第1章 少女の瞳
やっとやっと本編スタートです(^_^ゞ
長い目で見てくださった方…これからもよろしくお願い致しますm(__)m
ウェンダブルの真っ青な空に、朝から何発もの空砲花火が、空を割る勢いで打ち上げられている。
街は国王の生誕記念で賑わっていた。
城内では何百という召し使いがこれから行われる、生誕祭の支度で忙しなく動き回っている。
王はそれを玉座から眺めながら、静かに喋りだした。
「シロよ。世は、この年になってもこの国と共にあることを嬉しく思うぞ」
王の傍らでシロと呼ばれた若い青年はゆっくりと口を開く。
「父上。この国が父上と共にいつまでも健全であることを願っております」
シロは白髪に青い瞳を持ち真っ白なマントを纏いながら、その整った顔立ちで柔和に微笑んだ。
「うむ。お前が『純正団』を率いて護っているからこそ、治安が安定している。お陰で、こちらも安心して政治に力を入れられるのだ。これからも、このウェンダブルを頼むぞ」
「お認め頂き光栄です」
そういって、またにこやかに笑う。
そして、王に一礼すると立ち上がり、その場を去った。
城内の廊下をマントをなびかせながら歩く。
その姿は、シロの王子としての品格を表すように優雅だった。
シロの後ろには、二人の従者が揃って付いてくる。
「オリーブ、この後の予定は?」
オリーブと言うシロよりも幾分年上で全身から大人の色気を醸し出す女が、ツカツカとヒールを鳴らしながら、手元の手帳を開く。
「王子はこの後、大臣方との謁見と会場の視察となっております」
オリーブは自慢の妖艶な体を揺らしながら淡々と告げる。
「そうか、ペリドッド。クロを呼んでこい」
「かしこまりました」
もう一人の男の従者、ペリドッドは、執事服をビシッと着こなし眼鏡を光らせるとシロに背を向け、走り去っていった。
するとシロは今度は誰もいないはずの廊下に向かい声を掛けた。
「アイリス、居るか?」
「は。こちらに」
いつの間にか、黒服に身を包んだ女が、廊下の端に膝をつき頭を下げている。
突然の出現にも、シロは全く動じることはなかった。
そのまま歩みを止めず前に進む。
黒服のアイリスは音も立てずに、シロの後ろに付き従った。
「街の状況は?」
「民衆は異常ありません。ただ、例の噂は未だに…」
シロは歩みを緩める。
そして、立ち止まると後ろに控える二人の女に背を向けながら視線だけを送った。
「父上の生誕祭に何かあっては困る。『純正団』を動員し、隠密に事を沈めるのだ」
「御意に」
アイリスの姿はすでにそこにはなかった。
「何だか賑わってるなぁ〜」
荷馬車から顔をだし、左右で二つに結んだ柔らかい髪を揺らしながら、少女は街に目をやる。
その少女と数名の異国を渡る者達を乗せた荷馬車はウェンダブルの巨大な門の前に来ていた。
「さ、いくよ」
一番年配の女が、通行の許可を得ると、馬車は動き出す。
「ちょっと待って」
少女は慌てて頭をしまった。
ガタガタと大きな音を立てながら、馬車は街の中を走る。
「さすがに王様の生誕祭は盛り上がるものだね…」
仲間たちが興奮しながら話す。
「我々の躍りがその式典の催しとして、披露できるなんてこんな名誉なことないわね!」
「き、緊張する」
少女は胸に手を当て呼吸を整えた。
少女の名前はスミレ。
ウェンダブルからは遠く離れた土地で生まれたが、幼いときに両親を失い天涯孤独となった。
偶然巡業中のミモザを団長とする舞踏団に引き取られ、共に各地を渡り歩いている。
一行は街の大通りをまっすぐ進む。
沢山の店が立ち並び、行き交う人々は皆、清々しい表情で楽しそうに歩いている。
この国はとてもいい国なんだと実感した。
しばらく行くと先に橋が見える。
橋を越えたところにやっと、この国の中心にそびえ立つ城が見えてきた。
「痛いっ」
スミレの左目が突然痛みを感じた。
「どれ?あら、色が変わってるわ」
女将のミモザが瞳を覗き込む。
スミレの左目は産まれたときから突然金色に輝き出すことがあった。
瞳孔には文字が刻まれている。
金色に変わるときには痛みを伴うこともあった。
スミレの悩みの種であり、この体質を疎まれたこともある。
しかし、舞踏団のメンバーはそんなこと気にはせず、仲間として受け入れてくれた。
スミレにとって居心地のいい場所なのだ。
橋を渡りきり、巨大な城門を越えてもまだ、城までは長い道が続く。
小高くなると城下町が見下ろすことができ、そのさらに先には『世界大樹』の立派な根が見えた。
途中、湖や森を通過し、随分と高いところまで登ってきた。
やっと馬車は城内へ入り、動きを止める。
馬車の窓からは制服に身を包んだ召し使いたちがあちこちに見えた。
そして、ここまでの間にスミレの瞳の痛みは消えていた。
荷物を下ろし、皆で分担して城内の控え室まで運ぶ。
「そんなに持って…」
瞳の事もあり、異端者として、軽蔑されないようにと、スミレは顔の高さまで荷物の衣装を積み、持ち上げた。
「足音についていけば大丈夫!」
城の中の大理石の床はいい音をたてる。
だが、音が多すぎる。
世話しなく動き回る召し使いたちの靴音と、前を歩く団員の足音の聞き分けがつかない。
「どうしよう…」
とりあえず、状況を確認するため埋まった顔をどうにかしようと体を動かすが、一緒に体もふらふらと動いてしまう。
やがて、前方から、一定のリズムの足音が近づいてきた。
スミレの前でその音は止まる。
団員が手助けにきたのだと安心したスミレは懸命に顔を動かし脇から前を確認した。
「!」
目の前には見たことのないきれいな顔立ちの青年が、眉間にシワを寄せスミレを睨んでいる。
白い髪に青い瞳。真っ白な高価な服。長いマント。
しばらく二人は言葉を発することなく見つめあった。
「お前…」
青年のまっすぐな眼はスミレの瞳を凝視している。
「シロ様?」
今度はスミレの後方から、声が聞こえてきた。
その声に青年は我に返ったかのように近づけていた顔を離す。
そして、腰に手を当て、偉そうに胸を張り、スミレを指差した。
「クロ、こんなやつうちにいたか?」
スミレの後ろにいるクロと呼ばれた声の主に訊ねる。
「さあ、祭典の演者ではないでしょうか?」
クロはスミレの顔を覗き込む。
こちらは黒い髪に赤い瞳。シロとは違い、大人びた美形の青年だが、着ている服は昔スミレたちが訪れたことのある『和の国』の着物というものであった。
腰には刀を差している。
二人の男に囲まれてしまい、余計に身動きがとれなくなる。
厄介なことにはなりたくないと、逃げるように一歩を踏み出した。
「わっ!!」
慣れない大理石に足を滑らせ大量の衣装は宙を舞い、スミレは床に尻餅をついてしまった。
「いたたたっ」
腰をさすりながら見上げると、腹を抱えながらクロを指差し上品に笑うシロと、頭に花が沢山付いた衣装の帽子を乗っけているクロ。
クロは目を見開いたまま、止まっている。
スミレの転倒の拍子に乗ってしまったらしい。
「すっ、すいませんでした!」
全く言葉を発しないクロが瞬時に脇に差してある刀に手を伸ばした。
感じたことのない冷たい空気が一瞬にして辺りに広まる。
スミレはその威圧的な「気」の重さに恐怖を感じ、立ち上がることができない。
「…クロ」
シロが一声かけると、クロの周りに浮かんだ、殺気と呼ばれるであろう空気が鎮まった。
「悪かったね。躾がなってなくて。しかし、面白いものを見せてもらったよ」
シロはそう言ってスミレに手を差し出した。
その手の向こうがわでシロは優しく微笑む。
何て気品に満ちた笑顔なのかと、スミレは見とれてしまった。
シロの手を取りゆっくりとスミレは立ち上がった。
雰囲気から察しは付いたがその手はあまり体温を感じさせない。
スミレが立ち上がり改めてシロを見ると、シロのその表情は一変した。
「金色の瞳?この瞳孔に刻まれた文字といい、君は一体…」
どうやら、ある種の危機を感じるとその瞳は輝く様だ。
クロの殺気で輝いたスミレの瞳をシロはじっと見つめる。
「シロ様、そろそろ行きませんと…」
止まっていた時間をクロが引き戻した。
諦めたシロは床に散らばった衣装を見下ろし、顔を上げ辺りを見回す。
「あ、アヤメ君。これ、一緒に運んでやってくれ」
偶然近くにいた、メイド服に眼鏡で、長髪の少女に声をかけた。
「かしこまりました」
アヤメは一礼すると、すぐに衣装を集め、スミレを見る。
「こちらです」
そう言うなり、衣装を持ち上げさっさと歩き出してしまうアヤメを慌てて追いかける。
スミレは急に立ち止まると、振り返り、シロとクロに頭を下げ、また二人に背を向けた。
その後ろからシロが
「演技、楽しみにしてるよ。転ばないようにね」
と、声をかけた。
いきなり、三人が出会いました。
振り回されるスミレを見守ってください!




