2.まきこまれ人生生活
2、 まきこまれ人生生活。
「ぎゃー!!」
本日も大変よろしい叫び声と、けたたましい車のブレーキ音ともに、この神崎玲於那(男)十六歳。生きています!
栗毛色の髪にくるくる大きな蒼みのかかった黒眼。男くささとはかけ離れたかわいい顔立ちの典型的な高校一年生。ちなみに、高校生標準平均身長を大幅に下回った身長に本人はかなりの不満を覚えているが、どんなに牛乳や、煮干。身長に大切なカルシウムを得るために、摂取しようとも一向に伸びる気配は皆無だった。
こんな解説などはいいんだが、ただいま、日常茶飯事になりつつある体質を今日も味わっているのであります。
いつもと変わらず、巻き込まれ人生。
巻き込まれては自力で脱出。それが毎回のように続くほどに、玲於那は男として、人間として大きく成長し続けている(現在進行形で!)
「んな、成長などいらんわー!」
朝の登校風景に玲於那の、男には高い声が響き渡る。いつもの長い急勾配な坂道の頂上と言っていいほど小高い丘の上に存在する実菜井男子高等学校。離れてはいるが隣接するように実菜井女学校があり、さらに先のほうには実菜井高等学校の共学がある。
そのさらに山を抜けると、エスカレータ式に大学が存在している。それもこの平凡な地区の何倍もの敷地内を有していた。ちなみに高校までは何故か地域密着型に対して、大学は各国からこの大学を受けに来るほどの国際的だったりする。ここの理事やら何やら、かなりのお偉いさんらしいが、レオはあの、爽やか?のような優男の理事長の笑顔を思い出していた。まあ、昔?今もちょくちょく係わりのあるというか、巻き込まれている現状で知り合いになったんだが、あんな若くして、理事長なんかすごいらしい。が、レオからするとちょっと変わった単なる美形そんな感じだ。ちなみに理事長はハーフらしい。まあ、あんまりどうでもいいので、気にはしていないが。まあ、そんなことを理事長に言ったら、多分
「ひどいよ~レオ君~?!」
などと言って抱きついて離れないような気がするので言わないが・・・。
ある意味、うざい男である。
レオはいつも通り、朝食をカルシウムとともに摂取し、いつも通りの時間帯に家を出て、いつも帰りに立ち寄るコンビニを横切り、その中にはいつもどおり、巻き込まれ人生を悠々自適?に送っていた。いや、送らざる終えなかったというべきか・・・
「レオ・・・いつ見てもあいかわらずやな・・・飽きへんの?」
レオの倒れる地面にまるで哀れみのように見下している。少々訛りの入ったしゃべりの男がレオを足の先でつついてくる。
レオは倒れている通学路の真ん中で、何故か地べたに這い蹲りながら、蠢いている。
周りはそんな様子を相変わらずと、あんまり気にした様子などない。
「真紀!うるせー!俺が好き好んでこんなことやってると思っているんかい!!」
「や、うん・・・そうやな・・・」
真紀と呼ばれた三島真紀。レオと同じ高校に通う高校一年生。制服の学ランを着崩したズボンから携帯を取り出しながら、レオの言葉を流し、どこかに連絡している。
「今回は、なかなかの暴走車だった見たいやな。いつもなら余裕で華麗に避けてたんちゃう?」
「うっ。いつもなら避けてたんだけどさあ・・・」
語尾の濁る声でレオが言った。
「なんかあったん?」
真紀は気にした様子はないが一応、聞いてくる。またいつものこと
「この状態になる前に、色々あってさあ・・・俺の体は、ずたぼろよ・・・」
よよよよと泣き声が聞こえるようなうそ鳴き(いや、本来ならば、心の中の代弁と言っていいだろう)
「家を出るときさあー、父さんが階段から落ちそうになって、たまたまそこにいた俺の腕を、手すりと間違え掴まれ、俺がまっさかさまに落ちたんだよ!しかもそこにはあの母さんがいてさあ・・・手には朝食の何故か、『新しい新作よ』という訳のわからない物体を持って、それが俺に見事直撃して・・・びしょぬれに、しかも口からその食べ物の汁が入ってきて、俺は自分のお腹が下降気味に急降下して行くのが分かったんだ!俺の惨劇を見ながら双子の兄ちゃんの片割れが優しい笑みで『何が入っているの?』聞いてきたはいいが、『実ちゃんがこの間、この頃お通じがよくないって言っていたから、それを考慮して、下剤入りのお味噌汁を作ってみたの』って言ったんだ!しかも実兄さあ、俺のこの体質考慮し、こうなるだろう予想つけて、母さんに多分言ったんだぜ?しかももう一人の片割れの健兄はそんな様子を大笑いしながら『相変わらず実、腹黒―ははは』チョー楽しそうに笑っていたんだぜ。俺はその後、体力が消耗するほどにトイレを往復することになったんだ!・・・」
憤慨と嘆息を一気に吐きながらレオは言ったのだった。
「相変わらず、大変やな~あの兄さんsもなんやかなあ・・・」
真紀はレオの話を聞きながら、レオの倒れている道路の横に座り、色んな所に連絡を取っていた。
「しかもだ!久しぶりに帰ってきていた、あの長男の夜兄が、会社に行く前に、俺を送っていくって言うから、体力消耗していた俺としてはありがたかったんだけどさあ・・・」
「・・・あの強面の顔やもんなあ・・・」
「そう、めっちゃ優しいだけどさあ、あの顔だし、俺の体質考えると・・・起こったんだよ・・・!」
「まあ、優しいのはレオ限定やけんどなあ~」
真紀が頭を掻きながら、ぼそりと呟く。そんな真紀の様子など気づかずに、レオは話を続けていた。
「今日ほど、夜兄何の仕事をしてんの?そう思ったね・・・!!!」
レオの声が詰まり、すでに泣いている。そんな様子を乾いた笑いをしながら聞いて行く。
「まず最初に、車で走行していると、警察に呼び止められて、誘拐?なんて聞かれたんだ。まあ、あの顔だし?しょうがないよね~かっこいいんだけど、強面だし~」
「レオ何気に、ブラコンやな~」
「うるさい!俺は強い男を目指しているんだ!」
「まあ、そう考えると、あの兄ちゃんは適任やなー」
「だろ!」
真紀は、前あったときの夜を思い出していた。刺すようなあの眼力。雰囲気。人を殺してそうな殺気。真紀はうんうんと納得したように頭を動かしていた。
「けどさあ・・・」
レオの声が曇ったように呟いた。
「?」
「走行しているとさあ、後ろになんだかやたら、くっつくようについてくる車が何台かいたんだよ」
「へえ。今、生意気な、いやらしいやつおるもんなあ」
「それがそうでもなくて・・・むしろもっと質が悪かったんだ!」
「何があったん?」
レオが言葉を詰まらせながら呟いた。
「じゅうだん」
「じゅうだん?」
「そう銃弾が車両にめり込んできたんだ」
「は?」
真紀はさすがに何のことか理解するのに数秒はかかった。
「やっぱ、驚くよなあ・・・いや、俺もさすがにあんなに後ろの車から打ち込まれてくると驚くよ!」
真紀は、レオを疑念と疑惑の目で少々見ていたが、まあレオだし、あの兄だし、納得した。レオはそんな雰囲気など読み取ることなく続けていた。
「俺、この体質だからさあ、よく間違われて誘拐された挙句、銃を頭に突きつけたれることよくあったけどさあ・・・!!」
さすがの爆弾発言に真紀も声を詰まらせた。
「・・・いや、それもどうかとちゃうん?」
「走行中の車にさあ、銃弾めり込んだんだぜ?しかも夜兄そんな様子もどこ吹く風、颯爽と運転してんの!俺があれは何?って、血の気を引きながら、夜兄に聞いたらっ!淡々と」
『仕事の関係だ』
「『何の仕事なの―!!』思わず叫んじゃったよ!」
「しかも、銃弾が、たまたま、俺の頬を掠めたらさあ・・・夜兄の表情が急激に険悪になって、何で持っているのか知らないけれど!懐から、黒光りする物騒なあのよく、裏社会の人たちが愛用している物を出して、一言」
『許さん、殲滅じゃ』
「地を這うような声で呟いたんだぜ!!怖かった、恐怖だよ!!何を殲滅するの?ねえ夜兄!!!」
「聞いたんか?」
しれーっとした感じで希薄そうに聞いてくる。
「聞けるかー!!」
少々真紀は興味が出てきたのか、そうでもないのか淡々と聞いてくる。
「それからどうなったん?」
「俺もこれでも、容量のキャパがあるんだ!!」
縋る様に、悲愴に泣き叫んでいる。
「気絶したんやな~」
「・・・いつの間にか追ってきていた車はなくなり、コンビニの前で下ろしてもらったんだ・・・」
「そうか、なかなか濃い一日の始まりやなあ~」
「濃すぎだよ!!いつもはもっと!もっとまともに、駅の改札口から押されて階段から落ちるぐらいや電車の中で女と間違われて尻なでまわされたり、離婚寸前の夫婦喧嘩の相手の女に間違われたり、結婚式の逃げた新婦に仕立てられたり、誰かの変わりに誘拐されたりetc・・・その位ですむのに!!」
「いや、それもどうかとおもんやけど・・・」
呆れたように明らめたように呟く。
「そんな、こんなことがあったせいで、勘が鈍ってさあ、通学中、突っ込んできた車に・・・」
「見事、轢かれたんやなあ~」
話がひとまとめしたとばかりに、真紀が納得する。レオは今日始まってからの鬱憤を少々発散したことによって、もやもやしていた気持ちが治まった。
「で、どこかやばいところあらへん?」
真紀が今まで聞いていた時の、希薄な態度とはちがい心配そうに聞いてくる。
「まあ、色々とやばいかも?」
レオは動かない体で声だけ言う。
「まあ、救急車や警察系統には連絡したんやし、もうそろそろ来るんちゃうん?ひき逃げした車なら、その内見つかるやろ」
先ほどから、どこかに連絡していたのはこのせいだったのかと真紀を見る。
「なんや?どうしたん?痛むんか?」
レオの頭をゆっくりと撫ぜながら聞いてくる。
「友情に感動中~」
「意味分からへん」
遠くから救急車と警察のけたたましいサイレンの音が鳴り響いてくる。
「ほな、うち、出席日数足りへんから学校終わったら、見舞いでも行くわ」
「・・・」
真紀のいつもの冷たさ?冷静さ?な淡々とした態度になんとも釈然としなかった。
(なに・・・!今の一瞬の俺の感動を返してくれ!!)
レオが感動した顔をなんともいえない顔にかえて、真紀を怨めしそうに見る。
「何やその顔は?こんなとこで、襲ってほしいんか?」
真紀が本気かうそか分からない表情でありえない爆弾発言を言い放つ。
「・・・」
「事故に巻き込まれるの、いつものことやから大丈夫やろ?それとも、なんや?レオがうちの持っとるナース服でも着て、写真取らせてくれるちゅーならええけど?」
真紀が淡々となんとも言えないことをレオに要求してくる。
「・・・俺、何度も言うけど、男なんだけど・・・」
「そんなん、知っとるわ。お前にはちっちゃいけんど、ついとったわ。残念なことに。」
溜息を吐きながら真紀が呆れたように言ってくる。
(え?俺が悪いの??)というような雰囲気がかもし出されてくる。
「じゃ、んなこと言うな!俺はそっちの系統はねえ!」
「しゃーないやろ?男子校やし?手っ取り早く、近場で済ませんと」
相変わらず恐ろしいことを、淡々といえる真紀にある意味感心しながら、ふと気づく。
「んな、近場で済ませるな!彼女はどうした?」
「先週振られたわ」
「え?そうなんだ・・・」
聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない事実に、レオは言葉を詰まらせていたら、真紀が
「気にせんでええわ。学園祭でのお前のフリフリレースの写真を、大事に懐に入れてたんがばれただけや」
真紀の爆弾発言に吃驚しながら、叫んだ。
「んなっ!いつ撮った!」
憤慨しながら怒鳴りつけるが、相変わらず気にした様子のない真紀は淡々と
「しゃーないやろ」
「なにがだ!」
「趣味やから」
恐ろしい発言を繰り出していた。確かに巻き込まれて今の状況で、かなり疲れてはいたが、真紀のある意味思春期らしい発言にまたしても惰力して・・・けれど、一番今聞きたいことを思わず叫んでしまっていた。
「ねえ、どっちが?写真が???それとも?!!!」
「ああ、レオ、あんま叫ぶんと体に響くで?」
「お前がいうなー!!」
レオは救急車に運び込まれながら、救急車の外で、かったるそうに淡々と手を振る真紀に憤慨し叫んでいた。




