第2章④ 近づく闇
さて、シロとスミレの関係も気になりますが…物語は進んでいきます。
その繋ぎのお話です。
どうぞ、ご覧ください。
「エリカ姫、遠き所よくぞ参られた。歓迎する。そなたの国と比べ何もないところだが、旅の疲れを癒されよ。…シロ、姫のことよろしく頼むぞ」
「はい、父上。私でよろしければお任せください」
そういいながら頭を下げたシロは明らかに渋い顔をしている。
そんな表情にも全く気づかずに、王は期待を込めた眼差しをシロとその隣にいる隣国の姫、エリカに向けた。
エリカもまた、シロに会えたことだけに喜びを感じ、笑顔が絶えない。
「さ、シロ王子様!!この素敵な城内を案内してくださいませんか?」
早速エリカはシロの腕をつかみ立たせると自分の方へ強引に引き寄せた。
「えっ…!?」
王の前で、急に体を密着され、慌てるシロなど気にせず、エリカは無邪気な笑顔を王に向けながら頭を下げ、その場からシロを引きずり退室していった。
「相変わらず仲の良い二人だ」
王は微笑みながら二人を見送った。
「やはりここから見る聖なる大樹は素晴らしいですわ!!」
シロとエリカの二人はお互いに従者を引き連れながらも、城の中でウェンダブルの国が一望できる、見晴らしのいい展望室へ来ていた。
そこは窓枠だけで窓ガラスはなく、涼しい風が心地よく吹き抜ける。
シロは吹き抜ける風にマントをなびかせながら、一人ではしゃぐエリカを黙って見ていた。
早くこの手を離せと言わんばかりの表情を湛えながら。
「…いや、大樹は素晴らしいですが、あれのお陰で妖魔は来ます…」
「…私、街も見に行きたいんですの」
「あなたが行くほどの街ではありませんよ。まだまだ治安も安定していませんし」
「なんだか、シロ、久しぶりにお会いしたのに…ご迷惑でしたわよね…」
シロの抵抗に、元気に振る舞うエリカの表情が曇る。
「くしゅん!!」
エリカがくしゃみをひとつした。
その次の瞬間、エリカの肩に真っ白いマントがかけられる。
「シロ…」
シロは自分のマントを脱ぎエリカに掛けたのだ。
それはただ風邪をひいて帰られては困るという思いからだった。
「高貴な香り。私、貴方にならチュリアーナ国をお渡ししても良いと、心を決め、参りました」
エリカはシロの優しさに瞳を潤ませながら、上目遣いでシロを見上げる。
そのままシロを抱き締めようと目を瞑り、両手を広げ一歩前に出た。
「あっ、あれ!?」
その腕は空振りし自分を抱き締めてしまう。
シロはその場にはいなかった。
すでに、少し離れたところに控えていたペリドットの前でなにか話している。
「あのマントは使えなくなった、新しいのをすぐに用意してくれ」
「はいっ」
ペリドットはすぐに階段を下っていく。
「…シロ様…どれだけ苦手とされてるんですか…」
オリーブ、ペリドットと一緒に付き従っていたクロがボソッと呟いた。
「うるさい!!大体お前な、何であんなところに奴を通したのだ!!」
シロはエリカに聴こえないように小声でクロに不満をぶつけた。
「?」
しかしクロはシロの怒る理由がわからない。
しばらく考え込み。
「あぁ…シロ様…あれは…」
「…もういい…お前の顔などみたくない。さくらのところへでも行ってしまえ」
そういうとシロはクロを睨み付けそのまま背を向け、エリカの元へ戻っていった。
「…」
クロは首をかしげながらその場から静かに姿を消した。
「シロ様ったら…」
オリーブは呆れ顔でシロを見る。
「お隣を空けてしまい申し訳ありません、余計な従者を払ってまいりました。どうされましたか?」
不機嫌なままシロはエリカの元へ戻った。
不自然な格好のエリカにシロは不思議な顔を向ける。
エリカは慌てて体勢を直し、シロの手をとった。
「な、何でもありませんわ。ここはとても見晴らしがよく気持ちのいい場所ですが他にも案内していただけますか?」
シロににっこりと微笑むが、シロは全く表情を変えない。
「う〜ん…そうですか、では湖の方へ行ってみましょうか?」
「えぇ。是非!!」
シロの誘いが嬉しかったのか、エリカはシロの手を引き寄せると、腕を力強く絡めた。
シロの顔がまた歪む。
「今度は湖に向かったようねっ!!」
城内の窓から双眼鏡で、外を歩く二人を観察しながらアヤメが言った。
「アヤメさん…覗きですか?」
掃き掃除をしていたスミレが目を細めてアヤメを見る。
「スミレちゃんは気にならないの?王子様が異国の姫と楽しそうにしてるのがっ!」
「…え、う〜ん」
スミレは、気になるというのはどういうことかと考えた。
とりあえず、シロを思い出してみる。
「う…っ」
だが思い出すのは昨夜のシロの寝顔とそのあとの苦しそうな表情。
そして、風呂上がりの色っぽいシロの身体…
「なな、ないない、忘れろ〜」
頭の中からシロのきれいな肌の色を追い出そうと自分の頭を叩く。
「何やってるの?」
スミレの行動を冷たい目でアヤメは見る。
「…しかし、美男美女、絵になるわね!!お似合いすぎ!」
アヤメは話を切り替え、また、双眼鏡で外を覗いた。
確かに、二人がならんで歩く姿は世界が違うように感じる。
「でも…シロ様、ちょっと嫌そうでしたけど…」
「え?」
その瞬間、スミレはしまった、と口を塞ぐがもう遅かった。
「王子は行方がわからなかったはずだけど、スミレちゃん、会ったの!?」
「そうでなくて…えっと…その…」
「まさか…」
二人の間にしばらく沈黙が起こる。
「だからスミレちゃんからバラの匂いがするのね!!どういうことなの!?白状しなさいよ!」
アヤメが好奇心いっぱいに瞳を輝かせながらスミレに迫った。
「ち、違うんです〜これは私じゃなくて、シロ様が!」
「シロ様が?やっぱりシロ様の香りなのね!!」
「あああのぉ〜そうじゃなくて!!」
スミレは顔を真っ赤にしながら首を振るが、アヤメは目を細めスミレをじっと見つめた。
「…ふーん。どうも二人は怪しいと思ってたけど…まさか、まさかそこまでの仲だったとは…」
「違うんです〜」
スミレはもう、その場にはいられなくなり駆け出そうと振り向いたとき…
「ふぐっ!」
誰かにぶつかり、その人物の胸元に顔を埋めていた。
「あぁ、すまん…」
「クロさん?」
そこには、いつもとは違う憂いを帯びた目をしているクロがいた。
「…何かあったんですか?」
スミレはそんなクロの表情が気になりすぐに問いかける。
クロはすぐにスミレを引き離し、静かに口を開いた。
「いや、なんでもない」
それだけ言うと、二人から離れ、どこかに歩いていく。
「クロさん、どうしたのかな?」
スミレは何となく元気のないクロの背中を心配しながら、見送り、アヤメに向き直った。
「カッコいい…」
アヤメの目はハートになっている。
「あの謎に満ちた雰囲気がクロ様の良さを引き立てるのよね…あ〜お会いできて幸せ!!」
そう言いながらクロの去っていった方をいつまでも見ている。
「…はあ…」
スミレはアヤメの言動に返す言葉もなく、また、廊下の掃除を再開した。
「その話は確かか?」
「あぁ、アズライトの張っている結界に微弱だが、反応があったようだ。『神堕ち』は確かだな」
街の外れの高台に二人の影が並んでいる。
「結界が反応か…まぁ、翡翠の言うことだ、信憑性はあるか」
翡翠と呼ばれた男は、長身のスラッとした体格に、この街の魔導学校の教官服であるロングコートを靡かせ、優しい表情の中に厳しさを秘める瞳を聖なる大樹へ向けていた。
「時に、アイリス、怪我の方はいいのか?」
翡翠と一緒に立つのは街の様子を偵察に来ていたアイリス。
アイリスは街の状況をシロに逐一報告する役を担う、隠密である。
「あぁ、もう、平気だ。あの時は私を救いだしてもらって、感謝している…」
アイリスは少し柔らかい眼差しになり翡翠を見た。
先の吸血鬼との戦いでアイリスを瓦礫から救いだしたのは翡翠だった。
「翡翠は学校へ…街へ戻り、アズライトと結界の力を修復してほしい」
「君は?」
「私はもうしばらくここで様子を見る。妖魔となり果てた神が街に現れるやも知れない」
「そうか…」
だが暫くしても翡翠は動かない。
「どうした?行かないのか?」
「今日はもう僕の講義はないし。修復にはアズがもう向かっているはずだよ。もうしばらく一緒にいよう」
「…心強い」
アイリスの素直な気持ちだった。
翡翠は魔導学校の教官である。
アイリスにすれば、頼りになる『純正団』のメンバーの一人。
同時に一緒にいて安心できる男、という感情も抱いていた。
陽も傾き二人の影が長くなる。
やがて、遠い大樹の方から黒い影がゆらりと街の方へ向かってくるのが見た。
「やはり来たか…」
アイリスがその影を睨み付ける。
「…歓迎。久々に腕がなるな。アイリス、王子に報告を」
翡翠の顔から優しさが消える。
その身体中から青い湯気のような魔力が、あふれだした。
「翡翠、無理はするな。すぐに戻る」
「あぁ、待ってるよ」
翡翠はアイリスに笑顔を向け影の方へ歩いていく。
その背中を惜しむように、アイリスはその場から去った。
いろんなカップリングが出来るとこまで来ました(涙)
今後も登場人物たちの関係と物語を少しでも気にしていただけたらなと、思います。
お読みいただきありがとうございました!