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シロ×クロ  作者: あらた
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第3章③ 荒れる森

明けまして今年初投稿です。事件?は突然起こります。シロ様はどんどん悪者となります(笑)そんな感じで三章三話目です。よろしくお願いいたします。

「なんだこれは!!」

ある日の朝早くオニキスは怒りの声をあげる。


『純正団』の一員であるオニキスは低い身長にがっちりした体つきのドワーフという、人ではない種族であるが、王子であるシロに城内の森の管理を任されていた。


オニキスが管理する森の木々は所々倒され、草花は踏み荒らされている。

まるで何か大きな野獣が暴れまわったかのようだった。

その光景に困惑よりも先に怒りが湧き上がる。


「お前のところもか…」

やり場のない怒りを抱くオニキスの後ろから、イキシアの透き通る声がした。

しかしその中にはオニキスと同じ感情が隠れているのは顔を見なくとも感じ取れる。



「何かが侵入したということか?」

結界に守られている城にこのような爆発的な力を持つ輩が侵入したとは考えにくい。


「いや、どうやらそうではないようだが…」

それは、イキシアも分かっていたようだ。

そんなことを言うために、犬猿の仲であるイキシアがオニキスに話しかけるわけもない。


「お前のところも、ということは、イキシアのバラ園もか?」

オニキスは折られた木の幹を掴み、イキシアに訊ねた。


「復興には時間がかかりそうだ…これから作業にかかるところだ。お互い、時間の問題だろう?」

「森が泣いておる…早く元通りにしてやらんと…」

落ち着きを取り戻したオニキスが倒木を拾い立て始めると、イキシアはすぐに背を向け去って行った。



「スミレ~、仲直りはしたのか?」

「なにが?」

「おーじさまと!!」

からかったつもりのジャスパーはスミレの反応が悪いことに気づいて言葉をつまらせる。


「あの、ごめん…」

「ごめん…素直にそういえればいいのにね…私ったら何ムキになって」

スミレは俯き声も小さくつぶやいた。

そんなスミレをジャスパーはじっと見つめると、その背中にそっと触れる。


「でも、オレは嬉しかったよ!かばってくれて」

スミレの視界に割り込み、ニコッと笑顔を見せた。


「ジャスパー…そうだね…次、会ったらちゃんと謝らないとね!!」

ジャスパーの優しさと明るさにスミレも笑顔を取り戻す。


「じゃあ、オレ、朝稽古いってくる!!」

そういうとジャスパーは結い上げている髪を揺らしながら嬉しそうに部屋を出ていった。


しばらくして、スミレが制服に着替えているときドアが軽くノックされる。


「ジャスパー?…今日は中止だったの?開いてるよ」

ドアを開く音が聞こえたが、またすぐに閉まる音がした。

スミレは振り返るが誰も入ってきていないことに首をかしげる。

すると、外から声が聞こえた。


「無防備にも程がある…」

想像していなかった人物の声にスミレの動きが止まってしまう。


「早く服を着ろ」

着替えの続きだったことを思いだし、スミレは恥ずかしさで顔が真っ赤に染まった。


慌てて制服を着ると鏡の前で髪型をチェックする。

大きく鳴り響く胸の鼓動を感じながら、ドアの前に向かう。


「私、なんで緊張してるんだろ…平常心っ!」

そしてドアを開けた。


「遅い…どれだけ待たせるんだ。」

機嫌を損ねたシロの表情にスミレはすぐに威圧されてしまう。


「そそ…そんな風に言わなくても…」

「平常心はどうした?」

「聞こえてたんですか?」

「独り言は小さくしろ」

「はい…」

シロはいつもと変わらない雰囲気だった。

しかしスミレとの間には大きな壁があるように感じる。


「どうでもいいが、クロを見なかったか?」

シロは、そんなスミレの事などお構いなしに話しかけた。


「え?クロさんがどうしたのですか?」


「いや、昨晩から姿を見ないのだが…来ていないのなら用はない」

そう言うとすぐに背を向けた。


「あの!」

そのままシロを見送ればよかったのに、なぜかスミレは引き止めてしまう。

「なんだ」

視線だけをスミレに向け、シロは立ち止った。


「えっと…」

引き止めるのがそんなにいけないことだったのか、相変わらず、機嫌が悪そうなシロの態度にスミレは首をすくめてしまう。

「用がないなら引き留めるな。お前にそんな権利はない」


「なっ…シロ様、変です。何かあったのですか!?」

こんなことを言いたいのではない。

スミレが聞いたところで、返事などもらえるわけもない事は分かっていたのだがそこに居て欲しかった。


「オレは変わらない。…これが正しい関係だろう」

もうこれ以上は構っていられないようで冷たく言い放つとさっさと歩いていってしまった。

スミレはまた肩を落とし、下を向く。


すると、向こうから小走りで走ってくる音が聞こえスミレの前で止まった。



「なあ、クロさんどこ行っちゃったんだよ?」

スミレの目の前には木刀を片手に持ったジャスパーが首をかしげながら立っている。


「また、謝れなかった…私こそ、どうしちゃったんだろう…」

スミレは、言いたいことも言えず、よくわからない感情に胸が締め付けられていた。



その日クロが失踪した。


無断でどこかへ行くとは考えられない。

シロも見当がつかないほどに突然で、城内もその話で持ちきりだった。


シロとの一件も持ち直してきたのだが、なぜかまだ胸騒ぎがする。


「クロさんはどこにいるんだ…」

「わからない…」

空き時間にジャスパーとスミレは城内を探索していた。


しかし失踪に関する情報は全くつかめない。

すると後方からバタバタと走る音がした。

振り返るとペリドットが息を切らせて走ってきた。


「クロさん見ませんでしたか?」

「それが、こちらも探してるんですが。もしかしてシロ様が原因で家出したとか!?」

スミレが自分と重ね、クロももしかしたら不機嫌王子の餌食になったのではと、ペリドットに訊ねる。


「ははっそれはないですね…我々にはあんな態度ですが、シロ様はクロさんにはいつも通りでしたから。だからこそ心配なのだとシロ様が…それに…」

和みながら話をしていたペリドットの表情が、何かを思い出し曇った。


「どうしたんです?」

「どうやら妖魔の目撃情報がありまして…」

時間が止まったかのように3人は固まる。


「え」

「どこです!?鬼ですか?」

ジャスパーがスミレの脇から体を前に出し、ペリドットに言い寄った。

「いや、そこまでは。あくまで目撃したと触れ込みがあっただけで…翡翠さん、アズライトさん、アイリスさんがそちらに当たられてるんですが」

その表情に微かに不安を浮かべながらペリドットが言う。


「シロ様は!?」

「はっきりと情報がつかめれば現場に向かわれるでしょう」

スミレの胸が不安で一杯になった。


「では、見つけたら連絡を!私も探して参ります」

「はい!!」

ペリドットはこんなところで立ち話などしている場合ではないと、すぐにどこかへ走り去った。


「僕も、…」

「待って!もしかしたら…森の方かも…」

スミレはジャスパーの腕を掴むといつかクロと足を運んだバラ園のある森へ走り出した。




「何があったんですか!?」

その変わり果てた景色を見てスミレたちの足が止まる。


無言でオニキスが木々を集めている。

スミレに気づき顔をあげた。


「ひどいことをするやつもいたものだ…バラ園もやられていたらしい…」

妖魔の討伐に二人の名前がなかったことに納得する。


「イキシアの方にシロ様も向かってるようだが…」


「え…」

その名前を聞き、急にスミレの体が動かなくなる。

あんな会話しかできずにいる。

また、会ってしまうのが怖かった。

そんなスミレの表情を伺っていたジャスパーがスミレの手を握る。


「行こう」

今度はジャスパーがスミレを引っ張り森の奥へ走った。


やがて甘い香りが広がりバラの丘へ出る。

しかし、森の光景と同じようにあんなに咲き誇っていたバラは色をかげらせ地面がむき出しになっていた。


「ひどい…」

「なにかが暴れまわったみたいだな…」

冷静にジャスパーが言葉を発する。


「そのようだ…」

「お前たち、なぜここに来た?」

後ろからイキシアとシロが話しかけてきた。


二人ともスミレを見ることなく、悲しげな表情の裏に怒りを秘めた瞳で丘を見つめている。


「この子供は?」

イキシアがジャスパーの視線に気づきその姿をまじまじと見降ろした。

「ジャスパーと言います。お城でお世話になってます!!クロさんに剣を教えてもらってますが、どこにいったかご存じではないですか!?」

丁寧に話すジャスパーにイキシアは警戒を解いたように目を細めた。


「クロ殿が?」

「…あなた、エルフですか?」

イキシアを見ていたジャスパーから意外な言葉が漏れる。


「そうだが…」

「さすが、ウェンダブルですね!!先ほどのドワーフの方と言い…ここには色々な方が住まわれているんですね!」

ジャスパーが声を荒げ、興奮した様子でイキシアの前に立った。


「…しかし、なぜ、堕ちてこられたのですか?神の国の住人ではないのですか??」

饒舌に話すジャスパーにイキシアは、今度は不審な目を向ける。


「口を慎め」

イキシアの憤りを感じたシロが、冷たく言い放つと、ジャスパーの肩を掴む。


「シロ様…」

「お前、昨晩クロの様子に変わったことは?というか夜の稽古はやったのか?お前、昨夜は何をしていた?どこにいた?」

シロが何を言いたいのか全くわからないがジャスパーに対する口調がまた厳しくなっていく。

ジャスパーもシロの剣幕に押され、顔が強張る。


「もしかして、お前がやったんじゃないのか!?」

ついに最悪の一言を口にした。


次の瞬間、スミレの手がシロの頬を勢いよく叩く音が花園に響き渡った。


叩かれた頬を手で抑え、シロはスミレを睨んだ。

スミレの瞳には涙が溜まっている。


「見損ないました」

そう言うと一筋の涙が零れる。


「…いけ…」

小さくシロが呟いた。


「出ていけ…」


その言葉を聞くなりスミレは後ろを向いて何も言わず足早に歩き出す。

スミレの瞳から流れる涙は止まりそうにない。


「スミレ!俺も行く!」

後ろからスミレを追う足音が聞こえ、その横で止まる。

ジャスパーが申し訳なさそうな顔でスミレを見上げるとあとは無言でふたりは荒れた森を歩いた。



「良かったのか?」

イキシアが黙り込むシロにバラを拾い集めながら話しかける。

「これでいい…この国から出てくれた方が…」

うつむきながら聴こえるか聴こえないか程に小さな声でシロは答えた。


その時、冷たく強い風が吹いた。

丘の向こうには分厚い黒い雲が姿を見せている。


「天気が荒れるな…」

イキシアが空を見上げ呟いた。



ただの性格の悪い王子様はどうでしたか?ご覧いただきましてありがとうございました。ジャスパー…彼にも注目していただきたと思います。次回はスミレたち家出する編です。

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