【余談】適正な登場人物の人数は
物語を読んでいると、多くの登場人物が出てきて、名前を見てもその登場人物がどのような人物であったかを思い出せなくなってしまうことがあります。もちろん読者側の記憶力の問題もあるのですが、実際は物語を作る側としてどのくらいの人物を登場させるのが適正なのでしょうか?
私の考える結論からいうと、主要登場人物が3名(+1名)程度、サブを含めた良く出る登場人物が7名(+2名)程度の人数が適正な人数と考えています。
良くプレゼンテーション等で、そのプレゼンの重要なポイントを紹介する際に、「ポイントは三点に絞れ」というような事がよく言われます。これは人が説明を受けた場合に印象に残る内容が三個、多くても四個が限界で、一度のプレゼンにそれ以上の情報量を詰め込むと、聞き手の印象に残らなくなってしまう、と言われているからです。
これは、物語の読者に対しても同様で、強く印象に残したい登場人物は3名程度が限界で、それ以上の数の主要人物の登場は、全体の印象を弱めてしまうかもしれません。
サブを含めた登場人物が7名と言いましたが、これは人間の短期記憶に関連します。
多分そこそこ有名な実験だと思うのですが、「以下の15文字を30秒間で覚えて、30秒後にいくつ思い出せるか」というのを試してみてください。
「ま そ ほ か し ら る と く り み あ は う な」
次は「7個の言葉を30秒で覚えて、30秒後にいくつ思い出せるか」というのを試してみてください。
「あか そら はな ほし うみ とり くるま」
結果はそれぞれの方で違うと思いますが、前者は7文字前後、後者は6個~7個全部という結果の方が多いのではないでしょうか?勘の良い方は既にお気づきと思いますが、前者の15文字と、後者の7単語は同じ文字です。前者が7文字程度しか記憶できないのに対して、後者はほぼ全ての文字を記憶することができます。
私は専門家ではありませんので詳しい論文等は分かりませんが、人間の短期記憶では「7個+-2個」程度のモノしか覚えられない、という性質があるそうです。これは人が意味を付けて認識するモノの数 という感じで、「赤い花」「空と星」「海を車でドライブ」のような文章にすると、もっと多くの文字数(7個分程度の文章)を記憶することができます。
読者が初めて物語を読む場合、主人公を含めて、その登場人物の名前を「覚える」ことが必要になります。定期的な連載作品など、長い期間をかけて繰り返し読むものであれば、これらも長期記憶されますが、数時間程度の短時間で物語を読む場合は短期記憶が使われるでしょう。 ここで、先ほどの話を踏まえると、物語を読んでいる時に、「7名」を超える数の登場人物が登場すると、「あれ?これどんな人だっけ?思い出せない……」ということが起こりえそうです。これは自分の体験・経験と比較してもそれほど違っていないと思います。
もちろん、優先されるべきは物語の内容自体であり、「ミステリー作品で10名の登場人物が必要」という場合に、作品の内容を変えてまで登場人物を調整する必要は無いと思います。
ただ、ハーレムモノ作品などで、「とりあえず女の子を数多く出しておけばいいや」というような作品だと、「あれ?これ誰だっけ?…まぁ、数多すぎて覚えられないしどうでもいいか」というように、登場人物全体の個性を消してしまうことにもなりかねません。
また中世ヨーロッパを舞台とした作品などでは、名前が日本人に馴染みが無い分、登場人物が多い場合の覚えにくさが増します。設定の時点である種のハンデを背負っていることになります。
登場人物が増える場合、描きたい作品の内容として必要な場合もありますが、作者の気分や、物語に手軽に加えられる真新しさとして、新しい人物が登場しているように見えるものも多々あります。こういった場合にも、「作者の都合」ではなく「読者目線」で考え、読者の読む気を萎えさせないような工夫を考えたいですね。