所の家にたどり着くことは出来たのだが、今はそれをどうすればいいか分からない。異世界行きの飛行機や新幹線などあれば別だが、そんなものあるのかさえ分からない。こんなことは初めてだった。

「・・・そうだよね・・・俺の言ったことなんて信じないよね・・・」

 早瀬は、両膝を抱え背中を向けて、いじけだした。

(あれ・・・?)

「いいんだ、俺の言うことなんて、どうせ、誰も信じないんだ!頭の螺子(ねじ)の一本でもふっ()んでるって言われるんだ!」

 早瀬は、ぶつぶついいながら、呟いていた。そんな姿を見ながら、

(てか、キャラ変わってねー?)

「いや、早瀬、そうじゃねーんだ。俺の体質がありえねーんだ・・・!」

 レオは焦ったように早瀬に言った。

「?」

「あーっと、えーっとさあ、俺の体質結構、有名だから知ってると思うんだけどさあ・・・?その体質が発動したんだなあと、俺的には納得してんのよ。けどさあ、さすがに、異世界までそれがはっきするとは思いもよらなかったからさあ、だから、早瀬を信じるも信じないも、むしろないし、現に俺、紐なしバンジーしてここに来てるのは事実だしさあ。まあ、完璧信じるほど俺はお人よしじゃないけどなあ。まあ、早瀬がうそ言っているようには見えないだけだけど。とまあ、わかんねーけどさあ。まあ、ちゃんと聞くから順おって話してくれ。俺頭よくねーから。よろしく、光」

「え?」

 早瀬はいきなり自分の名前を言われたことに吃驚した。

「あーっと、だってさあ、なんだかこれから、帰れるまで、一緒にいることになりそうだしさあ、まあ、友達だし親愛を込めてかな?」

 レオがにかりと嬉笑(きしょう)した。

 その表情があまりにもかわいらしくて、光は、顔を真っ赤に染め上げたが、視線をそらしたことにより、レオに気づかれることはなかった。

「あ、ありがとう。れ・・・レオ君・・・」

 照れながら言う光に、笑みをこぼしながら、

「なんか、学校でのイメージとかなり違うんだな。光って、もっと大人っぽいのかと思ってた。それに、俺の名前は呼び捨てでいいぞ?なんか同じ年なのに、『君』付けなんて、気色わりー」

「あ、うん。というか、レオってなんていうか、学校でも思ってたけど、相変わらず口悪いね・・・」

「ああ、この顔と容姿で、この口調が似合わねーって言いたいんだろう。しょうがねーよ。普段こうしてないと、完璧女に間違われるからさあ。学校の制服着ていても『君男装してるの?』って言われるんだぜ?ふざけんなー!って言いてーよ!」

(ちなみに、やたら、母さんは女口調を使わせようとしている。しかも、お嬢様口調。『ですわ』や『私くし』とかありえねー!)

 ちなみに、小さい頃はそれが当たり前と、女の言葉遣いを使っていたレオだったがさすがに、幼稚園でなんだか違和感を覚えたレオは早々に直したのだった。けれど、まだまだ純粋だったレオは、あのツインズに色々と騙されたのもまた、事実だった。唸るように叫ぶレオに、光は、

「レオらしいね」

 そう言って、朗笑した。

(やっぱり、光は大人っぽいなあ)

 そう、思ったのだった。先ほどのギャップはあるが、やはり、光はどこか、一般高校生にしては落ち着いているような気がするのだった。


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