第1章 純正団、集う
やっとの更新です。
今回は『純正団』のメンバーが登場します。
――まだだ
もっと新鮮で生命のエネルギーに満ち溢れた血液が要る。
若い女の血。
街に放った妖魔は私の元に赤々とした汚れのない血を運んでくる。
従順なる吸血鬼。
三体造ったはすが、二体はこの国の王子の犬に葬られてしまった…
まぁ、三号機はそんなに簡単にはやられまい。
あいつは実に優秀だ。
それにしても私の作品を消し去ったあの男…
コチラ側の妖気を放っているようだが…
どちらにせよ、私の望みを邪魔することは許さない。
それも、私の生成している『コレ』の完成によってすべて終わるのだ。
この国も
この世界さえも
…あと一歩
しかし最後の仕掛け…
『神の一部』を手にいれなければ…
一体どうすれば…
そう言えば…1号機を怯ませたあの瞳の力…
よもや…
調べる必要がありそうだ…
冷たい地下の闇の中で人影は両手を天に掲げる。
その目の前に映し出された巨大な装置の中で、人とも妖魔とも違う何かがまだ静かに眠りについていた。
「シロ王子様?この廊下ってどこに繋がっているんですか?」
スミレの問いには見向きもしない。
そして一度も振り返ることなく、マントを地につかない速度でなびかせ、シロはどんどん歩いていく。
先程までの明るかった廊下とはガラリと雰囲気が変わり異文化の装飾が壁にたくさん掛けられている。
地下に降りたつもりはないのにヒンヤリとした空気が漂う、部外者が簡単に踏み入っていい場所ではないような気がした。
何となく薄気味悪い。
まだまだ道は続いている。
しばらくして、シロが口を開いた。
「はぁ…だから王子をつけるなと言った。何度言ったらわかるんだ?」
「うぅ…すみません」
「…もうすぐだ。怖いのなら着いてくるな」
そう告げるなりシロは歩く早さを上げた。
「ま、待ってください!」「うぐっ!!」
スミレは懸命に手を伸ばしシロのマントをまた引っ張った。
「貴様ー!!またしても!!これは手綱ではない!」
スミレに向き直り声をあげるシロに、スミレは肩をあげ小さくなり、うつ向いた。
マントを掴みながらその手を震わせる。
「…?おい?」
スミレの様子がおかしい。
シロは黙りこんで下を向くスミレの顔を覗き込んだ。
「一人じゃ怖くて帰れませんっ!!」
ゴスッ
「痛っ!」
急にスミレが顔を上げたので、頭突きがシロの顎に直撃した。
「うぅ…」
「はっ!シロ様!?…大丈夫ですか…?」
スミレは顎を押さえてうずくまるシロに、なんともなかったかのように声をかけた。
「マジ、許さん!」
シロはすぐに立ち上がると、スミレに背を向けほぼ、小走りのペースで前に進んでいった。
「シロ様ぁ〜置いてかないでくださ〜い」
さっさと行ってしまうシロを見失わないようにスミレはその後ろを走りながらついていく。
「あれ?シロ様、泣いてます?」
シロの目からうっすらと光るものがこぼれた。
「うるさい!!目にゴミが入ったのだ!お前はいちいち…」
「お前じゃありません!スミレです!!」
「お前なんてお前で十分だ!!」
「シロ様こそ!私に呼べと言っておいて、私のこと名前で呼んでくださらないのですね…」
「…ふん、立場を考えろ」
突然、一歩先を行くシロが足を止める。
「きゃっ!」
急に止まったシロの背中にスミレは激突した。
シロのいい香りが広がる。
その背中に埋まった顔をすぐに離し、何故か、紅潮してしまった頬を手で隠した。
「着いたぞ」
暗闇のはずのその部屋の入り口からは美しい光りがたくさん漏れている。
光の量で、相当な広さのある部屋だとわかる。
シロと、ゆっくり中に進む。
一歩踏み込んだとき世界の変貌に息を飲んだ。
漏れていた光よりも遥かに明るく暖かい日差しが、二人を迎える。
まさしく大聖堂と言う名に相応しい神秘的な空間。
まるで神の世界へ繋がっているかのような高い天井には、どうやって描かれたのか、神々が戯れ、怒り、戦う様の壁画が彫られている。
奥に見える巨大な女神の像の後方からは色鮮やかなステンドグラス。
そこから差し込む眩しい日の光は色をつけ床に散りばめられる。
女神の像の下には数名の人影が、こちらを見ながら立っているのが窺えた。
そのどの視線も交わらず、ただ静かにシロとスミレを見つめている。
「シロ殿が取り乱すなど、珍しいな。ここまで響いてきたぞ」
人影のうちの一人が抑揚のない声で告げた。
美しい容貌に刺すような冷たい視線。
神秘的な雰囲気に違和感なく溶け込む金色の短い髪。
その腰元には細く長い剣が携えられていた。
「…取り乱したつもりはない。うるさくして悪かったな。皆、揃っているか?」
「何名かは巡察に向かわせている。我々だけでは足りなかったか?」
「…いや、大丈夫」
シロもまた、前に進む度にこの聖堂の厳かな雰囲気に見合ったものへと変わる。
シロの後ろを離れないようにスミレも人影の方へ歩み寄る。
近寄る度にこの集団の一人一人の放つエネルギーのような物が人のそれとは違う、何か異質な物の様な気がした。
スミレの瞳が放つ何かと似た力を感じる。
「クロはどうした?噂通り怪我がひどいのか?」
人間より一回り以上小さいが、ガッチリとした体型の男がこちらを見ながら話しかけてきた。
「クロの治癒能力の高さはご存じかと…」
その小さい男に対して、シロは尊厳のある眼差しを向け静かに応えた。
「で、その子は?まさか新しい仲間!?」
長めの髪を後ろで束ね、きりっとした視線の中に優しさがある笑顔を向ける男もスミレを見る。
「…この少女は、今回の作戦の協力者だ」
シロはスミレの横に立ちその肩に手を置いた。
「私の調査では吸血鬼はあと一体。つまりそいつをおびき寄せるために協力を仰いだと言うことですか?」
全身を黒い衣装で包み、顔を覆っていたマスクをしたにずらす。
金髪の女にも見劣らない整った顔立ち、体型からもいかにも身軽そうな女は、スミレを観察するかのような目で見ながら告げた。
「…そうだ」
全員が目を見開き、そのまま伏せる。
いくつかのため息が聞こえた。
「貴方はまたさくら殿と同じ過ちを繰り返すつもりか?しかもいまはクロもいない」
金髪の女が半ば飽きれ口調で話す。
「さくらさんの件は彼女が勝手に起こしたことです。我々『純正団』はそんな無謀ことはしない」
『純正団』。
聞きなれない言葉、わからない話がどんどん進む。
スミレは訳もわからず、ただ、周りをキョロキョロと見回すだけだった。
「あなた方はこの私が創った『純正団』のメンバー。私がもっとも期待と信頼をおく存在です。契約通りこの国を護るために命を懸けて戦ってもらう。そして、私の命令には決して逆らわないと改めて誓って欲しい。クロの二の舞は避けたい」
「クロがあんたに逆らったのか!?」
小さな男は大袈裟に驚きシロに訊ねる。
「いいえ…正しくは話を聞かないで、自分の判断で動いてしまった。まあ、あいつは『純正団』ではなく、私の護衛ですから」
「そうだったな」
金髪の女が口許を引き上げた。
「しかし、鬼斬りはクロくんがいなければできないのでは?」
優しい笑顔そのままに髪を縛る男も訊ねる。
「…誰が、斬る、と?」
「まさか、捕えるつもりか?」
金髪の女が面白いものを見るような目でシロを見つめた。
「残りはあと一体。だが、やつらの黒幕がいるはず。それを掴むのが先では?」
シロは冷静に、淡々と話す。
「しかし…」
黒装束の女は不安そうに眉を潜めた。
「アイリスの調査ではまだまだ正体は掴めない。それならここはひとつ。懐に飛び込んでしまおうではないか!」
「シロ様!それこそ無謀では?こんな小娘ではあっという間に事が終わってしまう…」
アイリスと言う黒服の女はまだ、納得がいかない表情でシロに詰め寄った。
「…大丈夫。この少女には産まれながらの神の加護がある」
「神の加護?」
全員がスミレを見つめ、その全てを凝視する。
スミレは恥ずかしくなって顔を伏せた。
シロがまたスミレの肩に手を乗せる。
「そーいうことだ」
そう言ってスミレに笑顔を向けた。
「私が、囮に!?」
「お前はこの『純正団』が護る。頼まれてくれ」
真剣な眼差しになったシロ。
そして、ここにいるスミレ以外の全員が返事を待っていた。
受ければ必死に護ってくれるだろう。だが、受けなくとも別の方法で探すのではないか?またあの怪物と会うのは避けたい…
いろんな事が頭を巡り、スミレが答えを出せないでいると、金髪の女が少しだけ笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「その囮の護衛は、私が引き受けよう。シロ殿が言う神の加護、見ねばなるまい」
「…イキシア。宜しく頼んだ」
シロの声が弾む。
イキシアと呼ばれた、金髪の女はスミレの前に立った。
「私の名はイキシア。『純正団』団長だ。女、名は?」
「あ、えっと、スミレと申します!!」
「スミレ、お前は私が護ると誓おう。私の血に賭けて」
イキシアの力強く、頼もしい眼差しにスミレはただ、その場に立ち尽くした。
このまま、どんどん進んでいけますように(^_^ゞ
今回はシロの
「マジ、許さん」と言う言葉が自分でハマりました。
次回は女だらけのお話です!!
お付き合いいただきありがとうございました!