3.
「ところで!ドーラスさん!俺は自分の世界に帰れるのかい!!」
いろんなことをしていて、すっかり、かっかり、忘れていたが、本来の目的を聞くため、意気込んで尋ねた。先程までの動揺など、取るに足りないものだと自分に言い聞かせて。
「あー、そうねん・・・」
ごくりと喉の奥で、つばを飲こむ音がする。一応、帰れるという保証はほしい。一応あんな家族だけど、自分にとってかけがえのない家族なので。
ドーラスはかわいらしく、小首をかしげながら、思慮していた。光は、木の造りのテーブルに腰掛けながら、どこか不安そうにレオを見つめていた。レオは光が、あの森で、言ったことを思い出していた。そう、『帰ったら、さびしいなあ・・・』と言っていた事を。レオは、光の諸事情(王位継承者問題が)落ち着く位まで、光のそばにいてもいいかなあと思っていた。
なんとなくだが、まだ一人にしないほうがいいような気がしたから。そんなことを考えながら、レオは、大丈夫だというような動作で、光の肩を軽く叩く。その感情がかなりのおせっかいだとしても、偽善だといわれたとしても、これが自己満足に過ぎないと分かっていても、友達を見捨てるなんてできないし、ここまで巻き込まれているのにいまさら、光を、置いて帰ったとしても、後のことが気になって気になって仕方がなくなるのは分かっている。そんな様子を、目の端でドーラスはとらえながら、
「無理よん」
悪びれる風でもなく、あっけらかんと言い放った。
そんな様子に、
「え――――!!」
思いもよらなかった返答に、大声をあげた。
「え?どうしてですか?十年前、あなたは、私たちを、逃がすために、空間に穴を開けて扉を開いたじゃないですか!」
予想だにしなかった事態に、光も焦る。多分ドーラスなら大丈夫だろうと高をくくっていたのだった。
「あの時はー、一応巫女の神殿でのことだったし、ちょうど十年に一度の力が使えたからよかったのよ~けれど、今の巫女神殿は、あのフェラスが、地下の隠し聖堂にアンシュを信仰しているから、女神の信仰が穢れて、力も使えないし、前は巫女臣だった私だけど、神殿の中にいた巫女達とこんな姿で逃げなくちゃいけなくなったのよね~。それに、アンシュを信仰しだしたことで、国の均衡も崩れだしているし、それに、民たちが少しずつだが、女神信仰を捨て、魔神信仰を闇で行おうとしだしているのよ。まあ、それによって、十年前内乱が起きたのだけど。あなたなら分かるはずよ?微かに国の均衡が崩れだしていることを」
光をちらりと真剣に見つめながら言った。
「・・・」
光は何も言わず、ドーラスの紫紺の美しい瞳を見つめる。
「それに、国の均衡が崩れだしたら、今度は世界の均衡が少しずつ崩れだしていく。自然神がいつの時代もこの地上にいるわけではないのを、アンシュは見越しているのねえ。少しずつ、少しずつ確実に自分が動ける範囲を広めようと、人間たちを誘惑しているのねえ・・・。女神とは違い、人間の心の隙間に入ってくるから・・・」
そう、二人が真剣に話している。が
「俺にもわかるように話してくれませんか!何それ!巫女臣やファラス??アンシュ??それに、自然神って実際にいるのかよ!意味わからん!!」
レオが憤慨したように二人につめより尋ねる。
その様子に、頭をかしげるようにドーラスは光を見る。
「あーそのー、実は・・・女神がいるのと、この世界の成り立ちぐらいしか言ってないんだ・・・。内紛があったのも、王位継承問題でとしか・・・」
光は罰が悪そうに細々と呟く。その様子にレオは
「え?あの他にまだなんかあったのか?」
どうやら、その表向きのものとは別に、深々とあるようだった。
「ご、ごめん!レオ!!」
光は申し訳なさそうに言ってくる。レオ的には別に気にすることではない。誰にでも深く話したくないこともあるし、ましては、レオはこの世界の人間ではないし、光に関わらなければ、知りもしなかった世界なのだから。
「いや、別に気にしなくていいよ。今から聞くから。なんかすげー事ありそうだけど」
レオが苦笑いしながら、光に言う。そんな様子に、全部言わなかったことに微かに、胸を光は痛めていた。
レオは何を言ってもいやな顔はしない。信じられなくてもじっくり考えて、それを理解しようとしてくれる。そんなレオに、光はすごい失礼なことをしたことを、今更ながら気づいた。それは、少しでも、一緒にいたいと思う感情と、自分の事柄にこれ以上レオを巻き込んで、レオにもしものことがあってはと揺れ動いたからかもしれない。
そんなことを、光が考えているのが分かったわけじゃないレオだけど、
「光そんな顔すんな!俺だって、色々あるけど、一から十まで全部光に言っているわけじゃないしさあ~。というそんなとこだ。けれど、帰れないとなったら、色々知っておく必要があるし、情報は必要さ!」
にかりと元気に笑う姿に、微かに詰まったような感情が抜けた。
そんな様子を見ていたドーラスは
「お見事だわ~、レオ!王子のその何?こう、暗いとは違うんだけど、なんて言うかあ~何かしら~」
何かドーラスがあーでもないこーでもない。何か当てはまる言葉はないかしら?と思案している。そんな様子をただ、レオと光は不思議そうに見ていた。
「あ!そうそう!へたれよ!そうへたれ!」
「「は?」」
意味が分からず、二人は顔を見合わせた。
「王子はへたれっぽいのよ!王子は強いし、頭も良さそうなんだけど、どこか抜けているというか、へたれっぽいのよね~よっ!へたれ王子!」
「うわー呼ばれたくないよなあ・・・そんなあだ名で・・・」
レオは思わず言ったが、当の本人は、ただ、苦笑いするばかりで、何も言わない。
(へたれというより、優しすぎなんだって!)
そう、レオは思う。自分のことより人のことを考えすぎなのではないだろうかと思う。
そう考えると、ある意味王様向きなのではと思う。この先、何よりも民を思う気持ちが多分誰よりも強くなるだろう。
ドーラスがまだ、光を『へたれ~』とまるでいじめっ子のように言っている。それに、少々涙目になっている光を
(あ、けど、少しへたれっぽいかも・・・)
そう、考えてしまった事は内緒にしておこうと、レオは思ったのだった。




