第1章 いつかの物語
やっと、投稿開始です!!
長い目で見てやってくださいm(__)m
「おいスミレ、もっと早く歩け」
「は、はいっ」
スミレと呼ばれた少女は、城を出て、庭園へ続く道を態度の大きい青年の後ろ姿を見失わないように、小走りでついていく。
その青年は優雅に白いマントをなびかせながら、スミレの前を歩いていた。
その姿は気品に満ちている。
青年の歩いた後には微かにバラの香りが残っていた。
「シロ王子、一体どちらへ行かれるのですか?」
「…シロ様と呼べ」
「すいません…シロ様…こんなところまで来て、クロさんに見つかったら怒られますよ…」
「…クロなんかどうでもいい」
シロは全く振り向かずに返事をする。
その背中からは苛立ちを感じさせた。
これ以上は余計なことは言わず、黙っていた方が得策だと、スミレは口を閉じる。
まだ日も出ていない明け方。
スミレはシロに急に叩き起こされ連れ出された。
城の敷地内だと言うのにもうだいぶ長い時間歩いている。
シロは歩く早さを緩めない。
そのうち、城内でも、一番高く見晴らしのいい丘の上に出た。
ここからは城下街が見渡せる。
まだ街は眠っているように静かだった。
「寒い…」
「そんな格好で来るからだ」
突然起こされて着替えも出来ないまま薄着で連れ出されたのだ。
太陽の暖かさもない時間帯はスミレの体を冷やす。
「…来い」
シロが自分のマントを開いてその中に来るようにと促した。
スミレは一瞬戸惑ったが、ここで断っても、シロに何をされるかわからない。
そして、スミレはシロの懐に入った。
心地のいいバラの香りに迎えられる。
次の瞬間、マントは閉じられスミレは肩を抱かれた。
スミレの心臓は大きく跳ね、体温が一気に上昇する。
視線を上げると、シロの整った顔が近くにあり、改めて綺麗な人だと思い知らされた。
だがシロは一切スミレを見ず、街の彼方を見つめている。
別にシロにとっては何でもないことだ。
そう思うと、だんだん気持ちが落ち着いてきた。
だけど、この時間がずっと続くのもいい。
と、贅沢な願いを抱いたが、それは叶わぬことと、首を振る。
やがて、地平線がゆっくりとオレンジ色に染まり始めた。
「朝ですね」
時間をかけて太陽が昇り出す。
真っ暗だった街に白いもやがかかり、日差しで街が輝き出した。
一日の始まり。
「きれいですね…」
まさかシロとこんなロマンチックな光景を二人だけで見ることになるなんて、夢のようだと感傷的になる。
「そうだな…」
意外にも優しい声で返事をするシロ。
また、シロの顔を覗き込もうとそっと視線をあげた。
「!」
さっきまで遠くを見ていたはずのシロの視線はまっすぐにスミレを見つめていた。
白い髪が朝日に照らされ金色に輝き、風に靡く。
その青く透き通った瞳はスミレを捕らえ見据える。
「シロ様!?」
見つめられ驚きと戸惑いで体が緊張して動かなくなった。
シロの眼差しに耐えられなくなり、目を反らそうとする。
「動くな…」
スミレの肩を抱く手に力が入った。
反対側の手のひらがスミレのほほに触れる。
シロの手はひんやりと冷たくて、スミレの火照る体を冷やした。
スミレの顔は完全にシロへと向けられる。
次の瞬間何が起こるのか…
期待と不安が胸を交錯する。
「素晴らしい!!」
シロの指がスミレの片目を思いっきり開いた。
「イタタタッ〜痛いです!!」
「動くな!!」
顎を捕まれ強引に顔を引き寄せられる。
開かれたスミレの片目は黄金に輝き、その瞳孔にはどこのものかもわからない文字が刻まれていた。
それが朝日でくっきりと浮かび上がっていた。
始めからこの為だけにスミレを連れ出したようだ。
それを黄金に光らせるにはスミレが力を発動させるときだけなので、じっくり見れる機会を自分なりに考えて実行しただけだった。
「シロ様…何をなさっておるのですか!?」
突然、後ろから聞いたことのある男の声。
「チッ、クロか」
振り向くとそこには黒い髪に赤い瞳、シロよりも大人びた雰囲気で、着物姿のクロが立っていた。
身の危険を感じたスミレは、シロの一瞬の隙を見て、クロの元へ駆け寄ろうとする。
その時、シロのマントが足に絡まり、スミレは勢いよく地面に飛び出してしまう。
「うわぁぁあ」
しかし、スミレが叫ぶより早く、巻き込まれたシロが白い塊となって、スミレに向かって倒れてくる。
そして、二人とも地面に転がった…
「あ、あれ?」
だが、スミレは固い地面にぶつかった感覚がないことに驚き目を開ける。
「いい加減にしてくれ」
左側にスミレ、右側にシロを抱き抱えて、クロが呆れ顔で二人をにらんだ。
「あ、ありがとうございます」
あっという間の出来事にも瞬時にピンチを救うクロに驚きながら、すぐにスミレは立ち上がった。
「おい」
まだ、クロに抱えられたシロがスミレを呼び止める。
「いま、瞳の色が変わらなかったぞ。ビンチを誘発したはずなのに何故だ?」
「誘発?」
「マントが絡んだだろう」
シロはなぜか得意気になっている。
「シロ様…」
そこまでして、スミレの瞳を観察したいようだ。
朝もやのなか、ロマンチックな感情を抱いた自分を悔やみながら、この人はこういう人だ。と自分に言い聞かせる。
そして、こちらを見つめる二人を置いて、城に向かって歩き出した。
「もう、仕事に戻ります」
シロと言う一国の王子を魅了させるスミレの瞳。
このせいでスミレの人生は善くも悪くも、展開を迎えることとなる。
そして、シロ王子に振り回される事となったのだ。
出会いの物語まで遡る。
あれ?
本編じゃないの?と思われた方、いるかと思います…
すいません、小説構成上、こちらに短編風に飛び込ませてもらってます!!
本編中の『いつか』の話です。
こちらで雰囲気をつかんでいただきたいと思い書きました。