第1章 二面王子
間空いちゃいましたすいませんm(__)m
「顔を挙げよ」
スミレが顔をあげるとそこには全身清楚な真っ白い服に身を包んだ王子が立っていた。
「また、会ったな」
きれいな顔が柔らかく微笑む。
その笑顔は、初めて出会ったあの時より大人っぽい印象があった。
「王子様だったんですね」
「こら、スミレ!何て口を利くんだい!!申し訳ございません」
隣に並んでいるミモザがスミレの頭をつかんで下げる。
「気にするな。紹介が遅れたようだな、我が名はシロ=ウェンダブル18世。この国の継承者だ」
シロは気を遣うように二人に優しく言う。
「女将、相談があるのだが」
「はい、何でございますか?」
「その、スミレとやらをしばらく城にて預からせてはもらえないだろうか?」
「えっ?」
スミレはシロを見上げたが、シロは先程と変わらない笑顔を向けるだけだった。
昨晩、牙を持つ正体のわからない生き物に襲われたスミレは、それを救ったクロに案内され、ひとまずミモザたちと合流することができた。
そして、朝早くまた、クロが宿に現れスミレはミモザと共に城に連れてこられたのだ。
「しかし、王子様…」
困った表情を浮かべるミモザにシロはさらに言葉を続けた。
「昨晩、この少女は何者かに襲われた。うちの者が救わなければ、命はなかっただろう。我々、国の治安維持部隊『純正団』が今、追っている事件の重要な目撃者なのだ。同じことが起こらないように協力してもらいたい」
「ですが…」
「事が終われば解放もできよう。それに…」
シロがスミレの前に歩み寄り、目の前で膝をつく。
そのままスミレのあごを優しく引き上げた。
突然の事に、スミレは身動きとれずシロと見つめ合う。
「この瞳の謎…我が国ならば解明することができるかもしれぬ」
シロは慈しみの表情でスミレとミモザに視線を投げ掛ける。
瞳の謎…
そう聞いて、スミレの気持ちが揺れ動いた。
「わかりました…暫し、お預けいたします。ですがその子は我々の大切な家族ゆえ、危険の無いよう預かっていただけますか?」
ミモザはシロの対応は信頼に値すると感じ、また、スミレの気持ちを代弁するように告げた。
「約束しよう」
変化はないが、それでも優しくシロは二人に笑いかけた。
一国の王子としては腰が低く、身近で、皆に好かれるできた人間。スミレも、この王子の近くにいれるのなら、悪いようにはならないと安心できた。
「必ず迎えに来るからね」
そう言い残し、ミモザたちは次の国へと馬車を走らせた。
「みんな…」
しばらくの別れとわかっていてもなぜか寂しくなりスミレは瞳に涙を溜めた。
「淋しいか?」
共に見送りに来ていたクロが表情もなくスミレに訊ねる。
「ずっと一緒にいた家族だから、一人になると淋しいです」
「家族…」
それ以上は会話もなく、二人は城内へと向かった。
前を歩くクロの背中がどことなく寂しく感じられた。
「これに着替えるようにと」
クロに差し出されたのはここの召し使いが着ている制服だった。
「他のものには怪しまれないように、ここに留まるにはこの方がいいだろうと、シロ様が仰っていた」
スミレは、黙って服を受け取るとクロを見上げた。
表情は変わらず、何を考えているのかわからない不思議な雰囲気を持った人だとは思うが、悪い人ではないとも思える。
「何かあったら言ってくれ。ここでの事はあのアヤメに任せてあるから、会うといい」
「は、はい!」
スミレは、クロに軽くお辞儀をすると記憶に新しい、昨日廊下で衣装を運ぶのを手伝ってくれたアヤメと言うメイドの元に向かった。
スミレは、着なれない制服を着ると、アヤメと合流した。
これから、何が起こるのか不安が募る。
「しばらくの間、よろしくね」
だが、アヤメの笑顔にスミレの不安は打ち消された。
「はい、お願いします」
スミレは、差し出された手を握ると、頭を下げる。
「ここでは特に厳しい規律はないのよ。王様方のために心を込めて支えるだけ。暫くは、私と一緒に…」
話の途中で、何かに気づいたアヤメは急に深いお辞儀をした。
「?」
何が起こったのかすぐに理解できないスミレのすぐ後ろに人の気配がした。
次の瞬間、高貴な花の香りがスミレのすぐ横に漂う。
「やあ」
スミレの耳元に顔が近づき、そこで囁かれる。
首筋に息がかかり全身に鳥肌がたった。
そして、すぐに耳まで真っ赤になる。
熱くなった耳を押さえスミレは、後ろを振り向いた。
そこには国の王子である、シロが立っていた。
その後ろには見たことのない羨ましい体型の美女と眼鏡を光らせ姿勢よくたつ青年の二人がスミレを興味深そうに見ている。
スミレの首筋にはシロの息の感触がまだ残り、いい匂いが消えない。
硬直し、後ずさむスミレを見て、シロは口元だけで笑いその瞳を覗き込んだ。
「なんだ、光らないか」
「…な、何をするんですかっ!」
やっと声が出た。
「そうか?これでは足りないのか?」
「は?」
シロはスミレが今まで見たことのない意地悪な笑みを浮かべると、突然スミレの肩を捕まえ後ろの壁に押し付けた。
「ちょっ!!」
シロの顔が近づいてくる。
スミレはあっという間のことで抵抗できない。
もう少しでお互いの唇が触れる。
その時、シロはいきなり顔を下げ、肩を小刻みに震わせた。
「あははははっ!うん、実に面白い」
シロはスミレから手を離し大声で笑いながら、そのまま従者二人を引き連れて、去っていってしまった。
スミレの持つ、シロのすべてのイメージが音をたてて崩れ去った。
「王子、いたいけな少女をいじめて楽しむのはお止めください。王族の名が汚れます」
オリーブが静かにたしなめた。
「…」
しかし、シロの表情は先ほどまでのものとは一変し、何かを考え込んでいる。
「まあまあ、オリーブさん、王子は悪気ばかりであの娘に近づいたのではないですよ。あの瞳の刻印見ましたか?」
「クロが、あの瞳から計り知れない光が溢れ『吸血鬼』を後退させたと言っていたが…」
「確かに、異質なものであるような気はしますね…」
しばらく三人は無言になりそのまま歩いていく。
「オリーブ、ペリドッド」
「はい」
「あの娘から目を放すなよ。同時に瞳について調べてくれ」
「わかりました」
「神の類いの力を秘めているかもしれん」
「仰せのままに」
シロの眼差しは天井に向けられる。
「生まれながらに神の力を持つもの…か…」
広い部屋の高い天井に描かれた神々の壁画を見つめると、何かを思うようにシロはその目を閉じた。
さあ、スミレさん巻き込まれて行きなさい(^^ゞ