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シロ×クロ  作者: あらた
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第3章⑤ 再会の雨音

城下街にやってきたスミレはさくらにすべてを話す。

そして街には何か不安を駆り立てる雨が降り始め、スミレとさくらは城下街に消えたジャスパーと失踪しているクロを探しに街へ出る・・


そこで出会うものとは?


久しぶりの更新ですがよろしくお願いいたします

「どこに行っちゃったのかしら…」

城下街といってもかなりの広さがある。

雨の降りだす街でスミレとさくらはジャスパーとクロの行方を捜していた。


「痛っ…」

突然、何の前触れもなくスミレの瞳が痛みを帯て光りだす。


「なにかしら?」

スミレに目をやっていたさくらが、何かの気配に気づきあたりを見渡した。

街を二つに分ける川沿いの橋のふもとの一角がやけに騒がしい。

人々の喧騒に混じり悲鳴が聞こえてきた。


「こんなときに!!」

さくらは迷うことなく人々が逃げ惑う中をスミレを残し逆走していく。

「さくらさん!?」

しかし、スミレは人の波に呑まれうまく前に進めない。

瞳を押さえながらさくらを見失わないように追いかけた。


やがて人々の姿は消え、街のなかはガラリと静まり返る。


「あれは…」

そこには人の形をした真っ黒な影のように闇を携えた妖魔と、それに対峙する二人の人間の姿があった。


「さくらさん!ジャスパー!!」

その存在がさくらとジャスパーだとはすぐに分かった。


「スミレ!!来るなよ!」

ジャスパーは刀を構え雨に打たれながらスミレに向かって叫ぶ。


さくらの手元の杖から光が溢れた。

すぐにそれは妖魔に向かって放たれる。

爆風で川の水が荒れ、その熱風はスミレの元まで届いた。


しかし舞い上がる水の中から妖魔はすぐに姿を現し、鋭い爪を二人に向け振り下ろす。

それをジャスパーの刀が素早く受け止めた。


クロとの稽古の成果か、明らかに戦い方を身に付けているジャスパーに感心している場合ではなかった。

妖魔との力の差が表れもう片方の手ではたかれ簡単に吹き飛ばされてしまう。


路面が雨で濡れているため、スミレの前までジャスパーが勢いよく滑り転がってきた。


「大丈夫!?」

「平気!」

ジャスパーはすぐに立ち上がると刀を握り直し雨にぬれる顔を拭い、スミレを庇うように前に立つ。


「私たちでなんとかなる相手じゃないわね…」

光の塊を撃ち込みながらさくらは叫んだ。


『純正団』はみな出払っている。

最悪な状況に立っていることに今さら気づいた。


そして爆音と同時にさくらの悲鳴が響く。


「さくらさん!!」

スミレはじっとしていられず、倒れたさくらの元へと駆け寄った。

後からジャスパーも慌ててついてくる。


「スミレ…」

妖魔の大きな手に弾き飛ばされただけで、外傷はなかった。

スミレはさくらを抱き起こす。

二人の前にジャスパーが立ち、自分よりもはるかに大きな妖魔と間合いを詰めた。


そして飛びかかる。

しかし力負けしスミレたちの元に弾き飛ばされ建物のドアにぶつかった。


「ジャスパー!!」

スミレはダメージを受けうずくまるジャスパーを引き寄せ、さくらとジャスパーを抱き締めた。


「さくらさん!ジャスパー!」


二人を死なせたくない。

なす術もないスミレたちに妖魔は容赦なくその腕を振り上げる。


スミレは目を閉じた。


そして、スミレの体の奥底に眠っていた何かが弾ける。

次の瞬間、スミレの瞳の中が熱くなり三人の周りを眩しい光が包んでいた。


妖魔はその光に耐えられず足を止めた。

妖魔の伸ばした手が光に触れた途端消滅していく。


危険を感じたのか妖魔はよろけながら後ろに下がった。


「なにこれ…」

妖魔を浄化させる力を発動させたスミレは自分の体の中からあふれる、抑えきれない大きな力の存在に気づく。


しかし、その力を長く使うことはできず、光はすぐに薄くなりスミレはふらふらになってその場に屈み込んでしまった。


「すごい…」

さくらとジャスパーが今度はスミレを支えて目を見合わせる。


そして、スミレの光が消えた。


妖魔はその隙を見逃さず、三人に向かって突進してくる。


今度こそ後がない。

もう三人は目を瞑るしかなかった。


だが、またしても妖魔の足音が途切れる。


目を開けると妖魔は胴体に深い切り傷を負い、その場に倒れ込んで悶えていた。


三人の前に人影。

その片手には雨に濡れ鈍い輝きを放つ刀を煌めかせている。

この背中をスミレは知っていた。



「クロ…さん!?」

三人が同時に声をあげた。


その背中は振り返ることなく頷くと、静かに呟く。


「ジャスパー…二人を連れて…逃げろ…」

苦しそうに声を出すクロに誰も返事ができない。


落ち着いてその姿を確認する。

雨で視界が悪いからなのか、クロの容貌が変わって見えた。

長い黒髪。

ボロボロの着物。

一体何があったのか聞いている暇はなかった。


突然、クロの肩が大きく上がり、苦しそうに頭を抱え始める。


「クロさん!?」

さくらが駆け寄ろうとすると、クロは顔を伏せた。


「早く行け!!」

クロが今まで聞いたことのないくらい大きな声で叫ぶ。


「はいっ!!」

ジャスパーが小さな体でスミレを抱えあげた。

ビックリするほどスミレの体からは力が抜けている。


「だめ、体が動かない…ジャスパー、さくらさんと先に逃げて!」

「嫌だ!!スミレは俺が護るんだ!!」

必死にスミレを抱えるが雨に滑りなかなか支えきれない。

その体をさくらも抱えた。


「さくらさん…」

二人の優しさにスミレは自分が情けなくなる。


「ごめんなさい…」

「クロさん…私、待ってますから!!今度一緒に桜を見に行きましょう。約束ですよ」

さくらがクロに向かって語りかけた。


「桜…」

一言だけ呟くとさらにクロの様子がおかしくなる。

その体からは皆の知っているクロの優しい雰囲気は感じることができない。


「う…うがあああ~っ」

クロは空に向かい雄叫びをあげるとそのまま動かなくなる。


そして振り向いた。


振り返ったクロの顔を見るなり全員が目を見張る。

額には鋭い二本の角、感情のない真っ赤な瞳。


「そんな…」

スミレもさくらも驚きで体が動かなくなる。


「クロ…さんが…?」

ジャスパーは自然と、刀を強く握り直していた。

「鬼…」

声を押し殺すようにジャスパーは呟く。



クロは対象を見失ったのか、三人に向かって刀をゆっくりと振り上げた。


「え??」

片側の支えが急に無くなりスミレが倒れる。


「お前が!!」

ジャスパーが目の前の『鬼』の刃を受け止めていた。

弾き合い二人の距離が開いたがジャスパーは刀をクロに向け走る。


「だめーっ!!」

スミレが叫ぶも激しさの増した雨音にかき消された。

刀がぶつかる甲高い音が響く。


お互いの刃はお互いの命を奪おうと交わり合う。

そこには、クロとジャスパーの子弟の関係など無いように思えた。


「あぶない!」

火の粉散る二人の背後から、先程の妖魔がむくりと立ち上がり手を伸ばす。

その動きに気づきさくらが声を上げた。


「!?」

しかし、次の瞬間二人の体と妖魔はまた違った力により弾き飛ばされる。



ジャスパーの刀が真っ暗な空に舞い上がると、誰かの足元に軽い音と共に突き刺さった。

その刀の煌めく先には雨に濡れ重たくなびく白いマント。



「シロ様…」

スミレが小さく呟く。

その声は驚きで震えていた。


「どいつもこいつも…」

シロは足元の刀を引き抜くと、雨で垂れていた前髪をかき上げる。

ゆっくりと足を前に進めた。

突然現れたシロを見るとクロはなぜか後ろへ数歩下がる。


クロはシロのこともわからないのか、後ろを向き刀を持ったまま妖魔の間をすり抜け姿を消した。


ジャスパーがシロの前に走り寄り無言で刀をその手から奪う。


そしてシロを見つめた。


「スミレを頼みます」

そういい残すとクロの去っていった方へ駆け出していく。


「スミレ…私…」

「さくらさん…行ってください!」

スミレが何とか一人で立つとさくらの背中を押した。


さくらはシロに向かって声をかける。


「スミレを泣かせたら承知しないから!!」

シロを軽く睨んださくらは、バシャバシャと音をたてクロたちを追いかけ走っていった。


その間も、スミレに向かって歩いてくるシロを、スミレは何も言わず黙って見つめ続ける。


スミレの胸の鼓動が激しくなっていく。

シロに対する思いが込み上げてくるのがわかった。


シロは痛みで暴れる妖魔とスミレの間に立つと、片手を妖魔に向け掲げる。

その前に大きな魔方陣が浮かんだ。

魔方陣から無数の光の矢が妖魔めがけて放たれる。

全てが黒い物体に突き刺さり一つ一つが爆発する。

その度に妖魔が叫び、吹き飛んだ欠片が輝きながら消えていく。


目の前で起こる出来事がスミレには別の世界の事のように感じていた。


「これで終わりだ…」

シロの体から青白い妖気が立ち上る。


「…っう」

シロが一瞬自分の胸を押さえた。


後ろで見ていたスミレは我に返ると、シロの姿がそのまま消えてしまうような気がした。


「シロ様…」

だが他に言葉が出ない。

シロの体に手を伸ばそうとしたが、ピリッとした空気がその手を止めた。


「触るな…お前の気がおかしくなるぞ」

シロは姿勢を正し、振り向くことなく静かに告げる。


スミレは伸ばした手を引き戻した。


そしてシロの体から湧き出した底知れないエネルギーが妖魔に向かって飛んでいく。

光の塊がゆっくりと妖魔を呑み込み、あっという間にその場から妖魔もろとも光は消え去った。



一連の出来事が嘘のように辺りは静かで、そこにはシロとスミレしかいない。


ただ雨の音だけが二人を包み込んでいた。




前回からだいぶ時間が経ってしまい申し訳ありません。

お読みいただき感謝いたします。


クロは一体なんでしょう?

その正体も、次回わかります!!

そして、スミレとシロの関係も…


次回更新をお待ちください!

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