第4章⑧ 神の共闘
創られた神の圧倒的な力の前に、なす術もなく立ち尽くす『純正団』たち、しかし、スミレの力の覚醒により光を見たがそれもまた、力を保てなかったため無に帰した。
倒れてしまうスミレを抱き止めたその腕は・・・
誰もがその姿がそこにあることに、理解できないでいた。
だが確かに、彼の放つ「希望」という光がこの曇り空を吹き飛ばす。
そんな期待をせずにはいられなかった。
「シロ…様…」
ペリドットが涙を浮かべながらその真っ黒なコートに身を包んだ人物を見つめる。
だが返事はなく、全ての人間が思い描くその雰囲気とはかけ離れた冷たい空気を漂わせていた。
創られた神がシロの体から滲み出る気迫を感じとると地に足をつけ、真っ直ぐにシロを見据える。
「ようこそ、滅びの中心へ」
まるで同族と話すように対等な口調で話しかけた。
「私のものに触れ、破壊したことを後悔するんだな」
シロは顔を上げることなく静かに口を開く。
「お前のもの?」
「この世界も、この国も、この街も、仲間たちも…」
力を失い瞳を閉じているスミレを、優しい眼差しで見下ろす。
「…この女も…」
いつの間にかシロの足元に魔方陣が描かれ始め、そこからは黒い気体がジンワリと浮き始めた。
「世界?仲間?そんなもの、神である私には必要ない。すべてを無くす。それだけだ」
創られた神の周りに風が集まり始め粉塵を巻き上げる。
人の世界ではあり得ない力が両者から溢れ出している。
「お前も同じではないか」
シロの力を推し量り、その中に自分と同じ破滅のエネルギーを感じる、創られた神がシロに告げた。
前髪で影になるシロの目が細められ、その言葉を嘲るように口許が上がる。
「笑わせるな。貴様には何もない」
「私には何もいらない」
シロの言葉に、苛立ちを覚えた創られた神は即座に言葉を返した。
「痛みを知らぬものは神とは言わない。共に生きることを知らないものは人とは言わない。貴様はそのどちらでもない」
諭すように言葉を続けたシロの周りに浮かんでいた、黒い無数の塊一つ一つが、青白い炎に変わり燃え始める。
「地獄の業火に焼かれながら、痛みを知り、生きたいと叶わぬ願いを抱き続けろ」
シロはスミレを優しく抱きながら片手を前に出した。
同時にいくつもの焔の玉が創られた神目掛けて飛んでいく。
その炎を避けるため、創られた神は何度も腕を振り疾風を起こし火を散らせる。
しかし、無数に存在するその炎の塊は創られた神の肩を焼き、足を焼き、顔の半分を焼き消した。
だがまだ創られた神は倒れることなくその体に得体の知れないパワーを沸き上がらせる。
「気質が違う…」
翡翠がその光景から目を逸らさずに呟いた。
シロから放たれる力の中に『禁忌魔術』とは違う性質の力が含まれているような気がしたのだ。
「神の力に近い…」
その後ろからアズライトを背負いながらオニキスが姿を現す。
「シロ殿は地に堕ちた神のとてつもない力を受け取っていたようだな…」
「オニキス…アズライトは一体…」
翡翠の問いにオニキスは答えない、答える必要がなかった。
「そんな…」
さくらがアイリスと、オニキスの横に来る。
少しだけ微笑んでいる様に見えるアズライトを、さくらは睨みつけながら話しかけた。
「何してるの?目を開けて、私たちを閉じ込めたこと謝りなさい」
「さくら…」
アイリスがさくらの肩を引き寄せるが、それを振り払うと、地面に横たわるアズライトの体を何度も揺する。
「この街が好きなら、最後まで見届けなさいよ!」
アズライトの肩をしっかり掴みさくらは叫ぶが、その声はアズライトには届くことはなかった。
「アズライトは文字通り命を懸けてこの国を守りよった…」
悔しそうにオニキスは目を閉じる。
「オニキス、それは、イキシアもだ…」
翡翠がアズライトの側で涙を流すさくらを見ながら口を開いた。
「あいつめ、一緒にクロ殿を殴ろうと言ってたではないか…やはり、エルフと言えども限界はあったか…」
オニキスは表情を微妙に変え、口ひげをさわりながら下を向いた。
「限界などない…」
集まっている皆の後ろからオニキスを睨み付けたイキシアが、ジャスパーを脇に抱えながらふらふらと現れた。
そして地面にジャスパーを下ろす。
「イキシア!」
「ジャスパー!!」
アイリスがまず声をあげ、アヤメがジャスパーの元に駆け寄った。
ジャスパーは胸と腕を風によって斬られ出血していたが、しっかりと呼吸をしていた。
「この子は死なせない!」
アヤメはハンカチで傷のある腕をキツく絞め、エプロンを外し胸の傷口を押さえ付けた。
壮絶な力のやり取りが交わされるその場で『純正団』は傍観者でしかなかった。
「まだ、希望はあるぞ」
そして、イキシアが静かに呟く。
シロが黒い塊から生まれる炎の攻撃をやめ、手のひらを下に向けた。
その手にスミレが創り出した槍が浮かび納まる。
「お前の力が必要だ」
それを掴むと、後ろへ放り投げた。
槍が放られた先に一つの影がゆっくりと現れる。
その影は光り輝く槍を拾い両手でしっかりと握った。
「紛い物を刺し貫け!!」
シロの号令と共に黒く長い髪をなびかせ、目に停まることのない早さで突進していくのは鬼の姿をしたクロだった。
創られた神の風が髪や頬、着物を斬るが構わず槍の矛先を向け走る。
片腕で槍を引くと全身の力を込め、それを創られた神の胸に突き刺しそのまま後ろに力の限り押し続けた。
創られた神はクロの勢いと槍の力で動くことも許されないまま、壁に激突する。
激しい轟音が街中を揺るがした。
「痛くも痒くもない…」
創られた神は槍を引き抜こうと手をかけるが、どれだけ引いてもびくともしない。
「なんなんだこれは…」
自分の置かれた状況を飲み込むことができずただ槍を握り動かそうとするがその力によって、さらにその手は浄化を始めた。
「…よくやった…」
クロはいつの間にか、シロの後ろに戻っていた。
シロが手を前にかざすと金色に輝く巨大な魔方陣が出現する。
シロは抱きとめているスミレに顔を向けた。
「偉大なる神の失われた瞳よ…この私に力を貸してくれ…私の名は…」
その名を聞いた途端、スミレの瞳が光を湛えながら開かれ、シロの腕の中でしっかりとスミレは立ち上がる。
手前に出されたシロの手にスミレの手が添えられた。
「まさかあなたと協力することとなろうとは…」
もはや、光の中に立つ二人はシロとスミレではない。
天使や悪魔でもなかった。
「これで終わりだ…」
二人は壁に突き刺さり身動きのとれない創られた神に向かって、全ての力を放った。
辺りは一面金色に染まり、激しい突風が街中を襲う。
地面や廃屋の壁がめくり上がり空へと吹き飛んでいく。
何もかもがその力に呑まれ、消えてしまうはずなのに恐怖など感じない不思議な時間が続いた。
そのあとには色も音もなく、静寂だけが街を包む。
色を蘇らせたのは爆風により吹き飛んだ雲の間から射し込む陽射しだった。
陽の光に照らされた街は大きな傷跡を残している。
「あれ、生きてる…」
アヤメがジャスパーを庇い伏せていた顔をあげた。
同じく『純正団』のアイリス、イキシア、翡翠、オニキス、そしてさくらとペリドットも眩しい日差しに目を細めながら顔をあげた。
全員の周りを護符が螺旋状に渦巻いている。
「アズライト…」
息のなかったはずのアズライトがその前に立ち結界を張り衝撃から皆を守っていたのだ。
「みんな無事みたいだね」
振り向き軽く笑いかける。
「騙してたのね!!」
さくらが駆け寄りその背中をひっぱたいた。
「力を失って、眠ってたんだ。もう目覚めないかと思ったけど…」
さくらがオニキスを見る。
「死、死んだとは言ってないぞ!!」
睨まれたオニキスは慌てて手を振った。
「心配してくれたんだね。クロさんから僕に乗り替える?」
ニッコリと微笑みながら、自分を指差すアズライトの背中をさくらは力を込めてもう一度叩いた。
「あいつは…?」
イキシアが地面に大きく空いた穴の先を、真っ直ぐに見つめ呟く。
その先には光る槍だけが突き刺さり、創られた神はその姿を何一つ残すことなく消え去っていた。
この街から破滅の力はもう感じることはない。
やがて光と共に槍が消え、激しい戦いの痕は崩壊された街だけとなった。
「シロ様!!」
「スミレ!!」
ペリドットとさくらが、街の中に二人寄り添うように倒れるシロとスミレの元へ駆け寄ろうとしたその時、冷たい空気が辺りを包み始める。
そして、まるで時間が止まったかのように全ての者の動きが止まった。
お読みいただきありがとうございました!
街を破壊へ貶めた創られた神はその存在をシロとスミレに宿る神の力によって浄化された。
しかし、力を失った二人はその場に倒れてしまう。
次回最終話です!!!!!
次話更新をお待ちください。