第4章⑦ スミレ、覚醒する
突然姿を現した、創られた神の強大な力に立ち向かうスミレたち。
しかしその力は想像を超えていた。苦戦するクロたち。
そして、とうとうスミレの瞳が輝きを増し・・・
「神に抗うと言うのか」
空に浮かぶ創られた神が表情を変えずに地上を見下ろす。
片手を大きく振り上げ風を集めると、その手を振り下ろした。
風が波となり街を吹き飛ばす。
その勢いは距離が近づくにつれ巨大になりスミレたちを襲った。
しかしその風は二本の刀に切り裂かれ勢いが途切れる。
「無事か?」
クロが振り向きスミレたちに話しかける。
「アヤメさん!」
一歩前で護符を構え目を閉じ集中するアヤメの前に盾のように大きな魔法陣が浮かぶ。
その後ろにいたメンバーはアヤメの作りだした結界に守られていた。
その光景を見てクロはゆっくり息を吐く。
「集中して戦えそうだな」
「はい!!」
創られた神から視線をそらさず返事をするジャスパー。
その瞳には迷いや戸惑いはもうない。
「私はこの世界を無に還すだけだ。貴様らは世界創造の中で滅べばよい」
創られた神が、冷たく、どこか憂いを帯びた瞳を一度向けた。
だが直ぐに逸らし、口許を歪ませる。
その手からはたくさんの破壊の風が生まれ街中に爆煙があがった。
「やめなさい!!」
さくらが声を上げると同時に魔力の塊が創られた神に命中し、爆発の中にその姿が消える。
「さくらさん!」
スミレがさくらを見た。
さくらの杖がまた魔力をためている。
「あんなので倒せる相手じゃないのはわかってるけど…」
その言葉通り無傷で姿を表す創られた神に、もう一度魔弾を放った。
「目障りだ」
創られた神の手がそれを片手で簡単に弾き落とす。
だが次の瞬間、創られた神の背中にもう一発、魔力の弾が衝突し爆音が鳴り響いた。
その爆風で地上にいたスミレたちも体が飛ばされそうになる。
「空にいるなんて、出番が来たかな?」
「とんでもないやつが現れたものだ」
スミレたちとちょうど対角の崩れてはいない家屋の上に二人の影があった。
「翡翠…、アイリス…」
クロが呟くと、翡翠は微笑み、創られた神に向かって杖を向け光りの塊を作り次弾を撃ち込む。
連続で何度も激しい爆発が起こり空中に黒煙の塊ができた。
やがて煙が薄れ、中から微かに笑う口許だけが見える。
「ダメか…」
だが、煙の中から現れたシルエットに一同が驚愕した。
「イキシアさん!!」
イキシアが創られた神に体を寄せ、手にしていた細い剣身がその身を串刺しにしている。
「そう簡単にやられるわけがない」
にやりと笑いながらイキシアは体が離れないようにさらに深く刺し込んだ。
「爆煙に紛れ飛び込んだか…ぐはっ!」
創られた神の口から真っ赤な液体が吐き出される。
イキシアの顔にかかるが怯むことなく深く深く剣を捻り込む。
「これは…なんだ…」
吐き出た血を手でぬぐうとそれを凝視し、動きが止まった。
そして、イキシアの頭に創られた神の手が当てられる。
「逃げろ!!」
翡翠が思わず叫んだ。
だがイキシアは創られた神へ鋭い眼光を向け逸らすことはない。
そして、二人の間に激しい爆発が起こった。
「イキシア!!」
「イキシアさん!!」
スミレの全身から血の気が引く。
同時に体の奥底から、得体の知れない不思議な力が沸き始め、心臓が破裂しそうな脈動を始めた。
爆発によって自らの体を煙に巻いた創られた神は落下する。
だが地面寸前で、体を起こし低空に浮いた。
腹にはぽっかりと穴が開いている。
爆発により自ら吹き飛ばしたようだ。
「脆い体…」
痛みなど感じない。
ただ体を形成する一部がなくなっただけ。
そう呟いたとき目の前を一筋の光が通りすぎた。
クロが創られた神の後ろで真横に刀を止めている。
その後に創られた神の胸元から血飛沫が激しく吹き出した。
「まだだぁ!!」
今度は真上に飛び上がったジャスパーが刀に体重をかけ振り下ろす。
「ふざけるな…」
創られた神は片手でその刀を掴み握りしめた。
「避けろ!!」
クロの一言でジャスパーは直ぐに柄から手を離し後ろへ飛び退く。
直後にジャスパーの刀を握った腕が宙を舞った。
間髪開けずにクロが首元に刀を滑らせる。
「私に触るなー!!」
創られた神が大きく吠えた。
その咆哮でクロの刀は寸止めされ、クロが後ずさる。
「貴様らから消してやる」
今まで表情さえなかった顔が怒りに染まった。
創られた神が手を前に出すと凝縮された空気がクロに向かって放出される。
体勢を崩していたクロは真正面からそれを受けそのまま瓦礫の中へ吹き飛んだ。
「クロさん!!」
「お前もだ!!」
今度はジャスパーに向かって掌を開く。
「させるかっ!!」
アイリスが手元のクナイを数本投げ入れた。
それは創られた神の残った腕に突き刺さり、動きを止める。
ジャスパーは直ぐに自分の刀を拾い構えた。
だが足が動かない。
その場のすべての人間が創られた神の体から沸き出るおぞましく強大な力を、揺れ始めた地面からも感じ取っていた。
地割れが起き地中からエネルギーが噴き出す。
「体など器に過ぎない」
怒りを湛えた声色は全員を牽制した。
「だが器が完成せねば、力が使えない…不完全な神の一部などを取り込んだのが間違いだ」
創られた神は腕のクナイを口で加え抜き取ると、スミレを指差す。
「本物をもらう」
光が治まらないスミレの瞳から感じとる神の力。
その力を得て完全体となる。
身体中から血を撒き散らしながら、スミレに向かって走り出す創られた神の前にジャスパーが立ちはだかった。
「スミレには指一本触れさせない!」
「どけー!!」
創られた神が走りながら腕を振り上げる。
それは真空の刃となり、受け止めたジャスパーの刀はパキンと軽い音を上げ砕けた。
空中を真っ赤な鮮血を散らしながら小さな体が舞う。
「ジャスパー!!」
その風圧で、アヤメとさくらもあっという間に吹き飛ばされ、スミレが一人となった。
アヤメとさくらが地面に落ちる。
「!!」
その瞬間スミレの体の奥底に眠るなにかが抑えきれないくらいに膨らみ、そして弾けた。
瞳の光がスミレを中心として一気に辺りを呑み込み始める。
スミレの周りが真っ白でなにもない世界となった。
「素晴らしい…」
全員が居場所を失うほどの眩しさのなかで、創られた神だけはスミレの姿をしっかりと見据え歩み寄る。
「この瞳を手にすれば…」
スミレの足元から波状に揺れながら溢れ出る光に足を踏み入れた。
「なんだこれは…」
踏み込んだ足が金色の羽根になり吹き飛んでいく。
「清浄なる泉に浸りなさい。お前は産まれる場所を間違えた」
スミレの口から穏やかで、威厳に満ちた言葉が洩れた。
話しているのはスミレのなかに眠る凄まじい力を湛えた何者かだった。
「せっかく産まれたのに…」
その偉大な力の前に、創られた神はまた悲しげな視線を向ける。
「還りなさい」
スミレの足元から静かに波紋を広げていた光の波は、大きくうねり始めた。
「!!」
呑まれれば、消滅する。
創られた神は即座に足を引いたが、その足はまるで焼け爛れたかのように黒く焦げていた。
視界が湿った雲の漂う崩壊した街へと戻る。
「あれは、天使か?悪魔か?」
その光景にペリドットがアヤメの腕を抱き上げながら呟いた。
誰もがその場を動くことができず、ただ目の前の出来事に視線を奪われるだけだった。
「こんな恐ろしいもの…」
創られた神が手を上げ空気の球を作り出すとスミレの方へ投げ込む。
爆風でスミレを囲む光の波があっという間に姿を消した。
だがその中心にいたスミレは光のベールに包まれ立ち続けている。
スミレが手を前に差し出した。
その手にはいつの間にか光で形成された槍が握られている。
しかし、スミレを覆うように輝いていた光が薄れ始めた。
「やはりもたぬか…」
自分の体を見て力が抜けていくのを感じると、その槍を創られた神へと向ける。
しかし、その手から音もなく槍が落下した。
スミレの体から魂が抜け落ちるように強大な力が消え、体が地面に落ちる。
薄れる意識のなか、誰かが近づいてきたのがわかった。
真っ黒の影。
「だれ…?」
そして、スミレの体は地に落ちることなく抱き止められた。
力強く抱きしめる腕。
心地のよい胸の鼓動。
体から伝わる温もり。
微かなバラの香り。
その優しい微笑みを見るとスミレは安心し目を閉じた。
お読みいただきありがとうございました。
スミレの持つ圧倒的な神の力。
しかし長くは持たない。そして、とうとうあの人が姿を現しました。
この戦いにどのような結末が待っているのでしょうか?
次話更新をお待ちください。