第4章⑥ 創られた神
ジャスパーの復讐劇は当時の恐怖による錯覚と分かり、一時解決を見る。
しかし、誤解が解け安心できたのは束の間。
とうとう世界を破滅に導く存在が街にその姿を現す・・・
突然、ゴオンという大きな音を鳴り響かせ、地下に大きな穴が開きはじめた。
街の中心部はその衝撃で地面ごと崩れ闇に吸い込まれていく。
激しい揺れが続くなか散っていた『純正団』のメンバーと、クロたちは震源の元へ急ぎ向かっていた。
「なんだこの気は…妖魔ではない…同じ匂いがする」
走りながら、イキシアは不思議な感覚に襲われた。
やがて闇に溶けた地面からさらに黒く巨大な物体がじっくり時間をかけて姿を表す。
不思議なことにそれはそのまま空へと昇っていた。
「なんだ、あれは?」
翡翠が足を止め遠くのその影を見上げる。
同じくアイリスもその全貌が街へ現れるのをただ見るしかなかった。
崩壊により上がる煙がまだその姿をはっきりと捉えることを許さない。
しかし、卵のように楕円の球体であることは確認できた。
オニキスは一人の男を抱えながらその球体を見上げる。
「とんでもないやつが現れよった…アズライト…あれはなんなんだ?」
オニキスの問いには返事はない。
独り言になってしまう。
オニキスは抱えるアズライトの腕を、ただ声もなく強く掴んだ。
やがて、空中に停滞する漆黒の卵の上部が割れる音がした。
あっという間にたてに大きくヒビが入る。
穴の空いた地面にその欠片が落ちていく。
中に何かが入っていた。
まるで卵から何かが産まれた様だ。
その中で体を丸めていた中身はまず、手を伸ばした。
そして足を伸ばし、背筋を伸ばしてその体をはっきりと空中にさらけ出す。
そして、顔をあげ辺りを見回した。
それは妖魔と呼ぶにはあまりにもきれいな姿で、神と呼ぶにはあまりにも闇が深い。
「あれが…創られた神」
「あれが神だと…」
その光景を真下から見上げていたジャスパーが怯えた声で話し出した。
「アレは神と同等の力を持つ破壊神。あいつはこの世界を破滅に導こうとしてるんだ。」
「ジャスパー?」
スミレの戸惑う瞳が光を帯び始める。
「里を失い、敵を探して旅をしていた僕はこの国であいつに拾われたんだ」
ジャスパーは目を閉じ、ある男に出会ったときの事を思い出した。
「可哀想に」
疲労と空腹で倒れそうなジャスパーに黒装束の男は話しかけてきた。
「お前は何を憎む?」
「あな…たは?」
「私は新しい世界を創るもの。お前にも悲しみや苦しみのない世界を見せてあげよう。新世界創造のために一つ頼まれてくれないか?お前の望むものをあげよう」
「僕の望みは…」
「ごめんなさい…僕は…何もわかっていなかった」
うつむいたジャスパーの拳が強く握られる。
スミレがジャスパーの肩を抱き寄せた。
「もう、いいの…」
その言葉にジャスパーは顔をあげ言葉を続ける意思を固める。
「僕に課せられた指命は神の一部の奪取。あいつはスミレの瞳のことを僕に話した」
スミレがはっとした顔をした。
「もう一つ、城の中に僕の敵がいることも…僕は知ってたんだ。クロさんが鬼だってこと…だけど、クロさんはその事を知らなかった。だから聞いたんだ。そしたら突然クロさんは姿を消してしまった」
「そう言う事だったのか…」
ペリドットが静かに付け加える。
「イキシアのバラ園、オニキスの森を荒らしたのはオレだ。お前の言葉に眠っていた鬼の血に抗えずそれを抑えるので周りが見えなくなっていた。俺がまだ弱すぎるのだ」
クロが空に浮かぶ創造物から視線をそらさずに話す。
「何度かスミレの瞳を奪おうとしたけど…出来なかった」
「あなたが言ってたきっかけって…」
「イキシアさんの髪の毛をお城で生活をする合間に探し集めて…」
「イキシアさんは確か…」
「天上の者だ…つまり、私は神に値する」
その透き通った声に全員が後ろを振り向く。
そこには金色の髪を風になびかせるイキシアの姿があった。
瞳には明らかに怒りを称えている。
「どうも、同じ匂いがすると思ったら…とんでもないことをしてくれたな…」
イキシアは腰にぶら下がっているレイピアを掴むとジャスパーの喉元に切っ先を向け走ってきた。
しかしその細い剣先をジャスパーの前に立ったクロが刀で弾く。
「すまない…」
二人はしばらく見つめあったがイキシアはレイピアを下ろした。
「ふん、あとでしっかり罰を受けてもらう。今はアレを何とかするか」
全員が空中で生まれたばかりの創られた神にもう一度目をやる。
「空中にいるのなら私が行こう」
イキシアが言うと、たちまち空へ舞い上がった。
「僕たちの勝てる相手じゃない!」
ジャスパーがイキシアを呼び止めるが構わず、突進していく。
「愚かだ」
静かに口を開き、創られた神が飛び上がってくるイキシアに向かって手のひらを向けた。
それだけでとてつもない風が集まる。
そして人差し指を弾いた。
「イキシアさん!!」
瞬きをすると見落としてしまうほどあっという間に、イキシアが吹き飛び視界から消える。
その場にいた全員がその力に言葉を失った。
空中のソレは今度は片手を挙げ頭上で回旋させると、みるみる雲が渦巻き、その摩擦で起きた雷が、激しい轟音と共に地上に落ちた。
「ジャスパー…」
クロがジャスパーの目をみながら口を開いた。
「お前はスミレたちを安全な場所へ連れていけ」
「僕も戦います!!それが償いだから!!」
「お前の償いは命を投げ出すことではない。守るべき者を守り通すことだ」
「でも…」
静かに諭すクロに対して、ジャスパーは口をグッと結び、反論の言葉を堪える。
そして、スミレの手を掴んで叫んだ。
「大先輩!!さくらさん!!着いてきて!」
安全なところなんてあるわけがない。
だがとにかく少しでも離れなければ、皆一瞬で消し飛んでしまうだろう。
しかし、スミレの手を引こうとしたときジャスパーは逆に引っ張られてしまう。
「スミレ?」
他の二人を見ても動く気配がない。
「どこに行っても同じよ。わたしはこの街を護りたい。逃げたくない」
さくらが天上を見上げ強く言う。
「さくら様が残るのに後輩が援護しないでどうするんですか!」
アヤメの眼鏡が光りその奥に揺るぎない眼差しが浮かぶ。
ジャスパーは焦りと戸惑いからスミレの手を強く握った。
だがスミレはその手の上に自分の手を重ね、ジャスパーに微笑む。
「この眼が逃げちゃダメって…わたしはいつもこれのせいで後ろに下がって傍観してた。だけど、私だって前に出て、シロ様のためにこの国を護らなきゃ!」
「お前たち…」
クロが三人の顔を順に見回しながら言う。
「僕にもここに残る理由が出来たわけですね…」
ジャスパーがゆっくりとクロに向かって歩き出し、意思の固い眼差しを向けた。
そして刀を鞘から抜く。
「シロ様に怒られるのは俺一人で十分だったのだが…」
「クロさん、一人じゃないっていったのは誰ですか」
ジャスパーがクロの横に並んで刀を構える。
「…では、全員で怒られるとするか」
クロが少しだけ微笑みながら抜刀すると、かげる街中に銀色の光が二つ煌めいた。
お読みいただきありがとうございました。
突然姿を現した、創られた神の圧倒的な力を目の当たりにしたクロたちは逃げることなく戦いを決意しました。
本当の力とは?対抗するすべはあるのでしょうか?
次回更新をお持ちください。