9.
光達が、王の広間へと地下の隠し通路から入った瞬間、人とは到底思えない黒い物体によって、攻撃を受けていた。ドーラスが言うには、魔神の一部だといっていた。多分ファラスによって呼び出されたのだろう。
光はあの剣で、黒い物体を切り裂いていく。自然神の力が働いているのか、触れると、その黒い物体は粉砕された。ドーラスは呪文を唱えながら、空色の硬玉を振り回している。他の仲間達も、一心に剣や槍を振るっていた。けれど、後から後から、振ってわいたように現れている。
「くそ!これじゃ、前に進めない!」
そう、ドーラスが叱咤する。光もそのとおりだと、思いながら、何かいい手はないかと、辺りを見回した。
どこから、この黒い物体が沸いて出ているのだろうか、そう考え、ある一定の場所から、流れるように出てきているのに気づく。
「あそこは・・・確か、隠し部屋があったはず・・・!」
そう、光が思いついたのが、ドーラスや他のものも分かったのか、
「王子!俺たちが、ひきつけますので、行ってください!」
一人の兵士が声を上げた。多分この兵士達をまとめているのだろう。ドーラスと、何人かの兵士とともにそちらに向かった。
ドア壊すように、押しぬけると、広間には到底及ばないが、広い空間が存在していた。装飾はあまりされてなく、調度品も置いてない。ただ、中心に魔方陣のような文字の陣と大きな魔神アンシュの像が置かれてあった。それも、異様な気配をまとっている。そこから、黒い物体はとめどなく流れ出ていた。
「おやおや、お久しぶりでございます、王子。わざわざ、王子のほうから、お越しいただけるとは思いませんでしたよ。手間がはぶけてよかったです」
柔らかい物腰とともに、魔神の像の後ろから出てきたのは、
「叔父上・・・」
ファラス・ドーメンズだった。その笑みは、どこか異質に染まり果てて、作り物のようだった。ファラスに昔あった時の優しげな笑みなどどこにもなかった。
「大きくなりましたねえ。十年前とは大違いですねえ。これでは、王位に就いたら、ますます・・・邪魔になりますねえ」
ぼそりと呟いた言葉がなんとも、嫌悪すると、言うように睨んでいた。昔のことを思い出しながら、現状に微かに、胸を痛めた。知っているから、なおの事。けれど、今更、どうにもなりはしない。ただ、この現状を打破しなければ、何も変わらないし、よりいっそう被害が及ぶのだ。
「ファラス、あなたには、十年前の内紛を起こした主犯者と、王子暗殺の罪。魔神アンシュの復活を示唆したとして、後継人と十貴族の位の剥奪、罪を認めてもらいますよ」
ドーラスが、淡々と冷徹に言い放つ。光はその言葉を聞きながら、自分の中のくすぶっっているものを取り除いてた。
「叔父上、いや、ファラス。お前を許すわけには行かない。が、即刻、この現状を取り去れば、罪がこれ以上重くなる事はない。どうする?」
「ふぁははは!この現状で、自分たちが勝つと思っているのか!王子!お前達は負けるんだよ!アンシュ様が怒っていらっしゃる!やっと築いた像たちを壊されてな!」
どうやら、他のアンシュ像は壊されたようだった。
「だが、この一番大切な、このアンシュ様はまだここにいる。どうあがこうと、お前達は勝てない!私が、勝利するのだ!!さあ、アンシュ様!力を貸してください!アンシュ様!!」
ファラスが、声高々に、アンシュ像に両手を上げる。
光は、急いでファラスに剣を向ける。ドーラスは、周りの黒い物体をねじ伏せるように呪文を唱えた。
ファラスの腕に光の剣が触れる。まばゆい光とともに、ファラスの中から何かが吹き出て、浄化されていく。
光は不思議そうにその現象を見ていた。
「王子、多分、その剣によって、アンシュの魔が、浄化されているのでしょう。その剣は自然神様の一部のようなものですから」
「ああ」
光は、そう答えて、周りを見るが、先程より、弱まったといえ、まだ黒い物体はうにょうにょと蠢いている。
「?」
何かの違和感に、光は眉を顰めた。
「ふふふははは!今更、遅いぞ!王子!契約はなされている!もうすぐアンシュ様が・・・ふっかつ・・・」
そう、言ってファラスは、浄化されて気絶した。
「王子!」
ドーラスが呼ぶように叫ぶ。
光は、はっとしたように、像を見た。
像が、先程より、大きくなっていた。漂う気配が、今までの魔気と比べ物もならない醜悪さが放たれていた。息ができないほどに、瘴気が漂って、今にも、人ではない何かが現れようとしていた。急いで、剣で、像を砕こうとしたが、間に合わない。そう、光は直感的に感じた。
その時
『ドオオンッ』
壮絶な爆発音とともに、アンシュ像が粉々に粉砕し黒い物体は跡形もなくなった。
「へ?」
「え?」
そこにいた、光達は一瞬のできことで、何が起きたのか分からなかった。
「よっしゃ!」
誰か、見知った声が光の耳に入ってきた。
「お~み~ご~と~でーすー。やっぱりレオさんすごいでーす」
その言葉に、声のした方向を向いた。
「レオ・・・!」
そこには、知らない顔の男がいて、レオを肩に担いでいた。
「なあ、アン。そろそろ下ろしてくれね・・・?さっきも、この状態で、鈍器振り回すの結構きつかったぜ?」
「え~しょうがないですよ~そうしないと、いくら~レオさんでも~魔神アンシュの一部が入りだした像、壊せませんでしたよ~僕が~レオさんの周りにまとわりつく魔気を払ってやってたじゃないですか~」
「えっと、そうだったんだな・・・!ありがとう!」
「そーでーすよ~感謝してくださいね~」
アンがなんだかお礼を言われて照れくさそうにしている。レオはアンにおろしてもらうと、光が急いで近づいて抱きついてきた。
「レオ!」
「あ・・・!光、怪我ないか?」
「俺は大丈夫!レオは平気!!」
「ああ、平気だ!」
光がやたらぺたぺたと怪我がないか触ってくる。怪我をしてない事を確認するとほっと安堵した。
「レオ、ねえさっき、あの像粉砕したよね・・・?」
「おう!見てたか!!このなんとも大雑把な鈍器で、ずどーんとな!ああ!そうだ!俺を助けてくれて、像破壊に協力してくれたこのアンを光、雇ってやってくれないか?というか雇え!一番の功労者だ!こいつさあ、パン屋で働いていたら、リストラにあってさあ、ファラスに臨時で雇われたらしいけど、給料払ってくれなかったらしい!で、こっちに引き込んだ!ちゃんと給料払ってやって!切実に今月やばいらしいから!」
レオが一心不乱で、頼むものだから、
「えーっと、それはいいんだけど・・・レオを助けてくれたみたいだし・・・」
「や~これで~生活の心配いらないです~よかったで~す~」
よかったよかったと、言っているアンの方向を光が見る。
「え・・・???」
光が、アンの髪で隠れている空を思わせる何よりも澄んだ瞳が微かに垣間見え、瞳があった。
「っ!!」
光が吃驚したように驚いたように声を詰まらせた。
「どうかしたか?光??」
「どうなさいました!王子?!」
焦ったように二人は光を見つめる。
「?」
アンは意味が分からず首を傾げる。
「しっ」
「し?」
レオが言葉を繰り返す
「自然神様―――――?!!」
その光の言葉に
「「「え―――――?!!!」」」
驚愕の事実が光によって示されたのだった。
「何で、アンも驚いてるんだよ!」
「え~?自然神~?僕~そんなのじゃ~ないですよ~・・・」
と、不満げに呟いたのだったが、
「・・・・。・・・・。・・・・」
アンの思案するような表情にレオは
「アン、どうした?どうしたんだ!」
「王子、何かの間違えでは・・・?」
そう、ドーランが遠慮がちに聞いた。
「いや、間違いない・・・この方は自然神様だ!」
言い切る光に、レオは、今までないしっかりした姿をしている事に気づいた。
(それに、顔が吹っ切れたようにすっきりしている・・・)
その様子に、なんだか、レオは嬉しくなった。そういえば、こうしてみると、王子というより、王というものに近いような気がした。
光が、膝を突いて、自分の持っていた剣をアンに差し出す。その様子に、なんだか、神々しさを感じる。それは、そこにいた者たちも感じ取ったのだろう、王子と同じように膝を突いた。
アンが手に取ったとき、微かにアンが息を呑んだような気がした。
「あ~あ~あー!そういえば~僕~自然神やってました~」
相変わらずのアンに
「軽っ!軽すぎるぞ!アン!!」
レオが思わず突っ込んでしまった。
「え~だって~しょうがないじゃないですか~それに~女神ちゃんに『人間になってみたーい』って言ったら、『いいんじゃないー?勝手にすればー?』って言ってたから~勝手にしたんですよ~」
そういえば、ドーラスさんが言っていた禁書にもそういった、女神の性格が書いてあった話にまさに酷似していた。
「何その女神様、軽っ。なんかもう、みんな軽すぎなんですけど!」
レオはなんだか泣きそうになりながら、突っ込みを入れる。光や、他の人たちからするとなんだかその現状が複雑というような表情をしていた。ドーラスは、下を向いて、肩を震わせている。
(あ、ドーラスさん、確実に笑っている・・・)
「けど僕~自然神だったって事~忘れてるなんて~誤算でした~」
ぽりぽりと頬を長い袖でかきながら呟いた。するとドーラスが、
「けれど、自然神様がこの城や、巫女神殿にいた事で、少なからず、あれだけの魔神の魔気が、あまりもれていない理由にも納得がいきましたよ。たぶん、あれだけの魔気が、もれていたら、私達の巫女臣などの力は皆無になっていたでしょうしそれに、記憶があったら、いくらなんでも、魔神の方が気づいたでしょうから、完全に人間だったから気づけなかったのでしょう」
その、言葉に
「結果オーライですね~」
と柔和な笑みが漏れた。そして、持っている剣をくるくる回しながら、
「まあ~この、均衡の歪みをなおさなければなりませんねえ~。そこの王子さんが王に就く事で、これ以上の歪みは生じないでしょうが~、王子さ~んこの剣ちょっと借りときますね~」
「ええ、かまいません自然神様」
光が柔和に微笑む。
その承諾の言葉に持っていた剣を振る、次の瞬間
「おおきくな~れ~なんちゃって~」
そう言ったら、剣が巨大化した。
その姿に
「どこまでも大きいのが好きなんだな・・・」
とやっぱりレオは思ったのだった。その剣を、先程まで魔神アンシュの像のあった場所に思いっきり突き立てた。すると、一気に、残っていた魔気が浄化されていく。
「しばらくこのままにしていたら~、均衡の歪みもとりさりますよ~」
そう言って、剣の前に立つアンの姿は、記憶が戻った事によってかやはり、人間と呼ぶには神聖な力に包まれていた。格好などの異質さと裏腹に。
浄化されていく空気に、光はほっと安堵した。十年来の因縁がやっと一段楽した事に。
「王子、これからが大変ですよ」
そう、ドーラスもどこかすっきりした表情で微笑んでいた。
「ああ、そうだな・・・」
光は、今までの事、そして、これからこの国と民の平和を考え、日の光が完全に昇った空を大きな窓から眩しそうに、けれど、どこか力強く見つめていた。
そんな姿を、レオは、まるで雛鳥が大空に羽ばたいたような親心のように、微笑ましく眺めていた。
(まあ、今回も巻き込まれてとんでもなかったけど、本当、実際に本当にとんでもなかったけれど(涙)、何とか難は逃れたし!怪我もなく生きているから、まあいいか!)
そう思い、レオもまた、光の隣で、青い青い澄んだように青い空を眺めた。
「レオさーん、僕~気が気じゃないことが~あるんですが~」
そう言ってアンがレオに後ろから覆いかぶさるように抱きしめてきた。
「うわ!どうした?!アン!」
レオが慌てたように焦ったように、アンの腕の中であたふたしている。アンのそんな行動に、光がピクリと反応した。
「どうされたんですか?自然神様?」
光が少々青筋を立てながら、笑顔で冷笑を浮かべ、アンに尋ねる。光としては、レオに抱きついている事態に、あまり面白くないご様子。その姿を見ていたドーラスは思わず拭きだし笑っている。
「そうなんですよ~!自然神だと~僕に~給料入るんですか~」
めちゃくちゃ不安と不満そうに口を尖らせながら、呟くアンに
「えーっと・・・?」
さすがの光もどう答えて言いか分からなかったが
「光!払ってやって!本当にアン切実だから!本当切実だから!!」
思わず光が、叫ぶように光に懇願した。
(本当に切実っぽいから――!!)
その様子が伝わったように
「ああ、そうだね」
と苦笑いをしながら了承してくれたのだった。
近くではドーラスが声を上げて笑い転げていた。




